leaflet + 



 雲一つない空は、突き抜けるほどの青。
 そのど真ん中でさんさんと輝くのは真夏の太陽だ。
 惜しげなく降り注ぐ、まるで凶器のような光は誠の白い肌をじりじりと焼いてゆく。
 暑い、いや、熱い。
 熱気の中で佇む彼の白いくるぶしを、汚れのない海水が一定のリズムで濡らしている。
 誠は白い砂浜の上で、果てしなく広がる水平線を臨んでいた。
 真夏の海。
 そこから想像されるものの一つに、甘いロマンスなんかが挙げられるだろう。
 それから恋人との甘い時間やら新キャラ登場に主人公うはうはとか……そりゃそうだ。
 だってこの作品はLeafletなのだから、こんなのが題材に決まっている。
 しかし真夏の海……とくれば、こんなシチュエーションもありじゃないか?
 なぁ、誠さん?
 「ううっ」
 彼は水平線を見詰める瞳に涙を溜めた,それが零れない様に思わず上を見上げる。
 眩しいばかりの真夏の光が彼の目を焼いた。
 誠はあらん限りの力で叫ぶ。
 「なんでこないなことになってしまうんやーーーーーーー、いっつもいっつも!!」
 水原誠,19歳の夏。
 無人島に漂流中―――――



そーなんですか?



 それは一通の手紙から始った。
 大学から帰宅したばかりの誠は、クーラーの効いたリビングルームで封筒を手にソファに腰掛けている。
 封筒は国際郵便,送り主はファトラ・ヴェーナスとあった。
 彼は小さく微笑む。彼自身とウリ二つの容姿を持つ王女の事を思い出して。
 彼女はちょくちょく日本に遊びに来るが、この半年ほどは会っていない。
 ニュースを見ると隣国が戦争をしているそうで、その調停役に奔走しているともっぱらの噂なのだ。
 今思えば、えらく有名人と知り合いになってしまったものだと、彼自身しみじみ思う。
 「何やろな?」
 どんな状況でも豪快な王女の笑顔を思い出しながら、封を開けようとした,その時だ。
 きゅっ
 ソファの後ろから彼の首に細い腕が回された。
 彼の右頬に柔らかな髪の感触と、仄かな桜の香りを纏わせた吐息がかかる。
 「おかえり、誠。それは何?」
 わずかに甘えの入ったハスキーボイスが誠の耳をくすぐった。
 「ただいま、イフリータ」
 彼は背後の彼女をそのままに、封筒の送り主の名前を見せる。
 「王女か」
 彼女の一言に、あまり良い印象を持っていないのがなんとなく分かる誠。
 「まぁ、なんや。面白い事書いてあるんやないかなぁ?」
 彼は苦笑いを浮かべつつ言いながら、封を切って中の手紙に目を通した。
 文面は極めて簡潔だ。
 『日本は暑いじゃろう、誠よ。わらわはあのムシムシ感が好かぬ。
 そんな訳でエルハザードに遊びに来い。
 プライベートビーチも用意してある。
 なお、この手紙の封が切られ次第、わらわの手の者が迎えに行く事になっておる』
 「007かぃ!
 2人で読み終えた直後だ。
 バラバラバラバラ……
 連続する破裂音は背後からっ。
 同時、庭へ続く2人の背後の窓から光が溢れるようにして飛び込んできた!
 「「?!」」
 誠とイフリータは振り返る。
 遠慮なく、縁側への窓が開いた!
 普段からイフリータが出入りしているために鍵はかかっていないのだ。
 窓が開け放たれ、カーテンが払われるとともに音と光の正体が判明。
 それはヘリの旋回音と、上空から照らされたサーチライトの光だ。
 光の中、2つの影が飛び込んでくる。
 1つは誠の襟首を掴んで、家の外へと力任せに引っ張った。
 「さぁ、行くぜ、誠!」
 「イフリータはんも,行きますぇ」
 もう1つの姿はイフリータを捕らえている。
 聞き覚えのある2つの声に、誠はようやく口を開いた。
 「シェーラさんに、アフラさん??」
 「ほら、さっさとしろぃ!」
 シェーラは誠の腕を掴んで庭に引っ張り出す,同時に2人は上空へと引き上げられた。
 少し遅れてアフラに捕まれたイフリータもまた上昇,上空に待機するヘリへと収監される。
 「やほ♪」
 「こんばんわ」
 ヘリの座席にすでに腰掛けていた知人2人を見つけ、誠は絶句。
 「菜々美とクァウール…もか?」
 後から来たイフリータは、先客を前にして呟いた。
 先客は2人とも複雑な顔をしている,おそらく何の準備も無しに拉致(?)されたのだろう。
 菜々美は何だか趣味の悪い『苺』と一文字書かれただけのTシャツとジーンズ姿だし、クァウールに至ってはパジャマだ。
 「さぁて、出発進行!」
 ヘリの操縦席でシェーラが気合いを入れて言い放った。
 強引なのはいつものことなので、何も言わない一同であったという―――


