せっかくだから
コンコン
軽い木を叩く軽快なノック音が聞こえる。
「入れ」
おっとこ前な彼女の言葉に、執務室の扉が開く。
「こんにちは〜!」
元気にそう言って入ってきたのは一人の少女以上女性未満。
『HELLSING』の腕章が入った警官服を着込んだ婦警だった。
「セラス様,こんな夜更けにいかが致しました?」
部屋の主の女性の横でまるで絵の如く佇む老執事に、婦警はニコっと微笑んで手にしたあるものを二人に見せた。
「? それは?」老執事の疑問を込めた視線。
「黒ヒゲゲームか? 何処から持って来たのだ,そんなものを」
羽ペンを置いて、部屋の主は尋ねる。
黒ヒゲゲーム,海賊のぬいぐるみの入った小さなタルに、おもちゃの剣を突き刺していき、はずれると海賊が飛び出して負け,そんな子供のおもちゃである。
「はい,局長! 戦争の犬な傭兵隊長から無断押収してきました」
局長,インテグラはそんなセラスに固い表情をやや緩めると、身を乗り出す。
「ほぅ。丁度一息就こうと思っていたところだ。一つ勝負しないか?」
「ええ!」インテグラの机の上に黒ヒゲを置いて腕まくりする婦警。
「負けた方がジュース買ってくるのな?」葉巻に火をつけ、インテグラは提案。
「良いですね,それ」
「私が勝ったらジョージアな,ちゃんと応募シールついたの買ってこいよ」
日本までかい?!
「じゃ、私が勝ったらBOSSですよ。ボス電欲しいんです」
お前も日本までパシリかい,婦警!
「わたくしめは午後ティーのストレートを」
思わぬ方向から低い声。
「「ウォルター…」」ジト目の女性二人。
「何か?」
「いや…な」
「なんかほんとにパシリって感じが…」
ともあれ、まずはインテグラが剣を突き刺した。
カチリ
そんな音がする。
そして…
カチカチカチカチ…
等間隔の鼓動。
「なんか時計みたいな音がしますね〜」次のおもちゃの剣を持った婦警が呟いた。
「時計…」
ウォルターがその呟きに鼻眼鏡を軽く動かし…
「いけません!」ウォルターの鋭い声が響いた。
ビクッ!
今まさに剣を刺さんとする婦警は驚いて硬直。
「ドウシタンデスカ? うぉるたーサン…」ギギギ,硬直した体勢のまま婦警は尋ねた。
ウォルターは鼻眼鏡をクィっと摘みながら、応える。
「その黒ヒゲには爆弾のようなものが仕掛けられております」
「「ナヌゥ!?」」
それこそ爆弾発言。
「私のX線眼鏡にははっきりと映っておりますゆえ」胸を張って老執事は断言した。キラリ、鼻眼鏡が光る。
さすがはヘルシングの科学の粋を結集しただけのことはある,恐るべし…
「婦警,ベルナドットを呼んで来い」
「はいっ!」
ラーメンの出来あがる3分後
「連れてきました!」
一人の男の首筋を引っつかんだ婦警が帰ってくる。
呼吸は止まっているのだろう,男の顔は青かった。
「ベルナドット…これは何だ?」
ややチアノーゼがかった彼に、インテグラは机の上の黒ひげを見せる。
カチカチカチカチ…
相変わらず音が聞こえてくる。
途端、ベルナドットの顔が青から紫に変わった。
「ど,どうしてソレが起動している?!」慌てふためいて数歩後ろに下がるベルナドット。
「これには一体何が仕掛けられているのです?」
ウォルターの落ちつきを払った問いに、ベルナドットは数瞬の沈黙。
そして意を決したかのように重い口を開き始めた。
「それには…実は」
「「「実は?」」」
「時限爆弾が仕掛けられている」
「「「?!」」」
「何でよぉ!」叫ぶセラス。
「いやぁ,ボスニアで傭兵やってた頃には待機が多くてね。スリルがなかったんだわ,若い頃の良い思いでさね、Hahahahaha!」
「このバカァ!」バカ笑いするベルナドットに婦警は女の子らしくビンタを炸裂!
「のげらぽぁ!」
ベルナドットは婦警の攻撃に空中を美しく3回転半,ヒキガエルを潰したような悲鳴を上げながら勢い余って壁に叩きつけられ、頭から床に落ちる。
恐るべし,吸血鬼パゥッア〜!
「…なお、5分以内に全ての剣を刺さなければ…」
「「刺さなければ?」」
血を吐きながら息も絶え絶えのベルナドットは続ける。
「時間切れで…この世のものとは思えない…」
「「思えない?」」
「臭いガスが飛び散る…はぅ!」力尽き、意識を失うベルナドット。
冷たい風が、四人の間を駆けぬけた。
4分が経過していた。
「はっ! 局長! ドウスルンデスカ!?」
「むむ! とにかくは解体だ,ウォルター!」
「ハッ!」
ウォルターの極細ワイヤーが舞う!
スパッ
一瞬にして黒ヒゲのタルが解体され、中の機械が露わになった。
カチカチカチカチ
等しい旋律。
それを奏でる機械には4本のコードが出ている。
@ 赤い太いコード
A オレンジ色の太いコード
B 赤く細いコード
C 青く細いコード
「婦警,ベルナドットを起こせ!」
「はいぃぃ!」
ゲシィ!
蹴った。
メリ
婦警の足が傭兵隊長の頭にめり込んでいた。
「…起きません!」額に汗の婦警。
永眠させてしまった様である。
ガチャリ
そこに唐突に扉が開いた。
「「アーカード!」」
「マスター!」
「何の騒ぎだ?」
暗黒を背負って現わるる黒衣の貴公子。トチロー帽子の下に二つの目が光る。
その瞳は机の上の爆弾へ。
「これは?」
アーカードの問いに、インテグラが手短に説明した。
「そうか」
アーカードは頷くと、何処から取り出したのか,ニッパーを右手に。
「せっかくだから、俺はこの赤いコードを切るぜ!」
「「「コンバット越前?!」」」
プチッ
バフン!
煙が、噴き出した。
「ク、クサッ!」セラスは慌てて鼻を摘む。
「ウォルターの入れ歯臭いぞ!」余りの臭さに目に涙を溜めてインテグラ。
「私は入れ歯ではありませぬ」別の意味で涙のウォルター。
「いえ、これはマスターの足の臭いにも似てます!」
「この口か? 主を悪く言う口はこれか?」静かな怒りのアーカード,セラスの口を思いきり両手で横に引っ張る。
「あがが…ごべんなさい〜、くさい〜、助げで〜」
アホな夜は更け行く…
これより3年半、このヘルシング本部は決して円卓会議の会場には用いられなかったと言ふ
ギャフン
END
PS
心理テストです。
作中の4本のコード,貴方ならどれを選びますか?
それによって貴方がどれくらいギャンブル好きかが分かります。
@を選んだ方は『根っからのギャンブラー』
Aを選んだ方は『時々、熱く』
Bの方は『遊び程度に』
Cは『全く興味なし』
とのことです。
当たりましたか?