大樹を挟んで猟犬と仮面の男、鬼の娘は各々一軒家の屋根の上で対峙する。
 「一体なんだ、これは?」
 仮面の男の呟きに、鬼の娘は首を横に振る。
 「貴様の仕業か!」
 仮面の男は通り向こうの猟犬に叫んだ。
 それに対して犬神は、大樹を一瞥して眉をひそめる。
 それだけだ。
 再び猟犬は両手の鋭く伸びた爪を構える。
 耳まで裂けた口を笑みの形に歪めて。
 「まぁ、いい。前回の借りはここで返させて貰うぜ!」
 仮面の男の叫びを合図に、2人は空中で交錯する。
 直後、鬼の娘から放たれた雷鳴をBGMに、再び戦闘は開始された。


 気がつけば日はほとんど沈み、代わりに天上には明るい月が冷たい光を地上に降り注いでいた。
 満月まであと二日といったところだろうか。
 そんな明るい月の下で未だに成長を続けている桜の大樹は、異様にしか映らなかった。
 「一体何がどうなっているんだろう?」
 「うーん、マズイわね」
 浩二郎と乙音さんの呟きが重なる。
 「マズイって、この状況はたしかにどうしたもんだか」
 僕は乙音さんの言葉を拾って返す。
 しかし彼女はその首を横に振る、
 「違うのよ。目の前の状況が確かに元凶だけれども、もっと大きな問題が出始めてしまったの」
 「?? もっと大きな問題?」
 「そう、地球の裏側で、ね」
 この時の乙音さんの言葉は、僕と浩二郎には分かることができなかった。


白黒双月
9 ともに生きること


 燦々と太陽が照りつけるここは猫寝荘から遥か離れた――地球の反対側といって良い場所。
 汗をかいても乾かない。じめじめした空気は感じる暑さをさらに助長させる。
 地球の反対側のブラジルはアマゾンの熱帯雨林。
 ちょうど昼どきのここでは、異様な光景が繰り広げられていた。
 数多くの重機が熱帯雨林の森を切り開いていく、その最前線。
 『なんてことだ』
 呆然と立ち竦む男達の一人、ひときわ体格の良いヘルメットをかぶった巨漢はそう呟いた。
 汚れたTシャツは汗に滲み、そこから伸びた逞しい腕に蚊が数匹止まるが気にした素振りはない。
 同様に彼の同僚もまた、目の前の光景にあんぐりと口を広げていた。
 光景――それは彼らが想像し得ないものだった。
 彼らがこれまで侵略してきた対象。
 物言わぬが、確実にこの地の主であった森の木々、植物達。
 今、彼らが侵略者達にとうとう反逆ののろしを上げたのだ。
 切り開かれた筈の土地は再び緑に覆われ、人間の力の結晶ともいうべき重機は、あるものは大きく育った樹に持ち上げられ、あるものはひっくりかえされ、そしてあるものは上から覆われて、そのどれもが動けるような状態ではなくなっていた。
 そして。
 ずずん!
 下から持ち上げられていた重機の一台が、地響きを立てて地上10mの位置から落ちた。
 それを契機に、作業者たちの束縛が解ける。
 『おいおいおい、いつだよ、いつの間にこんなことに』
 『昼飯食ってた時間だけだぞ、目を離したのは!』
 『一体どうなってやがる、くそっ』
 口々に叫ぶ彼らはしかし、前に出ようとする者はいない。
 その逆に、誰もが後ろへ後ろへと歩を進めている。
 じりじりとした緊張は次第に高まっていき、やがて。
 『おい、なんかおかしくないか?』
 『何がだよ』
 1組の作業者が言葉を交わす。
 『ちょっと目を閉じて、そうだな、2,3秒目を閉じてみてくれ』
 『?』
 言われた中年を過ぎた男は目を閉じ、そしてきっかり3秒後に目を開いた。
 途端、彼の顔が青くなる。
 『おかしいよな、な?』
 問うのは同じく中年を過ぎた男。灼熱のこの地で土木作業を日々こなす彼らはみな、怖いものなどなさそうな体格をしていた。
 そんな彼らは、目の前で起きていることに気付いた途端に自身が急に小さくなるのを感じ取った。
 壮大な、とてもとても大きなモノを目を前にしたときに改めて感じる自身の大きさ。
 それに気付いてしまったように。
 『育って、やがる』
 青ざめた男はそう呟く。
 目を閉じる三秒前と後とで、目の前に広がる狂気の森が間違いなく彼らに近づいているのだ。
 『に、逃げろ!!』
 くるりと後ろを向いて一目散に駆け出した。それに続き、彼に問うた男も同様に走り出す。
