EL-HAZARD THE ILLUSIONAL WORLD !!
幾千もの時を越え 拓かれる太古の力 意志を抱きし力達
光と影 相容れぬ存在 憎しみ合う心と心
光と影が在りし所 人の息遣い有り それは世界
今 幻影の扉 開かれし時 新たなる出会いが始まる
神秘と混沌の世界エルハザード 今ここにその扉が開かれる…
幻影の世界 エルハザード
第六夜 幻滅の世界へ
「イフリーナ!」 誠が叫んだ!
ピクッ,一瞬、そう、一瞬、彼女の動きが止まる。
そこにアフラの風が,シェーラの炎が,ミーズの水の力が押し寄せる!
「!!」
ゴゥ!
三色の力が上空の彼女を包み、爆発!
「やった!」 勝利のポーズのシェーラ。
「まだよ!」ミーズの叱咤。
水蒸気の煙が晴れた後、そこにはイフリーナの姿はない。
「どこ!?」 見回し、視線を一点に止めるアフラ。
「誠はん!」 彼女の叫びに、誠は反射的に振り返りながら右手で払う仕種を取る!
ゼンマイを突き出し、誠に特攻をかけるイフリーナの姿。
そのゼンマイの先端に誠の手が触れた!
止まる2人の時間…
「…」 暗闇の中に、誠はいる。
「イフリーナ」 呟く誠。その目の前に、不意に十字架に張りつけられ、意識を失ったイフリーナがライトアップされた。
そこに向かって走る誠,しかし一向に距離が近づかない。
「くそっ!」 意気を切らし、立ち止まる誠。
「その程度かい?」 と、彼の耳元に囁かれる子供の声。
「ナハト!」 慌てて辺りを見回す誠,しかし姿はない。
「僕の書けたプロテクトは君程度には外せないよ。それに…君がここまでくるのを待っていたんだ」 言葉に言い様のない殺気を覚え、誠は身構える!
「クッ!」 腕に痛みを感じる。見るとうっすらと血が滲んできた。
「ここで死んでもらうよ,誠」 その言葉を合図に、誠は全身に痛みを感じる!
「ふふふ…あはははは!!」
「イフリーナ! 目を覚ますんや!!」 次第に赤くなる視界,ナハトの機械的な笑い声のみが耳に付く。
「イフリーナ!」 ピクリ,イフリーナの指が動く。
「あかん…もう駄目や…」 暗くなる視界,脱力感、この闇の中に溶けこんで行ってしまうような感覚…
「…イフリータ」 心からの,最後の呟き。
「誠?! 誠!」 顔を上げるイフリーナ。その顔立ちはしかし、後継機であるイフリータの物へと変わっていた。
「こんな所で諦めないで,誠!」
十字架の束縛を引きちぎり、彼女は誠の元に駆け寄る。
その前にナハトの幻影が立ち塞がった。
「プロテクトが内側から外されるとはね,でも無駄だよ。このプログラムは完璧だ」
「完璧なものなんて、あらへんもんやで」
「なっ!」
「誠…」
「イフリー”タ”…」 ナハトの頭上で、誠とイフリーナの手が絡まった。
「そんな…」 消えて行く、ナハトの幻影。
「誠,今度は…本物の私に会いにきて」
「ああ、待っててな、イフリータ」 それに彼女は満足げに微笑むと、姿を消す。そしてイフリーナが目を覚ます。
「ありがとうございますぅ,誠さん」 イフリータに負けない元気な笑みを、彼女は見せた。
動き出す時間。
ガラン
鬼神の手を離れるゼンマイ。少女は誠に向かってそのままの勢いで倒れ込んだ。
「で!」 したたか後頭部を地面に打ちつける誠。
「ま、誠!」 叫ぶシェーラ。
コゥ!
放たれる破壊の力を有した閃光。
ボッ!
同じくほぼ同時に神の目より放たれた黒い破壊の力。
黒い力は閃光を食いつくし…そのまま空中の戦艦を半壊した!
「「どわわわわ!!!」」 スピーカーを通して、陣内達の声が響いた。
ボロボロになった戦艦は神の目とすれ違い、そのまま聖大河に向かって墜落して行った…・・
「やりましたね,ファトラ!」
「…姉上,今の一撃、神の目にしては威力がかなり弱いと思いましたが」 しかし怪訝な顔のファトラ。
「そうでしょうか?」
ルーンの安堵の溜め息を聞きながらもファトラは、小さな操作台を見る。
「…やはり,どういうことだ?」 ファトラの表情が暗く変わった。
ボッ!
