You get "DARKNESS".
All things are in your arms.




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 >>データ修復中
 データを一部修復しました。記憶データです。
 再生致します。
 >>データ再生/追憶

 発言:「お言葉ですが、彼は危険です」
 夕日が地上55階のガラスの向こうから、降り注ぐ。
 赤い、赤い、赤い。
 主人:「分かっておる、分かっておるのだ」
 主人は彫りの深い皺を更に深くして、独白。
 その感情は私には理解不能。
 敵はすなわち、排除するのが私の使命。
 発言:「消すことは可能です」
 主人:「手を出すな!」
 叱咤。主人の表情は苦悶。
 何故排除しない? 明確な理由を求める。
 事の放置は、主人の地位と、そして何より命に関わりかねる。
 私の行動原理は主人の安全と補助。
 発言:「マスターの地位ばかりか、お命にも被害を与える確率があります」
 主人はトン,杖で床を叩く。
 大理石の床は夕日を淡く反射。私と主人を仄かに赤く染めている。
 主人の思考は危険。助言を発する必要性・大。
 発言:「彼の行動により、隠されるであろう多くの被害・損失が出ます。結果…人が死にます。幾人も」
 赤の中、悩みに苦悶していた主人の表情は、緩くなる。
 悟り。そんなキーワードが最も適する。
 主人:「結局の所、ワシの子ということじゃな。ワシと同じ事をする」
 主人は苦笑。それは諦めと判断。
 Alart!
 発言:「私の行動原則はマスターの安全…」
 主人:「すまぬな,伊織。どんな子であろうと、やはり己の子供が一番大切なのじゃよ」
 主人は晴れやかな顔。
 感情理解・不能。
 主人はその皺だらけの手で、私の頭を撫でる。
 弱々しい手。私は主人を守らなくてはならない。これは原則による判断では、ない。
 主人:「伊織よ。あの子は泳がせてやってくれ。おそらくは、ワシはあの子に殺されるであろうが…」
 主人は窓に歩む。長い影が赤い絨毯に伸びた。私は彼に従う。
 主人:「それもまた良かろう。悔いはない」
 発言:「理解不能」
 主人:「それが、人の子の親というものじゃよ」
 小さく笑う主人に、説得は不可能と判断。
 原則を第一前提に、主人の補助を継続。
 発言:「了解しました。しかし…」
 不意な割り込みルーチン。未知のプログラム,ウィルスの危険性はなし。
 発言:「マスターは私が守ります」
 街を見渡せる、壁一面のガラスに映る主人と私。
 子が親を殺すと言うなれば、子が親を守るというのもあるのではないか?
 提案はしかし、胸にしまうこととする。
 私の主人に対する   い   は    彼は   親   
 赤赤赤赤赤赤

