薄暗い、妙に天井の高いその建築物に、3つの人影があった。
「ドイツはミュンヘンD区画にてグールが多数発生したとの情報が入った」
「ほぅ」若い男の声に、中年の声が返る。
「現在は地元警察によって封鎖されている」
「時間の問題だな」こちらは若い女の声。どこか喜んでいるような感もある。
「君達には至急出向き、『駆除』してきてもらいたい」
「「我等が神の名にかけて」」
今日もイスカリオテ
「遅刻遅刻ちこくぅぅぅ!!!」
ハインケルは走る走る,古い趣のあるただっ広い教会の廊下をひた走る。
彼女の口には朝のラッキーアイテムの食パン一切れ。
…はて、くわえたままどうして叫べたのだろう??
「寝過ごしたァァァ!!」
ともあれ彼女が、ずり落ちかけたお気に入りのグラサンをくぃっと右手で押し上げつつ、艦載機の如く廊下のT字路を右へと曲がった時だった!
目の前に人影一つ。
ドン!
「きゃ!」
「うわっ!」
どしゃ!
衝突,二人は廊下に倒れ伏す。
「いたたたた…」額を相手の胸,壁,床の三点連撃され、涙を浮かべつつ彼女は顔を上げた。
朝日の逆光に衝突相手の顔は見えない,だがぶつかった感じからして男、そしてシルエットの形からして美形?!
”も、もしかして運命ので・あ・い? ラッキーアイテムが効いたのね♪”
ハインケルは慌てて立ちあがり、極上(?)の微笑み。
「あ、あのぉ、お怪我はありませんかぁ? 私ったらそそっかしくって,テヘ!」
声のトーンが数オクターブ高かったりする。
しかしそれに応えたのは、彼女の良く聞く声だった。
「そうだ、全て貴様が悪い。何だその気持ち悪い声は,私をバカにしているのか? ええ??」
「げ、マクスウェル局長」ハインケルの態度は一転,ふてぶてしいものに変わった。
マクスウェル,ローマ教皇庁特務局第13課イスカリオテ機関長エンリコ・マクスウェルその人だ。そして彼こそはハインケルの直接の上司でもある。
「『げ』とはなんだ、『げ』とは。そもそも2時間前だぞ,集合をかけたのは!」
「いえね、ワールドカップを徹夜で観てしまいまして」
「理由にならん!」
「時差が悪いんです」
「録画すりゃ良いじゃねぇか!!」
「まぁ、そうカリカリせずに。禿げますよ」
メキィ,無言でかかと落としを食らうハインケル。
「と、ともかく今日の任務は一体何だったので?」
「ただの駆除さ」鼻で笑ってマクスウェル,額に流血のハインケルは食パンを再び手に取りながら怪訝な顔をした。
「私でないとすると一体誰が向かったのですか?」
「由美江とアンデルセンだ」
「ぶっふぅ!」食パンを思い切りマクスウェルに吹き出すハインケル。
「うわぁぁぁ! 汚たねぇ!!」
「アンタ、何てゆ〜組み合わせするんデスカ?!」
「…何だ? あの二人が何かおかしいのか?」今度はマクスウェルが怪訝な顔をする。
「おかしいも何も,二人とも、もしもPS2が手に入ったとして真っ先にプレイするのが『里見の謎』か『TOBAL No.1』なヤツラですよ!」
「『リッジレーサーX』じゃなくてか? 『決戦』でもないのか?!」
「それにDVDじゃなくてカラオケ用のピクチャーCDを再生して『北国』を熱唱しますね,必ず」
「む、むぅ…」額に汗するマクスウェル。
「しかし、だからと言って任務が失敗するとは言えないのではないか?」
「局長,もしもゴールデンの二時間枠を有名だからといって、ダウンタウンの松本と爆笑問題の太田に自由にしろとあげたとして…番組になると思われます?」
「浜田と田中ならば…」
「それなんですよ! 誰があの二人を止める事が出きるんです!!」
二人はそこまで言って、由美江とアンデルセンの任務遂行中の場面を思い浮かべる。
アンデルセン 「ゲハハハハァ!」
由美江 「切る切る切るぅぅ!!」
アンデルセン 「化物と異教徒に人権なしィィ!」
由美江 「泣く奴ァグールだ、泣かない奴ァは吸血鬼だァ♪」
「ヤバイな」
「ヤバイですね」
マクスウェルは懐の携帯電話を取り出す。
短縮ダイアルで由美江を呼び出した。
「こちら高木…」
ややくぐもった声が聞こえてくる。
「由美江、今は何処だ?」
「今ですか? 電車にて移動中です」
「場所は?」電話をひったくってハインケル。
「ここは何処だ? アンデルセン?」
「フン,私は乗り継ぎは苦手でなぁ」
ヒソヒソとした声が聞こえてくる。
その時、ハインケルは,マクスウェルは、確かに聞いた。車内アナウンスの恐ろしい案内を。
「これより海底トンネルに入ります。次はロンドン、ロンドン,パスポートをご用意下さい」
「「なんですとぉぉぉぉぉ!!」」
協定が破られるまで時間は僅かか?!
関係ないが、その頃のインテグラは…
「ああん、メガネメガネ………」
床に落ちた眼鏡を手探りで探していたそうな。
終わり…か?