喜劇・水戸黄門



ジングル:王立国教騎士団・団員一同
  “だだだだだだだんだん,じ〜んせい,山ありゃ苦ぅ〜もあ〜る〜さぁ〜♪”
         ――――「涙で前が見えないです…」(セラス=ヴィクトリア談)


 「黄金色の菓子に御座います」
 畳敷の広間,男は床の間を背にして鷹揚にあぐらをかく長い金髪の男に、風呂敷で包んだ包みを差し出した。
 「お主もワルよのぅ」金髪の男は小さく唇の端を上げ、怪しい笑みを浮かべる。
 「モンティナ様,あ、いや、お代官様にはかないませぬ」
 「「フフフフフフ…」」
 大きな屋敷に、二人の怪しい笑い声がいつまでも、いつまでも響き渡っていた。


 時は江戸時代。
 とある町を、彼ら四人は訪れていた。
 「局長、じゃなかった,御隠居様! 今日はこの町で宿を取りましょうよぉ」
 どこか幼いものを残した、巨大な銃を持つ少女が2人の男に守られるようにして歩く色黒の女性にそう提案した。
 女性は軽くそれに対し鼻で笑うと、空を見上げる。
 夕日をバックに烏が鳴いていた。
 「そうだな、八衛兵。デラックスでゴージャスな宿を一人分取ってこい」
 「え? 一人分?」
 「あとは棺桶二つと教会があれば良かろう」
 「フッ」
 「まぁな」
 「な、納得しておられるぅぅ!?」八衛兵は妙にニヒルな黒装束の吸血鬼とイカレ神父の2人からズササっと身を引いた。
 「寝る所くらい、ちゃんとした所にしようってマスターからも言ってやってくださいよぉ」吸血鬼に泣きつく八衛兵。
 吸血鬼はそんな八衛兵に一瞥くれると一言。
 「お前なんか婦警で充分だ」
 「ぜんっぜん訳分からんですよぉ!」
 「ククク…,それが『結界』だ、小娘」と、八衛兵の後ろからイカレた神父。
 「ここにはまともな人はいないの?」
 ひたすら涙の八衛兵。
 と、そんな一同の前に、泣きながら両手を捕まれ引っ張られる街娘と、二人の若い男がいきなり取って付けたように登場した。
 「ええぃ、キリキリ歩け! このボケがぁ」
 「ボケではありません,マチコって名前がちゃんとあるんですぅぅ」
 「兄ちゃん,こいつを借金のカタにして逆にモンティナ様に怒られないかなぁ?」
 金色の長い髪を持った男とホルスの目の帽子を被った男が眼鏡っ娘を無理矢理引っ張っている。
 「あれは何だ?」
 「おおかた、借金のカタに売られていく小娘ってトコだと思いますよ」御隠居の問いに、八衛兵は淡々と答えた。
 何を思ったか、それを聞くなりインテグラはズズィと前へ鷹揚に歩み出し、
 「待て待て待てぃ!!」大声を張り上げ3人の足を止めた。
 「何だ? お前等?」
 「他所モンか?」
 「若い娘を○×△をさせる□☆○×とは言語道断!」
 「御隠居ぉ、駄目ですって,何言ってるか分かりません!!」汗だくだぞ、八衛兵。
 「ほぅ,めずらしい。インテグラが昔の思い出にひたっている」
 「Dust To Dust」
 「アンタらも話に参加して下さいよぉ!!」場違いな発言の2人にセラス、いや八衛兵はさらに汗が増す。
 ともあれ、御隠居の言葉に金髪男がポンと手を叩いた。
 「おお、そういう手があったか! メイドとして使おうかと思ってたんだが」
 「グットでナイスなアイデア,ありがとよ」
 「いやぁぁ〜〜!!」御隠居のアイデアに喜ぶ2人と泣き叫ぶマチコ嬢。
 「あらら…」
 ぽりぽり頭を掻くインテグラの前に、イカレた神父が一歩足を踏み出した。
 「ふ,これ以上言っても聞かないようですな,さ、アーカード,じゃない助さん」
 「…何だ? アンデルセン?」中年のおやじに促され、ようやく参加するアーカード。
 「マスター,アンデルセンじゃなくて角さんですよ」耳打ちする八衛兵。
 「そうか。で、何をすれば良いのだ? 婦警」
 「ハ・チ・ベ・エです!! ほらほら、印篭出して!」
 八衛兵は助さんを促す。彼は懐を探り、御大層な家紋の入った印篭を取り出し、
 「…面倒くさい,婦警、お前やれ」
 無造作に八衛兵に投げ渡した。
 「ええと…??」おろおろする婦警。
 「いいからやって良いよ」諦め顔の御隠居。
 「がんばれ」
 「ファイトォ!」ゴロツキ2人やマチコからも応援され、顔を赤らめながら姿勢を整える婦警。
 「ええと、このお方を誰と心得る、天下の王立国教騎士団局長、インテグラル・ウィンゲ〜」
 ガリ
 「くぅぅ〜〜〜」涙を浮かべて口を押さえる婦警,舌を噛んだのだ。
 「「「……」」」
 一同沈黙。
 「貴様,それでもノスフェラトゥのつもりか,恥を知れ」
 沈黙を破り、追い討ちをかける助さん。だが、一応婦警の言いたいことは伝わったようだ。
 明らかに恐れの表情で身構える2人組。
 「こいつがインテグラ!」
 「噂は鉄の女というのは本当だったな,あと黒いし」
 「ホント,黒いですねぇ」同意するマチコもあり。
 「噂ってどんな噂じゃあぁ!! それに黒くないわぁぁ!! 助さん,角さん,やぁっておしまい!」御隠居,ドロンチョ化
 「「あらほらさっさ!」」ノリは良いようだ。
 「ちっ,野郎共,やっちまえ!!」
 金髪男の言葉に、どこからともなく現れるはグールども。
 ここに殺陣が始まった。


