『ミャツゴロウさん』
著者:元
姫萩はコンビニ弁当をかき込みつつ、TVのスイッチを入れる。
その後ろでは、同じくオフィスの留守を言いつけられた田波が、まやの背中を撫でながらぼぅっとしていた。
TVに映し出されるのは綾金…市内だ!
と、でかでかと画面いっぱいに『ミャツゴロウと愉快な仲間達』という番組名が出現。
それが消え、提供企業の宣伝が終わると同時に、カメラは一人の老人を映し出した。
メガネを掛けた、愛嬌があるといえばある老人である。
周囲にネコや犬をはべらせて何かをしゃべっていた。
と、彼はやおらに視線を画面の隅に。
数人の男達が路地に何かを追い込んでいるようだ。
「あれ、ハウンド?」
田波は野戦服という同じ格好をした男達の中に見知った女性の姿を見つけ、呟く。
どうやら化け猫を追い詰めたところをカメラに取られているようだ。
老人はそのハウンドの輪に無謀にも飛びこんで行く。
「な、何だ。この人?!」
「ミャツゴロウさんだよ」
姫萩がやる気のなさそうに答える。
「ちょ、何ですか、貴方達は! 危ないです!」
「動物虐待はいけませんよ〜」
叫ぶ成沢に、ハウンドの輪の内部に何時の間にやら入ってしまったミャツゴロウという老人は反論。
そして化け猫に立ち向かう。
ゴクリ
思わず田波は画面の中で繰り広げられる展開に息を呑んだ。
危ないですよ!
大丈夫ですよ〜。僕は同じネコ科のライオンともスキンシップを計れるんですから〜
指食われたやん!!
じゃれてただけですよぉ〜。さぁ、こっちにいらっしゃい,もぅ逃げられないんですから
ふーー!
じりじり
わきわき
その手つき、なんかいやらしいですね
そうですかぁ?
ふーーーー!!
可愛い子猫ちゃんですね〜
ふぎゃぁぁぁ!!
動物の警戒はスキンシップで解けるんですよ〜
うにゃぁぁぁぁ!!
ほお擦りなんかはサイコーですね〜
うにゃぁぁぁ……
なんかぐったりしてますよ
甘えているんですよ〜
まやがおびえている。
まるで田波の部屋に入江が訪れた時の…いや、それ以上の怯え方だ。
がちがちと小さな体を震わせて田波の背中に顔を埋めている。
「チャンネル、変えてくれないか?」
「はいよ」
カチリ
何処にでもあるような歌番組が流れる。
こうして今日もありがたくも平凡な一日が過ぎ去る。
綾金の空は雲一つない青空だった。
おわり