 それをきっかけにして、作業者達は競うようにその場から逃げ出した。
 静かになった『元』伐採エリアは、ほどなくして森の海へと沈んだのだった。


 乙音さんは言う。
 現在昼間の地域をピークに、植物が活発化していると。
 場所によっては人を襲うくらいに成長が促進されており、アマゾンの熱帯雨林やベトナムのマングローブ地帯などは次々に地表を緑色に塗り替えているのだと。
 「そんなバカなことが」
 「バカなことではないわ、総一郎さん」
 僕の呟きに大樹から此花さんの声で答えが返る。
 「今、天魔の力を地脈を通して世界中の仲間達に伝えているの」
 「まるでコンピューターウィルスみたいね」
 乙音さんが苦い顔でそう告げた。
 それには彼女は答えない。あくまで僕に対してこう持ちかけてくる。
 「さぁ、取り戻しましょう、私達の世界を」
 「私達の、世界?」
 「そう、その為に私達は勉強してきたのでしょう」
 そうだ。
 僕と此花さんは種族を代表してまだ短い時間ではあるが勉強している。
 『人間社会の中でどう生き残っていくべきか』を。
 「これが、君の答えか」
 僕は呟く。
 分からないでもない、学べば学ぶほどにそこに僕達の場所は見出せなくなっていくのだから。
 「私達の世界ってどういう世界だい?」
 僕の問いに、桜の大樹から??といった雰囲気が伝わってくる。
 「決まっているでしょう、私達がこれまで過ごしてきた世界」
 バサリ、と。
 ひときわ大きく枝が伸びたようだった。
 「人に脅かされることなく、緑豊かな世界よ」
 「その世界を作るために君は」
 僕は大樹の中、魔剣を胸に抱えて己の意思を力とともに世界へ広げているであろう彼女に叫んだ。
 「今あるものを壊していくつもりなのか」
 「壊す? 何を??」
 「こんなことは君が嫌った人間達のやり方と、一緒じゃないのか?」
 「何をバカなことを。一緒じゃないわ、壊してもいない。私は元に戻すだけ」
 元に戻す。
 それはどこの時代まで戻すというのか?
 太古の時代に見た風景のことを言っているのか??
 僕は気付く。
 彼女達のような植物と、僕らのような動物とでは時間の感覚が違うのではないかということを。
 だから。
 「力ずくじゃないか」
 「でも、ずっと黙っていたら私達は、本当に居場所をなくしてしまうのよ」
 「ちがう、それは違うよ」
 僕は巨大な大樹に向かって叫ぶ。
 それは僕自身もこれまでは曖昧で、答えが出なかったこと。
 叫び、言葉にすることでこの時、明確に僕の心に方向性が生まれた。
 「僕達は居場所を探す為に人に混じってきたんじゃない。作るために勉強をしてきたんだろ!」
 ザワリ。
 さらに枝が大きくなったようだ。
 僕の声は桜の青い葉の中に吸い込まれて消えていく。
 「此花さん?」
 ザワリ
 ザワリ
 桜の大樹は大きく大きく育っていく。
 天に昇る月に届かんとするかのように高く高く伸び行く。
 その成長がピタリと止まった。
 瞬間。
 「「?!?!?!?」」
 この場にいた全てのモノの動きが、唐突に大樹から放たれた力の奔流によって硬直する。
 信じられないほどの巨大で、野蛮な力の塊が樹の中に生まれてそして。
 スポンジに水が浸み込むかのように、ゆっくりと、徐々に地面に吸収されていく。
 「くぅっ……」
 「此花さん?!」
 うめき声が大樹の中から一瞬聞こえたが、巨大な妖力の前にかすんで消えた。
 「兄さん、まずいよ!」
 僕の隣で浩二郎が叫ぶ。
 「この妖力が地脈を通じて世界中の植物に伝わったとしたら」
 「想像したくないことが起きそうだね」
 「何とかして止めなくちゃ、ね」
 僕と浩二郎の肩に左右それぞれの手を置いて、乙音さんが言う。
 「止めるって、でもどうやって??」
 浩二郎の問いに、彼女は小さく笑って空を見た。
 藍色の空にキラリ、一際大きな星が光った。
 それは夜空から落ちて流れ星となる―――いや、違う!
 輝くは長い銀色の髪。落ち行く夕日の僅かな光を受けての反射だ。
 天から落ちてくるのは一人の女性。
 そしてその肩に掴まる幼い男の子。
 「あ、あれは」
 驚きに言葉を漏らすのは浩二郎。
 天の2人はまっすぐとこちらに向かって落下し、
 ごしゃ!