衝撃音が走る。
ゴォォン
外からの轟音。
「どうやら今ので決まったようね」
「観念しろ,アブザハール!」
「…」 二人の言葉に、しかし浮かぬ顔をしてイフリータは二人を見つめる。
「そうか,私もまた所詮は手駒に過ぎなかったという訳か」
「「?」」
そう呟いたかと思うと、イフリータからカーリアに姿を変える!
「もう一足早ければ,だが神の目を落とせばフリスタリカ周辺域は全滅だ」 カーリアの顔が不気味に笑う。
「何!」 叫ぶ藤沢に、彼女は背を向け、外に飛び出して行った。
「神の目は諦めたみたいだけど…追おう,センセ!」
「誠,そいつは!」 誠に駆け寄るシェーラ。
「ん? イフリーナのことなら安心してええ。もう大丈夫や」
その言葉を合図にか、イフリーナは眠たげな目で身を起こす。
「ほぇ? おはようございますぅ」 誠を見て挨拶。
「おはようって…あのね」
「誠はん,下がって!」
「…様子が変わったわ,アフラ、大丈夫そうよ」 肩の力をようやく落として、ミーズは誠に歩み寄った。
艦僑に水が侵入する。
「陣内殿,これは、なかなかまずいのでは?」 お茶を啜りながらディーバ。しっかり混乱していたりする。
「むぅぅ,誠め、覚えておれ! カツヲ,ワカメ,タラ、今日のところは体制を立て直すぞ!」 言い放つ陣内。
ブゥン,扉が開き、鬼神アブザハールが現れた。
「おおう,アブザハール、何処に行って…」
しかし彼は陣内を無視,そのままコントロールパネルに触れ…
ブゥン…
コントロールパネルに吸いこまれるようにして消えた。
「一体どうなっておるのだ?」 首を傾げるディーバ。
「奴め,どういうつもり…」
ゴゥン 停止したはずの戦艦が再起動する。
激しい振動で陣内達はその場に座り込む!
「何だ何だ?」
ザァァァ… 引いて行く水。
「ぬ,浮いている…」
うぉぉぉん!!
戦艦の叫びに聞こえる。
ゴキ,メキ,バキ… そしてまるで骨を折るような音が彼らに届く。
「むぅ、アブザハールの奴め…引き上げだ,飛空艇の準備をせよ! 死んだら元も子ないぞ!」
「この戦艦,巨大化しているようじゃ。何故逃げる必要がある? 勝てるやも知れぬのに」
「甘いな,ディーバ。最後に変形だとか巨大化する奴は絶対勝てないと言うセオリーがあるのだ」 チッチッと人差し指を口の前で横に振る陣内。
「?? 良く分からんが、陣内殿がそう言うのならば間違いなかろう,逃げるとしよう」
「違う! 逃げるのではない! 戦術的撤退だ!!」
聖大河から浮き上がった戦艦,誠達はその光景に思わず身構える。
まるで龍のような姿を取ったそれはまっすぐにこちらに向かってくる。
そう、神の目に。
「誠様,神の目の調子が…」
「誠、どうも調子がおかしい。次のエネルギーの再充填まで数時間掛かりそうだ。なんとかしてあれを止めてくれ」 ファトラの声が聞こえてくる。
「止めてくれ言われても…」
「しかしあんな壊れかけの兵器で何するつもりだ?」 シェーラの言葉通り、あちこちから煙を上げているのは確かだった。
「あれで突撃をかますつもりね」
「藤沢センセ,イシエルさん!」 誠はその声に振り返る。
「あの戦艦の重量なら、この神の目を落とせるかも知れない。そうなったら、フリスタリカが壊滅するどころじゃないわね」 ミーズが厳しい表情を浮かべて言った。
「あの〜」
「戦艦に乗りこんで…」 とアフラ。
「あの〜」
「間に合わねぇよ!」 みるみる近づいてくる龍にシェーラは叫ぶように言う。
「あの〜」
「ええい,さっきから何だよ、お前は!」 シェーラの怒鳴りに小さくなるイフリーナ。しかし小さくなりながらも小声で呟くように言った。
「あのですね,私が皆さんの力の増幅機になります。皆さんの力を今のあの戦艦にぶつければ、なんとかなるんじゃないでしょうかぁ」
「そんなこと、できるんか? でもしかしそんなことしたらイフリーナ,君は無事には」 その誠の口を人差し指で触れるイフリーナ。
