「ハロ〜、誠!」
  「おっと、その手は食わんで!」
  背中からの突進を交わして、僕はマタドールさながらにアレーレを捌く。
  「Good Morning!」朝からハイテンションだ。
  「おはよう、アレーレ」
  「誠は修学旅行は何処まわるの?」彼女は期待に満ちた目で僕を見上げて尋ねる。
  「う〜ん、菜々美ちゃん達に一任してもうたからなぁ」
  「アレーレも一緒にまわりたい! 仲間に入れて!」
  「かまへんよ」
  「Really?」アレーレの顔が今まで以上の笑みに広がる。
  「ああ。アレーレみたいに明るい子と一緒なら修学旅行も楽しくなるわ」
  「Thank you! 誠!」アレーレは僕の首筋に腕を廻す。
  「だぁ、抱き付かんといてな!」
  「…」僕の耳に、彼女は虫の鳴くような小声でそう囁いた。
  「え?」
  僕は己の耳を疑う。
  アレーレは名残惜しそうに僕から離れた。階段辺りまで駆けてから、こちらに振り返る。
  「ありがと、誠! また、何時か何処かで会おうね!」
  大きく手を振ってアレーレ。その顔には満面の笑みと伴に大粒の涙が零れていた。
  「う、嘘やろ、アレーレ!」僕は一歩足を踏み出す。
  「ルーンの願懸けは叶わなかったけど。私のこと、忘れないでね!」
  「待ってや、アレーレ!」階段の下に消える彼女を追って、僕は駆け出す。
  が、僕の腕を強く掴む者がいた。
  「菜々美ちゃん!」
  「駄目よ、まこっちゃん。駄目だよ」薄らと涙を浮かべて菜々美ちゃんは「駄目」を繰り返す。彼女はアレーレと同じクラスで仲がすこぶる良い。おそらくアレーレに僕を引き止めるように頼まれたのだろう。
  「そんな…いきなり、そんな…」
  僕はアレーレの言葉を心の中で反芻。
  『一年間、アリガトネ。好きだったヨ,誠。Good-by…』
 

From Heart
  思いの心を込めて。


≪ 最終話 さよならは出会いのチケット ≫


  昼の日差しが心地良い。
  僕は教室での喧燥を避けて一人、屋上で昼御飯である菓子パンを頬張っていた。
  アレーレは親の都合でアメリカへと本日、発ってしまった。いきなりすぎる展開に僕は呆然とするしかない。
  明日からあのタックルがなくなると想うと、寂しさが駆け抜ける。
  ルーン先輩がアレーレに「タックル30回」なんていう無茶苦茶な事を言ったのか、なんとなく分かるような気がする。
  少なくとも、あれがなかった時は僕はアレーレのことをただの外人としか見ていなかったはずだ。今の僕にはアレーレの存在はしっかりと心に焼き付いている。
  僕は遠く、空の彼方を見つめた。
  しかしそこにアレーレの姿が見えるはずもない。
  「誠はん」
  その意外な声はぼぅっとしていた僕の隣から掛けられた。
  「?」
  「何かしおりましたな」
  憮然とした表情をこちらに向けるは、アフラさんだった。
  「…別に」僕は昨日のことを思い出すも、記憶の奥底に沈める。
  「…謝りに来たわ,3人組」
  「良かったやないか」
  “ちゃんとあやまったんか”意外に感じた。
  「…うん」アフラは小さく頷く。
  しばらく、無言の内に春の爽やかな風が駆け抜ける。
  「あのな、誠はん」
  自然に、アフラさんは切り出した。
  「ん?」僕は彼女に視線を向け…その先に向けざるを得なかった。
  「あ、誠さぁ〜ん!」
  アフラの後ろから駆けてくるはイフリーナだ。
  片手に水の入ったコップ,もう片手には黒い石の詰まった袋を抱えている。
  アフラさんもまた、その声に振り返った。
  と、描けるイフリーナの足が屋上に敷詰められたタイルの継ぎ目に引っ掛かる。
  「あ、あわあわあわわわぁぁ〜」
  バシャ!
  水が僕達の顔に引っ掛かり…
  どんがらがしゃぁぁ〜
  袋に入った黒い石,なんと石炭が僕とアフラさんの頭に上に振り注いだ。
  「「アタタタ!!!」」
  「ご、ごめんなぁ〜い!!」慌てて駆け寄るイフリーナ,また足を躓き、石炭の中へ突っ込む。
  「ぶはっ! 何や、これ,イフリーナ?」
  「はい、私のお昼御飯です」
  “石炭と水で動くんかい? 蒸気機関車?!”
  と、僕は起き上がったアフラさんとイフリーナの顔を見てプっと吹き出す。
  同じく、アフラさんもまた吹き出した。
  「あ、お二人とも顔が真っ黒ですよ,目の所だけ黒くないんで、パンダみたですね〜」
  「「げ!」」僕とアフラさんは絶句。
  そして…
  うららかな日差しの下、無邪気な笑い声が3つ、響いていた。
 