 落下エネルギーを伴った右足からの蹴りにより、さくらの大樹の一枝を根元から断ち切った。
 「やめんかーー!!」
 彼女は高い声で叫び、そのままの勢いで地面に蹴りの勢いは炸裂する。
 「「?!?!」」
 吹き上がるのは気化したアスファルト。
 彼女は交錯する猟犬と仮面の男、鬼の娘のど真ん中に落ちて直径3mほどのクレーターを作成した。
 戦闘を強制終了させられ、硬直する3人。
 「目の前で取り返しがつかないことが起きてるのに何をやってるかね、この馬鹿どもは」
 天から落ちてきた銀髪の女はそう悪態をつき、離れた位置に居るこちらをキッと睨む。
 いや、違う。僕ではない。
 隣の乙音さんを、だ。
 「乙音、アンタがいながらこれは一体どういうことだい?」
 「そう言われても、ねぇ」
 困った顔で答える乙音さん。でも本心ではあんまり困っていない顔だ、これ。
 「そもそもこの状況はアンタら機族にも不都合だろう?」
 叫ぶ彼女は、傍の仮面の男や猟犬に構うことなく続ける。
 「イグドラシルは地の植物たちを制するネットワークを介して地脈を制する。対してアンタらは人間たちの作り出したネットワークを介して世界を見る」
 仮面の男が銀髪の彼女に掴みかかる!
 しかしまるでその動きが予め分かっていたかのように、軽く足払いをして男を猟犬へと投げ飛ばした。
 猟犬の方もこれは予測していなかったらしく、2人はぶつかり合いながら倒れる。
 「人間達が勢威を減衰させたら、お前達の勢力圏も減るだろう?」
 「んー、そうですけど。でも今の状況を引き起こしたのはさくらちゃんよ。彼女を推している貴女こそが予め手を打っておくべきではなくて?」
 乙音さんの言葉に銀髪の女の眉がひそむ。
 「む。まさか私もこんな状況を望む子とは思わなかったからね」
 「だけど私が止めても、いずれこの状況にはなったのではないかしら?」
 言って乙音さんは銀髪の女の後ろ、桜の巨木を見つめる。
 「物言わぬ植物ではなく、自ら行動を起こす存在への変化を」
 銀髪の彼女も背後の巨木を見上げた。蹴り落とした枝はとっくに回復してしまっている。
 そして相変わらずとてつもない妖力を溜め込んでいた。
 「し、師匠!」
 叫びは僕の隣、浩二郎からだ。
 「ごめんなさい、僕がしっかり魔剣を渡せなかったから」
 浩二郎の声に、なんと師匠だという彼女は彼に視線を移して苦笑いを浮かべた。
 「いいのよ。私はてっきり今のこの状況がイグドラシルの目的かと思っていたのだから」
 「うっかりさんね」
 笑う乙音さんに、
 「誰がうっかりさんか!」
 叫び返す銀髪の彼女。
 よくよく浩二郎の師匠である彼女を見れば、長い銀色の尾に、耳にも獣の耳が見てとれる。
 妖狐だ。
 それもかなり霊威の高い、稲荷神と呼ばれてもおかしくないほどに強い力の持ち主と感じ取れる。
 そして何より。
 その肩にぶら下がるようにして背負われている少年。
 傍らの桜の巨木の妖気と同等なほどの高い力が立ち昇っていた。
 そのせいで稲荷の彼女の力が小さく見えてしまう錯覚に陥ってしまうくらいだ。
 あの少年は何者なのだろう?
 「さくら!」
 叫ぶ浩二郎の師匠。
 しかし此花さんを飲み込んだ桜の巨木はゆっくりと地脈に歪んだ妖気を流し続けているだけだ。
 「ダメよ、聞こえないわ」
 乙音さんの言葉に、
 「なら力ずくで、目を覚まさせる!」
 叫んで、大きく右腕を振りかぶった。
 「そこの鬼!」
 「は、はぃ!」
 傍で立ち竦んでいた鬼の少女はビクリとその身を震わせる。
 「私にありったけの雷を寄越しなさい」
 「え」
 「やらないと、喰う」
 「……はい」
 ぐぉん
 耳の中がもやっとする音が空気中に響く。
 鬼の少女の頭上には、直径5mはあろうかという青白い電気の塊が浮いていた。
 「いいん、だな」
 「さっさとしな」
 「っ!」
 電気の塊が銀髪の女性を打つ!
 同時に彼女の髪が逆立ち、妖気は破裂寸前にまで高まった。
 「イグドラシル!」
 『まったく、力ずくというのは私の流儀に反するのだよ』
 肩に掴る少年が愚痴った。
 しかし口は動いていない。まるで思念が直接脳に届くような、そんな声。
 帯電した彼女の拳に、少年の手が添えられる。
 「たぁぁぁぁぁ!!!!」
 彼女は桜の大樹の幹に、ありったけの力を込めた正拳突きを叩き込んだ。
 途端、ゴリというかメキというか、そんな音を立てて大樹に蒼白い炎が流れ込む!
 ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
 「「?!?!?」」
 地鳴りのような、しかしこれは明らかに桜の大樹が放つ『悲鳴』。
 身悶えるようにして、なんと巨木が身をよじる!