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不連続設定

Part.02 私に会いたかったらモニターに入れるようになるのね



≪Site of Seiithi Ithimura≫

 “げ…”
 俺はそれを見て、硬直。
 僅かに震える俺の手に握られた、一枚の紙切れ。それは…
 「これからの時代、コンピューターは必須だ。今回は抜打ちとは言え、決して難しい問題ではない。各々、間違えたところをしっかりと確認、復讐しておけよ」
 担任教諭はいつものダミ声で俺達,いやむしろ俺に言っているような気がする。やつの分厚い眼鏡の奥の視線はあきらかに窓際の一番後ろに座る俺を見て言っているからな。
 情報基礎理論・すなわちパソコンの扱いを学ぶこの授業。俺の苦手な分野だ。
 俺の名は市村 誠一。ここ慶京高校に通う3年生だ。
 はっきり言って俺は勉強にはそれなりの自信がある。数学・古文漢文・英語・化学・物理に歴史まで。
 しっかしこの電算機というのは生まれながらにして拒絶してしまう性質がある。
 あのキーボードとかいうたくさんのボタン,打ちにくいたらありゃしない。
 さらにいくら作業をしても、それがこの手に残らない。それが何処か空虚な感じがある。
 何より! ひたすら小難しい言い回しが、手を出せない壁として大きく立ち塞がっているのだ。
 今までは何とか誤魔化しては来たが、そろそろ何とかしないと行けない状況になってしまった。理系の道を進んでいる以上、なおさらだ。
 机の上に答案用紙を置く。
 28点。
 鉄人か? 俺?
 窓の外から暖かな風が入り、俺の髪を優しく撫でる。
 うららかな小春日和。風に乗って学校の裏にある小さな山から草木の栄える青い香りが運ばれてくる。
 ダミ声の教諭の講釈をBGMに、襲い来る眠気とテストの答案の気がかりを感じつつ、俺はシャーペンをノック。
 と、隣の空席に目が移る。
 俺の席の隣に付けられた無人の机。その上には当然、何もない。
 しかし主はいる。
 若桜 玲。
 女子である。しかし俺は顔を見たことがない。
 この慶京高校は志望する将来に沿って毎年、計2回のクラス替えがある。
 先学期末に大学受験するかしないか,理系志望か文系志望か?
 そして2年生でそれに応じた学力差を測られ、3年に望む。
 ちなみに俺は理系。このクラスはA級以上の大学を狙う集団だ。
 なお、勉強にそこそこの自信のあるこの俺でさえ、選抜クラスには入ることが出来なかった。ここが心残りの一つでもある。
 話がずれたが、若桜は同じクラスになったことのある奴から聞いたところによると登校拒否症らしい。それも年季の入ったソレで、遅刻や早退・欠席を見事というくらいに活用しているのだ。
 新学期が始まってすでに2週間に入る今だが、俺は彼女の顔を見たことがない。席は隣りなのに。ということはクラスの誰もが3年になってからは見たことがないといっても良いだろう。
 なんでも、病弱でもあるらしいが…ま、いつかは会えるだろう。
 き〜んこ〜んか〜ん〜こ〜ん
 終業のチャイムが鳴る。
 「起立!」日直の言葉にクラス全員が幾分張り切って立ち上がる。
 本日土曜日は半ドン,休みに入る瞬間ほど嬉しいものはない。
 「礼」
 そして…休みに入った。
 「セイちゃ〜ん!」
 何処か気の抜けた声が近づいてきた,学力に自信をなくすもう一つの理由だ。
 「セイちゃん,昼御飯どないする?」
 机に肘を突いた俺の前にはキツネ目の男。
 梅崎 圭。高校一年の時から何かと俺に関わってくる変わり者だ。訳の分からない機械を作っては、80%の確率で俺に被害を与える変人。
 もっとも嫌いではないが、しつこいところがある。
 「学食で食ってこうかと思うけど」
 「ほな、僕もごいっしょするわ」俺はカバンにノート類を詰めながら頭の中でメニューを思い出す。
 …定食で良いかな? C辺りで。
 「ほや、セイちゃん,テストどうだった?」
 「…ちょっとな。圭は?」
 「得意分野さかい,当然満点や」
 「そか」
 ううむ、そういや先日のメイドロイドにしろコイツってパソコンとか異常に詳しいよな。
 「なぁ、圭?」
 「はいな?」
 「今、パソコン買うとしたら、何が良い?」
 「?? セイちゃん,パソコンもっとらへんの?」
 不思議そうに奴は尋ねる。一般家庭に当然の如く普及したパーソナルコンピューター。
 しかし我が家にはない。というより誰も必要としないから。
 「まぁな」ボソリ、呟く。
 「ほな、今日のテストあかんかったやろ」
 「…」痛いところを突くな。
 「今日は道場行くんか? セイちゃん?」
 「え? ああ、そのつもりだったけど」
 道場と言うのは裏山の神社の弓道場のことだ。
 「予定変えて、僕に付きあわへんか?」
 「?」
 「セイちゃん,パソコン苦手やろ? でも受験にも良く使うで。この際やからセイちゃん仕様の特別品、探したるわ」
 いつも細い目を更に細めて、嬉しそうに圭は言う。コイツこういうの好きだからなぁ。でも、好意で言ってくれている。
 …この際だからな。さすがに次も28点なんて取ったらたまったものじゃない。
 それに良く知っているこいつがいてくれれば、変なマシンを掴まされる心配もあるまい。
 「そうだな,お願いするよ」苦笑いで俺はそう応えた。



