シェーラ&クァウール:
 A-Side(前編)までのあ・ら・す・じ!
シェーラ:
 さてさて、皆の羨望の視線が欲しいが為に、自らを捨て『見栄』の権化として生きてきた、アタイらの同僚,風の大神官アフラ・マーン。
クァウール:
 そのアフラ様がいつものように快感を得るが為に、フリスタリカへと向ったある日の事でした。


 ”褒めろ讃えろ!!”
 “水原 誠,こいつがウチの人生最大の敵,倒すべき宿敵なのだ!!”
 「アフラさん、いつこちらへ?」
 「誠はんもお元気そうで、安心しましたわ」
 許せん許せん許せん…



シェーラ:
 アフラの人生最大の敵,天然優等生、水原誠が彼女のグローリーロードに立ち塞がっていた!
クァウール:
 っていうより、勝手に対抗意識を燃やしているだけでは…?
シェーラ:
 それは言うない,実際アフラはこの日、誠との会話で己の小ささを知ったんだからよ。


 ”クックック…見たか、誠! これがウチとアンタの差,せいぜい悔しがるが良いわ!!”
 「ホンマ、良くご存知ですわ。アフラさんには敵いませんね」
 ”…あれ?”
 ウチの心に起こるは勝利とは程遠いもの…
 それは敗北感



クァウール:
 半ば放心状態でフリスタリカでの用を済ますアフラ様に、とんでもないことが起こったのですよね?
シェーラ:
 そう、危うくアタイ等の結束が崩れるところだったんだぜ。


 「さて、今日はもう、マルドゥーン山に帰らせてもらいますわ」
 「アフラ…さん」ウチの視線をしっかりと捕らえる誠の瞳。
 宙に浮いたウチを、彼は強く抱き寄せる。
 「な?!」訳の分からない展開にウチは体が動かない。
 そして誠はウチの耳元でこう、囁いた。
 「…好きです」



クァウール:
 で、アフラ様は「惚れられたもんの勝ち!」と心で絶叫。
シェーラ:
 呆気なく誠の奴をふっちまいやがったんだな。
クァウール:
 そして神殿に戻ってよくよく考えなさったのよね。


 「しまったぁぁ! 良く考えたら誠って良い男おへんかぁ!」
 「良いや,別に」でもウチはあっさりと諦めを表明。
 「断わったものはしょうがないし、誠が好きになったのは優等生のうわべだけのウチよ」



シェーラ:
 要は
クァウール:
 子供なんですね,まだ。
シェーラ:
 だぁが、しかし! まだこれで事が済んだ訳じゃぁなかったんだな!
クァウール:
 発端はシェーラ様が忘れ物するからいけなかったんじゃないですか?


 「シェーラね,ったく。あれ程忘れないでって言ったのに」図面を手に、スリッパを突っ掛け、ウチはパタパタと走る。
 玄関に向けドロップキック,開く扉,現われるシルエット,止まらない自分!!
 ポスゥ
 来訪者の胸に、ウチの蹴りが力なく入った。
 「ア、アフラ…さん?」引き吊った声。
 ”し、しもぅたぁぁ…”真っ白になったウチ。
 目の前にはウチの凄まじい姿を見て真っ青な顔のアイツがいた。



シェーラ:
 …
クァウール:
 …
シェーラ&クァウール:
 この先、アフラと誠の運命や、如何に?!


誠/アフラの事情
B-Side



 「ア、アフラ…さん?」
 ウチの、普段彼が想像も着かないような姿を目の当たりにし動きが止まっていた。
 それでも、彼は見かけに依らない強靭な精神力を駆使して言葉を続ける。
 「し、調べもの…一人じゃキツイと思ってお手伝いに…」声が震え、表情が引きつっていた。それは滑稽でもあるが、ウチにとっては笑える状況にはない。
 ウチは手にした図面を無言で手渡す。
 「これ…は?」
 「出来てるから…」
 小さく一言。彼は緩慢な動作でそれを受け取り…
 「ありがとう…ございます」ゆっくりと反転,そして一歩二歩…機械的に進み、
 「誠はん、そっちは崖…」
 ひゅ〜
 落ちて行った。
 マルドゥーン山の山頂に吹く風は、今日も程よく冷たく心地良かったのを憶えている。



