おとぎ話だけと思ってました
暦上では夏を間近に迎えた英国でのこと。
「吸血鬼なんて、おとぎ話だけかと思っていました」
「そうか?」
「局長はこんな螺旋階段並みにねじれた環境で育ったからな」
ヘルシング王立騎士団本部。
そこに三つ編みの髪の男と婦警,黒装束の女性が談笑している。
と、黒装束の女,インテグラがYシャツの第一ボタンを外しながらポツリと呟いた。
「しっかし、蒸すわねぇ」
「エルニーニョだかラニーニャだか、そんな現象のせいらしいです」
婦警は苦笑して答えた。
普段はカラッとして過ごし易い英国であるが、今年は異常気象が襲っていた。
外はシトシトと細い雨が降り続いている。
「しかし吸血鬼がいるとなると、他の化物もいそうだな」
三つ編みの男・ベルナドットにインテグラは笑ってこう言い放つ。
「狼男ならいるぞ」
「ええ?! 本当ですか??」
「マジかよ?!」
「ああ、父上から聞いたことがある」
インテグラは思い出すかのように腕を組みつつ、第二ボタンを外す。
汗に濡れた浅黒い柔肌がちらりと覗く。
「見たいか、婦警?」
「え、ええ。でもそんな簡単に…??」
ニタリとインテグラは婦警に笑みを浮かべつつ、目の前のベルナドットに視線を移した。
「例えば、だ」
インテグラは言いながら、Yシャツの第三ボタンまで外し、
ちらり
胸の谷間をはだける。
一瞬だけ。
「うおぉぉぉ?!」
瞳に野生の光が灯るベルナドット!!
理性が吹き飛び、インテグラに襲いかかる?!
「んな?!」唖然とセラス。
「すっきやねん! インテグラァァ!!」
インテグラまであと指先一歩分。
たんたんたん
軽快な音を立てて、インテグラの右手に握られた短銃がベルナドットを襲った。
「げひゃ!」
「ひぃぃぃ!!」
異なる二つの悲鳴。
「婦警ー! 狙うなら狙うなら確実に心臓か頭をぶち抜け」
「どこかで聞いたセリフーー!」
ぴくぴくと痙攣するベルナドットに慣れた手つきで止めを刺して、インテグラは茫然自失としたセラスを見やった。
そんな彼女の後ろから、影が立ち上がる様にして現れる。
「何をやってる? インテグラ??」
「あ、マスター」
銃声を聞きつけたのか、アーカードが不審気な顔つきで問うた。
と、セラスはインテグラに駆け寄り、その耳に彼には聞こえない様、囁きかける。
「インテグラ様、マスターは…あの、その、狼男になりますかね?」
「ふむ…面白そうだな」
「なにをこそこそ話している?」
そんなアーカードにインテグラとセラスはニタリ、微笑み合い頷き合った。
「アーカード、暑いな」
インテグラはYシャツのボタン三つ目まで、チラリ,はだける。
黒い下着から溢れる、柔らかな丘の麓と谷間の映像が、目の前の吸血鬼を襲った。
「200年前にもこんな夏はあったぞ」
意に介せず、黒衣の男は答えた。
「?!」
「な、何とも思わないのか?」
焦る二人。それにアーカードはまるで彼女達の心を読んだかの様に答える。
「ふん,たかだか24歳のケツの青い娘に心奪われると思ったか?」
鼻で笑うアーカード。
「んな?!」
インテグラはふるふる震える右手で己のYシャツの襟を掴み…
「ではこれでどうだぁぁ!!」
「キャー、局長! やり過ぎです!!」
---- 以下、自主規制 ----
「アーカード様、古い写真が出てきまして」
ウォルターが見兼ねたのか、アルバムを持って現れた。
「古い写真?」
「はい。お嬢様の昔の頃のものでございます」
「え、局長の?」
セラスがウォルターの手からアルバムを奪い、それらを見入った。
「うわ、かっわい〜。局長のセミヌードじゃないですかぁ」
「4,5歳の頃かな?」
インテグラは苦笑いをしながら写真を説明。
丁度、今の時期であろうか,幼い彼女の白いワンピース姿が庭の水撒きによってピッタリと張り付き体のラインを浮かび上がらせていた。
アーカードは横から彼女達の見るアルバムを覗き…
「うおぉぉぉ!! 可愛すぎじゃぁぁ!!」
獣化?!
「なんだと?!?!」
「いやー! マスターのロリコン!!」
たんたんたんたんたん!!!!
この日、二体の狼男が庭に吊るされたそうである。
ダメだ、コリャ