『Window』

著者:元



 これは田波が入社する、少し前の神楽の仕事の記録である…



 澄み渡った青い空、広がる平原。
 「ふぅ、レジャーで来れたら良かったのにね」灼熱だったはずの日差しは場所によっては異なる事を改めて実感する。
 ほんわかと暖かいそれを投げかける青いキャンパスを見上げ蘭堂は一人、路線バスから降り立つ。
 背後ではバスがゆっくりと加速、平原の彼方へと走り去っていった。
 蘭堂の目の前には、ただっぴろい平原の中に一つの鉄筋平屋のバカでかい建物が建っている。
 門の表札にはこうある。
 【高速情報処理研究所・登別分室】



 10時間前…
 「仕事よ!」蘭堂は受話器を置く。
 「クライアントは郵政省,高速情報処理研究所から!」
 「珍しいですね,お国からの依頼なんて。ハウンドがあるのに」桜木は首を捻る。
 「色々と都合があるんでしょう,そういうところよ,お役所っていうのは」
 「…で、え〜こちゃん,どういう内容なの?」珍しく厳しい表情で菊島が問う。
 「この機関は東京,大阪,登別の三点に研究機関があるの。そしてこの三つ拠点は独自の回線で結ばれているのよ」
 「へぇ、それって…」
 「そう、将来の新たな通信網のテストケースね。その試験中に未確認のデータが検出されたの」
 「未確認のデータ?」と梅崎。
 「ええ、それは…化け猫の足跡」厳しい口調で蘭堂は続ける。
 「はっきり言って、化け猫が何処に潜んでいるか、皆目検討が付かないわ」FAXで送られてきた地図を拡大コピー,それをテーブルに広げて彼女は言う。
 「そりゃそうでしょうねぇ」菊島は広げられたそのネットワーク地図を睨みながら深いため息。
 完全に閉鎖されたネットワークではあるのだが、パソコンの全台数およそ1000,それらの仮想メモリー空間は一体いかほどのものか?
 「一台一台破壊していきゃ、いいじゃねぇか」ルガーを弄びながら梅崎はぶっきらぼうに言った。
 「こらこら,費用を考えなさいよ」呆れて突っ込む蘭堂。
 「そうですよ、それですよ!」ポン,手を叩き、桜木は叫ぶ様にして言った。
 「高見ちゃん?」蘭堂が怪訝な顔をする。
 「つまりですね,化け猫をあらかじめワナを仕掛けた場所に追いつめるんです」
 「どうやって?」
 「私が仮想空間を空データでフルにする即効のプログラムを作ります。それを3ヶ所に散った私達が波動砲のバックアップの下、ノートパソコンで注入,同時に実行するんです」
 「なるほど,化け猫の移動出来得る空間を閉鎖して行く訳ね」
 「ええ、それで一か所だけ出口を作っておいて」
 「消去,って訳だな」ルガーを構え、梅崎。
 「はい!」
 「…そうね、その線で行きましょう。それじゃ、作戦を練るわよ…



 結果、公正な方法(ジャンケン)によりワナは東京に,その東京には桜木と姫萩,大阪には梅崎,登別は蘭堂,そして神楽のオフィスで波動砲を用いたバックアップに菊島という振り分けになったのである。
 門をくぐり、扉を開けて入る蘭堂,人気がないその研究所の奥から、白衣を着込んだ中年男が走るようにして現れた。
 「神楽総合警備さんですね?」
 「ええ、貴方は?」
 「ここの所長を務めておるものです,お待ちしておりました」
 「そぅ、早速だけど、どこか適当な端末に案内してくれる? あ、その前に…警備室に案内して」蘭堂は小声でそう言った。