 「どっちくしょ〜!!!!!!」
 ウチは神殿の廊下を猛ダッシュ,そのまま無人のクァウールの私室に乱入。
 ベットに置かれた等身大・水原誠人形の首を掴み、脇に抱えて反転,ウチの自室にダッシュ!
 バン,後ろ手に扉を閉め、誠人形の腹に遠慮なしのブローを連打,後にベットに向ってバックドロップ,延髄ぎりをかます!
 「…ふぅ」ベットの上,誠人形にもたれかかりながら、ウチは一息。
 恥ずかしさと怒り、絶望,孤独感が次々と心の奥から湧き起こる。
 一番見られてはいけない奴に見られてしまった。
 頭の良い誠の事だ,言い訳は通用しないどころか、すでにウチの『本性』をあの時点で知った事だろう。
 すなわち人前のウチは全くの作り物,あることない事を知ったかぶる優等生ヅラの仮面で、実際はグーラタ自堕落な、お間抜け大神官である事が!
 「完全に…終わりや…」
 奴はフリスタリカでこの真実を誰かに告げるだろう,そしてそれは彼の意図する事でなくとも町中に,国中に、そして世界中へと広がるはずだ。まさにグローバルスタンダード!!
 「う〜」毛布を頭から被る。
 第一、何で奴はこんなトコまで来たの? フラれたのに追い駆けてくるなんて!
 友達でいましょうってコト? 甘ちゃんな誠の考えそうなことだ。
 一体どうしたら良いんだろう,どうしたら…・
 そんな事を考えているうちに、暖かな日差しと毛布にウチは寝てしまっていた。



 「むぅ…」
 ウチはフリスタリカの街を歩いていた。
 誠がマルドゥーンの大神殿に現れたのは二日前。
 よくよく考えたら、崖から落ちた奴の生死が不明で、ちょっと恐くなったので様子見と言ったところだ。
 さらに考えると、わざわざあの神殿まで足を運んだ誠の真意も読めなかった。
 本人は例の設計図を調べる手伝いにきたとかほざいてはいたが。
 フラれた腹いせにウチの私生活を観察し、弱点を探そうとしたのだろうか?
 …そうだ,そうに決まっている!
 許すまじ,水原 誠!!
 そしてウチの本性を知った誠の奴は、それを言い触らしているに違いない!
 そう思って、サングラスとマントというチープな変装までして街の様子を見ているのだが…。
 特にウチの話題はない。となると、まだ噂になるほど広まっていないということか?
 ならばまだ、状況を打破することは可能!
 グゥ
 「あ…」少し気を抜いてしまったようだ,お腹が鳴る。
 朝からうろつきまわって、もう日は天頂に差しかかっている。
 さらに鼻腔に突く香ばしい香り。
 顔を上げると目の前には『東雲食堂』と掛かれた看板が立っている。
 「ここである程度、情報を取っておくも悪くないですな」
 ウチは誰となく呟き、繁盛する店内に足を踏み込んだ。
 「いらっしゃいま…あ、アフラさん!」
 カウンターの向こうから活気の良い声が上がる。この店の主,陣内 菜々美だ。
 「お久振りどすな」ウチはカウンターの空いた席に腰を下ろし、日替りの定食を頼む。出されたコップの水を口へ…
 と、隣の席の男とその向こうの老人がこちらを向いた。
 「こんにちわ,アフラさん」
 「奇遇ですな」
 「ぶっふ〜〜!!」
 ウチはそいつらの姿に、手前の男に向かって景気良く水を吹き出していた。
 そこには会うことを牽制していた男,顔面水浸しで苦笑する水原 誠と、ストレルバウ博士の姿があったのである。



 カチャカチャ…
 ナイフとフォークが食器にぶつかる音が、この混雑した食堂の中、妙に大きく耳に響いているように感じられる。
 ウチは怯えていた。
 食器の上でヘビに料理されるのを待つカエルのような心境だ。
 「ところでアフラ殿,一ヶ月はお忙しいのではなかったのですか?」
 「え、ええ,途中、フリスタリカにある風の神殿に用がありまして。急いで飛んできたんですわ」ストレルバウのど〜でもいい質問に適当に答えておく。
 チラリ,誠の方を見る。
 ニヤリ  < アフラ様視界による誠像
 ひぃ,わ、笑ってるぅぅ!!
 あの笑みは『秘密を握っているぞ』っていう笑いだ,そう、そうに違いない!
 そして奴はその内、こう迫ってくるに違いない…