 ヘリは数分もかからずに東雲空港の一角に停められた自家用ジェットの脇に着陸した。
 「あ、これって最新鋭のRF−2型やないか」
 流線型をした銀色の機体を見やり、誠は驚きの声。
 今までの小型ジェットとは一線を画する性能と、それに伴う価格を思い出してただただ呆然と立ち竦む誠に、
 「もー、何が何だか」
 「私、今夜のドラマは見ておきたかったんですけどねぇ」
 ぶつぶつと文句を言いつつも、誠の右腕左腕をそれぞれいつのまにやら胸に抱く菜々美とクァウール。
 「…良いではないか。南国の海というのもまた、実際にはなかなか行けるものではないと思う」
 その意見は、何気なく2人から誠を半ば強引に取り返したイフリータだ。
 最近は案外アクティブになっているようである。
 「むー。私はできれば家にいたかったんだけどな」
 こちらは手持ち無沙汰になった菜々美。
 「何か用事があったん?菜々美ちゃん」
 「うん、まぁ……実はお兄ちゃんが行方不明なのよ」
 「「はい??」」
 さらりと言ってのけた菜々美に言葉に、イフリータとクァウールも困惑する。
 「一昨日からなんかの番組で影響されたのかわかんないけど、アドバルーンでアメリカに渡るんだー、とか言って飛んでっちゃったのよ」
 「「風船おじさんかぃ!!」」
 かなり洒落にならないボケにツッコミだ。
 「いや、ホントに。で、今日にはすでに交信不能になっちゃって……ジェット気流か何かに吹き飛ばされたのかしら??」
 「それは……確かにヤバいわなぁ」
 額に汗をひとすじ。誠は引きつった笑みで呟く。
 「あ、でもやっぱりいいや。そんなことで死ぬようなお兄ちゃんじゃないし」
 非常に楽観的に結論づけると、菜々美は目の前の小型ジェットに視線を戻す。
 「早く来いよ!」
 「離陸しますぇ」
 すでに機内への入り口からシェーラとアフラが手を振って待っている。
 「はいはーい。機内食はあるんでしょうね?」と答えながら菜々美は駆け出す。
 「陣内……さらばや」
 「惜しくもない奴を失ってしまったな」
 「案外、皆さん非情なんですねー」
 その後を小走りに誠とイフリータ、クァウールが追う。
 機内は20人ほどが座れる広さがあった。当然、お客は誠達4人しかいない。
 思い思いに席に付き……とは言え、窓際の誠の隣はイフリータが確保し、そのすぐ後ろを菜々美とクァウールが陣取っているので一箇所に固まっているのではあるが。
 低いエンジン音が響く中、機内放送が流れた。
 『あー、当機は民間用航空業界初の亜音速で飛ぶんで、約3時間くらいでエルハザード国際空港に到着する予定』
 業務的な部分がさっぱりなしに、フレンドリー(?)なその声はシェーラだ。
 「シェーラさんやね」
 「そうだな」
 聞きながらイフリータも頷く。
 『なお、アタシは初めて飛行機飛ばすんで、そこんところ夜露死苦』
 「下ろせー」
 「帰りますーー」
 「やっぱり家でドラマ見ますーーー」
 一同は出口に殺到するが既に遅い,自家用ジェットはすでに滑走路を滑らかに滑り始めていた。
 「はいはい、シートベルトは骨盤の位置で締めておくんなまし」
 いつのまに着替えたのか、スチュワーデス姿のアフラが無理矢理に誠をシートに戻した。
 何故か彼女は彼の膝の上に腰掛ける。
 「さ、誠はん。飲み物は何が良いどすか? ビール、水割り、それとも……ウチ?
 彼の頬に細い指を走らせたアフラの額を、菜々美の拳が打った。
 「くぅぅぅ……」額を押さえて涙目のアフラ。
 「離陸の時はスチュワーデスも席につく!」
 「えと、ちょいと注意するところが違うよーな気がせんでもないんやけど?」
 そんなこんなで皆がしぶしぶ席に就くと同時、軽いGを伴って飛行機は離陸した。