  「では、皆さん。一週間ありがとうございました!」
  ペコリ、彼女は僕達に頭を下げる。
  僕にとってこの日、二度目の友達の別れだった。
  イフリーナの研修期間が終了したのだ。
  「長い様で短い一週間やったなぁ」
  「そうですね、イフリーナさんが入学された頃はサクラが咲いてましたものね」
  しみじみと、クァウールさんは言う。
  学校の校門に植えられたサクラの木は、今や青々とした若葉が夕日に映えている。
  彼女を校門前で見送る者は結構多い。
  僕やクァウールさん,それに見知った顔では菜々美ちゃんやルーン先輩にアフラさんもいる。
  またイフリーナのクラスメートも全員揃い、涙する者も多かった。
  「私、この一週間のことをしっかりとメモリに焼き付けました。絶対、絶対皆さんのこと、忘れません…」
  「イフリーナ…」
  呟く僕に、涙を堪え頑張って微笑みを浮かべるイフリーナ。
  彼女の感情はプログラムされたものだ。決してそこに命はない。
  そう、思いたかった。しかしそう思えない。
  イフリーナは間違いなく「生きて」いる。プログラムで泣いたり、怒ったり、笑ったりしているんじゃない,そう思わざるを得ない。
  プログラムと思えたら、どんなに楽か。
  そう思う者達がここで彼女を見送りに来ている。
  「もしも私の姉妹が売り出されたら、買ってあげて下さいね」
  「商売上手な奴め」ぺロっと舌を出すイフリーナの頭を、心内は軽く小突く。
  意外にもこの二人も仲が良かった。陣内の「征服だぁ!」という言葉に、イフリーナも追随して「征服です〜」と、分かったのか分からないのか校内で叫んでいたのを知っている。
  キィィ…
  一台のトラックが、校門の前で止まる。
  ロシュタリア電工のトラックだ。今日はギリギリまで学校にいられる様にとの開発スタッフの心遣いか、直接迎えに来たのだ。
  「私、皆さんに人間と同じく接していただいて、ほんとに嬉しかったです。私は機械だけど、冷たい機械だけど、なんか胸の辺りがほんわかと暖かくて気持ちよかったです」
  「イフリーナさん…」涙を流して、クァウールさんは呟く。
  「誠、何泣いておるのだ,情けない!」
  「陣内もそっぽ向いてないで、ちゃんとイフリーナを送り出してやらんか」
  「う、うるさいわ!」
  「私は今日で消えちゃいますが、もしも願わくば…皆さんの心に私を住まわせていただけると、嬉しいです」
  そこまで言って、イフリーナは深々と頭を下げる。
  「さようなら。ありがとうございました!」
  その時のイフリーナの顔を忘れる者はいないだろう。
  泣き笑いの、人間以上の感情の一瞬を僕達の心に住まわせた彼女の存在を。
 

  「明日はいよいよ修学旅行ですね」
  「そうやな」
  「おやつは3000円までよね」
  「昔は500円までだったのにな,時の流れというものか」
  いつもの登校風景,僕達四人は校門を潜る。
  「おはようございます」
  「おはようございます、ルーン先輩」
  いつもと変らぬ先輩に、僕はいつも通りの挨拶。
  「おっす! センパイ!」その声と伴に僕の背中を強く叩くは…
  「シェーラさん。おはよう」結構痛む背中に苦笑しながらルーン先輩の横に並んだ活発な彼女に視線を向ける。
  と、その間に、戸惑うようにして見知った彼女が割り込んできた。
  「お、おはよう」
  「おはよう、アフラさん」微笑みで返す。不器用な委員長は何処か安心した表情を浮かべた。
  「誠さぁ〜ん!」遠くからそんな声が聞こえる。
  「「?」」
  僕達は声の方向,背後に振り返る。
  こちらへ駆けてくる女生徒の姿が一つ。
  長いウェーブの掛かった髪を左右に揺らし、息を切らしながら誠に追いすがる女性のその顔に、彼は見覚えがあった。
  「イフリータさん…どないしたんですか、ロシュタリア電工にイフリーナと一緒に戻ったんじゃ…」そこまで言って僕は気付く。
  「何々? まこっちゃんの知り合い?」イフリータを見つめ、菜々美ちゃんは僕に尋ねた。しかし僕は答える間もなく、イフリータを見つめる、間違いない!
  「へへへ…戻ってきちゃいました」バツの悪そうにイフリータは微笑んだ。
  イフリータは西雲高校の制服ではなく、東雲高校の制服を着込んでいた。
  そして、何より誠の記憶では無表情だった彼女の表情はまるでイフリーナのように豊かだ。
  「戻ってって…?」クァウールの疑問。
  「君…イフリーナか?」僕は半ば確信を持って、彼女を凝視しながら尋ねた。
  「あ、はい! 試作機HMX−13,コードネームはイフリーテスです。前作イフリーナの感情プログラム,イフリータのハードを兼ね備えたロシュタリア電工の誇る究極無敵アンドロイドなんですよ!」
  エヘン、偉そうな咳をして胸を張る。それを陣内が珍しく微笑みを湛えながらその頭を叩いた。
  「愚か者が,お前が偉いのではないわ!」
  「えへへ…」
  「イフリーナのドジとイフリータの破壊力を兼ね備えた汎用人型決戦兵器やないか…」
  一抹の不安を感じながらも、僕は彼女を笑顔で迎えた。
  パラララララ…!!!
  「な?」
  「何?」
  「何だ?」
  「何じゃ」
  「何でおます?」
  何かを廻す音に、僕達は発生源である上を一斉に見上げた。
  「「なっ!!」」一同、驚愕!
  浮かぶはUSArmyのジェットヘリ!
  そこから何かが落ちてきた…人か!?
  「戻ってきちゃったよ、誠! I Shall Return!!」
  バッ!
  赤と白、紺の三色のパラシュートを開いて落下してきたのは…
  「「アレーレ!!」」


  2年生,内容は1年生の時とはあまり変らない。
  でも、
  そう、でも、
  変らないから、良いこともある。
  広がったパラシュートの布に僕達は巻き込まれながら、そんなことを思っていた。
 

  何はともあれ、明日は修学旅行!

Thank you , See.you again !! 



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