アフラ様 in 妄想中


  暗がりに連れこまれるウチ。
  人気のないそこで、ウチは誠と2人きりになる。
  「アフラさん,よくもまぁ、これまでだまくらかしてくれましたね」
  「な、なんのことやの?」
  「それはアフラさん,貴女が一番良く知っていることさかい」
  下卑な笑みで、にじり寄ってくる誠。
  「クッ,し、知りませんなぁ」視線を逸らし、ウチはあくまでとぼける。
  「マルドゥーン山から突き落とされただけの価値はありましたよ」
  「ちょ,あれはアンタが勝手に落ちたんやおへんか!」
  言い掛かりに、ウチは誠に食ってかかる。
  と、ウチの顎を誠の右手が掴み、引き寄せる!
  「バラされたくなかったら、体で奉仕してもらいましょうか」
  「んな!」驚愕に体が動かない。
  「パニックになるでしょうね,完璧な人格と知識を兼ね備えているように見える風の大神官が、実は単に回りから羨望の視線で見られたかっただけの、普段はグータラな人間だってバレたら」顎を捕まれ動けないウチに顔を徐々に近づけながら、誠は言う。
  ウチは溜め息とともに、そんな彼の視線から目を下に背け…
  「…良ろしおす,好きにしなはれ」脱力。
  誠は卑劣な笑みを満面に浮かべ…

  ドンドンドン!
  ウチの目の前に本が山高々と積まれた。かなりの古書だ。
  「それ、明日までに解読しておいてや,博士から頼まれてるさかいに」
  手を振って笑いながら去って行く卑劣漢・水原 誠。
  「ち、ちっくしょ〜!!」

妄想終劇



 ヤバイ,ヤバイって…
 背中に冷汗が流れる。
 てな事を考えている間にも、表面上はいつも通り,風の大神官として威風堂々としてストレルバウと適度に難解な会話を交わしていたりする。
 そんなやりとりを誠の奴は
 ニヤリ  < だからアフラ様視界だって
 うう〜、恐いよ〜,恐いよ〜
 「ところでアフラ殿,ロシュタリア城には寄っていただけんかの? この間の図面について2、3点お聞きしたいのですが」ストレルバウ博士が、ふと、そんなことを漏らした。しかしそれを止めるはコイツ。
 「博士,悪いですよ。アフラさんは大神官としての仕事で忙しいさかい,ね?」笑顔でウチに同意を求める。その笑顔の奥にあるもの…
 ”ちょっとツラ貸せや”
 見えたような気がした,いや、そう言っているんじゃないかなぁ,そう、そう言っているに違いない。
 「いえ、少しくらいなら平気おます」誠と同じ笑みを浮かべて答える。心は涙と恐れで一杯だ。
 「助かります,アフラ殿」
 「えらいすいません,アフラさん」
 「ところでさぁ」その言葉はカウンターの向こうから来た。
 困った顔の菜々美がこちらを見ている。
 「お昼時は混雑してるから、食べ終わったんなら難しい話は外でゆっくりしてね」
 「ごめんな、菜々美ちゃん」
 「別にいいけどさぁ。でも凄いわね,アフラさん。この2人の話に着いて行けるなんて。その上、神官のお仕事もしているんでしょう?」
 「ええ。というか神官の仕事が本分おますが」この娘は。
 「いい加減なシェーラや、大ぼけなクァウールと違って神官として完璧よねぇ。実際、アフラさんは良い評判ばかり聞くわよ」
 そりゃ、そうだ。その為にウチは今まで努力してきたんやし。
 「ウチは大神官であるべき仕事をこなしているだけどすわ」何億回吐いたであろう,羨望の視線に対する答え。天敵・誠の前とは言え、やはり気持ち良い。
 だが、彼女から却ってきたものは予測とは反する反応だった。
 「でも疲れない?」
 「え…」
 「菜々美ちゃん,滅多なこと言うもんやないで」ウチが菜々美ちゃんの言葉の意味を理解する前に、誠が遮った。
 「そうね。ごめんね、変な事言っちゃって」苦笑いの菜々美。何だ? 一体何だって言うの?
 「ごちそうさま」
 ウチは一言、そう言い残し、誠達の後を追った。


