単行本3巻Elevator ActionBより
スーパー局長
トルルルルル……
インテグラの眼前にある電話が鳴る。
ベルのリズムはそれが直通回線からであることを示していた。
インテグラは僅かな躊躇の後、執事であるウォルターの見守る中、受話器を取った。
「誰だ、敵か? 味方か?」
『お前の従僕だ、インテグラ。命令を、命令をよこせ,我が主人』
伝わり来るは男の声だ。
そう。
今、インテグラの見つめているブラウン管の中で繰り広げられている南米ブラジルでの騒動の、主役からの言葉だった。
「アーカード、状況を,状況を説明しろ」
そして彼の主人である彼女は、今、彼女の従僕がどのような状況にあるのか,そして彼が弾を込めた銃の引き金を引くべきなのかを問われたのだった。
『さぁ、命令をよこせ,我が主人』
何も知らずに躍らされている狗を殲滅して良いのか??
しかし敵だ……が、人間だっ!
インテグラは苦しげに僅かに顔を歪ませた後、おずおずと受話器の向こうにこう呟く。
「私は…殺すべきではないと思う。人殺しはイケナイ」
蚊の鳴くような弱々しい声。
が。
「しかし、スーパー局長はどう言うか……」
言う彼女の右手には、いつの間にやら人形がはめられていた。
金色の髪の少女の人形――インテグラを模して、まるで小学生が作ったかのような無器用な人形だ。
その人形の両手には、何故か赤いボクシンググローブがはまっている。
バン!
インテグラは空いた左手で机を強く叩いた。
同時。
「ワタシヲナメルナ、従僕!!」
一オクターブ高い声で、人形インテグラを振りかざしながら彼女は叫ぶ。
「ワタシハ命令ヲ下シタゾ、何モ変ワラナイ!」
人形インテグラの両手をファイティングポーズに構えながら受話器の向こうに向かって言い放つ。
そんな彼女を眺める執事は、驚きに目を見開いたままだった。
「見敵必殺、見敵必殺ダ!」
『クククククッ』
受話器の向こうから、押し殺した笑いが聞こえてきた。
『了解、さすがはスーパー局長だ。なんとも素晴らしい!!』
そうして、始まりと同じく唐突に通話は切れたのだった。
「ふぅ」
インテグラは力尽きたかのように皮張りの椅子に深く身を沈める。
「なぁ、ウォルター?」
彼女は控える執事に問うた。
「……スーパー局長の判断は正しいのか、誤っているのか?」
弱々しい彼女の言葉に、老執事はなるべくインテグラに目を合わせない様に、引きつった笑みで答えた。
「正誤の判断など…ただ私は執事でございますれば、私の仕えるべき主君は『ここ』におられる『はず』です」
「そうか…そうだな」
インテグラは小さく微笑む。
「お茶でもお入れいたしましょうか? シロルの素晴らしいお茶がございます」
「ああ、私はそれで構わないのだが…スーパー局長はどう言うか…」
つつぃ
再びインテグラの右手に人形がはめられた。
「ウーロン茶ガ良イ! ウーロンニシロ!! ………って、ウォルター! どうして逃げる様にして去る?! それに…これは涙かぁ?!?!」
許せ!