「私は誠さんに助けていただきました。今度は私の番ですよ。それに、私は結構頑丈なんですから」
「ここまできたらやれるだけやってみようっしょ! 誠!」 イシエルもまた、まるで祭りを楽しむように言う。
「…みんな,僕は見てるしか出来へんけど…これが最後や,頑張ろうな!」 誠の言葉に四人の神官と鬼神は頷いた。
「行くぜ,炎よ!」 シェーラを蒼い,真っ青な炎が包み込む。
「風よ…」 旋風がアフラの周りを旋回,彼女の手の内に凝縮する。
「大気を漂う我が眷属,水よ!」 藤沢に支えられ、ミーズはめいっぱいの力を呼び起こす。大気中の水分が水へ発現,彼女達の周りを廻る。
「癒せよ,その大いなる包容力を以て,大地よ!!」 イシエルは見えない圧力をその身に込めた。
全力,初めて他人を守る為の全力に、イシエルは今まで心の奥に引っかかっていた何かが取れたような気がした。
イフリーナを中心に、ダイヤ状に立った四人は各々、ありったけの力を貯める。
「皆さん!」
イフリーナのかけ声により四人の力のベクトルは彼女に向けられる!
延びる四本の力の光,それをイフリーナは苦痛の表情で一身に受け…・・
「ロバーツさん,私は皆を守りたいんです、だから…もうちょっと、この体をもたせて下さい!」 彼女を通してゼンマイに力が集まる,そしてその輝きが頂点に達し…
「いけぇぇぇ!」
ゼンマイを降り下ろすイフリーナ,
ドゥ!
放たれる幅広い光
「ぐ…ふざけるなぁぁぁ! 俺は、俺は,俺は…何だ?」 光の中、龍は叫ぶ,そしてその身は光の中で粒子となって行く。
神の目の上から放たれた光の帯を頭上に、陣内は冷汗を流す。
「さすがは陣内殿。セオリーに精通しておるのぅ」 全然自慢にならん。
しかしディーバの言葉にも、陣内は光の中に消えて行く戦艦を眺めながら、ただ、その光景に息を飲むしかなかった。
その視界の中に黒い点が一つ。それは段々と大きくなり…
「どわわわわぁぁぁ!!」 それは陣内にクリーンヒット,彼は押し潰され、飛空艇の壁に潰された。
目を開く…イフリーナの居た所には異なる人影が立っていた。
「貴様、アブザハール!」 身構える藤沢。対するアブザハールは肩で息をしている。
「やってくれるね,危ないところだったよ」
「イフリーナはどうした!」
それに対し、アブザハールは親指を下に向ける。
「ま、これくらいの高さから落ちても壊れることはあるまいがな」
「こいつがアブザハールか…」
「しぶといっしょ…くっ,力がもう…」 4人の神官達はしかしその場にへたり込む。
「神の目の力をコピーすることはできなくとも、混乱させることはできるはず!」 しゃがみ込む鬼神。右手を神の目の外壁に触れる!
「させへん!」 飛び掛かる誠。誠に向かってゼンマイを凪払う。
ゴッ,藤沢の鉄拳がアブザハールに炸裂した!
ゼンマイを掴み、奪う誠。
突っ伏すアブザハール,しかしその顔には笑みがある。
勝利を確信した笑みだ。
「一時的にこの神の目の軌道を…落としてやる!!」
グラ,揺れる神の目、そして僅かな浮遊感。かなりの速度で高度を下げている!
「くそっ!」 もう一度殴りつける藤沢,アブザハールの背中から火花が散るが、彼の笑みは止まらない。
「ハハハハハ! 道ずれにしてくれるわ!!」
「絶対させへん!」 ゼンマイを振り上げる誠。
「? な?!」 しかしアブザハールは不意に口を押さえ、驚愕の表情を浮かべる!
ブゥン,アブザハールの姿がイフリータに変化!
「誠,今だ! 私が止めている内に、背にゼンマイを!」 叫ぶイフリータ! アブザハールとは明らかに雰囲気が違う。
「ふざけるなぁぁ! こんな、こんなときにどうして貴様がぁぁ!」 アブザハールに再び戻る。
「イフリータ…やない! あんたは…ロバーツ?!」 呟きながら、誠は思いきりゼンマイをアブザハールの背に突き立てた!