 駅前。
 営業なのだろう、スーツ姿のサラリーマンや下校途中に立ち寄る学生の姿,買い物目当てのおばちゃん達の姿が目立つ。
 そんな活気ある場所から一転,裏通り。
 じめじめとした空気に仄かな下水の匂い。目付きの悪い若者や、おじさんといった荒廃的なイメージが充満している。狭苦しい通り沿いにある一件の狭い店。
 「まいど〜,マスター!」
 「よっ,梅崎君。今日は何だい?」
 外見と同じくらい怪しげな店内。良く分からん基盤や配線が山のように詰まれ、所々に薄暗い店内を照らすかのようにモニターが光を放っている。
 その奥からヒゲ面に黄色いエプロンを掛けた中年が顔を出していた。
 圭がマスターと呼ぶことから、この店の主人なのだろう。そして口調からは圭とは仲は悪くない様だが。
 と、俺は腕をひっぱられた。
 「紹介するわ、良く話してるセイちゃん」
 「おお、この子がか」笑って店の主人。俺は軽く頭を下げる。
 「梅崎君の許婚っていうのは」
 無言で俺は圭に鉄拳制裁。何を言いふらすか,貴様!
 「梅崎君も冗談上手いな」店の主人は基盤の山に頭を突っ込んだ圭を見て微笑む。
 いや、額に一筋の汗が走っていた。
 「ま、まぁ、それは置いておいて,マスター、初心者にぴったりのマシンない?」
 血を流しながら圭は尋ねる。店の主人は暫し考え…
 俺を見た。
 頭の上から足の先まで、品定めするように。
 「何か?」
 「ふむ、君なら良いかもしれないな,何より梅崎君の友達だ」
 「「??」」
 首を傾げる俺達2人に、店の主人は一旦店の奥に引き込んだ。
 そして両手に一台の箱を抱えて戻ってくる。
 「これはちょっとした仕様のノーブランドでね」
 店長は俺を見ながらダンボールの箱を軽く叩く。大きさからしてミドルタワーと呼ばれる、おそらく自作パソコンに近い代物だろう。
 「で、マスター,そいつのスペックは?」
 「CPUは1024MHZ,メモリも1024MB,HDDは40GB一括仕様でグラフィック、サウンドボーともにかなり『いい』ものを積んでいる」
 「『いい』ものかい?」
 「いいものさ」
 2人はニタリと微笑みながら頷き合う。恐いぞ…
 「『いい』ものって何?」
 「「『いい』ものだよ」」声を揃えて応える2人。追求は避けよう。
 「オペレーティングシステムはごく一般的なWindow,モデムカードにDVD-RAMドライブ,FDDは3モード。そして初心者用に補助ボードも付いている」
 「補助ボード?」いぶかしげに俺は尋ねた。
 「まぁ、『補助』さ。このマシンはある人から『これは!』と思う人に売れって頼まれていてね」
 店長の提示した金額は、相場の4分の1程度だった。
 「怪しいな」
 「ま、色々あってね」圭の言葉に店長は苦笑い。
 圭はそのまま俺に振り返る。
 「決めるのはセイちゃんや。僕はこれは悪いスペックやないと思うとる」
 “そうだな…”
 店長は圭の知り会いでもある。不良品であっても返品してくれるだろう。
 「じゃ、これでお願いします」
 「まいど!」
 店長は苦笑いでそう応えた。