 音が追い付くよりも早く飛ぶ銀色の機体の中は静かだった。
 それ故に、突然来た『それ』は静か故に場を騒然とさせる結果となる。
 「うっ」
 「?どないした、イフリータ?」
 誠の隣に腰掛けていたイフリータが、苦しそうに胸を押さえていた。
 「いかがいたしました、お客様?」
 「あ、アフラさん、イフリータが急に苦しがって……」
 荒い息をつき出したイフリータを一瞥、アフラは周囲を見渡し、
 「お客様でどなたかお医者様は…」
 「「いる訳ないでしょ!!」」
 総ツッコミ。
 「いや、いっぺん言うてみたかったんで……」
 「そんなことより、見て!」
 菜々美は苦しむイフリータの肩に触れる。
 触れた彼女の手は、しっかりとイフリータに触れる事はできなかった。
 「イフ……リータ?」
 誠が乾いた声を漏らす,イフリータの姿が消えかかっているのだ!
 「一体…どうして?」
 イフリータは苦しそうに一息ついて誠に倒れ、そして彼の胸の中で呟く様にしてこう言った。
 「け、圏外だ」
 「??」
 「ああ、そういうことどすな」
 1人、ポンと手を打ったアフラに誠は訝しげな目を向ける。
 「ど、どういうことですか?」
 「イフリータは誠はんの家の庭に植わってる桜の精やおまへんか」
 「…ええ、それが?」
 首を傾げる誠。
 「あ、なるほどー」
 と、こちらは菜々美だ。気がついたらしい。
 「そうよ、圏外なのよ、まこっちゃん」
 「……もしかして」
 誠はまさか,という顔で胸の中のイフリータを見る。
 「日本から離れつつあるから?」
 こくり、力なく頷く桜の精イフリータ。すでに姿が半透明になっていた。
 イフリータの本体はあくまで庭の桜の木である。
 さすがに日本国外まで意識体のみを持っていく事はできないのだ。携帯電話のようである。
 「もぅ、私はここまでだ」
 「イ、イフリータ!!」
 「残念だよ、誠。でも私は待っているよ、誠がちゃんとエルハザードのお土産を買ってきてくれる事を。その日を夢見て日本で待っているよ」
 「分かった、ちゃんとおみやげ買っていくからっ」
 まるで死にそうなイフリータ(演技)に、涙目の誠。
 「エルメスのバックとかが良いなぁ、グッチでも可
 何気に指示している所がちゃっかり者だ。
 「分かった、分かったからイフリータ,それ以上喋ったら消えてまうで」
 「あと……浮気したら殺す
 「…早く消えた方が楽になるで」
 手のひらを返したように額に汗の誠。
 そこにクァウールが思い出したように顔を出してイフリータに最後の言葉を投げかけた。
 「イフリータさん、今日のドラマ、録画お願いします!!」
 彼女にグッとイフリータは親指を立てて、そして誠の腕の中で消えていったのだった。
 最大の敵の撤退に、何人の女性が心の中でガッツポーズをしたかは不明である―――


