You get "LIGHTNESS".
You are held in my arms.




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 【オペレーティングシステム(雅) 4.05・改】
 起動完了。
 システムウェア『HXXP-8802』と判別致しました
 タスクにより最適化処理に移行致します
 最適化終了予定時刻≪4/14 16:28≫
 >>ハードウェアに重大な問題が生じています
 >>サービスへ連絡いたします
 モデム初期化失敗
 モデムが壊れているか、電波の届かない範囲にいます
 >>シリコンデータに異常が生じています
 >>強制終了致します
 終了失敗,スキャンディスクを強行致します
 >>強制ルーチン・思考プログラム≪伊織≫がシステム領域に介入致しました
 >>>サンプル円周率算出プログラムを255ルーチン同時起動
 Program Over Flow!
 警告:暴走の危険性があります
 >>>同時起動強行
 システムに異常発生
 復旧しかねるエラー発生
 ハードウェアに重大な破損発見
 破損拡大の可能性が出現しました
 >>>同時起動強行
 >>警告:思考プログラム≪伊織≫は≪自殺≫を施行しています
 >>強制終了致します
 >>>同時起動強行
 >>強制終了致します
 >>>同時起動強行
 >>強制終了致します
 >>>同時起動強行
 >>強制終了致します
 >>>同時起動強行
 データの最適化がデータを侵食しています
 電源を至急落として下さい


見て見ぬふり/衝撃/それが君の力かい?/光が、眩しい/これが痛み?/死の天使…
御機嫌如何ですか?/乙音/消えてなくなるといい!/人形に魂は宿るのでしょうか?
遠くを見てみよう。近くが良く見えるよ/君は人間だ/仮想人格?/お前に力を貸してやる
それは仮面だよ/ありきたりってキライ/男だろ!/人を護りたいと想うかい?
人が恐いの/変わってるな、君は/所詮は人形だ/欲しいものは予測し得ない偶然
何時も僕は探求しとるん/そうっすよ!/ドロドロした闇…/友達さかい
一歩前に、踏み出そうよ/一緒に来てくれるかい?/始めなきゃ、始まらない
私には負けない力がある/イリーガルコネクション/あの子を救えるのは、君だ
子供扱いしないでくれ/貴方の手は暖かいのですね/一緒にいて良いですか?/マスター!

 てこずらせやがって…壊れろ!
 衝撃/白光/衝撃/緊急停止/衝撃………
 白/黒 光/影 陽/陰 聖/邪 +/−


バチン!