 案内されたのは研究所の中枢,蘭堂の目の前には一台のサーバーが置かれている。
 蘭堂の姿は先程とは異なり、所長と同じ白衣を着ていた。
 「蘭堂さん?」小声で所長。
 「静かに,化け猫が私達がここへ来ることをすでに察しているかも知れません」
 「…なるほど」
 すでに先程、点検と偽って警備カメラの電源を落としてある。
 そして蘭堂はサーバーにではなく、その隣にある一台のデスクトップに歩み寄った。
 「ふむ、これで良いわね」蘭堂は所長に普通に振る舞うように目で合図する。
 彼女はパソコンの背面にあるRS端子にすばやくコードを接続,懐から出したノートパソコンを繋げ、小さなキーボードを叩く。
 起動と同時にピポパと電子音が鳴る。蘭堂の懐に入っている携帯電話とリンクしているのだ。
 接続先は当然、神楽総合警備のスーパーコンピューター。
 雑音の後、液晶画面に小さなウィンドウが写る。
 「社長?」画像の先に映る、ダレた少女に小さく声を掛ける。
 『ん? やっほ〜,え〜こちゃん!』ウィンドウの先で手を振っている菊島。
 電子音となった菊島の声は聞き取りにくいが、分からないほどではない。
 その額の汗と半羅の格好からするに、オフィスの中の温度は相当なものの様だ。
 ”助かったわ”内心、呟く蘭堂。
 「真紀と高見ちゃんの方はどう?」蘭堂は菊島にそう尋ねた。
 『あ、今、向こうからもアクセスが来たよ。成功ね』
 「じゃ、段取り通りお願いね」
 『OK!』



 所変わってこちらは大阪支部。
 蘭堂と同じく持ち前のノートパソコンを端末に接続し、波動砲のバックアップの下、プログラムをばらまき中である。
 その間は、待っているだけなのでヒマだ。
 というか、梅崎と蘭堂は作戦通り行けばこれで仕事は終わりなのだ。
 「アンタら、何の研究してんだい?」梅崎は彼女の案内役である白衣を着た20代後半くらいの女性に何気なしに尋ねる。
 「ノーコメント」無表情に白衣の女性。
 「化け猫に恨まれるようなことでもやってんのか?」
 「ノーコメント」
 「お前、モテないだろう?」
 「ノーコメ…大きなお世話よ!!」



 プログラム実行開始まで後15分。
 「これって…」
 蘭堂はプログラムを注入中、何気なく【DATA】とあからさまに書かれたフォルダーを開いてみる。
 そこにはDOCファイルが幾つかと何やらプログラムらしきものが置かれていた。
 迷いなくDOCファイルを開く。
 表題に【データの高速転送におけるソフトウェア面からのアプローチ】とある。
 ”ここでは通信事業において回線などのハードの面以外に、圧縮などによるソフトの面の研究も行われていたっていうの?!”
 これが化け猫の目的のモノだったに違いない。
 「ちょっと、アナタ!」後ろを向いて他のパソコンを叩いている所長を名乗る男に声を上げる蘭堂。
 「な、なんです?!」慌てて、彼は振り返った。
 「何のセキュリティもなしに、こんな大切なデータを放置してあるの?」画面を指差し、あくまで「小声」で蘭堂は問い詰めた。
 「だ、大丈夫ですよ,研究の結果などはそれこそ3つの研究所にバラバラに置いてありますから。直接手に取ったり出来ないかぎり、重要な部分だけを取り出して揃えるなんて事は…」
 「手に取るようにしてデータを扱える奴等なのよ! 相手は!!」つい大声で、彼女は叫んでしまっていた。



 プログラム実行開始まで残り2分。
 「なぁ、ここではインターネットとか出来んの?」暇そうに梅崎は尋ねる。
 「出来ませんよ。外からのハッカーが侵入する可能性がありますから,なによりウィルスが一番怖いですし」女史は応えた。
 「ふぅん…でも暇だなぁ」欠伸をしながら、梅崎は辺りを見渡す。
 ホコリ1つないクリーンルームのような研究室。
 畳20畳分はあろうか,その広い部屋には研究員が数名、各々の仕事に精を出しているようだ。
 「…あれ、あそこのやつ、何やってるんだ?」
 梅崎は部屋の片隅のパソコンで何やら仕事をしているように見える男の背後に足を運ぶ。
 その映るモニターを後ろから覗き込むと、画面には「YOUNGKING・OURS」というHPが写っていた。
 「何をやっているんです!」女史の鋭い声。
 ビクッ,職員の肩が震える。
 「す、すいません,ちょっと電話回線を利用して外に繋げていて…」引きつった笑いを浮かべて男性職員。
 「「な、何だって?!」」



