ホームサーバー
フジツーのキムタクCMより
女主人の場合>>
重量感のある豪奢な樫の木製の机。
その歴史を感じさせる逸品の上には、部屋の雰囲気にやや不似合いなモノが乗っていた。
PCモニターとビデオデッキ,そしてタワー型のパソコンである。
その他にもVHSテープや8mmテープ、さらには8mm映写機なんぞも置かれていた。
そしてモニターを見つめるのは2人の女性。
机と同様に高級感を漂わせるふかふかの背もたれのついた椅子に腰掛けた長い金髪の女性。
そしてその隣でパイプ椅子にこしかけた婦警姿の少女だ。
金髪の女性は葉巻を吹かしながら、手元のキーボードを叩く。
するとモニターには映像が展開した。
そこには5,6歳くらいの幼い少女と今よりも若い執事、そして少女と同い年と思われる黒髪の少女がこのヘルシング家の中庭で遊んでいる映像が映し出されている。
「へぇ、これ、何年くらい前ですかインテグラ様?」
婦警の問いに、
「そうだな、17年前…かな?」
金髪の女性――この屋敷の当主であるファンブリケ・インテグラル・ウィンゲーツ・ヘルシングは答えた。
「ウォルターさんはあんまり変わりませんねー、こっちの女の子は誰ですか?」
「父上の友達の娘…だったような。あんまり覚えていないな」
葉巻を灰皿に。
インテグラは次の映像を回す。
晴れた日の、何処かの河原の映像だ。
幼いインテグラが息を軽く切らせて走っている。
やがてその先にいる人物を見つけてか、満面の笑顔が咲いた。
と、その時だ。
「おや、インテグラ。懐かしいものを観ているね」
「「?!」」
驚いて振り返るインテグラと、婦警ことセラス。
そこにはやや小太りの老域にさしかかった男が、後ろからモニターを覗きこむようにして立っている。
「ノックもなしに失礼ではないですかね、ペンウッド卿」
冷たい口調でインテグラは彼に言い放つ。
しかし弱気な彼には珍しく余裕の笑みを浮かべると、モニターを見つめた。
「自宅のホームサーバーで映像を楽しもうという魂胆だね」
「み、観ないで頂きたいっ!」
インテグラは慌てて映像の展開されるモニターとペンウッドとの間に身を割り込ませる。
「ああ、インテグラ。昔はこんなに冷たくなかったのに…」
「何をおっしゃっているんです? 老人ボケにでもなりました…か?!」
鼻で笑ったインテグラはペンウッドの視線が気になったか、モニターを見つめた。
そこには、
『おじちゃん、おじちゃん!』
『まーたインテグラはおじちゃんかぁ』
満面の笑みを湛えた天使のような幼いインテグラが、ちょっとだけ若いペンウッドに『たかいたかーい』をされて喜んでいるシーンだった。
「あーーーーー!!!」
「インテグラ様、嬉しそうですねー」
しみじみ呟くセラス。
「違う、これは違うんだっ! ペンウッド卿、貴方も何か言って…って逃げやがったっ!!」
執事の場合>>
薄暗い部屋の中、たった一つの光源があった。
それはモニターの光だ。
そのモニターに向かってキーボードを叩く老紳士の姿が一人。
ウォルター・C・ドルネーズ。
このヘルシング家の執事である彼は今、自分自身の時間を楽しんでいた。
モニターにはもちろんPCが接続されており、さらにPCにはビデオデッキが接続されていた。
不意にモニターに映し出されるのは過去の記録。
幼い彼の主である少女、そしてやや若い彼自身、そしてもぅ1人――黒髪の幼い少女。
うっとりとその映像を見つめる執事の背後の闇が、歪んだ。
「ほほぅ、自室のホームサーバーでこれまでの記録を楽しもうと言う魂胆だな」
闇の中からズルリと生み出されたのは男。
執事は振り返ることなく、映像を見つめたままに頷いた。