 蒼い炎に包まれた太い枝が、狐の彼女に向かって横殴りに叩き込まれた。
 しかし彼女は、それを大きく後ろへ跳躍することで避ける。
 ぶんぶんと、当たりでもしたら天に輝く月にまで飛ばされてしまいそうな枝の打撃が空を切る。
 同様に巨木から距離をとったのは、先程まで交戦していた3人だ。
 彼らにも向かって、狐の彼女は命令口調で告げた。
 「根は焼いた。あとは妖力の漏れ出す元を叩くだけ。各人成すべきことは分かってるね!」
 言葉に浩二郎が僕に手を差し出した。
 「兄さん、力を貸して」
 「…それは此花さんを救うことにつながるかな?」
 「そうする為にも、僕らは見てるままじゃいけない」
 そして僕は。
 「そうだね」
 意を決し、僕は浩二郎の手を取った。


 一方で、震える桜の神樹に向かって2つの人影が近づいていた。
 「巧ぃ、一体何なんだよ、これは」
 「分からないよ、歩。でも卯月くんの家の方だし、急がないと」
 「あのさ、気のせいかもしれないけど、あのバカでかい木みたいの、動いてないかな?」
 「き、気のせいだよ」
 少年は少女の手を取り、足を進める。
 先程まで、猫寝荘があったところに向かって。
 「ふぐっ!」
 少女の顔が、少年の背中にぶつかった。
 「ちょっと、巧。急に止まるな…よ?」
 2人は目の前で展開される光景に唖然とする。
 それは明らかに『人ではない』モノ達による饗宴だった。


 「兄さん、月を呼ぶよ」
 自信満々に言う浩二郎だが、
 「ちょ、僕にそんな力はないぞ」
 「大丈夫。僕が主体に呼ぶから、兄さんはサポートして欲しいんだ」
 「分かった」
 僕らは藍色の夜空を見上げる。
 少し欠けた月が浮かぶそこに、僕らは思いを馳せる。
 天上に浮かぶ月は、僕らの聖地。
 神と成った兎だけが行き着くことの出来る、僕らの理想郷。
 今、この地上から。
 僕らは月を呼ぶ。
 「「月は流転する」」
 声が重なる。
 繋ぐ手は二の腕から兎のそれとなり、僕は白、浩二郎は黒い毛に包まれる。
 ともに頭に揺れるのは兎の長い耳。
 遠く遠く、天上の月の音まで聞こえてきそうだ。
 「「今ここに、その全ての光で照らせ!!」」
 兎神となった浩二郎の妖力と、僕の僅かなそれとで月に住む僕らの眷属は願いに答える。
 月が。
 満月と化した。
 眩しいほどの月光を受けて、妖達の力は倍増する。
 犬神は月に向かって吼えた。内から湧き出る力に喜びを示すように。
 稲荷は静かに月を見上げ、全身に冷たい光を満遍なく浴びる。その様は天からの魔力を吸い込んでいる様。
 鬼は仮面の男の手を取り、その額に生える一角を満月に向ける。消耗した妖力をまるで月の光から変換するように。
 一方で、月の光を浴びる桜の神樹はなおいっそうもがき苦しむ。まるでその身に浴びる光が有毒であるかのように。
 そして。
 『かつてこの地は我ら植物が支配していた』
 桜の神樹の前、地上10mのところにイグドラシルと呼ばれる少年が浮いている。
 彼はもがく同族を諭すように、こう続けた。
 『今の人間と同じく、この世の全ては我らのものと思ったものだ』
 苦笑いを浮かべる少年はしかし、その外見とは裏腹に酷く年寄りめいた表情をする。
 『そして限界がきた。ただただ己の欲するままに生きてきた結果、進化の限界にぶつかってしまったのだよ』
 そんな少年を、桜の枝が打った。
 しかしその打撃はまるで霞でも打つかのようにすり抜けてしまう。
 まるで少年の姿は映像でもあるかのようにも映る。
 『お前はかつて我らが切り離した欲求の一つ。我らの力が弱まった今、その力を少しだけ借りようと思っていたが、今のお前はやりすぎだ』
 苦笑いが消え、少年の表情は冷たいものに変わる。
 『それではお前が嫌う人間と同じだ、そしてかつて我らが起こした過ちを再び踏む、愚か者だ』
 「では」
 くぐもった声が、聞こえてくる。
 それは此花さんのようであって、別のものが混じっているかのような声。
 「ではどうすれば良いというのだ。黙ってみているとでも言わんばかりではないか」
 『ああ、そうだとも。天魔よ』
 イグドラシルははっきりとこう言った。
 『我ら年寄りはただ黙って見ていればいいのだ。そして人間達の中でどうすべきなのかを考える為にお前がいるのだ、さくらよ』
 暴れていた桜の神樹はその身を鎮め、そして。
 「生憎、ワシはお前ほど達観はしておらぬわ、イグドラシル!!」
 真っ黒な妖気を帯びた枝の一撃がイグドラシルを打つ!
