ホワイトデーは突然に


* ハリー!
 「あ、あう……」
 「ホワイトデーのお返しだ、受け取るが良い,婦警」
 目の前に並べられた2つのつづらに、セラスは目を白黒させていた。
 「マスターからの…お返しですか?」
 「そうだ、どちらかを選べ」
 「どちらかって言ったって……」
 セラスは困惑する。2つとも欲しい――という訳ではない。
 むしろその逆だろう。
 右は小さなつづらだった。しかし下の方からなにか赤い液体が漏れていたりする。
 左は人一人が入りそうなほどの大きなつづら。こちらは小刻みにゴトゴトと動いていたりする。
 「さぁ、どうした。セラス=ヴィクトリア! 早く選べ,ハリー、ハリーー!!」
 どうしようもなく楽しそうな笑顔を浮かべて迫ってくるアーカードに、セラスは泣きそうな顔で選択した。
 セラスが選んだのは………

   ⇒ 小さなつづら
   ⇒ 大きなつづら



* お姫様だっこ
 インテグラの書斎。
 「ふぅ」
 「御疲れ様です、お嬢様」
 ウォルターは絶妙のタイミングで紅茶を彼女の脇に置いた。
 「ありがとう、ウォルター」
 インテグラは微笑み、それを一口。
 ゆったりとしたくつろいだ時間が部屋を満たす。
 と、インテグラは思い出したかのように引き出しを開く。
 そこにはキレイにラッピングされた小箱が一つ。
 「おや、それは?」
 横から覗いたウォルターは尋ねる。
 「うむ、今日はホワイトデーだろう?」
 「はい、そうでございますな」
 「貰ったからな、お返しをと思って」
 ”なぬーーー?!”
 ウォルター脳がインテグラの発言にフル回転した。
 ”どういうことだ、お嬢様にチョコを渡したヤツなどいたか? いや、否! 全て私がブロックしたはずだ。ってかお嬢様は女の子であろう! どうしてこーなる、一体全体?!”
 結論は出なかった。
 「あ、婦警に貰ってな」
 苦笑するインテグラ。
 再びウォルター脳が様々な可能性を想像するっ!
 浮かんだイメージは……
 ウェディングドレスを着こんだセラスをお姫様だっこする凛々しいスーツ姿のインテグラ。
 案外似合う。
 ”のぉぉ!!! イカン、先代よりお嬢様の教育を仰せつかった者として、これはイカン!! どうすれば、どうすればーーーーーー!!”
 「女の子同士でチョコって良く交換したりするもんなんだ。だからおかしいことじゃ、ないんだぞ?」
 「そうでございますか」
 いつもと変わる事のない笑みを浮かべたまま頷く好々爺・ウォルター・C・ドルネーズ。
 でも内心はドキドキだっ!



 ハリー!(小さなつづら篇)
 「こちらを選んだのか、婦警。後悔はないな?」
 「は、い……」
 ここに存在している事自体に後悔しながらも、セラスは小さく頷く。
 「では開けろ。ふふふふふ…はーっはっはっはーーー!」
 何が嬉しいのか、アーカードはおっかなびっくり小さなつづらの蓋を開けるセラスを見つめながら大笑い。
 セラスが箱の中に見たものは………
 「ギャーーーーーーーーーー!!!!!」
 「嬉しいか、そうか、そんなにも嬉しいか?」
 「何入れてやがるんです、マスターーー。こんなコトしたら犯罪ですよっ! ってかムショ行き決定!!」
 「問題ない。私は吸血鬼だからな」
 「訳わかんねーっす!! どっから取って来たんですか?! これをっ!!」
 「ロンドンだが。路地裏に連れこんで**********切りとって****きただけだが?」
 「うぁ、殺人鬼!!」
 「ほぅ、貴様も狗だったと……そういうことか?」
 「全然関係ないし」
 「貴様は中国拳法を愚弄した!!」
 「いつ! ってか何故に烈海王?」
 「………婦警も満足した事だし、大きい方は我が主にでもやることししよう」
 「待てーーーー、そっちの方の中は、中は何デスカーーー、ますたーーーー!! 動いてますよーーー!!!」
 英国の夜は犯罪者と共に暮れ行く。
 ―――――一部、ヤバ過ぎた表現があり伏字として自主規制しました。