 「フッ,俺は吸血鬼を越えている!」
 金髪男は助さんに向って一言,火縄銃を乱射(?)する。
 対する助さんはそれをまともに受けながらも不敵な笑み。
 「貴様を分類A以上の吸血鬼と認識する。拘束制御術式第3号第2号……」
 「い、いきなりですかぁ?!」八衛兵は助さんの隣から走って逃げた。


 「異教徒はいねぇが〜,プロテスタントはいねぇが〜」
 角さんは逃げるグールを追って小剣を振り回す。
 目があちらの世界へイッてしまっていた。
 まさにキ●ガイに刃物状態だ。


 インテグラにヤンの凶刃が迫る! 彼はニタリと笑みを浮かべながら問い掛ける。
 「小便は済ませたか?」
 そんな時間はありません。
 「神様にお祈りは?」
 お釈迦様にでしょうか?
 「部屋のスミでガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?」
 部屋なんかここにはありません。
 と、刀を振り上げる彼の右腕に細いワイヤーが絡まる!
 「!?」
 「弥七か」
 インテグラから死角の位置に一人の老人が立っていた。
 「怪我はありませんか? お嬢様」燻し銀のシブい声。
 「ああ、当然だ」
 インテグラは身動きの取れないヤンの額に緩慢な動作で銃を突きつけた。


 「大丈夫ですか?」
 八衛兵はこの隙にと、拘束されたマチコへと駆け寄った。
 「ええ、ありがとうございますぅ」
 取りすがるマチコ嬢は八衛兵の持つ大砲のような銃身に触れてしまう。
 トリガーのちょっと横にあるボタンに。
 ポチ,キュイィィィン……
 「「え?」」
 輝きを増す銃身。
 「もしかして、自爆ボタン押しました?」
 ギギィ,顔をぎこちなく街娘に向ける八衛兵。
 「何ですか? それ」

 
 ちゅど〜ん!
 町外れは白光に包まれた………


 「何やら騒がしいな」
 代官モンティナは窓の外を見る。一筋の煙りが夕焼けの空の向こうに登っていた。
 「おおかた、うっかり者がドジ踏んでなんかやらかしたんでしょう」
 「ふむ」彼は夕焼けの空の向こうに浮かぶ一番星を見つめる。
 “いつかメーテルとともに機械の体を貰いに行くのだ”
 んなことを考えていようとは、彼のまじめそうな横顔からは想像できる訳がなかった。


エンディングテーマ:王立国教騎士団・団員一同
  ”汽車はぁ〜、闇をぬぅ〜けてぇ,ひかぁりのうぅぅみえぇぇぇ♪”
        ―――「この光はぁぁ,まぶしぃぃ,熱いぃぃぃ!!」(セラス=ヴィクトリア談)


Cast
 
御隠居  インテグラ
助さん  アーカード
角さん  アンデルセン
弥七   ウォルター
うっかり八衛兵  婦警
悪(?)代官  モンティナ
借金取りA  兄ちゃん(バレンタイン兄)
借金取りB  ヤン(バレンタイン弟)
友情(?)出演  街娘 マチコ(資料なし)


死して屍、拾うものなし

終劇!


これはレイニーさんへお贈りしたものです。