 昨日のメイドロイド用の補助部品を買っていった圭と別れ、俺は自室でダンボールを開ける。
 「へぇ」
 流線形の、ちょっと凝ったミドルタワーの筐体だった。
 それを試行錯誤しながら、こちらも安く買ってきたモニターやキーボードなどと繋げる。
 慣れないことを30分。
 「できた…」
 机の上に置かれたパソコンに向って椅子に座りながら、俺は電源を入れた。
 ブゥン
 そんな重い音と伴に黒い画面に『Windows』というロゴが出る。
 学校のものと同じだ,が。
 そのロゴは一瞬にして消え、セットアップ画面に移る。
 そう、学校のものよりも数段、機能が高く処理スピードも速いのだ。圭が言うには初心者にはもったいないほどのスペックらしいが。
 画面は所有者のデータを入力する初期設定。
 俺は自分の名前、住所、電話番号などなどを入力して行く。
 やがて…
 『あなたの好みの女の子はどんなタイプですか?』
 “はい?”
 『眼鏡っ子は好きですか?』
 “はい??”
 『綺麗なお姉さんは好きですか?』
 “…をい!”
 『セットアップが終了しました。Windowsを再起動します』
 「何だったんだ? 今の質問は??」
 一応答え入れたけど。
 「ウィンドウズを起動します」
 女性オペレーティングのアルトな声がスピーカーから響く。
 そして画面は学校で良く見る標準の姿に。
 …あれ?
 画面の端に女性が立っていた。
 タイトなスーツに身を包んだ、少し大き目の眼鏡を掛けた女性。
 あ、こっちに手を振ってる…
 「……ってなんじゃこりゃ!」思わず手を振り返してしまったじゃないか!
 「こんにちわ、誠一さん」微笑み、そんな声が聞こえる。
 「誰?」
 「乙音と申します,初めまして。誠一さんのコンピューターライフをサポートさせていただきます」ペコリ,頭を下げる彼女。
 音声認識ができるサポートソフトウェア…か?
 「ところで誠一さん?」
 「はい?」困ったような、照れたような表情で彼女は俺に問う。
 「誠一さんのことをどうお呼び致しましょう? 『誠一さん』で宜しいでしょうか?」
 「あ、ああ」
 「良かった」にっこり微笑む乙音さん。ううむ、人間っぽいぞ,というか人間より人間らしい表情の変化だ。
 「でも良かったって…なんで?」
 「え、ええ」困った顔の彼女。
 「人によっては…その、『そこの哀れな子豚』とか『下僕そのA』とか…」
 こらこら…
 「それはともかく、このパソコンはモジュラーコードで繋いでありますか?」
 気を取り直して乙音さんは俺に尋ねる。
 「モジュラーコード?」
 「電話線と,もしくは電話機とこのパソコンを繋いで下さい。そうしないとインターネットなどの通信機能が使えません」
 「そか、ええと、どことどこを繋げれば?」
 「私の後ろと、それと誠一さんのお部屋の右端,そう、そこをダンボールの奥に入ってる長いコードで繋いで下さい」
 「これかな?」俺は白い長いそれを取り出した。
 「ええ、それです。それから店のおじさんが、おまけで、マウスパットを入れてくれたことと思います。これを今お使いのマウスの下にひいて下さいね」
 平らな、変な板があった。
 「ひいてどうするの?」
 「マウスにゴミが付かない様にと、マウスの感度を上げる為です」
 そうなのか
 乙音さんとのやりとりは結局、夜遅くまで続いた。
 多少はパソコンに慣れた…かな? そんな気がした。



