その爺 キケンにつき
ヘルシング邸執務室。
やたらとデカくて重たそうな机に肘をついて、その館の主は物思いに耽っていた。
トントン…
一つしかない扉が軽くノックされる。
「入れ」ややハスキーな声色で、館の主,インテグラは言い放つ。
「失礼致します」
恭しい態度でお盆を手に入ってくるは初老の男。
「お茶のお時間にございます」
「うむ,ありがとう、ウォルター」
ウォルターは机の上にティーカップを置き、ポットに煎れられたお茶を注ぐ。
えも言わぬジャスミンの香りが、部屋を満たした。
と、初老の男は女性の顔色に気付く。
「お嬢様、何か悩んでらっしゃるようで…」ややためらいがちに、彼は尋ねた。
「ん? あ、ああ」
ティーカップをじっと見つめたままの視線を思い出したように上げ、インテグラはぎこちない微笑を彼に向ける。
「…」
「…」
しばらくの沈黙。
「…実はな」耐えかねたのか、インテグラはウォルターに言葉を紡いだ。
「何でしょう? お力になれるようなら」
「実はな…婦警の奴は一体、何を食べているのだろう??」
沈黙再臨。
「……失礼させていただきます」
「まてぃ!!」
かくして、自称『元婦警』セラス=ヴィクトリアの食生活を、これまた自称『元ヘルシングゴミ処理係』ウォルター=C=ドルネーズが全身全霊を持って調査することとなった。
「大げさだぞ、ウォルター」
お茶を啜りつつ、インテグラはボソリ,その燃える老人の背に呟いたそうな。
証言@ A氏(黒ずくめのサングラス男)
「ふん,興味はないな」
証言A A神父(怪しい中年神父)
「献血カーに入るところを見たことがあるが…」
証言B V兄弟(紳士とピアス野郎)
「さぁ…会ったことはないからな」
「あ、オレ、自販機でジュース買ってるのを見たことあるぜ」
∴ 結論
あんまりまわりから気にされていない
献血してる
血じゃない、なんかを飲んだらしい
⇒ もしかしたら吸血鬼じゃないのかもしれない
「ぬぉぉ!!」
行きついた結論に、ウォルターは叫ぶ。
「分からぬ,解らぬぞ、セラス様! こうなれば!!」
ちゅきぃ〜ん!!
懐から出したるは指先ほどの小さなカメラ。
「これをセラス様の部屋に取り付けて、徹底調査じゃ!」
ノゾキじゃないのか? ウォルター…
カーカー、グエグエッ!!
烏の寝床へ帰る囀りを遠くに、彼女は目を覚ます。
「ふぁぁぁ…」
寝床の中、思い切り身を伸ばす。
ゲシィ!!
「くぅぅぅうぅ!!」
狭い棺桶に腕をぶつけて一気に眠気は覚めた。
「さて」彼女は今日も元気に棺桶の蓋を開け、夕方の空気を胸いっぱいに吸い込む。
地下室独特の、かび臭く湿った澱んだ空気。
ご丁寧にも寝巻き姿で、部屋の隅にある冷蔵庫に向かって歩む。
ガシャリ
それを開く、彼女。
中にあるのは幾本もの赤い液体の入ったビン。
「さて、どれにしようかなっと♪」
そのうちの一本を手に、彼女は冷蔵庫を閉める。
ビンの蓋を開け、そのままそれをラッパ飲み。
ビンのラベルにはこう書かれていた。
『デル○ンテ。100%トマトジュース 大地の恵みを貴方に』
セラス=ヴィクトリアの朝食。
それは新鮮なトマトジュース…・・
「ざ、ザマスザマズのドラキュラぁ♪?!」
ウォルター驚愕,それと時を同じくして、彼の背後に何者かが立った。
「ならお前はウォ〜でヤンスのオオカミ男か? ノゾキとはいい趣味だな,ウォルター」
凍るような声色に、彼は恐る恐る振り返る。
仁王立ちのインテグラだった。
「あ、フンガーフンガーフランケン…」
「私は怪力男か!!」
ゲシィ、インテグラ,ウォルターを足蹴。
「カルシウム不足だぞ,インテグラ」
いつ現れたのか,アーカードが不敵な笑みを浮かべて、老人をシバく鉄の女に呟いた。
「アンタ等みたいな部下を持てば、誰でもこうなるわ!!」
今はただ、ヒステリーなインテグラ局長の声が屋敷に響くのみ。
ギャフン
END
「あれ、何かあったんですか? ウォルターさん??」
婦警は一人、手にした何かを頬張りながら、ヘルシング邸の詰所へやってきた客を見上げる。
客,ウォルターは婦警の口にするものを見て、驚愕!
「セ、セラス様…一体何を食べているので?」ふるふると振るえる指先で、彼女の手にするそれを指差す老紳士。
「ん? ドMノピザのアンチョビースペシャルですよ(Mは伏字)」
「それも…L版!?」ダブルで驚愕!!
「ウォルターさんも食べます?」言って、婦警はピザの箱を差し出した。ウォルターはそれを片手で制す。
「いえ、私は…しかしセラス様,一人でそんなのを平らげては太りますぞ」
「…吸血鬼は太らないんですよ(嘘)」
そして今夜も更けて往く…
これはさとをみどり氏のHP『Sang Pour Sang』に祝参萬HIT記念として奉納したものです。
閉鎖の為に、再びここに掲載致しました。