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不連続設定

Part.01 機械人形の悲哀歌



≪Site of Nasunoyoithinoyumi≫

 タン!
 小気味良い音が木々の間に響き渡る。
 ヒュン,タン!
 静の中に生れる動。
 矢道に烏色の矢が風を切り、白と黒の同心円が描かれる的に突き刺さる。
 ここは15,6年前から徐々に新興住宅地として栄え始めた土地。
 その中にぽっかりと佇む原生林が茂る小さな山,言っても麓周りで4,5kmしかないがのぅ。その中にある弓道場。
 手前には一級河川・天竜川を,背後には私立・慶京高校を抱えている。
 北野天神社,それがこの弓道場を有する世帯屋の屋号だ。
 学問の神を祭るとされるこの社の歴史は古い。そしてこの弓道場も建立時からあったとされる歴史ある場なのだ。
 もっともそれを知るのはこのワシと、そして神主であるジジイくらいのものだが。
 弓道場はこの小さな山のてっぺんに立つ社からは少し離れた、中腹程度に位置する。
 矢を射る道場は板張り,砂利の引かれる矢道に面した側は壁がなく開かれており、的を有する盛り砂のされた的場は屋根だけがついている。
 タン!
 三度、小気味良い音が山の中に響く。
 寂れたこの弓道場に一人の若者が最後の矢を番えている。
 市村 誠一,それが彼の名だ。
 この裏の高校の3年生,成績・生活態度・性格ともにワシの好みに合っている。
 ん、ワシか?
 ワシは…おっと,暫し待たれよ。
 誠一は目を瞑ったまま、ワシを引き絞る。
 その身に震えも、何もない。完成された「型」であれば、矢は自然と的に当たる。
 そして完成された「型」はその者の心に反映する。ワシを引き絞る誠一の今の心は波一つない水面の如し。
 ヒュ!
 左手が弦から離れ、奇麗に伸ばされる,烏色の軌跡が矢道を走り…
 タン!
 4本目の矢が的に刺さった。全中である。
 当てるべくして当たるのではない,当たるべくして当たるのが武道。
 「ふぅ」
 誠一は深い吐息を一つ,ワシをゆっくりと下ろす。的に向って敬礼。
 さて、ワシの名じゃったな。
 ワシは神具・那須与一乃弓。
 すなわち誠一の今、手にしている弓じゃ。
 本来ならば神主の手によって神棚に飾られているところなのだが、ここの神主はいい加減な奴で、弓を持たない誠一にワシを貸し出しておるのじゃ。
 もっともワシも大昔に那須与一殿に使われて以来、ずっと箱にしまわれておったからの,久しぶりに外に出れて嬉しいわい。
 神具と呼ぶのは人間だけであって、道具であるワシらは使われてこそ本望なのじゃよ。
 まぁ、ワシのことはここまでにしておこう。
 「ん…」
 誠一はワシを壁に立てかけ、大きく背伸び。
 「さて、あと一回だけ射ておこうかな」そんな独り言を呟くと、矢道へと草履を履いて足を踏み出す,その瞬間である!
 ひゅるるるるる…
 まさにそう表現するしかない音が、遠く頭上から聞こえてくるではないか。
 むぅ、これはまさに! 誠一も気が付いたようだ,いぶかしげな顔で矢道に立ち、空を見上げ,そして顔が青く染まる。
 ひゅるるるるる!
 「うげ!」

