ロンドンが、いや世界がミレニアムによって侵略されようとしていた今。
アーカードは囮であったリップバーンを撃破し、ゆっくりとだが英国に戻ろう頑張っていた。
ヘルシング機関の長であるインテグラは屈辱の中、自らを死徒と呼ぶイスカリオテに保護されていた。
ウォルターは命を賭して主を守るために、宿敵のヴェアヴォルフと相対していた。
はたまたペンウッド卿ですら、体を張って任務に当たっていた。
各々が精一杯に崇高な使命の下で己の国を守らんとしている、そんな今。
忘れられたような彼らもまた、物語の中にいる。
もっとも、
彼らの物語はまた別の……全く交わらないところでの物語ではあるが。
ざわ
「え……」
三つ編みで眼帯の男は絶句。そして目の前の男に食って掛かった。
「缶ビールが150ペリカってのはおかしくねぇか? 昨日まで120ペリカだったじゃねぇかっ!!」
言葉は気丈だが、疲労の見える顔色は隠すことは出来ない。
冷え冷えの缶ビールを手にした男は小さく微笑むと、その手にしたものを元のクーラーボックスへとしまう。
「あ……」
「買いたくなかったら買わなければ良いさ」
「だ、誰も買わないとはいってねぇだろ」
「170ペリカだ」
非情にも値段を吊り上げ、男は眼帯の彼に右手を出した。
眼帯の男は「クッ」と一つうめくと、しかし男の手のひらに1枚の紙幣と硬貨を数枚載せた。
知る者は知る筈だ。
その紙幣も貨幣も、通常の世界の流通しているものではないことを。
そこには数字と、ある男の肖像画が描かれていた。
英国の富豪アイランズ卿だ。
ニタリと嫌らしく微笑んだアイランズ卿の肖像画だ。
「まいど」
男は眼帯の彼に缶ビールと、ポテトチップスを手渡して去って行く。
「クソッ!」
悪態を吐きながらも眼帯の男は缶ビールのプルをプシュっと開け、一気に飲み干す。
「隊長、そんなもったいない」
「あ……」
すぐ隣からかけられたその声に、彼は慌てて傾けた己の腕を止めるがもぅ遅い。
缶の中身のほとんどは己の胃の中に収まってしまっていた。
隊長と呼ばれた眼帯の男――ベルナドットは溜め息一つ、隣に控えた男達に振り返った。
そこにはくたびれた作業着姿の屈強な男達がおもいおもいに疲れきった体を休めている。
彼らはワイルドギース。
金さえ貰えればどんなことでもする傭兵達だ。
だが現在は英国のヘルシング機関に雇われて、その傘下にあるはずだったのだが……。
「やっぱり無茶な賭けだったんですよ」
隊員の一人がボソリと呟いた。
「うるせぇ! あそこであの馬さえ来れば、俺達はあんな吸血鬼の下で働くこともないくらいの金が手に入るはずだったんだよっ!」
ベルナドットは叫ぶようにして言い放った。
「次が、次さえあれば必ずっ!」
ここはロンドンの地下100mにある強制労働施設だ。
貸し金業を営むアイランズコーポレーションが非合法で「金のない者を救済する」為に設立した場所。
外界からは完全に隔絶され、身を粉にしてひたすらに労働に勤しむしかない。
そしてここで例え死んでも、外界に関与されることはないだろう。
何故ならここに来るような者は外界ではすでに生きていけないほどの借金のあるような者達だけだからだ。
「そうだよ、次さえあれば……」
溜め息と共に、まだここに来て浅いベルナドットは呟く。
その時だ!
ざわ
ざわざわ
唐突に辺りがざわめき出したではないか。
「ん?」
顔を上げるベルナドット。
自分達と同じ労働者達がこのタコ部屋の一角に集まり出している。
「なんだ、ありゃ?」
「知らないのかい、兄ちゃん?」
中年の男がベルナドットの呟きを聞いてニタリと笑った。
「毎週恒例のチンチロリン対決さ」
「チンチロリン?」
「ああ。アイランズ様がここの労働者達のガス抜きにと、週一回だけお許し下さっている賭け大会だよ」
「っ!!」
ベルナドットは立ちあがる!
そして後ろのワイルドギース達に振り返り、叫ぶ。
「これだ、これしかない」
「隊長、まさか……」
部下の男の一人が恐る恐る問う。
「そうだ、このチンチロリンで金を巻き上げてやるっ! そして外出権を貰える50万ペリカを貯め、外ででっかい賭けをしてお前ら全員を救い出せる大金を稼いで来てやる!!」
ざわ
ざわざわ
ざわざわざわ
ざわめくワイルドギース達。
その間にすでにベルナドットは、隊員達の有り金を全て握り締めて、チンチロリンの会場に駆け出していた。
そう、この絶望の中で見つけた、無謀とも思える希望を見つけた、この瞬間から始まったのである。
チンチロリンから限定じゃんけん、攻略不可能と言われた「沼」の制覇を成し遂げる、ベルナドット達ワイルドギースの血と汗握る賭博劇が。
人はこの物語をこう呼ぶ。
『賭博破戒録ベルナドット』とっ!!
アイランズ卿 福本伸行バージョン (協力2ch)
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ヾミ || || || || || || || ,l,,l,,l 川〃彡|
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/ 二ー―''二 ヾニニ┤ 諸君 私は金が好きだ。
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| / 、 l|__ノー| この世で取引される
. | /`ー ~ ′ \ .|ヾ.ニ|ヽ あらゆる金という存在が大好きだ。
|l 下王l王l王l王lヲ| | ヾ_,| \ だから諸君。
. | ≡ | `l \__ 私は地獄のような回収か、
!、 _,,..-'′ /l | ~''' 必死になって賭けにすがりつく
‐''" ̄| `iー-..,,,_,,,,,....-‐'''" / | | 愚か者のあがきを望んでいる。
-―| |\ / | |
| | \ / | | 無駄にあがいて私を楽しませろっ!
ホントにやっていそうで怖い……(^^;;