B-Side

安息・束縛・虚勢



 赤い空が見える。数日前と同じく、ウチはロシュタリア城の中を誠と帰路に向けて歩いていた。
 「結局こんな時間まで残ってもうたなぁ」夕暮れの日を見、ウチは小さく呟いてしまう。
 「すいません、アフラさん」
 「誠はんのせいおまへん。てっとりばやく切り上げなかったウチの責任どす」
 「また、時間があったら遊びに来て下さい」
 「ええ、ありがとう」
 結局、誠はマルドゥーン山での出来事を口にすることはなかった。
 というより、彼のウチに対する言動に今までと変わるものがなかったと言って良い。
 まるであの出来事をポッカリと忘れ去ってしまったように。
 そうだ、きっと崖から落ちた拍子に記憶を失ったのではないか?!
 「アフラさん」
 「ん?」
 「菜々美ちゃんの言葉を借りるようやけど…僕達の,いえ、僕の前では力を抜いてもらえません?」
 「え…」バレて〜ら!!
 「アフラさんの大神官としての振る舞いは立派やと思います。でも、何処かで力を抜かないと参ってまいますよ」
 「誠はん…」
 ”ちょっとズレてるような気がする。別に大神官だからって訳じゃないんだけど。でも”
 「幻滅したんやおまへんか? マルドゥーンの大神殿では」
 「そんな幻滅だなんて…驚きはしましたが」楽しげに笑いながら誠。
 何が面白いんだ、コイツ。
 「安心したんです,アフラさんも僕らと同じ、普通の人だったんだなぁって」
 「ふ、普通?!」どうも良く分からん。
 ただ、言える事は、誠の奴はウチが大神官であるが故、無理して優等生づらをしていると思っているみたいだ。
 趣味なんだけど…なぁ。
 もっともバレているのはバレているが、そのニュアンスがウチの思っていたものと異なるようだ。
 「誠はんはウチが無理しているとでも?」
 「…無理ではないんですけど、何て言ったら良いのか,別に僕らの前で無理に飾る必要はないんやと思うんです」慌てて、彼は言い直す。
 「飾ってなんか…」
 飾っている,そうして周りから得られる視線の為に。だから無理はしていない。
 だが、誠の前で飾る必要はあるのか,彼はそう言っているんだ。
 ウチにしても、こいつの前で飾るメリットはもうない。
 しかしである。
 「これがウチやから」
 呟くように答える。ウチを良く知る誠やストレルバウ,ルーン王女を始めとした人々。
 彼等が知るウチは飾ったもう一人のウチであって、素のウチではない。
 素のウチを知った時、彼等はウチをどういう目で見るのか?
 そう思った時、今までが、うすっぺらになった。
 シェーラやクァウールは、ありのままを社会が受け入れてくれている。
 ウチは?
 いずれ、無理と感じる時が来るのは必至だ。
 “水原 誠,ウチにこれを気付かせるとは…ますますもって許すまじ!!”
 心に炎を燃やす。
 「素のままのウチを見続けたら、ウチを嫌いになりますぇ」苦笑いでウチは誠に返す。
 彼はその言葉に、小さく頭を横に振る。
 「先日マルドゥーン山でアフラさんを見て,ありのままの貴女を見て、前よりもずっと好きになりました」奴の顔が赤いのは、ありきたりだが夕日のせいだろう。
 ”誠って結構良い奴おへんか”はにかむような彼を見つめ、ウチは思う。
 飾りのない、何の変哲もなくいい加減な素のウチを知ってなお、好きと言える。
 何気にコイツの言葉に、ウチの顔も赤くなっているような,それもやっぱり夕日の仕業どすな。
 ともあれ、この日を以って、天敵兼友達だった水原 誠はウチにとって欠かせない親友になった。


End



あとがき

 という訳でお送りしました,アフマコ後編です。
 誠の性格がお人好しすぎて、結末もおとなしめになってしまいましたな。
 ふと気づいたんですが、菜々美ちゃんはアフラの事をアフラさんと呼ぶんですな。シェーラとクァウールは呼び捨てなのに。
 あとファトラにも「さん」は付けているけど、これは一応王女だから付けているって感じ。
 歳はおそらく同じなのに、やはり近寄りがたい雰囲気があるんでしょうね。
 ともあれ、親友で終わる辺りが2人らしい。

1998.11.7 

【A-Side(前編)】【戻る】