「だからいったでしょお。僕らヴェアヴォルフにまかせてって」
 少年は余裕の微笑みで、目の前の男に告げる。
 「きれ〜〜に息の根止めてあげるから」
 その言葉に、小太りな彼はニヤリ、微笑んで告げた。
 「シュレディンガー准将に出撃命令だ」
 「「はぃ?」」
 唐突なその少佐の発言に、1000の吸血鬼達は耳を疑った。


1000のネコミミ



 場所はロンドン郊外ヘルシング邸。
 ちゅど〜ん!!
 突然響き渡る爆発音に一同は目を覚まし、慌てて現場に急行した。
 黒い寝間着の上からローブを羽織り、眠い目をこすりながらインテグラが駆け付けるころには、すでにアーカードとウォルター,セラスの3人が侵入者に対して向き合っていた。
 侵入者は一人,土煙の上がる爆破した屋敷の壁の向こうから姿を現す。
 それは、一人の少年。
 襟元に光るのは階級章。それは第三帝国の准将位、すなわちミレニアムの手の者だ。
 彼の姿を捉えた途端、アーカードとウォルターに驚愕の表情が浮かぶ。
 「ね」
 呟くアーカード。
 「ね?」
 様子のおかしい主を心配そうに見上げるセラス。
 「ね…」
 こちらはウォルター。
 「ね?」
 訝しげに執事を見つめるはインテグラだ。
 2人の男達は少年に向って次の瞬間にこう、嬉しそうに叫んだのだった。
 「「ネコミミじゃぁぁ!!!」」
 「ネコじゃない! 狼だ,ヴェアヴォルフだ!」
 声変わり前の、ややソプラノがかった声で反論する少年。
 そんな彼に、セラスは後ろへ一歩、下がった。
 「…野獣?」
 「そうだセラス。男は皆、オオカミ男だ」
 同じく後ろへ一歩のインテグラ。
 「そこそこ,それ違う」
 案外冷静にツッこむ少年。
 「それじゃぁ、借金してるひと? んで南の玄武?」
 「えと…作品違います」それはローンウルフです。
 「そうなの? んじゃ…」
 彼に向ってセラスは懐から何かを取り出した。
 「ポチポチ,ビーフジャーキー食べる?」
 「食うかぁー! 誰がポチだ!!」
 「ポチ、お手」
 インテグラが差し出した手に、少年はすぐさま自らの手を乗せた。
 「うぁぁぁ、反射的に手が,手がぁぁ!!」
 「良く躾られてるな」
 「ミレニアムは規則にうるさそうですもんね」
 そんな2人+1匹に、恐る恐るウォルターが少年に向って声をかけた。
 「のぅ。老い先の短いワシに頭を撫でさせてくれんかのぅ?」
 「ずるいぞ、ウォルター老! オレも撫でたい!!」
 慌ててアーカード。
 怪しい男と化した2人に、少年は思い出した様に牙を向いて唸りをあげる。
 その時だ。
 「セラス、やれ」
 「はい。ポチ,とってこ〜い!」
 インテグラの指令に、セラスが投げたのは…夕食の残りの鳥の骨。
 「わんわんわんわん!」
 「「ワンちゃん、待て〜」」
 夜空に庭の方へと飛んでいく骨を追いかけるオオカミ男,彼を撫でようと追いかける老人と吸血鬼。
 そこへ、インテグラの冷徹な言葉が呟く様に下された。
 「セラス,打ちこめ」
 「はい」
 何処から取り出したのか,ハルコンネンを構えるセラス。弾は爆裂鉄鋼焼夷弾だ。
 狙いは骨を追って庭に出たシュレディンガー,及びアーカード&ウォルターだ。
 「Fire!」
 ずどん
 ちゅど〜ん!!
 庭の土を抉り取って、3人はハルコンネンの餌食となった。
 今日もロンドンの夜空は曇っていたと、インテグラはその時のことを語っている。



 戦い(?)の様子をモニターしていたのは小太りの男,少佐だ。
 「まぁまぁ良い良い。成果はあった」
 ”何の成果だ??”
 ミレニアム一同、心の中でツッこむ。
 「これからの戦いでは『ネコミミ』を全員着用だ」
 ”いやだ〜〜〜〜!!!”
 しかし構成員の心の声は少佐に伝わることなく、翌日には全員頭にネコミミ装着が義務付けられたのである。


 オペラハウスの老人達は開いた口が塞がらなかった。
 目の前に居並ぶ、彼等の姿に圧倒されて、だ。
 ニタリと微笑む少佐に向って大佐は、言葉を選びながら詰問する。
 「お、お、おまえは…何をしようというんだ?」
 ゴクリ、息を呑む大佐。
 「1000人のネコミミを付けた吸血鬼を率いて、お前は一体何をするつもりだ、少佐!!」


お・わ・り