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静かな想い

 
 彼の奏でる音は、とてもとても拙いけれど。
 何百年も生きて生きて、生き疲れてきた私にとってはなんとも心地よいものだった。
 私にとっては長い長い時間の中の、ほんの僅かな間だけれども。
 夕暮れに彼がやってくるのを心待ちにしていた。
 そんな彼の拙い音が、次第に巧くなっていくことも惹かれた理由の一つに他ならない。
 やがて毎日心待ちにしていた時間は終わりを告げ、彼はこの場を去っていった。
 それはとてもとても哀しい事。
 でも、これからの彼の未来を考えることで退屈しのぎにしようと思う。
 きっと彼は有名になる。
 この私が惹かれた音なんだから、きっともっと多くの人たちを惹きつけるに違いない。
 そう、思った。
 「!」
 しかし彼は戻ってきた。
 仲間と思っていた人間達に連れられて。
 命の炎が今まさに消えようとしている彼を、仲間達は笑いながら私の足元へと埋めていく。
 どうしよう。
 どうしたらいい?
 そうだ。
 私には3つの願い事をかなえる力がある「らしい」。
 人間たちがそう信じているのを耳にしたことがある。
 実際にそんなものがあるのかどうか、分からないけれど。
 せめて、彼には祝福を−−−


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