 『んなっ!』
 先程までと違い、それは少年の身を強く捉えて地面に叩き落した。
 地面に向いていた禍々しい妖気の流れは、根を焼かれた今や完全に桜の神樹の内側へと向いている。
 みるみる大樹が黒く染まり、強力な力を帯びていく。先の尖った無数の枝がツタのように絡み合い、まるでバリケードのように桜の樹を何重にも囲み始める。
 「充電、完了」
 浩二郎の師匠がニヤリと笑った。それを合図にして、妖達は動き出す。
 「ウォォォ!」
 犬神が繰り出される無数の桜の杭をその身に受けつつも、その両手に光る鋭い爪で枝を払い、血道を開く。
 まるでミサイルのような彼はやがて桜の樹の幹にたどり着き、
 「魔剣の呪力を無効化、する」
 「応っ!」
 その背後にぴったりと付いていた仮面の男と鬼の娘が、その両手に印を結びながら桜の樹の幹に両手で触れる。
 ずくん
 痛みが全身に走るような、そんな振動が起きた。
 黒い妖気が生まれた時の逆回しのように、幹の中心に戻っていくように感じる。
 そして。
 「私の一撃は地脈を分断する!」
 さらに後ろについていた稲荷の彼女は、両手を樹の前で切った。
 バスンと、明らかに何かを断ち切る音が聞こえる。
 それは間違いなく桜の神樹が焦げた根を伸ばしていた地脈を切った音。
 「そろそろ目を覚ませ」
 ぼそりと犬神は言い、神木の幹の根元辺りを片手で引き千切った。
 半ばまで露わにされた幹の中から、彼女がその姿を現す。
 此花 さくら。
 その胸に黒身の木刀を抱えた彼女は、半ば木の中に埋もれたままでその両目を開いた。
 「貴方達は」
 此花さんはかすかに震える声で、こう言った。
 「貴方達は、かつての生活を取り戻したいとは思わないのですか? 居場所を作りたいとは思わないのですか??」
 小さいが、しっかりとした声だった。
 それに応えるのは浩二郎の師匠である稲荷のお姉さん。
 「かつての生活ってのは、どんなだい?」
 「それは」
 「一族郎党、何も変わることなく平穏無事に生きていく、そんな生き方かな?」
 稲荷の彼女は此花さんの言葉を遮って続ける。
 「それとも全てが停滞した中で、安穏と暮らす日々?」
 彼女はそこまで言って鼻で笑う。
 言葉を引き継ぐのは猟犬だった。
 「そんなだから、滅ぼされるのだ。そしてそのような考えだから、我らは同調しない。時代は常に前へと進んでいる」
 確かに後ろへ引き返すことは、ない。
 「お前の言わんとしていることは分からないでもないが」
 そう継いだのは仮面の陰陽術師。
 「我々人間側としては、明らかな『敵』だからな。全力で止めさせてもらう」
 言いながら仮面を取る。
 下から現れたのは、精悍な顔つきの青年だった。その傍らで鬼の娘が静かに此花さんを見つめている。
 見つめられる此花さんは一堂をぐるりと見回した後、僕に視点を置いた。
 「総一郎さん。このままでは植物の眷属達は滅び、温暖化が進行してこの街も海に沈むわ」
 そう告げる彼女の瞳には迷いがある。
 「それでも人間達とともに歩んでいくと言うの? そこで生きていけるの? 私達の居場所はあるの??」
 僕は隣の浩二郎を見て、彼が小さく頷くのを確認すると、彼女にこう告げる。
 「僕は」
 彼女の不安に揺れる瞳を見つめながら、はっきりと言う。
 「僕はこの世界の中で、それを考える為にここにいる」
 なによりも。
 「此花さんはそんなに愚かだと思っているの? 彼らが」
 人間達が。
 「あ」
 口を開く彼女。その視線は僕の後ろ?
 同時、彼女が胸に抱く黒身の木刀が再び黒い妖気を噴出した!
 木刀から湧き出るのは、明らかな悪意。この世全てに存在するモノに対しての、侵略の意思だ。
 圧倒的な妖力に僕のみならず、犬神や稲荷のお姉さんも一瞬躊躇する。
 再び、今度は強制的に此花さんが天魔に取り込まれようとしている、その時だ。
 僕の脇を何かが走り抜けた。一つは一瞬で、もう一つはやや遅れて。
 それは2つの人影だった。
 小さなそのうちの一つは木の中の此花さんからおもむろに木刀を掴むと、もう一つの人影に投げ寄越す。
 空中で巧くキャッチしたそいつは、そのままそれを僕の後ろへ向けて投げた。
 受け取るのは乙音さん。
 彼女は湧き出る妖気などものともせず、その黒い木刀を大きく振りかぶって。
 ヒュゴッ!