* 電波系
 「特使に銃を向けるなんて、酷いんじゃないの?」
 「何が特使だっ! 貴様等と対等に話すつもりはないっ!」
 激昂するインテグラはミレニアムの特使としてやってきたシュレディンガーを厳しい視線で見つめる。
 しかしシュレディンガーは別段気にするでもなく、彼女の机の上に小さなモニターを置いてスイッチを入れる。
 小型液晶モニターであるそれには、海を一つ越えたところにいる『少佐』と呼ばれる男が映っていた。
 『ご機嫌麗しゅう,フロイライン』
 モニターの向こうで慇懃な礼を取る少佐。
 「何のつもりだ、ナチの亡霊,戦の女神の僕よっ。貴様と話す事など何もない」
 ごっ!
 後ろに控えていたアーカードが銃をシュレディンガーの額に押しつけ、セラスが小銃をモニターに向けた。
 『何の用も何も。本日はホワイトデー,貴女から頂きましたバレンタインデーのお返しをしに来ただけですよ』
 「「お返し?」」
 アーカードが、セラスが、そっしてインテグラ自身が首を傾げた。
 「何を言っている? 私は貴様にチョコもなにもやった覚えはないぞ??」
 『いいえ頂きましたよ,私の夢の中で。グフフ、グフフフフフ……』
 「うわ、キショ!」
 「痛っ!」
 なにかどこかへイッちゃってる瞳の少佐に、インテグラはセラスに指示を下した。
 セラスは問答無用にモニターを撃ち壊す。
 からん
 と、壊れたモニターの破片が床に散らばった。
 「あ、あのー」
 声を上げたのはシュレディンガーだ。
 「僕、帰りたくないんですけど(恐いから)」
 前途は多難だっ、ヘルシング機関!
 敵は電波も入ってるぞっ!!



 ハリー!(大きなつづら篇)
 「ほぅ、やはり大きい方が良いと、そういうことか、婦警」
 「そーゆー訳じゃありませんけど、どう見ても血で漏れてる方を選ぶよりはマシかな、とか思って」
 恐る恐る大きなつづらの蓋を開ける婦警。
 その中にはっ!
 ――以下、SOUND ONLY――
 「ぎにゃーーーーーーーーーーー!!」
 「そんなに喜ぶな、婦警。私もちょっと嬉しいぞ」
 「喜んでないですーーー、ってかこの娘は一体誰ですか?!」
 「そこらへんにいたのを取ってきたんだが。何か問題があるのか?」
 「マスターの存在意義自体が大問題ですっ! そもそも何を考えてさらってきたんですかっ!」
 「そりゃ、***********************************」
 「死んでしまえーーーーーーーーーーー!!!」
 ガシャコン!
 どむっ!!!
 今までのセラスのミッションの中で、これほどまでに完璧にハルコンネンが火を吹いたのは初めてだったと、後に一介の執事が語っている。
 ――――一部、検閲により伏字になりました。



* イスカリオテから愛を込めて
 3/14
 その日、彼女達はアルゼンチンにいた。
 仕事を終えて疲労困憊の2人の元に、携帯電話が鳴る。
 「はい。こちらハインケル」
 『元気でやっているか?』
 「あ、課長!!」
 ハインケルの声に、隣で道端に腰掛けていた高木の耳がピクリと動く。
 「え? バレンタインデーのお返しですか? ありがとーございますー」
 ハインケルが嬉しそうに笑うこと数秒。
 「アフガンに飛べっ?!?!」
 『私からの贈り物だよ、旅行さ、旅行』
 「なにもアフガンじゃなくてもっ!」
 『ついでに仕事もこなしてくれると嬉しいな。それじゃ!』
 「ちょっと待てーーーーー!!」
 ぷつん
 切れる連絡。
 乙女2人はお互い顔を見合わせ―――――
 狂信者に休みはない。


おわり