ヘルシング家の人々+1
* ビックリ人間
「インテグラ様ぁ、ほらほら、すごいですよー」
ヘルシング邸の生活空間,TVの前でセラスはソファに身をうずめる上司に言った。
ブラウン管の中では、ユリ=ゲラーとかいう超能力者がスプーンを曲げている。
インテグラはそれを一瞥すると、小さく鼻で笑った。
「くだらんな」
「……そうですか??」
やがて番組は進み、今度は日本から来たMr.マリックという魔術師を取り上げる。
「うわぁ、すごいですねぇ,マスター。ハンドパワーだって」
セラスは今度は、インテグラの隣で同じようにソファに腰掛ける主に問うた。
しかしこちらも反応はない,小声で「稚技に等しい」と呟くだけだ。
番組は次の人間にスポットを当てる。
今度は中国の気功だった。離れた相手を倒すという硬気功だ。
「ウォルターさん,やっぱり東洋には不思議な力があるんですねぇ」
「まぁ、そうですな」
インテグラの傍らで紅茶の追加を煎れていた老人は、やはり二人と同様にセラスを…いや番組を軽くあしらった。
”……そうか、この人達自体が不思議な塊だものねー”
自分自身もその一味である事を心の隅に置き忘れて、婦警は小さくため息。
と、番組が次の人間を紹介し始めた。
日本に住む老域に差し掛かった胡散臭い男で、カゼッタという名前だ。
なんでも、自分は宇宙人であり、いつでもUFOを呼び出せるという,が今日もUFOが忙しいらしく呼び出す事は出来なかった。
「何この人ぉ、変な人がいる…もの……?」
そこまで言ってセラスは言葉に詰まる。
インテグラ、アーカード、ウォルターが画面を食い入る様に見つめていたからだ。
そして……
「ほぅ、日本にはすごいヤツがいるものだな,宇宙人かぁ」
心底感心したご様子のインテグラ。
「この私でも、ヤツには勝てぬかもしれん」
「さすがは不思議王国・ジャパンですなぁ」
演技ではなく、素で感心しまくっている3人をセラスは、遠い遠い目で見つめたのだった。
「……もぅ、嫌。こんな職場」
* モテモテ?
アーカードとセラスは古いアルバムを見ていた。
たまたまウォルターが掃除をして出てきたものである。
それは数十年前――ウォルターがまだ死神として恐れられていた時代の欠片である。
写真の中の美少年を見つめ、セラスはほぅと溜息一つ。
「カッコイイですね、ウォルターさん。昔はもてたんでしょうねぇ」
「ええ、それはまぁ」
柄にもなく照れるウォルターにアーカードが補足する。
「ああ、もてたものだな,ゾンビやグールに」
ピクリ,ウォルターの肩が震えた。
その震えは次第に断続的なものになってゆく。
それに気付かずにセラスはアルバムをめくる。
写真はそのほとんどに、死体が映っていた。
「でも殺風景な写真が多いですね,普通の人とか、何より可愛い女の子とかが全然映って…」
と、顔を上げ傍らの執事を見ると、
「どうしたんですか、ウォルターさん?! 漢泣きに泣かれて?!?!」
ぽんぽんと、彼女の肩を叩いて立ち去るウォルター。
「ど、どうして私の肩を優しく叩くんですかぁぁぁーーー?!」
かつては死神ウォルターと呼ばれ、化物達に恐れられた男――未だに独身。
* 笑う犬の伝説
月の美しい晩だった。
セラスは一人、ヘルシング邸の庭を散歩していた。
深呼吸,冷たい冷気が彼女の胸を満たす。
と、
「あ、局長。お散歩ですか?」
前方からやってくる影はインテグラ,その手には手綱が握られている。
彼女の前方を行くのは黒い犬だ。犬の散歩のようである。
「なんだ、婦警か」
小さく笑ってインテグラは近づいてくる。
「でも犬なんて飼ってました…っけ?」
セラスは犬を見た。
なんだかえらく可愛げのない、狂暴そうな……
そう、これは何処かで見たことがある!!
こいつはっ!
「ま、ますたー?!?!」
「ほら、とってこい、ペス」
インテグラが懐から『ホネっこ』を取り出して庭の彼方へ。
「がうがう」
追いかけて黒犬は走り去って行く。
「って、ぺすぅぅ?!?!」
* +1
ヤンは対峙していた。
目の前にはカトリックの鬼札として名高いアンデルセンが一人、立ち塞がっている。
「くっ、あの首斬判事、聖堂騎士、天使の塵,そして…ロリコン神父として名高い殺し屋かっ!」
「最後のは違うわ,ブラコンがっ!」
「なにぃぃぃ!!!」
衝突は必至だっ。
――実際はそんな事ありません、多分。
おわり