 投げた。
 天へ向かって。
 投げられた瞬間に耳を打つ衝撃波は、投げられた木刀が音速の壁を越えた合図。
 ぐるぐる回転しながら上へ上へと飛んでいく木刀は、やがて天に輝く満月の中へと消えていった。
 「んー、ちゃんと大気圏は脱出したみたいね。何年後かに月で森とか見れたりして」
 ボソリと言った乙音さんの冗談のような言葉は、しかし本気を含んでいるように聞こえた。
 木刀がなくなったことでみるみる小さくなっていく桜の大樹。
 そこに覗く穴に向かって2人がそれぞれ手を差し出していた。
 右手を差し出すのは歩。
 そして左手を差し出す巧。
 「なんだよ、そんなにオレ達人間のことを信用できないのかよ、ん?」
 ちょっと怒ったように言う歩のその手を、此花さんは。
 「そうね、私は貴方達を信じてみるわ、歩」
 答えて右手で掴む。
 「居場所がなくなるのなら作れば良いだけだよ、此花さん。その為なら僕も手伝うよ」
 「ん、ありがとう、巧くん」
 彼女は優しい笑みを浮かべ、彼の手を左手で取った。
 「さて、帰りましょう」
 『うむ』
 その様を見届け、犬神は映像の少年であるイグドラシルをその肩に乗せる。
 「イグドラシル様」
 視線の高くなった少年に、此花さんが申し訳なさそうに言葉を送ろうとするが、
 『お前はお前の判断で一歩一歩進んで行くよう、最初に私は言ったはずだ』
 強い口調だが、優しさを孕んだ思考が彼から飛ぶ。
 『それは正しい方向であれ、間違ったものであったとしても、お前はお前が信じる道をこれからも進むように、な』
 「しかし、私は今回…」
 『方向を間違えたとしても、お前の周りにはそれを修正してくれる者たちがこうしているではないか』
 「あ…」
 此花さんはイグドラシルの言葉に歩を、僕を、そして最後に巧を見つめる。
 そんな彼女を満足げに認めたイグドラシルは、一同を見渡してこう告げた。
 『それでは皆のもの、此度は世話になった。この世界樹、皆の顔は忘れまい。これを以って礼とさせて頂く』
 そして傍らの犬神の頭を軽く叩く。
 犬神は、彼と戦った陰陽術師の仮面の男と鬼の娘に視線を向けて、
 「さらばだ、人の子よ。またどこかで逢い見まえよう!」
 そう告げて、犬神は高く跳躍したかと思うとイグドラシルを肩に乗せ、戻り行く月の光をその身いっぱいに受けながら家の屋根屋根を飛ぶようにして消えていった。
 「ちょ、まて!」
 「……無理」
 駆け出そうとする仮面の男を片手で止める鬼の少女。
 はずみに、男の顔から仮面が落ちた。
 下に現れたのは20代前半の、どこにでもいそうな厳つい感じの男の顔だ。
 苦い顔で仮面を拾う彼に声をかけるのは乙音さん。
 「亜門さん、お疲れ様」
 その声にようやく険が取れたようだ。彼は彼女に軽く頭を下げる。
 「ずいぶん鍛えられたようですね」
 「えぇ、那智の爺様に基礎体力から叩き直されましたよ」
 苦い笑みで青年陰陽術師。
 「ここに来たということは、ある程度までは『使える』ようになったということですね」
 「どうなんでしょう? 術とかは特に教えていただけませんでしたし。とにかく実戦を積んで来いと言われて」
 「いきなり、あの犬神と、ぶつかるとは、思わなかった」
 疲れた顔で、鬼の娘がそう呟く。
 「彼はかなり高位の怪異ですわ。あれだけ互角の戦いに持ち込めるとは、申し訳ありませんが私も思いもしませんでした」
 「それは褒められているのか」
 「けなされているのか」
 男と娘は複雑な顔で顔を見合わせる。
 「さてお二人には早速ですがここへ赴いていただきます」
 乙音さんは懐から一枚の封筒を取り出して陰陽術師に手渡す。
 彼は中の手紙を一読。
 「なるほど」
 そして小さく頷いて。
 「それでは!」
 鬼の娘が彼の右手に腕を回すと同時、2人は足元の陰の中に溶けて消えた。
 気配も消えたことから、影を経由してどこかへ移動したのだろう。
 「ところでさ、総一郎」
 「ん?」
 歩に兎の長い耳を突かれて僕は視線を彼女に移す。
 彼女はなんだか妙に嬉しそうな顔で、僕の耳を見ている。
 「ウサミミって萌だよなぁ」
 「はぃ?」
 「おっと、そうじゃなくてさ。どうするんだ、これ」
 我に返った彼女が指差すのは、桜の巨木が跡形もなく消えた跡。
 猫寝荘のあったその場所は、きれいさっぱりの更地になっていた。
 それもまるで切り取ったかのように、猫寝荘だけがこの夜の出来事を覚えているかのよう。
 他の家々は被害を受けていなかったのは喜ぶべきなのだろう。