 「ん?」1と0の世界,有限なる無限を秘めた電子の世界。
 男はその中で目的の最後のものを見つける。
 「予定の時間よりも掛かってしまったな」それを手にする男,いや、化け猫と言ったほうが良いだろう。
 彼は捜し求めていたモノの内の最後の1つを手にした。
 「? これは?」
 何か余分なものが付いてきた。何等かの差分プログラムのように見える。
 それを取り払おうと化け猫が手を上げた瞬間…
 ゴゴゴゴ…
 まるで水が流れこんでくるような圧迫感。
 「これは…ネットワークの閉鎖か?!」
 慌てて辺りを見回す化け猫。ともかくここを離れなくてはならない。
 外へつながる出口は!
 3つあった…



 『MISSION START!』
 液晶画面にその文字が出る。
 『CLOSE』
 『CLOSE』
 『CLOSE』
 ……・
 小さな液晶画面にその文字が上から下へと流れた。
 「梅崎さん!」女史の鋭い声!
 「チィ,回線を切れ!!」
 職員は慌てて回線切断のステータスをクリック…しかし。
 「き、切れません!!」
 「くっそぉ! そこを退け!!」
 梅崎は職員を椅子ごと払い除ける!
 そのまま手を懐に…
 取り出したるはルガー!
 銃口をパソコン本体に向け、
 ガンガンガン!!
 ガシュゥ!!
 火花が飛び散り、黒煙を上げるパソコン。
 モニターは黒く沈黙している。
 「な…」
 「物理的にぶったぎってやりゃあ、いいんだよ」
 クィっと銃口で帽子の舳先を上げる梅崎
 「「銃刀法違反だぁ!!」」2人が一斉に声を上げた。
 「…モデルガンなんだ,実は」
 取り繕うことはできそうもない様である。



 化け猫は足を止めた。
 外に繋がる通路が消えたのだ。
 無理矢理塞がれたと言ったほうが良いだろう。
 「…もしや我らのことが気付かれたのか?」
 そして彼は当初からの待ち合わせ場所に向かって移動した。



 『COMPLATE』
 「終わったわ,回線を物理的切断、後に復旧作業に移って」蘭堂は溜め息をついて言った。
 同時に所長の方からも溜め息。
 隙間なく全てのパソコンのメモリー,仮想メモリーを埋めるこのプログラムは、大阪の方でも同時に終了しているはずだ。
 そして東京の方では1つのそれを残して同様のことを起こしている。
 「しかし…」
 「何です?」
 「その化け猫っていうの,複数いたらどうなるんでしょう?」
 「…複数?」蘭堂は所長のその言葉を心の中で反芻する。
 ”そうよ、単体って誰が決めたことなの?! 複数いたら…”



 「…罠ね,これは」彼女は呟く。
 もっともこの世界での呟きなど、呟きではないのであるが
 彼女は左右に広がる壁を叩く。
 まるでコンクリートのような壁,その壁に挟まれ、行き着く先は一つしかない。
 「舐められたものね」彼女の壁に押しつけた手が、壁にめり込んだ…
 同時に、その化け猫の影が、本体から切り離され通路の先へと高速で移動していく。



 東京本部。
 「来た!」桜木は画面の淡く点滅するパソコンを睨む。
 やはり研究室の1つに2人は待機していた。
 1つだけ置かれたそのパソコンの周りには、ステンレスのロッカーを4面に置き、そこにお札が張りつけられている。
 そして画面からそれが現れた。
 「デリート!」
 タン,リターンキーを叩く。
 バシュウ!!
 ロッカーに穴を開け、パソコンを吹き飛ばし、光が散った。
 「よし!!」
 『FAULT!』
 液晶画面の非情な表示。
 「な、何で?!」
 封印したのは化け猫の皮一枚,それを確認できたのは後のことだが。
 慌てて桜木はノートパソコンを叩き、東京研究所のネットワークマップを広げる。
 登別,大阪からの回線以外で生きているものが…あった!
 「力ずくでプログラムを排除しているっていうの?」
 少しずつ、封鎖された回線の一つが開かれ様としている。
 その先にあるのは一台のパソコン。
 「姫萩さん!」
 「ん? 仕事かい?」眠たげに後ろから顔を出す姫萩。
 「第二棟へ! 化け猫の出現位置が変わりました!!」
 「おっけ〜,特急でアンタを送ってやるよ」ニヤリ,姫萩の表情に自信のそれが現れる。
 2人は駆け足で部屋を飛び出した。



