ダメ人間一直線 他一本


* 仕事人
 真夜中の通りを、私とウォルターさんは買出しの荷物を抱えて歩いていました。
 梟がほぅほぅ鳴いている、相変わらず慣れない帰り道です。
 お屋敷の明かりが、森の中へ真っ直ぐと伸びた道の先に小さく見えています。
 「……私、夜しか知らないんですけど、お屋敷を囲んでるこの森って不気味ですよねぇ」
 私の背後からの返事は、しばらくありませんでした。
 梟のくぐもった鳴き声が、沈黙を帯びた私達二人の間に妙に大きく響きます。
 「日中は美しい森ですよ」
 やや躊躇ったウォルターさんの声が聞こえてきました。
 そうですね、優しいウォルターさんには答えにくい質問でしたね。
 再び沈黙が、歩を進める私達二人の間に広がります。
 梟の鳴き声が、目に見えない怪物の様に森の中に響いて、私達を隙あれば襲ってこようとする……そんな錯覚に捕らわれます。
 静かな森の中、背後のウォルターさんの吐息が聞こえるくらいに鋭敏になった私の聴覚に、それはいきなり伝わってきました。
 ちゃらら〜〜ちゃららっらっらっら〜ちゃらら〜〜♪(必殺仕事人のテーマ)
 「ひぃ!」
 殺人を予感させるその音楽に、吸血鬼たる私は情けない声を上げてしまいました。
 音の元,背後のウォルターさんに慌てて振り返ります!
 そこには……
 きゅぴーん!
 眼鏡を月光にキラリ,光らせた死神の姿がありました。
 「ウ、ウォルター……さん?」
 思わず私は後ろへ一歩。
 ウォルターさんの右手が、懐へと伸びます。
 ワイヤー?!
 戦闘態勢に移行しようとした私は、次の瞬間唖然としました。
 死神が懐から取り出したのは……
 「はい、もしもし?」
 携帯電話です。
 「着メロデスカーーーー!!!」



* ダメ人間一直線
 画面の向こうには小太りの男。
 彼は尊大に、そしてふてぶてしくこう言い放った。
 「女の子と話すのは本当に久しぶりなんだ。邪魔をしないでくれ、「若造」?!」
 「「なっ!!」」
 彼の言葉に、声が出ない英国一同。
 インテグラに至っては、青い顔をしている。
 「そんなに…」
 インテグラは勇気を振り絞って、こう言葉を紡いだ。
 「…ミレニアムは男所帯なのか?! 女の子がゼロなのか?! 何百年も女の子と話していないのか?!」
 「え、いや、その……」
 慌てふためく少佐。
 「恐ッ!」
 「い、いや、昨日もちゃんとコンビニのお姉さんに『いらっしゃいませ』って言われたぞ」
 「「…………」」
 ――――会談、終了。


おわり