「グアァァァァァ」 アブザハールの姿に戻り、鬼神は絶叫,そしてその形が歪み…
シュゥ…白煙を上げ、鬼神アブザハールは後も残さずに消え去った。
後には完全に機能を停止したゼンマイが神の目に突き立つ。まるで墓標のように。
「終わった…のか?」 茫然と藤沢。
「終わったようじゃの」 ルーンとファトラがやってくる。
「ご苦労様です,誠様」 ルーンはにっこりと笑って、そう言った。
「終わったって…何か嫌な予感がするんですけど…」 誠のその予感は、やはり的中する事になる。
「何だ? この娘は…ともあれ、生きておるか,陣内殿?」
「死ぬかと思ったわ! しかしこやつ…鬼神か?」 頬をつつく,が、まるで人形のように何の反応もない。
「イフリータの時のようにエネルギーが尽きておるのかも知れぬぞ」
「ふむ、この杖もゼンマイのようだな,どれ?」 陣内はイフリーナをうつ伏せにする。確かに腰の後ろにはゼンマイを刺す穴がある。
「鬼神には何かロクな目に会っておらぬが…まぁ、手駒にはなる」 言って、陣内はゼンマイを刺した。
「どうかまともな鬼神であるように…・・っと」 それを廻す・廻す・廻す…・・
ピクリ,イフリーナの指が動いた。そして…
「ふぅ」 イシエルは溜め息一つ。突き立ったアブザハールのゼンマイを見つめる。
「さよなら,貴方の気持ちは分かったから…」
彼女は空を見上げる。青い空,雲を下に、ただ青い空のみが広がっている。
そして聞こえてくる笑い声。
「いい世界じゃない,良くしていけばいいじゃないの」 呟き、目を閉じる。そして…
「お疲れ,誠!」 残った気力を振り絞り、彼女は立ち上がって誠に駆け寄った。
「今回はやってくれたな,誠!」 その声に一同は凍り付く!
「じ、陣内!」 誠は空を見上げる。
そこにあるはバグロムの飛空挺。
「今日のところは退いてやる,しかし次は心するが良い,ヒャ〜ハッハ! ほら、お前達も!」
「ほっほっほ!」
「「ガフガフ!」」
「あっはっは〜!」
「イ、イフリーナ?? 何でそこに?」 笑い声の中に少女のものがあるのに気付く誠。
「あ、誠さ〜ん。この人が次の御主人様なんですぅ」 大きく手を振るイフリーナ。
「次のって…ちょ、ちょっと待ちや!」
「さらばだ、誠! ひゃ〜っはっは!!」 遠ざかる飛空挺。
「あっはっは〜」
「もっと甲高く笑わんか! イフリータ!」
「イフリーナですってばぁ」
「ええい、どっちでもかまわんわ!」
呆然と見送る一同,彼らを追う気力はすでに潰えていた。
翌朝…
イシエルは眼下に広がるフリスタリカを眺める。
小高い丘の上、彼女はしばらく見つめた後、背を向けた。
フゥ
一陣の風,イシエルの前に一人の女性が立ち塞がる。
「ん? アフラじゃないの,どうしたの?」
「イシエルはん,昨晩あんなに呑んでて、良くこんな朝っぱらから動けますなぁ」 呆れた表情でアフラは言う。
「で、何処に行くんどす?」
「さぁね。地の神官は放浪するのが性だからね。風任せっしょ」 イシエルは足を進める。
「…そうどすか,ともかく敵が増えたんどす。気を付けて」 イシエルとすれ違い、彼女に背を向けアフラは言う。
「…そう、気付いてたの」 足を止めるイシエル。
「幻影族の力を持った地の大神官,あんさんを大神官に選んだ審査長はウチの知り合いやから…ね」
イシエルは小さく微笑む。自分が大神官に選ばれた時、理由が分からなかったが、今は分かるような気がする。
「フリスタリカに寄った時は、誠はんのところにでも顔を出しておくんなまし。きっと喜びますぇ」
「えええ、そうするわ」 振り返らず、右手を挙げて歩を再び進めるイシエル。
同様にアフラもまた、フリスタリカに向かって風の翼を広げた。
出会いは人を変える。
地の彼女は異世界よりの少年と出会い、己を知る。
古代の少女もまた、心に翼を持つ。
そして異世界よりの少年もまた…・・
物語,それは時代の一部分。
切り取られた物語は虚飾に塗り固められ、加工される。
しかし忘れてはいけない。
物語の中の人々にとってはそれがそれぞれの真実である事を。