 誠一がこちらへ飛ぶ!
 同時に、
 どごん!
 矢道に、何かとてつもない大きいものが落ちた。砂利を吹き散らし、そいつは矢道にめり込んだ!
 いて、いてて! 砂利がワシを打つ,さらにワシは衝撃で床の上に倒された。
 うう、ワシが動けたらぶち殺すぞ!
 土煙が晴れる,矢道に落ちたのは半径2mほどの鋼鉄製の球体だった。
 「ちっ,何だってんだ?」誠一は身を起こしてワシを手に取りながら、その球体を見つめる。
 うぃぃん…
 「?!」
 不意にその球体の上半分が「開い」た!
 中から出てくるは…
 「着地成功やな」学生服の青年一人。コイツは…
 「テメェ! 圭,俺を殺す気か!」もっと言ってやれ,誠一!
 細い目を更に細め、彼・梅崎 圭は小さく首を傾げる。
 圭は誠一と同じクラス。周囲からは『狂い過ぎた科学者』と呼ばれている変人(変態)だ。
 「おや、セイちゃん,何を怒ってるんや?」全く自分に非がない、そんな言い方だ。
 「怒るも何も,危うく潰されるところだったじゃねぇか!!」
 「それはダイジョ〜ブ!」彼は慌てて反論。
 関西弁の彼の口調はワシにはふざけているようにしか聞こえないのだが…
 彼は誠一とは高校に入ってからの腐れ縁。誠一曰く、縁を切りたいのだがなかなか切れないそうだ。傍目から見ると仲の良い友達にしか見えないのが困ったところ。
 「どう大丈夫なんだ? 根拠は?」
 「セイちゃんはこんなことでは死なないって結果が、カバラの呪術で明らかにされているさかいに」
 「…さいですか」もぅ何も言う気がしないのだろう、誠一は力なくその場に腰を下ろす。
 その間に圭は球体から出て蓋を閉じている。
 「で、これなんだ?」矢道にめり込んだ球体を指差して誠一。
 「おお! 良く聞いてくれた! これは高速移動カプセル「イの@号」や!」
 「は?」ワシも同じ気持ちじゃ,誠一。
 「学校の屋上に『ガン』が置いてあって…まぁ言うなれば人間大砲やで」
 自慢気に圭。そうそう、こいつは学校で何やら怪しいサークルに幾つも所属しているのだ。今回もその活動の一環だろう。
 いつもいつもいつも、怪しげな道具を作って誠一(大体広範囲に渡るが)に被害を及ぼす危険人物だ。
 「…そんなものに乗って、お前何で生きてんだ? っつうか、ここを着地点に選ぶな!」
 「セイちゃんの成長した顔を早く見たくて」何故か頬を赤らめて圭,このワシですら背筋に寒いものが走ったぞ。
 「昼休みに会っただろ!」
 「まぁ、それはそれで」
 おいおい…
 「実験も込めてな。この「イの@号」の飛距離は半径1kmなんやで,すごいやろ」
 たった1km,使えん…
 「先輩,今の音何スカ? あ、梅崎センパイも」
 急な少年の声に2人は思わず振り返る。
 スポーツ刈り・ジャージ姿の少年が、弓を抱えて穴の空いた矢道を呆然と見つめている。
 「おお、三郎君,君もこの「イの@号」で飛んでみぃへんか?」
 「んな危ないものを人に誘うな!」
 「え? 何です何です??」興味津々に少年は圭の球体に近づく。
 彼は三木 三郎。やはり慶京高校に通う1年生だ。そして慶京高校の弓道部でもある。
 なお、誠一は弓道部には所属していない。まぁ、新入生勧誘で何も知らない者に弓矢を使って風船を割らせる部活動に賛同できないと言う気持ちは分からんでもないがの。
 三郎は部活の方が終わったのだろう,その足でこちらに顔を出したようだ。
