バレンタイン引越しセンター


 「ヤンで〜す」
 「ルークで〜す」
 「「バレンタイン引越しセンターで〜す」」
 「さて、ヤン,今日の任務はOK?」
 「もっちろんさ、兄ちゃん!」
 「ほぅ、では言ってみな?」
 「まず俺がヘルシング邸に単身特攻を掛ける! んでもってアーカード他数名を軽く滅ぼして売女をぶっ殺す!!」
 「で、私の出番は?」
 「…てへ!」
 「ちょっと惜しかったね,ヤン。さっき襲撃した運送会社のトラックは何だったのかな?」
 ルークは後ろ指を差す先には、黒い猫の絵が描かれたトラックが止まっている。
 その中には2人のグールの姿があった。
 「腹ごしらえだったんじゃ?」
 「…もう一度計画を言おう。私達はヘルシング邸に運び込まれる、ひな人形の運搬係だ。手際良くセッティングしながら、この特製爆弾を仕掛け、速やかに撤収する,OK?」
 言ったその手にするはドクロマークの描かれた黒く丸い球体。ひじょ〜に古典的である。
 「もっちろんさ!」 親指を景気良くおっ立て、ヤンは頷く。
 「んじゃ、もう一度言ってみな」
 「まず俺がヘルシング邸に単身特攻を掛ける! んでもってアーカード他数名を軽く滅ぼして売女をぶっ殺す!!」
 「…さ、行くぞ」




 何の労もなく、厳重な警備が敷かれたヘルシング邸に通される2人。
 彼等は案内役である執事に一室に招かれた。
 「これらはヘルシング本家代々から伝わる逸品ばかり。無理を言って取り寄せたもの故、決して傷を付けたりすることのない様、宜しくお願いしますぞ」 老人は言うと、部屋に2人と彼等が運んできた大きな荷物を置いて扉を閉めて行った。
 「では、やるぞ!」
 「OK,兄ちゃん!」
 梱包を開ける2人。
 大きな台の部品や、年季の入った木箱などが床に並べられる。
 「なぁ、兄ちゃん」
 「何だ? ヤン」
 2人は並ぶ古い木箱を眺めながら呟く。
 見えない黒いオーラを放つ、丁度骨壷が入るくらいの大きさの箱群だった。
 「兄ちゃん、澱んでるよぉ」
 「Night‐Head?!」

 もしもこれがマンガだったら、ドクロのトーンが背景にあること必至である。
 「とにかく開けよう」
 「でも兄ちゃん,なんか蓋に紙が張ってあるよ」
 良く見ると、まるで封をしてあるかのように白く細長い紙が張ってあった,それも全ての箱にだ。
 「なんか漢字…が書いてあるな」 もしもどちらかが漢字を読めたなら開けなかったかもしれない。『悪霊退散』だとか『律令如律』だとか書かれていたそうな。
 パカッ
 2人は箱の一つを開け、中を覗き込む。
 「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」」
 絶叫。
 「か、か、か…」
 「髪が伸びてるぅぅぅぅ!!」
 「なんか口の周りに赤いのが付いてるぞ?!」
 「兄ちゃん,これって血だよ、血だよぉぉ!!」
 「私は、私は信じないぞ! 化物なんかこの世にいるものか!!!」
 …あんたら吸血鬼じゃん…
 閑話休題。
 「兄ちゃん,ヘルシング家の伝統って凄いね」
 「…ああ,凄いというか、気がしれんがな」
 見事に飾りつけられた伍段のひな飾り。
 そこには瘴気が渦巻いていた…
 髪が伸び、口の周りと着物が妙に赤いお雛様はまだしも、抜刀を堪える姿のお内裏様,さらに何故かチェーンソー,手斧,クロスボウを構えた三人官女や、血のように赤い菱餅なんかが印象的だ。
 「ダリ…だね」
 「私には日本の芸術は分からんよ」
 違うって、アンタら。
 「ともあれ、さっさとこいつを仕掛けて退散するとし…」
 カタリ
 「「??」」
 何かが動いた音がした。
 2人同時にひな飾りを見る。
 「気のせいか?」
 カタリ、カタリ…
 「兄ちゃん! 牛車の飾りが!!」 ヤン絶叫!
 「!!」
 ルークは懐から銃を取り出す!
 『怪異・出現!』
 「なんだ、このナレーションは?!」
 『怪異・朧車!!』
 「待て待て待て!! これは『みなぎ得一』作品じゃないぞぉぉ!!」
 ルークの叫び虚しく、牛車の飾りは宙を浮き、炎を纏って部屋中を飛び回った。
 「兄ちゃん! どうするぅぅ?!?!」
 「撃つ!」ルークは吸血鬼の能力を総動員,銃で牛車を狙い…
 その能力は別のものを感じ取っていた。それはヤンも同時に。
 カタリカタリカタリ…
 人形が一斉に2人に向く。
 ニヤリ
 凄惨な笑みが2人を襲った。
 「「ひぃぃぃぃ!!!」」
 その叫びを合図に、牛車が,お内裏様が,三人官女が,そしてお雛様が襲い掛かった!!!
 「や、やめてくれぇぇぇ!!」
 「ひははははは…」
 「お前は、お前は一体なんなんだッ!?」
 「殺りなよ、ご老体」
 「ほざくな! HELLSINGのオモチャめ!!」
 「う うお うおあいいいい」



 「ミレニ…アム」 ヤンは呟き、力尽きた…




 「今日はひな祭りだな、婦警」
 「またJAPANの文化デスカ?」
 「…」
 3人がバレンタイン兄弟のセッティングした部屋に入る。
 「「?!」」
 「ほぅ」
 驚愕の婦警とアーカード。
 感嘆の溜め息を漏らすインテグラ。
 そこには2体の涙を流す等身大人形があった。
 お内裏様の恰好をさせられたヤン。
 お雛様の恰好のルーク。
 そしてそれを取り巻く(脅迫する)雛人形達。
 「年に一度はこれをみないとな,良いものだろう? 婦警」
 「へ? あ、はぁ,そうですね。毎年大変ですね,運送屋さんが
 婦警の言葉に満足したか、少女の瞳で2人の生け贄を眺める局長。
 その背を見ながら、婦警は傍らの男に小声で囁いた。
 「マスター,局長のお脳は大丈夫デスカ? もしかして…アホ,ですか?」
 男・アーカードはしかし、静かに頭を横に振った。
 「いいや,バカだ」
 今日も英国の夜は更け行く…



余談ではあるがこの後、バレンタイン兄弟はインテグラを道連れに自爆したそうな,死んでね〜けど…



ギャフン

END