『化け猫ME』

著者:元



 ずんちゃかずんちゃか♪
 耳に残るような、店内にこれでもか!と言うほど響き渡るこの店のテーマソングと、ごった返す人ごみに眉をしかめつつ、小さな手を握る一人の青年がいた。
 田波洋一,神楽総合警備の社員である。
 「ん!」
 「お、見つけたか? まや?」
 その手を引くのは少女,くりくりとした目の大きな,ショートカットの女の子だ。
 ここは某有名電気街のソフトウェア売り場。
 彼女は店の正面に備えられたソフトウェアの山に彼を連れ行く。
 「これが高見ちゃんの言ってたWindowsMEってやつか。じゃ、これを買ってと……ん?」
 懐の財布を取り出した田波は、まやがもう一つの箱を差し出すのに気付いた。
 「何だい? まや…これは??」
 彼女からそれを受け取り、彼は首を傾げ…そして絶句。
 そのソフトウェアはWindowsMEの影に隠れる様にして並べられていたモノ。
 『化け猫ME』と書いてある。
 田波は恐る恐るパッケージの裏,説明書きに目を通して見た。
 『この化け猫Milleniam Editionは従来の化け猫OSを革新的/飛躍的にバージョンアップ! 貴方の化け猫を快適に、インタラクティブに変化させるでしょう』
 「…な、何じゃコリャ??」
 『従来の化け猫よりもCD-ROMの読み取り速度はバッファを用いることで五倍に,通信速度は10倍,DVD再生機能も標準添付』
 「さ、まや。さっさと買って会社に戻ろう」
 「にゃにゃ??」
 田波は化け猫MEの箱をそっと元の場所に戻し、まやを引きずる様にしてレジへと足を速めたのだった。
 「領収書は神楽総合警備でお願いします」