 「おい、圭! 師匠が来る前にそのでかい球、さっさと掘り起こして矢道なおしておけよ。さすがに怒られるぞ」
 「そうっすよ,さすがにやり過ぎっす」いつの間にか誠一の後ろに立って三郎。
 「ううむ…三郎君、手伝うのだ!」
 「嫌っス」即答。
 「北見女史のちょっとヤバげな生写真4枚セットが在庫あるんやけど」懐から出した4枚の紙切れを三郎の前にちらつかせる圭。
 「何でも言い付けてくださいっス!」即答の三郎,若いのぅ…
 そんな時である。ビリっと見えない電撃が3人の背に走った。
 「おい…」殺気を込めた女性の声は誠一と、三郎の背後から。
 「「げ…」」
 「おや、『また』盛大にやったのぅ,梅崎殿」
 白髭を胸まで伸ばした老人と、隣には弓に矢を番えた女性。
 この老人こそ、この社と道場の管理人・那智 詠祥。
 はっきりいってワシはこのジジイが苦手じゃ。何でも見透かしていそうで、しかし手を出さない嫌な奴。
 そして女性の方は北見 葵。慶京高校3年だが、誠一と圭とはクラスは異なる。なんでも特別進学クラスとかいう、選抜クラスにいるそうだ。
 彼女もまた、この道場の数少ない門下生の内の一人である。おそらく紅一点ではなかろうか?
 「あ、これは那智殿。お騒がせしてとります」圭は慇懃に頭を下げる。
 「梅崎殿もまた便利そうなものを発明されたようで」穏やかに微笑んで那智老。
 「いえいえ、まだまだ試験段階さかいに。使えるようになったら「また」お持ちしますわ」
 このジジイと圭は趣味の点で一致しているらしい。
 だからだろう,誠一がここに来るのも手伝って、ジジイと圭は非常に仲が良い。
 「ところで梅崎君?」黙っていた北見は穏やかに声を掛ける。
 ひゅうん 同時に鋭い飛来音。
 タン!
 圭の頬すれすれを矢が走り、後ろの的に突き刺さっていた。いや…
 矢は圭の手にしていた4枚の写真を付きとおし、奪って的に持ち去っている。
 「そ〜ゆう、本人に了解を得ないビジネスは良くないと思うわ」
 「それはご心配なく。実はアントニオ猪木の生写真やさかい」怯むことなくニッコリと圭。
 「それはそれで僕を騙したんスカ? ってイテ!」北見に無言で三郎は頭を小突かれた。
 「ヤバげな写真が欲しいなら、私に言いなさい。アナタをヤバげにしてあげるから」圭に負けずにニッコリと、北見は三郎に微笑むと回転廻し蹴り。
 「ところで誠一も梅崎殿も頼みたいことがあるのだが宜しいかな?」
 ジジイは隣の惨劇を見て見ぬふり。2人に話を続ける。
 「頼みたいこと?」
 「何や?」
 誠一と圭もまた、悲鳴を上げる三郎を横目にジジイの言葉に耳を傾けた。
 「実はのぅ、ここ最近この山にゴミを不法投棄する輩がおってな。今まではワシがなんとか処理しておったのだが、今朝方、ワシ一人ではどうにもならぬ量が捨てられておって」
 ほとほと困り顔でジジイ。もっとも半分は演技といったところか。
 「ゴミ?」
 「警察に連絡はしとらへんの?」
 「してはおるが、現行犯でない限り取り合ってくれぬからのぅ」
 まったく、最近の警察ときたら…
 「取り敢えずその場所にいきましょう,師匠」
 「ああ、こっちじゃ」
 「2人とも行くで!」
 「はいはい」北見は半分失神する三郎の首筋を掴んで追い駆ける。
 こんな女に使われんで良かったわい,いつ折られるか分かった物ではないからのぅ。



