ヴァチカン市国 1996年 ―――
「人質と交換に一千万ドルを要求して来ている」
「我々への挑戦ですな,なめられたものです」
時代は 錯綜する―――――
「速やかに解決したまえ,教皇も期待しておられる」
「御安心を,我々「第13局」が必ずや」
必ずや邪教徒どもに神罰を―――――
同刻 パレスチナ ベガー高原難民キャンプ内 ―――
「何故だ,金は用意するといったろう! この人殺しめ!」
「金も手に入って、おまけに異教徒どもも皆殺しに出来るとあれば」
我らの神もさぞお喜びになるに違いない―――――
「きゃぁぁ!!」
「レディファーストだ」
「由美子!!」
アッラーアクバル(さよなら)
チャキ!
乾いた日差しに光る神の牙
ズザッ!
時同じくして中原の乾いた砂塵より異邦人到来
そして
殺陣の 幕開け
「やっぱり、由美子だったか」
「ハインケル!」
「なんだ、貴様は!」
「おやすみ。そして…」
おはよう
バキィ!
――――― フェイド・アウト
こうして
彼女の幕が 開ける……
(約)24人のユミ● タカギ
「おきなさい,由美江!」
ハインケルは二丁の銃をアッラーの使徒達に向けて放ちながら、気を失うイエスの淑女に向って叫ぶ。
「し、しとめろ!!」ハインケルに向って迎撃を唱えた男の胸に、彼女の弾丸が炸裂!
「グハッ!」
断末魔を上げて、彼は後方へと数メートル飛んで、乾いた砂の上で動かなくなる。
「ひぃぃ!!」惨状に悲鳴を上げるは捕らわれの信じる者達。
「くそ! 相手は1人だぞ!!」若いアッラーの使徒の一人が、恐れを打ち消すかのように叫んだ。と、それと同時であった。
「カァ〜ット!!」
「「?!?!」」
響き渡る女性の声に、一同の動きはまるでビデオの一時停止のようにピタリ,止まる。
そんな彼等の間を、一人のシスターがつかつかと歩き、撃たれたばかりの男を蹴飛ばした!
「ゆ、由美江?」茫然と、ハインケル。
「ちょっと,アンタ! 何? その撃たれ方!! もっと、こう派手に血を撒き散らしながら倒れらんないの? それじゃ視聴者は付いてこないわよ」
「す、すいません…」ムクリ、起き上がって撃たれた男は済まなそうに頭を掻いた。
「キルヒアイスの静脈が切られた時みたいな美しい演技をしなさいよ」
「頑張ります」
「それから! そこの神父さん達!! もっと悲鳴って言うのは臨場感を持って!」
「「はい」」
「なにより、アンタ!」最後に『相手は1人』と叫んだ若者に歩み寄り、人差し指を突きつける。
「全然悔しそうに見えないわよ,Jリーガーの点数が入った時の喜び振りを参考になさい」
「申し訳ありません…」
「じゃ、Take2行くわよ!」
「待てい!!」
ガッシ! シスターの肩を掴む腕はハインケルのもの。
「お前,由美映だな。由美江はどうした」
「ハインケル! アンタも演技がなってないわよ,もっと腕の関節を聞かせて横撃ちは梅崎張りの…」
「演技じゃないわぁぁ!!」
バキィ!!
豪快なアッパーで吹っ飛ぶ由美映。
「…Take2,スタート!!」
ハインケルは溜息と共にそう呟いた。
「おきなさい,由美江!」
ハインケルは二丁の銃をアッラーの使徒達に向けて放ちながら、気を失うイエスの淑女に向って叫ぶ。
「し、しとめろ!!」ハインケルに向って迎撃を唱えた男の胸に、彼女の弾丸が炸裂!
「グハッ!」
断末魔を上げて、彼は後方へと数メートル飛んで、乾いた砂の上で動かなくなる。
「ひぃぃ!!」惨状に悲鳴を上げるは捕らわれの信じる者達。
「くそ! 相手は1人だぞ!!」若いアッラーの使徒の一人が、恐れを打ち消すかのように叫んだ。と、それと同時であった。
「it’s automatic ♪」
宇多田チックな歌声が荒野に響く。
結構上手かった。
「あら、ハインケル? 私の歌を聞いてぇ!」
「「マクロス?!」」
「由美音?? う、歌ってんじゃねぇ!!」大きく腕を振りかぶるハインケル。
バキィ!!
「モミアゲはどうしますか?」日本刀を二本、器用に操りながらシスターは復活。
「由美切…引っ込め!」
メキィ!
「必殺! 旗包み!!」
やはり日本刀で尾崎ばりのゴルフスイングを披露するシスター。
「今度は由美猿かぁ,寝てろぉぉ!!」
ゲシィ!
「所謂ひとつのですねぇ」
「わかんねぇよ!」
ドゲシィ!
・
・
・
「はぁはぁ」
「おいおい、姉ちゃん、死んじまうぞ」心配そうに,且つ恐いのだろう、遠巻きに2人のやり取りを見つめるアッラーの信徒と人質達。
「…ハインケル?」小さくうめきながら、高木は身を起こした。
「ゆ、由美江? ようやく由美江なの?」
シスター姿の彼女は日本刀を力強く掴み、自らの頬に手で触れた。
「私を起こしたのは、お前か?」
チャキ! 日本刀が鳴る。
「ええ、苦労したわよぉ、変な奴等が先に起きちゃうから」ハインケルは彼女を殴りつづけた手をさすりながら、笑って言った。
「島原抜刀流…」
「は?」
「秋水!!」
「うきゃぁぁぁ!!」
「ひぃぃ!!」
「うぁぁぁ!!」
怒り狂って必殺技で狂戦士化する由美江の顔は、ボコボコに腫れ上がっていたそうな。
「多重人格?」
「はい、護衛に当たっていた高木由美子には、およそ24人の人格が潜んでいるのです」
「ビリーミリガンか?!」
「その内、使えるのは一人です」
「クビな,そいつ」
嗚呼、険しき失業生活
ギャフン
END
これはレイニーさんへお贈りしたものです。