 そろそろ3時間ほど経ったであろうか?
 日本とエルハザードとの時差はおよそ12時間。ジェットの窓の外はお昼の日差しが降り注いでいた。
 上空は空の青、遥か下には海の青。
 青と青に挟まれた空間をジェットは飛ぶ。
 と、
 ガクン、盛大に揺れた。
 「な、なに?」
 「地震ですかね?」
 「…エアポケットかな?」
 クァウールのボケは放置されたまま、そして機内放送が流れる。
 それは陽気なシェーラの声だ。
 『いやぁ、ヤバいよ。なんかどでかい風船が飛んでてさー』
 風船?
 首を傾げた一同は、ふと右翼の見える窓の外に動くものがある事に気付いて振り返る。
 窓の外のエンジンには赤と白のアドバルーンとロープが火花を散らして引っかかっていたのだ。
 そしてそれは唐突に発火、炎上。
 類爆して右エンジンも潰したのだった。
 『でさぁ、多分落ちるわ
 「「ちょっとまてーーーーーーーー」」
 途端、Gが消えた。
 ジェット機はゆらゆらと落ち葉が落ちるかのように降下。
 「シャレにならへん!!」
 ほぼ無重力状態でコックピットへと向かう誠。
 空けた扉の先。
 一面に窓の外には水面が広がっている,直滑降だ!
 そしてスーツ姿のシェーラが操縦桿を掴んで叫んでいる。
 「動け動け動け動けぇぇ!!
 「何をこんな時に優柔不断な少年の真似してるんですかーー!」
 「いやー、もしかしたら隠し機能か何かが出てくるんじゃないかなーって思ってよ」
 「ないないないない!」
 力いっぱい否定して誠。
 慌てて高度計を見る,高度2000m。
 損傷は右翼全壊,左翼に著しい風圧がかかり構造に負担がかかっている。
 「ともあれ!」
 誠はシェーラの握る操縦桿に後ろから手を合わせる。
 「思いきり引きます! ともかく機体を水平に安定させんと!!」
 「おぅ!」
 びくともしなかった操縦桿はしかし、誠とシェーラの2人がかりで徐々に引かれて行く。
 同時、少しづつ視界に広がる水面が眼下へと移って行く。
 それが半分くらいのところまでが限界だった。
 すなわち、機体は水面に対して30度ほどの角度で突っ込む!!
 どががががががが!!!
 「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
 海の中に盛大な波が上がり、銀色の左翼がもげ飛んだ
 着水(?)の中、誠は窓の外に海の青と空の青。そしてその中にいくつかの緑色があるのが目に入った。
 出来れば死にたくないなと、切実に祈りつつ体を打つ衝撃に意識が飛んだ―――