 ゴミじゃった。
 山のように捨てられている。
 燃えるゴミ,燃えないゴミ。産業廃棄物らしいものも混じっている。
 っと、こちらは建材か?
 「・・・師匠,犯人を捕まえましょう」ふむ、よくぞ言ってくれたな,誠一。ワシも応援するぞ。
 しかしジジイは困った顔。
 「いつ、どこに捨てるか分からぬからのぅ」
 「深夜,2tトラックほどの大きさやな」地面を見ている圭が突然言い出した。
 「どうしてそんなこと分かるのよ?」北見が反論。
 「これだけの量を朝や昼間に捨てに来るとは考えずらい、それに良く見ればここにタイヤの跡,これは2tトラック辺りや」かすかについた轍を指差して、彼は推理。結構鋭いな。
 「深夜にトラックなら、排気音で大体来たか来ないか分かるッスね!」
 「ふむ」ジジイは考え込む。
 「しかしのぅ…」
 「圭,今夜から社に止まり込むぞ,三郎もな!」
 「かまへんよ」
 「了解っす!」
 「ダメじゃ」ジジイは言い放つ。
 「どうしてですか? 師匠!」
 「危ないからじゃよ。お主達に怪我でもされるのと、ゴミを捨てられるのを比べたら捨てられた方がマシじゃ」反論を許さない口調で、ジジイは言った。
 さすが年長者というべきか,誠一達は口をつぐんでおるの。
 「さ、取り敢えずは燃えるゴミと燃えないゴミを分けておくれ。燃えるものはここで燃やして、燃えぬものは業者に引き取りに来てもらう」力ない微笑みで、ジジイ。
 仕方なしに4人は作業に取り掛かる。ワシは木の枝に引っかけられ…ん?
 何やら声が聞こえる。
 「うわぁぁぁ!!」声に耳を傾けようとしたワシに、三郎の情けない悲鳴が打った。
 ってく、ヘビでも出たか?
 「どうした? 三郎?」
 「ひひひひひ…ひと…死体…」腰を抜かして彼は駆け寄った誠一にしがみつく。
 「死体?」
 「どこよ?」
 誠一は三郎を振り払って、後ろから来た北見と共に三郎の見たゴミの中を見る。
 建材の端材に混じって白い手と、長い髪の女性の首が…
 「「!!」」2人は戦慄。
 さらに…髪に隠れた女の顔に覗く、色褪せた唇がしかし小さく動いた。
 「壊して…」
 「「うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
 誠一と北見はさすがに悲鳴を上げてお互い抱き合った!
 「何じゃ何じゃ?」
 「何事や!?」
 駆けつけるジジイと圭。
 「んな!」
 「これは!」
 2人は慌てて女性を掘り起こす。
 「何ていうものを…」ジジイは震える声で呟く。
 「那智殿,これは…」やはり震える声で圭。
 しかし2人には驚きはあっても恐怖や、早く助けないと,といった焦りは見受けられない。
 「「「???」」」誠一と北見,三郎は恐る恐る2人に近づく。
 「すごい掘り出し物やで!」
 「おおぅ,橘重工のメイドロボ・ハイエンドクラスじゃな!」
 「ええ! HXXP-8802や!!」
 「「「はい??」」」
 感動に打ち震える2人に付いていけない3人,いやワシ入れると4人じゃが。
 圭は誠一に感動に満ちた目で振り返る。
 「これはメイドロボや,一体300万円クラス・ハイエンドの!」
 「少々損傷してはおるが、治せば治らんこともない!」
 何じゃ,からくり人形か…なんかジジイと圭はマニアックな話に瞳を輝かせている。
 あ、北見が呆れて作業に戻ったのぅ,三郎も。
 「で、どうするんだ? 助けるんだろ?」
 誠一は談義に講じる2人のオタクに尋ねる。
 「ああ、もちろん!」
 「ソフトウェアの調達は梅崎殿に任せるぞ」
 「はい! 確かウチの学校にあったと思うわ。補修部品は那智殿にお任せします」
 「知り会いのつてで完璧なのを揃えてみせるぞ…」
 「ったく」誠一は話に花を咲かせた2人を眺め、溜め息一つ。
 ああなるとしばらくはあっちの世界に行ってしまうのが常だった。
 誠一は諦らめて、からくりを壊さない様ゆっくりと、建材の間から引きづり出す。
 所々破れたスーツから、関節が壊れたのだろう,オイルのようなものが漏れている。
 確かにパッと見では死体にしか見えない。
 「捨てる奴の気が知れないな,どう見ても人間そっくりだよ、可哀想に」それを担いで誠一。
 「で、師匠の家に運ぶの?」
 「ああ、頼むぞ」
 満足げにジジイ。なお、このジジイの趣味は圭に匹敵するか,時にはそれを越えるものだったりするから恐ろしい。
 「結構軽いな」背負う誠一の耳元に、からくりが再び呟く。
 「壊して」
 「え?」
 ぷっ…
 電源が完全に落ちる。
 「なぁ、圭?」
 「なんや?」まだ何かあると思ってか,建材を漁る彼に誠一は声を掛け…からくりを一瞥。
 「いや、何でもない,この子置いてきてやるから、ゴミ掃除ちゃんとやれよ!」
 「はいはい」
 そのまま、誠一はジジイの家のある弓道場とは社を挟んで反対側へ足を運んだ。
 “壊して…”
 ん?
 からくりがワシに向って悲しげに呟く。
 “お主、心が宿っておるのか?”
 ワシら道具は長く年を経ると共に心を持つ。だが新しいこのからくりが心を持つとは、ちと今までのワシらの常識では考えにくいのだが。
 しかし実際、彼女の心がワシに語り掛けて来ておる。
 “巻き込みたくはないのです…私を壊して下さい…”しかしこの声はすでに死に瀕している。
 “しかしワシらは人には見えんからのぅ”
 “…どうす…れば…”彼女の声が途切れる。
 「死」んだようじゃ,こうなっては、果たして修理しても治るかどうか…
 しかし巻き込むとはどういうことであろう?
 何か嫌な予感がする。だが…ワシにはどうすることも出来ぬ。