 「どうしよう、いきなり今日帰るところが…」
 僕は更地となった猫寝荘『跡』を呆然と見つめて声を漏らす。
 「あ、あのさ、総一郎。もしよければ今日はオレの部屋に…」
 『心配に及びません』
 歩が僕になにか話そうとしたその途中、柔らかな女性の声が僕の心に直接響く。
 ずももももも
 「「?!?!?!」」
 更地の下、まるで生えてくるように、いや。
 猫寝荘が生えてきた。
 ずずん
 僅かに地響きを立てて、猫寝荘は元の姿を取り戻した。
 『仮にも神たる私の社。このようなことで壊れてはたまりません』
 よくよく見れば手のひらに乗りそうなほど小さな女性が乙音さんの近くに浮かんでいる。
 声はそこから発せられていた。
 「あのー、神様? 私の車ももしかしたら退避させてくれてなかったかなー、なんて」
 そうお願いする乙音さんに『んー』と人形のような自称神様は考えるようにしたかと思うと。
 『えぃ』
 ぽん、と。
 駐車場に乙音さんのミニローバーが、猫寝荘と同様に地面から生えてきた。
 「ありがとうございます、神様。私、信じちゃいますね」
 『どんどん信じるが良いですよ、絶賛信者募集中ですから』
 そして重なるようにして猫寝荘の2階の玄関が2つ開く。
 「なんだなんだ、さっきから外が騒がしいな」
 「うぁ、やっと開いたよ」
 高槻さんと土屋さんだ。
 少し遅れて101の扉も開き、そこからはそこに住む青年と隣の部屋の女性が揃って出てきた。
 「何があったんだ、やっと開いたし」
 「神様もどこいっちゃったんだろ?」
 その2人を視界に認めた浩二郎の師匠こと妖狐のお姉さんは、乙音さんを一瞥。
 2人は視線だけで言葉を交わし、
 「浩二郎、帰るよ」
 「え、あ、はい、師匠!」
 浩二郎にそう告げる。
 「じゃあね、兄さん」
 「ああ、浩二郎。またな」
 「うん、またどこかで。あ、師匠、待ってくださいよ!!」
 浩二郎は頭の耳を押し込むようにして戻しながら、妖狐の後を追う。
 最後に僕に向かって大きく手を振って、彼は彼女とともに路地の向こうへと消えた。
 そして残ったのは、僕と此花さん、乙音さんと柚木兄妹。
 「そう言えば」
 僕は気になっていたことを問う。
 巧と歩へと。
 「こんな時間に、どうしてここに?」
 その問いに2人は、互いに一つづつスイカを抱えてみせる。
 「「スイカの差し入れ。途中で2つに増えたけど」」
 途中で増えたという意味が良く分からない。
 「美味そうなスイカじゃないか。こんなにあるのならアパートのみんなも呼んで食べよう」
 横からぬっと顔を出してそう提案してきたのは、どこから沸いたのかこの猫寝荘の大家さんである。
 「そうだよ、アタシ喉乾いちゃった、食べよ食べよ!」
 その大家さんの後ろからは雪音さんが出てきて、巧のスイカを受け取った。
 「さ、そーくんも歩ちゃんの持ってあげてね。大家さんの部屋で食べましょう」
 僕の肩に手を置いて、乙音さんは僕を歩の方へ軽く押し出した。
 「あ、大丈夫だよ、重くないし。あ」
 「ありがとう、歩」
 スイカを受け取りながら、僕は告げる。
 「いや、だから重くは…」
 「ありがとう」
 スイカに対してではない。此花さんに対するあのときの行動に対して、だ。
 歩は怒ったような、恥ずかしいような顔を一瞬見せて、
 「友達なんだから、それがなんであれ当たり前だろ」
 言って、猫寝荘へを向かう巧の後を追いかけるようにして駆け出した。
 「友達、か」
 「友達、ね」
 満月から少し欠けた月を見上げながら僕と、歩の言葉を聞いていた此花さんは同じ言葉を呟いたのだった。


 9月1日。
 長かった夏休みが終わり、二学期が始まる。
 この夏に此花さんを中心に発生した植物達の反乱は日本では一夜限り、他の地域では2〜3時間程度の出来事だった。
 とはいえ世界規模で発生したこの動きは、人間達に自分以外の生物の存在を改めて認識させると言う点では効果的だったようだ。
 とりわけ南米のアマゾンや東南アジアのマングローブ林では相当堪えた様で、その収縮速度は確実に低下しているとのこと。
 伐採により減り行く植物達のクローズアップを中心に、右肩上がりの平均気温やそれに伴う水位上昇、気候の変化などの話題も国家間の会談で多く取り上げられるに至っている。
 二酸化炭素の排出制限に慎重な姿勢を見せていた米国や中国も、その重い腰を上げつつあることは大きな成果と言っていいのではないだろうか?