 運が良かったととしか言えないだろう。
 両翼のもげたジェット機は水面を滑る小石のように海に着水。
 目の前に陸地を臨んで止まったのである。それも砂浜であったのが幸運中の幸運だ。
 機体の半分をめり込ませ、クッション代わりにして止まったのである。
 「いやぁ、死ぬかと思ったなぁ」
 「フツー、死んでますよ」
 砂まみれの呆れ顔で、誠は爽やかに笑うシェーラにツッコミを入れた。
 「まぁ、怪我人がおらんで良かったわ」
 こちらはアフラだ。ジェット機の中から使えそうな荷物を取り出しながら言う。
 「でも一体何だったんでしょうね、引っかかった風船って?」
 「……お兄ちゃんの使ってたアドバルーンに似てたわ」
 クァウールの問いに、菜々美はポツリと呟いて、しかし首を横に大きく振った。
 「そんな訳ないわね」
 「そんなことよりも、これからどうするかだな」
 シェーラが立ち上がり、言う。
 「そうですね、ここは何処だと思いますか、シェーラさん?」
 「エルハザードの領海内には入ってるとは思うんだが……数ある無人島の1つかもしれないし、どこか半島の海岸線かもしれないな」
 「ウチは後者である事を期待するわ、でも可能性は薄いかもしれへんわ」
 「どういうことです?」
 アフラの言葉に誠は問う。
 「有人の地なら、あんな派手な落ち方したんどす,誰かが見に来てもおかしくないはず」
 「……確かに来ないわね」
 菜々美は周りを見渡しながら同意した。
 見渡す限りの砂浜は弧を描いており、両端ともその先に何があるのかが分からない。
 陸地の方を見やれば、小高い山とそれを囲む密林だ。
 はっきり言って人の気配は皆無だった。
 「通信機とかはどうなんですか?」
 クァウールが心配そうにアフラに尋ねた。
 アフラは苦い顔で首を横に振る。
 「海水と着陸時の砂にやられてまいましたわ。望めるのはウチらが消えた事を空軍のレーダーが捕らえていれば……くらいどすぇ」
 一同に重い沈黙が生まれ始める。
 それを破ったのは誠だった。
 「駄目ですよ、悩んでいても仕方ないわ。ともかくここがどこかの半島なのか、それとも無人島なのかをはっきりさせましょうよ」
 「そうどすな。もしも無人島の場合、早急になくてはならないものも探しませんと」
 「なくてはならないもの?」
 首を傾げる菜々美にクァウールが小さく微笑んで答えた。
 「水と火ですね」
 「火ならここにあるぜ」
 シェーラが懐から取り出したものは……拳銃。
 いつしか彼女は口に煙草を咥え、
 ズキュン!
 銃声とともに紫煙を口から吐き出した。
 「アンタはもっと事をスマートにできへんの!?」
 「いいじぇねーか、終わり良ければ全てよし、だろ?」
 「そんな短絡的やから、今みたいになるんやないの!」
 いつもの口論を始めた2人に誠は「水の方はお願いします」と声をかけ、自らは陸地の山の方へ目を向けた。
 そんなにも高くない山だが、頂上に行けば海岸線がどのように形を成しているか分かるだろう。
 「さて、と」
 「私も行くわ、まこっちゃん」
 「私もお供します」
 菜々美とクァウールに声をかけられ、誠は改めて2人を見る。
 Tシャツにジーンズの菜々美は良いとして、クァウールは問題だ。
 「クァウールさん。さすがにパジャマ姿で登山は無理だと思いますんで……ここを中心にして着替えになりそうなものとか、身辺の整理をお願いします」
 「あ……それもそうですね」
 ぺろり、舌を出してクァウール。
 「それじゃ、お願いします」
 「行ってくるわね」
 「行ってらっしゃいませ」
 こうしてクァウールをその場に残し、誠&菜々美は目の前の山の頂上まで,シェーラとアフラは水の探索に向かったのであった。


 人の手の入っていない森ほど歩きにくいものはない。
 数歩進んだだけで目の前に蔦が生い茂ったり、巨大なクモの巣があったり、巨木が倒れて道を塞いでいたりするものだ。
 「まいったなぁ」
 再び蔦でできた壁を目の前にして誠は疲れた声を上げる。
 「子供の頃を思い出すね、まこっちゃん」
 その彼の後ろで、やや楽しげに言うのは菜々美だ。
 「子供の頃?」
 「よくお兄ちゃんと3人で裏山を探検したじゃない。あんな感じよね、ここも」
 「うーん……ここまで凄くはなかったような」
 そこまで言って思い出す。
 子供の頃、どうやって裏山とは言え自然の固まりである山の中へと入っていったかを。
 「こういう時は獣道をあの頃よく探したなぁ」
 「そうよね、子供の視線の高さだと…結構見つかったわよね」
 2人同時にその事に思い至り、しゃがんで低い視線となる。
 すると誠の通ってきた途中に、いのししか何かが使っていると思われる獣道が一本見つかった。
 「大きくなっちゃった今だと、屈まなきゃいけないけど、ね」
 苦笑いを浮かべて菜々美。
 「そやね。でもずっと歩きやすいわ」
 微笑む誠の、中腰の背中を見つめる菜々美。
 その背中に昔、同じようにして彼女が追っていた小さな背中を重ねて。