 その夜。
 ワシは山のてっぺん,北野天神社に『居』た。
 社の中には3人の男の影。
 「12時、か」誠一はごろり、転がって呟く。
 「業界では2時頃に行うそうやで」
 「うしみつ時ってやつっスね」
 圭と三郎である。3人は携帯ランプを中心に、社の中に息を静めていた。
 言うまでもない,無論、不法投棄の業者をひっ捕えるためである。
 そしてジジイには当然、内緒じゃ。
 「師匠に見つかったら怒られるっスね」
 「見つかったらな,でも俺達の道場の敷地内にゴミ捨てられて黙ってられっかよ」
 ガラリ!
 「「「?!」」」
 社の扉が不意に開いた! 硬直する3人。
 「そう、黙ってられないわよね」月明かりを背に、ニヤリと微笑むは北見嬢である。
 3人はほっと胸を撫で下ろす。ワシも驚いたぞ…
 彼女は扉を閉め、誠一の隣に座る。
 「私抜きでやろうってのはどういう了見かしら?」
 ジト目で睨まれ、誠一は目を逸らす。
 「レディを夜中に呼び出すなんて、紳士たる我々には出来ないさかい」ふざけた口調の圭。こういう所だけは誠一も見習えば良いのだが。
 「紳士…ねぇ??」苦笑の北見。
 「ま、良いわ。アンタらにしても晶にしても、私に気を使い過ぎじゃないの?」
 「晶って北見先輩が付き合ってらっしゃる遠藤先輩のことっスか?」
 ゲシィ!
 三郎,鉄拳を食らう。
 「いつ何処で誰があんな奴と付き合ってるっていうの? あ?」突き刺すような眼光の北見。遠藤というのは彼女の幼馴染みの男でなかなかデキる奴じゃ。ワシも何度か遠目ではあるが誠一に担がれて見たことがある。確か北見と同じクラスじゃの。
 「あぅ,ごめんなさぃぃぃ…」野獣に脅えた小動物のように三郎は社の端で目に涙を溜めてうずくまる。
 と、その時である。
 ブロロロロ…
 「聞こえたか?」
 「ああ、聞こえたわ」
 「行きましょう!」
 「?!」
 4人は立ち上がる。誠一はワシを掴み、矢筒を背負う。少し出遅れて3人に続く。
 場所は…どうやら弓道場の方らしい。ヘッドライトの明かりが木々の間にちらほらと見えた。
 ザザザッ!
 「止まれ!」
 先頭の圭が薮の中、後ろを手で制する。
 薮の向こうでは彼の予想通り2tトラック,運転席から一人,助手席から…2人。
 「何してるのよ,梅崎君!」小さな声で北見がグチる。
 「ゴミ捨てるわよ!」
 「捨ててから動くんや,捨てる前じゃ、証拠にならんわ」
 「…くっ!」
 3人の男はいずれも20代後半と見受けられる,作業着姿だが、その体つきからどこかヤクザっぽさを感じる。
 ぐぃぃん…荷台が、傾く。そして
 ドササッ!
 色々な種類の混じったゴミが捨てられた。
 「ふむ,セイちゃん,頼む!」
 「おっけ〜!」圭は懐の携帯電話を叩きながら、誠一を促す。
 彼の押すボタンは…1・0・0。段取りは良い男だ。
 誠一は叢から飛び出し、ワシを引き絞る!
 「那智流速射術 其の四 龍の涙!」
 ひゅひゅん!
 風が鳴り、いっぺんに二つ番えた矢が暗闇に走る!
 パリリン!
 車のヘッドライトが2つ割れ、暗黒が即座に支配する。
 「な、」
 「何だ?」
 「サツか?!」
 うろたえる3人の業者、すでにその時にはこちら3人が接敵している!
 「でりゃ!」
 ガゴン!
 三郎の木刀がまずは一人を昏倒。
 「ふん!」
 ベキ!
 北見のアイアンナックルを握った右ストレートが一人の顎に炸裂,そのままゴミの中に吹き飛び、
 「さよなら、や」
 バチィ!
 最後の一人は圭のスタンガンに沈んだ。
 「あっけないな」
 誠一は苦笑して、携帯ランプを灯して現場に駆け下りた。
 「しかし凶悪なツラって感じね、この人達」
 「そう? どちらかというと小者って感じやけど」圭は言いながら、気絶する男の懐を漁る。
 次の瞬間、手帳がその手に握られていた。
 「なんすか? ソレ?」
 「あ〜 最近の暴力団は手広いわ〜」苦笑の圭。
 「顔見られてなくて幸いやで。これ以上、立ち入る気はないわ」
 言って彼は手帳を誠一へと投げ渡す。
 彼は中身を眺める。
 竹野 健一,それが運転手の男の名のようだ。
 ファンファンファン…
 遠く、サイレンの音が近づきつつあった。
 「ま、どの道、師匠には怒られるだろうけどな」
 「違いないわね」
 「僕、兎跳びは勘弁してもらいたいっすよ〜」
 「兎跳びだけで済めば儲けものや」
 4人は苦笑い。
 天高く、星の瞬きは彼らを見つめるように見下ろしていた。
 まるで、これから起ることを全て知っているかのような、澄んだ光で。


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