そして物語は続き、続けられると言う事を。
語ろう,時代がそれを欲するのならば。
ストレルバウ著「エル・ハザード(世界見聞録)」最終章より抜粋
ストレルバウじゃ。神の目の起動事件から一ヶ月が過ぎた今、城の復旧も終了し、皆の生活も元に戻っておる。
しかしファトラ様が心配しておられた神の目の力の低下がワシも、誠殿も気になっておるのじゃが、今のところ大きな問題になる事ではなさそうじゃ。おいおい調査していくべき課題じゃろう。
それでは皆の生活でも覗いてみるとするかのぅ。
「はい、ア・ナ・タ,あ〜ん」
「ミ、ミーズさん,一人で食べられますから…生徒も見てますし」
「いちゃいちゃするんなら、自分の家でやってよ,先生!」
「全く…ウチもそろそろ神殿に戻りますぇ」
菜々美殿の経営する食堂も、その味が評判で賑わっておるようじゃの。
藤沢殿とミーズ殿もそれなりに新婚生活を楽しんでおるようじゃ。
アフラ殿は厚意で城の復旧を手伝って下さってのぅ,そろそろ神殿に戻るとか言っておったわい。
「てめぇ! ファトラ,よくもさっきは、あんなことやこんなことを!!」
「むぅ、シェーラよ、あれでは不満と申すか。ではそんなことも…」
「ぶっころす!」
「ファトラ様,逃げましょう!!」
「ふむ、アレーレよ。どうしてシェーラはわらわの愛を分かってくれぬのだろうか?」 駆け出すファトラとアレーレ。
ちゅど〜ん
「ああ、また王宮の修理費が!!」 頭を抱えるロンズ。
「ファトラ,貴方はどうしてそうなってしまったの?」
「るーん,ちょくせつ、ちゅういしたほうが、いい」
「…ああ、ファトラ」
「るーん,けっこう、ひどい…」
相変わらずですなぁ,え? ワシの頬が緩んでおる?
失敬な,別に想像しておらんぞ、あんな事やこんなことを!!
そして誠殿は…
「ここがこうなって…しまった!」
ちゅど〜ん
「…またやってもうた」 顔を黒くして誠は咳き込む。
その彼に白いタオルが差し出された。
「精が出るね,誠」
「あ、イシエルさん。おおきに」 タオルで顔を拭く誠。
「毎日こんな所に閉じこもってちゃ、成功するものもしないっしょ」 言って、イシエルは誠の腕を掴む。
「さ、気分転換気分転換!!」
「ちょ、ちょっと…」 部屋から連れ出される誠。
「「こら、イシエル! 何やってるのよ(だ)!!」」 外で待っていたかのように、二人の少女がそれを止めた。
「大体テメエ,旅に出たんじゃねぇのか!」 詰め寄るシェーラ。
「出て、帰ってきたのよ」
「どうしてまこっちゃんにちょっかいかけんのよ」 と、こちらは菜々美。
「別にいいっしょや!」
「「よくねぇ(ない)!!」」
と、まぁ、至って平和なようじゃのぅ。
ワシか? ワシはいつも通り、熱心に研究しておる。ってなんじゃ?! その疑いの視線は!!
暗闇の中、少年は男に『それ』を差し出す。
「良くやったな,ナハトよ」
「はっ…」
そしてその暗闇の中に二人の不気味な笑い声だけが木霊した。
Thank You ! See You Again !!
あとがき
幻影の世界エルハザードをお贈りしました,如何でしたでしょうか?
イシエル=ソエル,このキャラクターは他の神官にはない陰を有している所が、私はたまらなく好きです。
言い替えるのなら、イシエルは『大人』なキャラである,そんな気がします。
それとは対称的に、イフリーナ(TV版イフリータ),こちらは思いっきり子供ですね。
真っ白な心を持った鬼神にふさわしくないキャラに見えます。
そんな色々な性格を持ったキャラクターのいる神秘と混沌の世界エルハザード…
この世界観が、私はたまらなく好きです。
これを見てくれているみなさんは,いかがでしょう?
では、また皆さんにお目にかかる日を楽しみにして…
1998.5.17.
この作品は1998年1月から5月にかけて掲載したものを、加筆・修正したものです。
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