必殺! 仕事人?!


 天は厚い雲に覆われ、厚ぼったい黒一色の夜空。
 地は鬱蒼と生い茂る森の、人工の明かりのない暗黒。
 2つの闇が挟むは仄かな明かりだ。
 中間にあるは、中世を思わせる荘厳な城。
 ここ英国はグラスゴー北部,訪れるのは観光客か、森に立ち入る狩人くらいの、人里離れた地である。
 そんな中に佇む、かつては難攻不落を誇っていたであろう古城,一見廃墟にも見えなくもないこの建物には厳重な警備が敷かれていた。
 銃を構えた黒服達,彼らは各々、その窮屈そうなスーツの内に盛りあがる筋肉から見るに、ただのガードマンではない。
 軍人の、それである。
 警備の中心は古城の頂きたる尖塔。
 カシィン♪
 全てを見下ろし得るその部屋には二人の男が杯を交わしていた。
 一人はロングヘアを後ろで縛ったアングロサクソン系の青年。
 もう一人は何処か幼さを見せる眼鏡の男。
 そぅ、前者はイスカリオテ局長エンリコ・マクスウェル。
 後者はミレニアム指導者モンティナ・マックスその人である。
 「貴方が協力してくれるのならば、この英国は確実にカトリックに染まる事でしょう!」
 恍惚の笑みを浮かべるのはマクスウェルだ。まるで彼の信じる全能なる者に直接会って来たような、そんな顔である。
 それに返す様にモンティナもまた言い返す。
 「いえいえ、イスカリオテの戦力を我々が得られるとあれば協力を惜しみません。闘争ですよ、闘争!!」
 こちらも表情は危うげだ。医者ならば拘束牢に即座に叩き込むような危うさを帯びている。
 「では、我々の前途を祝して」
 「乾杯!」
 チャリン♪
 何度目か、2人はグラスを交わす。
 酸素を充分に取りこんだ動脈血のような赤い液体の入った、ブラジル最高級の赤ワインだ。
 液体に唇を濡らす二人、その時である!
 バァン!
 一つしかない扉が乱暴に開かれた!
 「何事だ?」
 「どうした、トバルカイン?」
 「た、大変です! 総統!!」
 息を切らせて現るるは南米独特の陽気さを纏った男。しかし今現在はその持って生まれた明るさは微塵もない。
 「し、侵入者が…仕事人がぁ…うぐぅ!」
 彼の言葉はそこで途切れる。次の瞬間には見えない糸に吊り上げられたかのように彼の体が持ち上がっていった!
 喉を掻き毟りながら声も出せないトバルカイン,彼の両足が宙を泳ぐ。
 ちゃらら〜ん♪ ちゃららららっら ちゃらら〜ん♪
 突として笛の音が鳴り響く。2人の指導者は辺りを見渡す…が誰もいない。
 じゃかじゃん!♪
 「うぐぅ!」
 トバルカインの体がびくり、一回瞬動し動かなくなる。
 ドサリとまるで糸の切れたかのように床に落ちた。
 「何者だ?」
 モンティナの誰何の声。
 トバルカインの開いた扉の向こう,階下に通じる階段の闇がゆらりと動く。
 まるで幽鬼の如くゆらりと現れたのは一人の老紳士だった。
 だが彼の腕には…
 「天が叫ぶ地が叫ぶ、我を救えと皆叫ぶ。必殺仕事人・ワイヤーのウォルター…見参」
 ニタァリ,壮絶な笑みを老人は浮かべた。
 同時に
 ガァン、ガァン、ガァン!!
 うぎゃぁ! ば、化け物! 助けてくれぇ!
 豪快な発砲音とともに湧きあがる悲鳴は、複数。
 「なんだ?」 眉を寄せるマクスウェル。
 その間に音は急速に近づき、
 カツカツカツ…バァン!
 扉を打ち壊して黒き悪魔が登場した。
 「索敵必殺,索敵必殺! ジャッカルのアーカード、見参」
 巨大なオートマチックを手にした黒衣の男が老紳士の隣に並ぶ。
 ちゅど〜〜ん!
 「「うぉぉう?!」」
 突として、壁面がいきなり吹き飛んだ! そこから飛び込んできたのは巨大なカノンを担いだ少女…だ。
 「こほこほ…ええと、老いぼれと新人、2人合わせて一人前…でいいんでしたっけ? 覇瑠痕燃(はるこんねん)のセラス,登場でス!」
 煤で頬を少し黒くさせて、彼女は元気一杯そう告げる。
 「ここ、何階だと思ってるんだ??」
 「頭悪い暴走族みたいな枕言葉だな」
 「そ、そんなぁ」
 どうもキまらない彼女に冷静なツッコミが二人から放たれた。
 その2人の間に、天井からそれを構成する岩が落ちてきた!
 ガラガラドベシィ!
 岩に混じって三つ編みな一人の男も格好悪く着地する。
 「い…嫌よ嫌よも好きのうち…ぐふぅ,うっかりベルナドット,推参!」
 純白に近いシラケた視線を、モンティナとマクスウェルは向けた。
 「それを言うなら八衛兵ではないか?」
 「物語が違うぞ」
 容赦のない冷静なツッコミだ,荒くれ者を束ねているのは伊達ではない。
 「な、何はともあれ…」
 汗を掻き掻きベルナドット。4人は横一列に並び、
 「我等、英国国教騎士団!」
 「英国の平和を乱す者を」
 「滅する者なり!」
 しゃき〜ん!
 統率の全くとれていないキメポーズ×4。
 仄かに皆の頬が赤いのはきっと気のせいだろう。
 「くぅ、くふふ…面白い、面白い!」
 笑い出すはマクスウェルだ。
 「おお、恐ろしい恐ろしい。ならばこちらも拮抗した力を使うとしよう」
 ニタリ、彼の笑いに思わずセラスとベルナドットはひいた。
 「AANDEERSOONG!!!」
 「URYIIIII!!」
 どごん!
 セラスを責められたものではない,高層であるはずの壁をぶちぬいてあらわるるは…
 「全ては一撃にて、一切合切ケリがつく!」
 小剣を両手に構えた神父だ。
 その瞳に宿るは狂気と盲信,そして殺意!
 彼に応えるは吸血鬼アーカード。
 「クックククク…さぁ、やろうぜ,ユダの司祭」
 「ハァハァッハッハッハ…この間のようにはいかんぞ,吸血鬼!」
 無防備に、2人は伴に前進する!
 カツカツ
 カツカツ
 カカッツ!
 横並びに2人,どちらからでもなくニタァリ…笑みを漏らし、
 神父の小剣が唸り、吸血鬼の銃が火を吹いた。