 ヒュ…タン!
 矢を射る時、全てが矢の先端に凝縮される。
 肌で感じる風の動き、薫る木々の息吹、野鳥の囀り。
 全ての感覚がここから解放される。
 そして俺はここから全てを感じ、そして己自身を感じる事が出来る。
 それが弓道。
 目を、開ける。
 四本全ての矢が的に刺さっていた。
 「ふむ」
 調子は悪くはない。しかし、やや気の乱れを感じた。
 昨晩は珍しく話し込んだ気がする。
 元々、俺は人とは余り話さない,苦手なのだ。
 だが昨日は普段はあまり機能しない口を動かしていた。
 ”それもプログラム相手だったからな”
 苦笑。
 サポートプログラム『乙音』,プログラムと呼ぶにはあまりにも人間くさかった。
 技術とはよくもまぁ、ここまで発達したものだ。
 「さて」
 俺は気を取り直し、矢を拾いに足を動かし…
 「……」
 差し出された。
 「あ、ありがとう」
 「……」
 目の前には巫女姿の少女。年の頃は俺と同じ位であろうか,長い髪を後ろで一つに纏め、俺に矢を手渡してくれた。
 はて、師匠の所の娘さん…はいないんだよな,孫かな??
 すっきり伸びた背筋に、白い上着と赤い袴の良く似合う日本美人だ。
 「あの、君は?」
 「……」彼女はどこか虚ろな目で俺を見る。
 切れ長な黒い瞳には困った顔の俺が映っている,が彼女には表情のカケラすらない。
 「もしもし?」
 「………伊織」
 ようやく理解したかのように、呟く。
 ううむ、ぼぅっとしているというか、ボケているというか…
 「師匠の娘さんか何かですか?」
 「………師匠?」
 ああ、なんか会話が疲れる!
 「那智師匠のこと。君はその師匠の血縁か何か?」
 彼女はしばらく考える。
 …むぅ、反応はない。
 くらり、彼女は不意にこちらに向かって倒れた!
 「ちょ、ちょっと!」
 慌てて抱き止める! 何だか病人の様だな。
 俺は取り敢えず彼女をその場に,道場に寝かせ、白いその額に触れた。
 熱はないようだ。
 あれ?
 この娘…
 虚ろな目で俺を見つめる彼女に、見覚えがあった。
 そうだよ、昨日会ってるじゃないか!
 「君は昨日の…ええと、メイドロイドとかいう…」
 こくり、僅かに頷く。
 「へぇ、動けるようになったんだ。良かったね」
 昨日の凄惨たる姿を思い出して、俺は思わず感心する。
 師匠と圭は街の電気屋さんなんかよりも、意外と凄い奴らなんじゃないか?
 しかしまだこの様子だと本調子なんじゃないんだろう。
 「……昨日は…ありがとうござ…いました」
 一言一言、選ぶ様に彼女。
 「いや、お礼を言うのは俺なんかじゃなくて師匠や圭だろう? あ、来た来た」
 山道を2人が小走りにやって来る。
 手を振ろうとした俺を、彼女は不意に掴む。
 「?」
 「お名前…は?」死にそうな声だった、大丈夫か??
 「市村 誠一だよ」
 「…誠一さん、ですね」
 そこまで言って、目を閉じた。俺の手を握る彼女のそれは電源が切れたように力がない。急速に暖かさが消えてゆく。
 やがて2人がやって来る。
 「おや、誠一君。来ておったのか。伊織?!」
 「あやや、やっぱり出力が足りなかったんやで」
 「いやいや、平衡感覚プログラムがまだ異常なんじゃなかろうか?」
 彼女・伊織さんに駆け寄って2人は議論を交わし始める。俺は慌ててそれを止めた。
 「とりあえず! この子を家まで戻してあげてくれよ」
 「ふむ、そうじゃの」
 「でもどうして一人で勝手に歩き回ったんやろ?」
 圭に背負われて戻って行く伊織を眺めながら、俺は頭を軽く掻く。
 握った手が急速に冷めて行く感覚。
 それが人形であっても、やはり嫌な気分だ。
 「ちゃんと治すからには治してやってくれよ」
 俺は再び弓矢を握りなおしながら、去り行く3人の背を眺めて呟いた。


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