 これをきっかけに、僕らにも住み良い環境を取り戻せればいいのだけれど。
 「でもね、正直なところさ」
 ホームルームが終わり、その放課後。
 巧は苦笑いを浮かべながらこう言った。
 「僕達がいくら小細工を労しようが、地球さんにはもしかしたら小さなことなのかもしれないね」
 「??」
 首を傾げる此花さんに、彼はこう続ける。
 「だって僕ら人間は長く生きても7,80歳。君達は……500歳くらい?」
 僕はそんなには無理だが、此花さんは小さく頷いている。さすが植物系。
 「でも地球さんにとって1000年くらいだったら僕らにとっての1日程度なんじゃないかな。ちょっと風邪を引いて、寝込んでいる間に体内のばい菌は死んじゃって、元に戻るってことで」
 「でも、風邪でも人は死ぬことがあるわ」
 「そうだね、もしかしたら僕ら人間は地球さんを死に至らしめるほどのばい菌なのかもしれない」
 巧は懐から取り出した携帯をいじりつつ、その画面を僕と此花さんに見せる。
 画面にはニュースサイトの記事らしく、こんな文字が綴られていた。
 『小氷河期到来か? 温暖化は抑制される??』
 「これは??」
 「時間をくれたってこと、かしら?」
 此花さんの言葉に、巧は小さく首を傾げつつ頷いた。
 「地球さんにとっては僅かな時間だけれど、僕達には考えて実行するには十分な時間だと思うんだ。地球さんにとってばい菌ではないってことを証明する為の、ね」
 携帯を閉じ、彼は僕を一瞥。
 そして此花さんに視線を移し、彼女の前に改まって向き直った。
 「此花さん」
 「はい」
 「僕、此花さんに約束するよ」
 まっすぐに、彼は彼女を見つめてこう告げる」
 「ん?」
 「僕がきっと、君達の住みやすい世界を作るよ」
 それは夢を語るようではない、しっかりと目標を見据えて覚悟を決めた言葉だった。
 「だから」
 巧は彼女に右手を差し出す。
 「一緒に頑張ろうよ」
 此花さんは彼を見て、そして差し出された右手を見つめ。
 己の右手を自らの胸の前に挙げて、そして。
 「信じて、いいの?」
 「信じてくれると、嬉しいな」
 微笑む巧に、此花さんは困ったような嬉しいような顔をして、
 「あー、もぅ、何を遠慮してるんだよ!」
 突如クラスに乱入してきた歩が、横から無理矢理に此花さんの手を巧に握らせた。
 「強引な」
 苦笑する僕に、彼女は1学期の頃と変わらない笑みのままに、こう宣言する。
 「巧が頑張っても居場所ができなかったらさ、オレが外へ連れ出してやるよ」
 「「外??」」
 首を傾げる僕と此花さんに、巧が少し困った顔で笑みを浮かべている。
 「そう、外。この地球の外、宇宙にさ。オレ、宇宙飛行士を目指すぜ」
 突拍子もないことを言い出す。
 「折りしもH2Bが成功したんだ。これからますます宇宙へ目が向いていくと思う。オレ達もいつまでも『ここ』にしがみついていないで、外にも目を向けなきゃな」
 「壮大な話になってきたな」
 「そんなことはないぞ、総一郎」
 彼女は真っ向から否定する。
 「さくらのお仲間も月で頑張ってるみたいだしさ」
 「はぃ?」
 「知らないのか、月に植物らしいものが見えてて、だんだん広がりつつあるってニュース」
 それって、もしかして……乙音さんが月にまで『届きそうな勢いで』投げた魔剣「天魔」のしわざか??
 ちなみにあれからどこを探しても見つからなかったのだ。本当に月まで届いていたのか……。
 「だからさ、総一郎」
 歩は巧と同じく、今度は僕に対して右手を差し出す。
 臆することなく堂々と、彼女らしく戸惑いを見せることなしに。
 「オレと一緒に行かないか? 『ここ』は巧とさくらに任せてさ、オレ達は外を目指そうぜ」
 「学食で定職と麺類を選ぶようなノリだなぁ」
 思わず僕は笑って。
 そして、彼女の手を握った。
 握り返してくる力は、思ったとおりに力強い。
 高校一年の2学期。進路を決めるにはまだ時間があると思いがちだ。
 だけど。
 目指す先がはっきりすればするほどに時間が足りなくなるということを、このときの僕らははっきりと感じ取っていた。
 これから先、様々な困難があるはずだ。けれども。
 手を握り返してくるぬくもりを感じながら、これならきっとやっていけると。
 僕は。
 そう信じて進む。




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