「懐かしい映像だな」
「左様でございます」
しばらくモニターの中で展開される少女達の映像を声もなく見つめつづける2人。
やがて口を開いたのは闇から生まれた男の方だ。
「…インテグラは気付くだろうか?」
「だ、大丈夫でございますよ」
思わずどもる執事。
「インテグラ様とお遊びになられている少女がアーカード様だとは…気付かれることはないでしょう」
「そうだな」
再び沈黙する2人。
映像はやがて終わり、編集作業に移るウォルター。
同時に2人は言葉を吐いた。
「「この頃は可愛かったのに……」」
そしてお互い顔を見合わせる。
「「はぁ」」
溜め息がユニゾン。
「ところでウォルターよ、一つ提案があるのだが」
「何でしょう、アーカード様?」
闇から生まれた男―――アーカードはやはり闇から何かを引っ張り出した。
それは大量のビデオテープ。
「共有化…しないか?」
「素晴らしい考えでございます」
自然と堅い握手をを交わすウォルターとアーカード。
漢達の凶宴は、始まったばかりだった………
とある婦警の場合>>
自室でセラスは支給されたPCのモニターを前に、慣れないキーボードとマウスを操っていた。
「私も作っちゃおっと」
先日、インテグラの映像を見ていたとき自分でもやってみようと思ったらしい。
鼻歌を唄いながら、セラスは作業を進めていく。
モニターに映し出されるのは幼いセラス自身。
「へぇ、お姉ちゃん。自室のホームサーバーで自分史を楽しむつもりだね」
「?!?!?!?!」
慌てて振り返る婦警。
背後にはニコニコ微笑む少年が1人。
「あ、あなたはっ!」
婦警は知っている。
半ズボンをはいたこの少年は、彼女のマスターであるアーカードによって頭に風穴を開けられたはずだった。
しかし何故ここに??
「細かいことは気にしない気にしない」
「き、気にしないって……」
「お姉ちゃん、良くこんな古い映像持ってたねー」
「あ、うん。寮母さんが取っておいてくれたんだー」
お気楽なセラスの編集作業は続く。
その隣で少年――シュレディンガーは興味深げに並んで映像を見つめていた。
孤児院での気の合った仲間達との食事
優しくしてくれた寮母さんと孤児院の先輩
世話を焼かせる後輩達
やがて学校へ進むセラス
スクールライフでの仄かな恋と憧れ
卒業と就職決定、みんながそれを祝ってくれた
警察学校での修行時代
そして配属へ……配属先の先輩達は優しい人ばかりだった
ありきたりの平凡な仕事だけれども、満足だった毎日
唐突に平和な村に起こった事件
死んでいく同僚と村人達…1人だけ残される自分と、壊れそうなほどの恐怖
「お嬢ちゃん、処女か?」
「あたしの体、いったいどうなっちゃってるんだろー」
「狙って撃って、一発で終わり」
「DUST TO DUST」
「おまえなんか『婦警』だ」
「何ってカンオケでございます」
「フツーの人はこの組織にはいないのかしら?」
「ぶち殺すぞ、人間!」
「エスキモーの○○○○は〜〜、冷凍○○○○〜〜♪」
「こんなの税関通らんだろう?」
「わたしはあなたの銃「ハルコンネン」の精です」
「豚のような悲鳴をあげろ」
「命令よ、彼らを打ち倒しなさい」
「なめろ、命令だぞ」
―――セラスの顔色は悪かった。
隣のシュレディンガーは気の毒そうに、こう呟いた。
「転落人生?」
「いやーーーーーー!!!」
おわり
あとがき
えれくとら30万Hit記念にございます。
なんてーか、時事ネタですがニタリと微笑んでいただければ光栄の至り。
今後ともヨロシクお願い申し上げます。
あと、このSSに挿絵を頂いたのです!
描いていただいた藍氏のHPはこちら!
ありがとうございます♪