真っ直ぐに行こう


*その1 ニワトリ

 ヘルシング本部・局長の執務室。
 そこには芳しい香りを放つ紅茶のカップを傾ける2人の乙女の姿があった。
 「ねぇ、局長? 吸血鬼が先なんでしょうか?」
 「何だと?」
 唐突な質問は婦警姿の女性から。
 それに怪訝な顔をするのは黒いスーツに身を包んだ凛々しい女性だ。
 婦警姿は続ける。
 「それとも噛まれるのが先なんでしょうか?」
 どうやら『最初の吸血鬼はどうやって生まれたのか?』を聞かんとしているらしい。
 「難しい問題だな」
 一言、局長と呼ばれた女性は腕を組んで考えこむ。
 「マスターは生まれた時から吸血鬼だったんですかね?」
 「??」
 婦警の言葉に局長・インテグラはさらに怪訝な顔に。
 「それとも『誰か』に『噛まれて』吸血鬼になったんですかね?」
 「ほほぅ、面白いことを考えるじゃないか、セラス」
 「でしょでしょ?」
 ニタリ、2人は微笑み合う。
 「『誰か』に『噛まれた』と想定しようか」
 人差し指を立てて、インテグラは怪しい笑みを浮かべて続ける。
 「まだ人間だったアーカードは…どーてーだった訳だ」
 「そこに経験豊富な美人吸血鬼が現れる訳ですね」
 「そうそう! 恐れと困惑に慄くアーカード少年,そんな彼を血をすする美女がグッと強引に引き寄せる!」
 言ってインテグラは立ち上がり、セラスの腰を引き寄せた。
 「僕…僕、初めてなんです…優しく噛んでください」
 ふるふると震えながら、演技力抜群で当時のアーカード少年を演じる婦警。
 「愛いヤツ愛いヤツ…ふふふ…」
 そんな彼女の首筋に、インテグラはそっと口付け。
 「あん」
 バタン
 ノックもなく、部屋の扉が開かれた。
 現るるはアーカードとベルナドット。
 「…何をやってる、2人とも……」
 「「はぅ!!」」
 呆れかえった顔のアーカードに、インテグラとセラスは硬直。
 「ダンナ、嬢ちゃん達の楽しみをお邪魔しちゃ、行けませんぜ」
 「ち、ちがう、ベルナドット!!」
 「マスター、違うんです!!」
 とって返す2人を、お馬鹿娘二人組は慌てて追いかけたのだった。



*その2 資格もってます

 「実は私、美容師の資格を持ってるんですよ」
 「ほぅ」
 それはたまたまウォルターが散髪にでも…と出かけようとした時だった。
 「ではセラス殿にお願いしてみましょうか」
 「ええ、良いですよ」
 そしてこの瞬間が、ニヒルでダンディーとヘルシング機関で有名だったウォルターに終わりを告げる瞬間だったのである。
 10分後…
 「あの、ウォルターさん?」
 剃刀を手にした婦警は、がちがちと歯の奥をわずかに鳴らせて、仰向けに寝転がるウォルターに尋ねる。
 「何ですかな?」
 目を閉じたままの老人は、久しぶりに剃ってもらった顔に当たる空気に爽快感すら憶えている。
 「今は眉毛を剃るのが流行ってるって、ご存知ですか?」
 非常に、爽快だったと老人は後に語っている。



*その3 それでも資格もってます

 「実はセラス殿は美容師の資格を持っておるのです」
 「ほぅ」
 それはたまたまアーカードが散髪にでも…と出かけようとした時だった。
 「では婦警にやらせてみるか」
 「それが宜しいかと思います」
 片眉毛のウォルターの怪しい微笑みに気付くことなく、アーカードはセラスの元へと向った。
 10分後…
 じゃき
 「あ」
 鋏を手にしたセラスは、そんな声をあげていた。
 「あの、マスター?」
 「何だ、婦警?」
 椅子に座って目を閉じているアーカードに、婦警は恐る恐る問うた。
 「マスターは髪の毛も再生、できますよね?」
 数日後、髪型が微妙な感じのアーカードが、たまたま美容室に行こうとしたインテグラを捕まえてセラスを勧めたというのは余談ではある。



*その4 香港映画とともに…

 「婦警は自室でビデオを観ていた。
 香港の、吸血鬼モノである。
 そのタイトルは…
 霊幻道士
 と、彼女が見終わったところでサイレンが鳴り響く!
 婦警は慌てて部屋を飛び出した。
 10数分後…
 セラスはウォルターとともにミレニアムと名乗る、吸血鬼ヤンの率いるグールの軍団と対峙していた。
 「違います! それじゃ違うんです!!」
 「「??」」
 唐突な叫びに動きを止めるのはヤンやグールだけではない。
 ウォルターもまた、婦警の只ならぬ気配に当惑していた。
 「そこの貴方!」
 「オレ様ちゃんか?」
 指差されたヤンはおずおずと自らを指差す。
 「ちゃんと鈴を持って! それから後ろのグールさん達は飛び跳ねながら、ちゃんと行列を作って移動してください!! 何より顔におしろい塗りたくっておかないといけません!」
 とうとうと説明を述べる彼女を、グールの軍団が有無言わさず飲み込んだのは説明するまでもない…



*その5 あら、こんなところに…(2000.12月号アワーズ参照)

 恐るべき破壊兵器と化したトランプ,その飛来を紙一重で交わしながら、アーカードは霧となって姿をくらませる。
 「また逃げかね? 無駄な…」
 ニタリとその破壊の渦の中心で微笑むのは伊達男。
 と、そんな彼に向って幾筋もの銃弾が襲いかかる!!
 面倒くさそうに交わすトバルカイン。その発生元を睨みつけた。
 瓦礫の間には一人の婦警。
 彼女は驚きの視線をトバルカインに向けていた。そして彼女は、叫ぶ。
 「ト…」
 「?」何だ? とトバルカイン,彼の名をこんなお嬢さんが知っているはずもない。
 「トランプマン!?」
 伊達男の血が、沸騰。
 「をい!」
 思わずツッコミ。
 「なるほど・ザ・ワールドが消えたと同時に消えた貴方が何故ココに?!」
 「こぉおォォのおォォ小ぉォ娘ェえがあぁあッ!」(激怒)


おわる?