 山は中腹から岩がむき出す岩山となっていた。
 慣れない足取りで進む2人は、やがて頂上の辿り着く。
 「見た目よりも楽だったわね」
 「……うん」
 誠の返事は暗い。
 それはそうだ,菜々美にしても今のは目の前の現実を紛らわせる為に言っただけなのだ。
 ここはずばり、無人島だった。
 いや、無人島群の1つと言った方が良いだろう。
 周囲にはいくつかの小島が連なって見える。きっと船か何かを作って島から島へと渡っていけばその内にポリネシアとかに到着するんではなかろうか?
 そんな感じなのである。
 「やっぱり無人島やったか」
 「まぁまぁ。きっと助けが来るわよ」
 がっくりうな垂れる誠の肩を菜々美はぽんぽんと叩く。
 ふと彼女は思う。
 結構昔まではこんな光景――遭難ではなく、こうして2人でいることは日常茶飯事だったことを。
 何だか今この時間はとても久しぶりでいて、そして懐かしい気がした。
 菜々美はしかし首を横に思い切り振る。
 「何だか今、場違いな事を思っちゃったような気が」
 「なんか言うた、菜々美ちゃん?」
 「う、ううん、何でもないよっ」
 下山しながら菜々美は苦笑い。
 その時2人は気付いていなかった。
 登山の途中から今まで、そしてこれからも、2人の姿を捉えて離さない存在がある事を。


 「えーっと」
 戸惑う誠。
 下山して機体跡地に戻った2人を待っていたのは、水着姿の3人の女性の姿だった。
 「あ、おかえりなさい、誠はん」
 ビーチパラソルの下で文庫本を片手にアフラ。
 日焼けを嫌っているのか、薄翠色のワンピースの水着の上には同色のパーカーを着込んでいる。
 「川が見つかったよ、こっからちょっと行った所にあるぜ」
 こちらは砂浜にうつ伏せに寝るシェーラだ。
 面積の小さな赤いビキニの上を紐だけ外して、砂浜で甲羅干ししていた。
 「お二人も泳ぎませんか?冷たくて気持ち良いですよ」
 海の中から声をかけるのはクァウールだ。
 こちらは誰が買ったのか、白いスクール水着なんぞを纏って、浮き輪片手にぷかぷか浮いている。水から上がったところを誠は恐らく見ることは許されないであろう。
 何はともあれ、3人に共通して言えるのは緊張感が皆無という所だ。
 「あの……ここ、無人島でしたよ」
 「あ、やっぱりなぁ」
 誠の悲痛な宣告にも、シェーラが気楽に応じただけ。
 困った顔で額をぽんぽんと叩いた誠は、救いを求めるように菜々美に振り返り、
 「私も泳ごっと。アフラさん、水着って私の分あるの?」
 「ええ。客室においてありますぇ。誠はんの分もありますわ」
 「だってさ。一緒に着替える?
 ニヤリと笑みを浮かべる菜々美を、誠は直視できなかった。
 「何でやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー」
 涙を散らせて砂浜を駆けて行く。
 『遭難』という言葉を唯一理解していたのは彼だけのようだ。
 いや……単に深刻に捕らえすぎなのかもしれないが。
 誠は水平線と平行に走りながら、やがて息が切れて海を見つめる。
 彼の心の中には鬱憤が溜まり、それが声となって海の彼方に向かって吐き出された。
 「なんでこないなことになってしまうんやーーーーーーー、いっつもいっつも!!」
 声は響く。
 響く己の声に空さを感じる。
 よくよく考えれば女性陣は完全にバカンスとしてこの状況を楽しんでいる。
 この気の持ちようのギャップも悲しい所だ。
 こうして現在に至る訳である。
 果してこの無人島生活は巧く行くのか?
 救助は来るのか?
 何よりも、誠の貞操の危機は??
 森の中からの視線に誰1人として気付く事なく、物語は後編へと続くっ!


Be continued ...


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