『ありがとう そして さようなら』
著者:元
まやは田波のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
幼子が父親から離れまいとする様に……
そんな彼女の頭を田波は軽く撫でつけ、中腰に屈んだ。
視線が彼女の大きな瞳と同じ高さとなる。
「大丈夫だよ、まや」
微笑む彼にはしかし、どこか諦めの色が浮かんでいた。
「……嫌」
蚊の泣くような弱々しい声で、まやは声を上げる。
田波は彼女を一台のPCの前へといざなう。そのPCはすでにブラウザが立ちあがっていた。
「まや。こんなことはたいしたことじゃないんだ。どこにだってあることさ」
彼はそこまで言って息継ぎ一つ。
「始まったことは、いつか終わりを迎えるんだ。永遠に続くことなんてない……」
「でも、でも!」
幼い彼女はいつもは決して発っさないやや大きめの声で彼の言葉を絶ち切った。
「…それでも、終わっちゃうのは、嫌」
「終わっちゃいないだろ,原作はまだまだ続いているし、何よりこれを見てごらん」
田波は言って、マウスをクリック。
PCには検索サイト,キーワードは『ジオブリーダーズ』。
検索結果数はかなりの数に登る。
「どこでもやっていることさ。『ここ』がなくなったのならば、他へ行けば済む事。いくらだって代わりは見つかるし、『ここ』なんかよりもずっとずっと居心地が良いはずだよ」
まやは不安気な面持ちで、じっと田波の瞳を見つめる。
澄んだ彼の瞳には、彼女の姿だけが映っていた。
「……田波さんも付いて来てくれる?」
「もちろんだよ」
言葉と共に再び頭を撫でられたまやは、ようやく嬉しそうな笑みを浮かべると彼の胸に抱きついた。
「さ、行こうか」
「ん」
田波は頷くまやの手を取り、歩き出す。
『ここ』から別の場所へ……
「「ちょっと待ったぁぁ!!」」
唐突に二人の前に立ち塞がるは神楽の面々だ。
「ちょっと、私達を無視しないでくれる?」
「社長を無視するとはとんでもない社員よっ!」
「田波さん酷いですーー」
蘭東、菊島、桜木に詰め寄られて「あー」とか「うー」とかしか言えない田波。
三人の後ろには眠たげな顔の姫萩と、ルガーを見つめてうっとりしている梅崎の姿があったりした。
と、
「ん!」
三人の前にまやが立ち塞がる。田波との距離を阻む様に両手を横に広げて。
「何よ、何か言いたいの?」
挑戦的に問う蘭東。
「まやちゃん、ちょっと邪魔だからどいててね」
こちらはどこか棘のある言葉で彼女を退かそうとする桜木だ、そして、
「この作品のヒロインはあたしなのよ、あ・た・し! 言いたい事があるならはっきり言いなさいよ。どーせ最後なんだから!」
三対の瞳に睨まれつつも、まやは引き下がることなく、それどころかその小さな口を動かしたのだ。
「萌えないゴミは木曜日」
「「なぬーーーーーー!!」」
拳を振り上げる三人、同時。
頭上でヒュゴゴゥという音が近づいてきたかと思うと!
ちょどーむ!!
巨大な質量が墜落、炎上。一同を飲みこんだのだった―――
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
厚生省管轄の非常識ヘリ『バラクーダ』。
その残骸の中でボロボロになりながらも気絶した一同に、ひたすら謝りつづける成沢の姿がそこにはあったそうな。
おわり
長きに渡るお付き合い、誠にありがとうございました。
これをもちまして、当えれくとらによるジオブリーダーズのコンテンツの更新を終了させていただきます。
皆様のお心に、幾ばくかの思い出を作れたとしたら幸いです。
それでは、これからのジオブリーダーズの発展をお祈りしつつ――
2001.11.27. 元.