 「うぁ、こんな狭いところで止めろ!」<モンティナ
 「マ、マスター,やめてくださぃぃぃ!!」<セラス
 「こりゃ、逃げた方がよさそうだな」<ベルナドット
 「きゃぁ、どさくさに紛れて何処触ってるんですかぁぁ!」<セラス
 「あ、こりゃまた失礼」<マクスウェル
 「この塔…崩れますぞ!」<ウォルター


 ゴゴゴゴゴゴ…


 「ア〜ッハッハッハ〜」
 「ゲハッ、ゲハハハハハハ!」
 2匹の怪物が狭い尖塔の個室で激戦を繰り広げる。
 否、それを戦闘と言って良いのだろうか?
 まるで相手の全てをこの身を持って理解しあおうと言わんばかりの戦いだったと、範馬勇次郎は後に語っている。


 「っは、ダレですか?! 今の範間勇次郎って!」
 「良いから逃げっぞ,嬢ちゃん!」
 「ひぁ!」
 ドドドドド!
 セラスを小脇に抱えて逃げ出すベルナドットの背後が崩れ去る。
 「で、出口はどっちですか?! マクスウェル!」
 「せっかくだからこっちの赤い扉を私は選びマス!」
 上下上下右左右左BA…
 崩れゆく古城。
 後に残ったのは…
 「ア〜ッハッハッハ〜 さぁ、これからが本番だ,ユダの司祭!」
 「ゲハハハハ〜,異教徒、化物,皆死ね死ね死ねぇぃ!」
 瓦礫の中で暴れまわる2人の姿があったと言う。


必殺? 仕事人!  完



 「解ったか? 婦警。これがジャポンの時代劇とゆ〜ものだ」
 「は、はぁ…っつうか、全然ジャポンじゃないし、オチが訳分からないんですけど」
 しん
 沈黙がインテグラの私室を、部屋の主とセラスの間を満たした。
 英国の夜は今日も更け行く………



おわり?