たとえばね
三連短話


阪神優勝?>>
 「いや、なんかスゲェ嫌なゴシップ記事読んじゃったんですよ」
 そう言ってセラスがインテグラ達に差し出したのは英国ではB級ならずC級に属する週刊誌だ。
 その中の一ページを指さす。
 そこには南米メキシコでの社会人野球の結果と、優勝チームのインタビューが載っていた。
 「「んな?!」」
 映っていた写真を見て硬直する一同。
 載っていたのは白と黒のストライプのユニフォームを纏ったミレニアムの面々だったから。
 記事にはこうある。
 『優勝は16年ぶりです。こんな感動は世界大戦以来です《ヘッドコーチ ドク氏》』
 しかし驚きは微妙にセラスの思っていたのとは異なっていた。
 「「吸血鬼なのに写真に映ってる?!」」(注:吸血鬼は鏡や写真には映らないとされている)
 「そっちかよっ!」


もーほー?>>
 「インテグラ様ぁ」
 「なんだ、婦警?」
 穏やかな夕方、ヘルシング邸の中庭で、婦警はインテグラの隣に腰掛けてゴシップ紙を広げている。
 「ふと思ったんですけど」
 「ん?」
 ゴシップ紙に視線を向けたまま、セラスは問う。
 それにインテグラは心ここにあらずといった風に相槌を打っていた。
 「マスターにはカノジョっているんですかね?」
 「ああ、奴はホモだからいないよ」
 「へー、そうなんですか…って、ちょっと待ったぁぁ!!!」
 さらりと何の変哲も無く言ったインテグラに、セラスはすがりつく様に待ったをかける。
 「ど、ど、ど、どうして、マスターがホモ?!」
 「おや、知らなかったのか?」
 微笑でインテグラは続ける。
 「ウォルターから聞かされたのだが昔、アーカードは女の子に化けて男達を手玉に取ったそうだ」
 「マジですかー?!」
 「これが証拠の写真だ」
 インテグラは懐から写真を一枚取り出した。
 そこには年端もいかない可愛らしい少女の姿。
 しかしセラスには分かった、これはアーカードだと。
 写真に映った彼女の目が、アーカードそのものだったから。
 「そ、そんな…マスターにそんな、そんな趣味があっただなんて!」
 「ん? 何の趣味だって?」
 「ま、ますたー!」
 セラスは背後の声に驚いて振り返る。
 そこには眠そうな目をしたアーカードが壁抜けの途中でコチラを見つめている。
 「インテグラ様から聞きましたよ!」
 「?」
 「マスターは…ホモなんですか?!」
 「はぁ?」
 やや怒りを込めた瞳でアーカードはセラスを睨んだ。
 「誰が、ホ・モだって? 婦警?」
 「あ、だってインテグラ様が……ねぇ?」
 セラスはインテグラの方を見る、が。
 「インテグラがなんだって?」
 「い、いない?!」
 セラスの視線の先には主を失った豪華な牛皮の椅子が揺れている。
 ”に、逃げた?! ってかダマされた!?”
 「さて、婦警よ。貴様…主人である私をどうやら誤解しているようだな」
 迫り来る殺気を、セラスはもぅ、どーしようもなかったそうな。


一路帰還中?>>
 ロンドンは火の海に包まれていた。
 突如、正体不明の飛行艇から街へ降り注いだ災厄達――吸血鬼の為に。
 圧倒的な殲滅能力を有する彼らに、しかしロンドン市民もやられるだけではなかった。
 勇気ある市民が、警官が、軍が、それぞれに尽力していた。
 そこかしこで壮絶なドラマが広がるその頃。
 はるか洋上ではゆっくりとだが英国へ向かって空母が帰還しつつあった。
 英国海軍所属空母「イーグル」
 唯一、意思を持って動く人影はただ一つ。
 黒衣の装束に身を包んだ男――吸血鬼アーカードだった。
 満月の冷たい光の下で、甲板上で破壊された戦闘機に腰を下ろしている。
 前屈みになり、両手で何かを持っていた。
 月を半分隠していた雲が風に流れ、彼が手にしていたものを光の下に晒す。
 ヒモ、だ。
 正確に言うと、両手で指を駆使してヒモを絡ませている。
 両手の間のヒモは、見事にエッフェル塔を形作っていた。
 そう、あやとりだっ!!
 「…飽きたな」
 ボソリと彼は呟く。
 「一人タイタニックごっこはやったし、燃焼系アミノ式体操もやってしまったし…さて」
 彼は夜空を見上げる。
 「あと五時間ほどか、英国に戻れるのは」
 呟き、立ち上がる。
 「確か副船長がジャパニーズアニメファンだったな。アニメでも見てハァハァするか」
 そのまま彼は無人となった居住区へと足を運んで行く――――
 言うまでもないが、その頃はロンドンで血みどろの戦いが行われていた。

おわれ