 東京研究所は3棟まである。
 彼女たちのいた第1棟から2棟までは直線距離では500m程だが、入り組んでいるために簡単にはたどり着けない。
 研究室の1つを飛び出した2人は、隣接する資材倉庫に走る。
 「どいてくださぃぃ!!」
 桜木はフォークリフトで作業中のおっさんに体当たり。
 「え? どわぁぁ!!」情けない声をあげて運転席から落ちるおっさん。
 そこに2人は飛び乗った。
 「運転できるんですか,姫萩さん?!」
 「運転手は,運転がお仕事ぉぉぉ!!」叫びながらアクセルペダルをキックダウン!
 突発的な加速前進の後に急激な右折。
 ガランガラン!!
 前方に積んであった荷物が慣性に乗っ取って吹き飛んで行く。
 「そこを左です!」狭い運転席ゆえに姫萩の背中に回るようにして、桜木はノートパソコンの液晶画面を見ながらナビゲート。
 「最後にそこの建物を右折,目の前の建物が目的地です」
 ギュゥン!
 シャフトに軋みを上げながらドリフト,目の前に4階建の鉄筋の建物が見えた。
 「部屋は?!」
 「目の前です!」
 「突っ込むよ!」
 桜木の返事を待つ間もなく、加速のエネルギーを有したフォークリフトは目の前の建物の壁に衝突!
 フォークリフトの爪の部分が鉄筋コンクリートの壁にぶつかると供に建物に大穴を開けた。
 「ナイスです!」部屋に頭から突っ込んで停止したフォークリフトの運転席から桜木は部屋の中へと飛び降りる。
 そこには部屋の右の片隅に起動したままのデスクトップパソコンが一台。
 と、その画面に淡い明かりが灯り出す。
 「クッ!」
 バンバンバン,パソコンの後ろと左の壁,そして隣接してある業務用机にお札を張る! と、後一面…
 画面が発光する!
 「間に合わない!」
 ガガガ!! 重たいものを削り取るような削岩音。
 「高見ちゃん!!」
 背後からの声に、桜木は振り向かずにその場を一歩前に出る。
 背後に何か物凄い音で通りすぎるモノがあり!
 ゴゥン!
 建物の壁をそのまま削り取って、デスクトップパソコンの前に壁が生まれる。
 運んできたフォークリフトから飛び降りる姫萩。
 すかさずお札を張る桜木。
 実態化した化け猫!
 「デリート!!」
 「な、何ですって!!」女性の声が響く。
 バシュウ!!
 閃光が走る!
 一瞬の後…
 『COMPLATE』
 カシュ!
 液晶画面にそれだけを残して、FDが自動排出された。
 「ふにゅぅぅ…」
 「おつかれ,高見ちゃん」その場にへたり込む桜木の肩を姫萩が力強く叩いた。
 ピピピ…
 液晶画面に菊島の顔が小さなウィンドウの中に写る。
 『お疲れ,夕、高見ちゃん!』微笑する菊島。
 ピピピピ…
 と、一瞬遅れてその隣に蘭堂のウィンドウが写った。
 菊島とは対照的,切羽詰まった表情である。
 『化け猫は…複数いる可能性が!!』
 コゥ!!
 「え?」
 「な…!」
 再び閃光を放つデスクトップパソコン,現れたるは一匹の中年男の化け猫。
 彼は桜木を睨みつけ…
 「高見ちゃん!」叫ぶ姫萩。
 「きゃぁ!!」
 シュゴゥ!!
 思わずノートパソコンで頭を隠す桜木。
 来るべきはずの衝撃を待つが…思いもかけない沈黙が訪れた。
 閉じてしまった目を恐る恐る開ける。
 そこには荒れ果てた部屋と茫然と立ち竦む姫萩の姿があるだけである。
 「?」
 『大丈夫? 高見ちゃん,高見ちゃん?』菊島の声がノートパソコンから響く。
 『高見ちゃん,高見ちゃ〜〜〜〜んぅぅぅ〜〜』妙に間延びする菊島の声。
 「ええ??!」慌てて画面に目を移す桜木。
 菊島と蘭堂の映像が乱れ、動きが緩慢としたものになっている。
 すなわちこのマシンに負荷が掛かっているということだ,それも転送されてくる映像処理の遅延から導き出される理由は…
 「しまった! 化け猫が神楽の波動砲に!!」
 ピ〜
 電子音と供に『SEND COMPLATE』の文字が出た。



 「高見ちゃん,高見ちゃん?!」菊島は画面に向かって叫ぶ。
 画面は揺らぎ、そして写るのは中年男の化け猫。
 彼は画面に向かって手を延ばし…
 入りこんだのである!!
 「やってくれるわね」不敵な微笑み。
 チカッチカッ
 窓の外,隣のビルの屋上から光るものが菊島の視界の隅に入った。
 彼女はそれを一瞥。
 窓の外は快晴,澄んだ空には雲一つなく、平和そのものといった感じだ。
 「この窓を隔てて、こうも違うとはね」苦笑。
 再びレンズの光が目に入る。
 「神楽はこれが最初でもなければ最後でもない,でも今の私にとっては唯一なモノ。例え全てが予測されていたものであろうと、私には今でしかないもの」キーボードを叩きながら彼女は呟く。
 外の灼熱の日差しに加え、地下からの波動砲の発散熱によってオフィス内の温度は50℃以上に達しようとしている。
 だが、菊島の表情には違った苦痛の色があった。
 「だから、だから窓の外を羨まないし…決して引かない! これが私の選んだ道なんだから!!」



 「ほぅ…これが神楽の中枢か」男は巨大なその空間の中、見渡す。
 と、彼の足下に何かが落ちた。
 「?」それは取り払おうとして持って来てしまった、何かの差分プログラムだ。
 と、それはいきなり巨大化,いや、解凍される!!
 「な、何だと!!」



 「食らえ!」菊島は最後にリターンキーを叩く。
 実行したものは外部侵入ウィルス用の撃退プログラムに多少手を加えたものである。
 「…これは、駄目かもね」苦い顔で、菊島は小さく呟いた。



 小さな蜂のような物が化け猫を包む。
 「クッ,うっとおしい!」腕を払う化け猫。
 その一閃で全ての蜂が消し飛んだ。
 彼の目の前で謎のプログラムは神楽のOSに同化せんとしている。
 その光景に圧倒される化け猫。
 ピッ! 電子音が響いた。



 ピッ! 音が響く。
 コマンドに追加項目が出来る。
 『ATTACK』
 菊島は迷わず、それをクリック!



 カカカカッ
 「何だと!!」
 化け猫の四方にお札のついたプレートが降ってくる。
 避ける間もなく…
 バシュウ!!
 化け猫は電子空間に消え去った。



 カシュ!
 FDDからフロッピーディスクが出てくる。
 画面には
 『COMPLATE』の文字がある。
 そしてその隣…
 『UPDATE OK』
 「…4.0,か」変更されたOSのバージョンを見て、苦笑する菊島。
 彼女は椅子から立ち、窓を開け放つ。
 今の彼女には「涼しい」と感じられる風が入ってきた。
 「今はアンタ達の掌で踊っておいてあげるわ,でも、それも長くはないわよ…」外を睨み、菊島。
 彼女の瞳には監視カメラ以外の何かが見えているようだった。
 ピピピ…
 電子音が響く。
 遅れて、
 『社長!』
 『化け猫が…』
 『帰りにたこ焼き喰ってくからね〜』
 『生きてる?』
 3つのウィンドウが現れ、4人の社員の顔が映し出された。
 彼女は振り返り、それにグッと親指を立てて応える。
 「乾坤一擲,電光石火…ってね! お疲れ,みんな!!」