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* 前回までのあらすじ

 物語は夏休み。
 誠達はエルハザードに住むファトラ王女から遊びに来るように招待された。
 しかしその途中、一行を乗せた小型ジェット機は墜落。
 無人島に着陸してしまった。
 果して誠はイフリータの待つ東雲へ帰る事ができるのだろうか?
 それともこの無人島で貞操(?)を奪われてしまうのか?!



そーなんです



 「っは!」
 誠は背後に視線を感じて振り返る。
 しかしそこはただの砂浜と、少し歩いた所に鬱蒼と下森の入り口があるだけだった。
 「……なんや、変な視線を感じたような気が」
 「変な視線?」
 「ええ、僕を狙うような鋭い気配が…って?!」
 すぐ傍から聞こえた声に誠は思わず後ずさる。
 「べ、別に狙ってねーよ」
 いつの間にやら誠の隣で、慌てて首を横に振りながら言ったのはシェーラ=シェーラだった。
 出る所は出て、引っ込む所は引っ込む彼女のボディラインは、今は薄い布のようにしか見えない面積の小さなビキニで僅かに隠してあるだけだ。
 思わず誠は一歩、彼女から何故か前かがみに身を引いた。
 「? 顔色悪いな、誠」
 「え、いや、そうですか?」
 一歩近づくシェーラに一歩離れる誠。
 「?」
 一歩近づき、
 「……」
 一歩離れる。
 シェーラはいぶかしげに誠を見つめ、そして背後の海に振り返る。
 ぽん、何かに気が付いたように彼女は両手を打った。
 「子供じゃねぇんだから、海に叩き込んだりしねぇよっ!」
 笑いながら、しかし誠に飛び掛かって小脇に彼の頭を抱える。
 「ぐ、苦しい……」
 見た目は細腕ながらもとんでもない怪力のシェーラの右腕に首を絞められ、かつ彼の左頬には妙に柔らかいものがほとんど直に押し付けられた。
 「そんな暗い顔すんなよ,救助ならきっとすぐ来るさ。だから陽気に行こうぜ!」
 ぐいぐい彼の首を小脇で締め付けながら、同時に彼女自身も気付いていないが彼の顔に胸を押しつけながら笑って言う。
 「ちょ、ちょっとシェーラさ……胸が」
 「? ………?!」
 シェーラは小脇に抱えた誠の頭を眺め、疑問符を浮かべる事しばし。
 そして露出の高い己の胸に彼の息を感じて、慌てて解放した。
 「あー、えーと。よーするに元気出せってことだ、うん」
 「は、はぁ」
 微妙に首を斜め45度に曲げたまま、誠は分かったような分からないような返事。
 対してシェーラは真っ赤に染まった顔を誠から見えない方向に背けていた。
 “アタイ、なにやってんだ? 今、何やった??”
 先程までの己の行動を思い返す。
 それはよくアフラに対してやっている事だが、今の自分の格好と相手があくまで誠という事を思い出し、思わず思考が停止した。
 “あぅあぅ……どうでもいいけど暑いなぁ、真夏だぜ!”
 直射日光も手伝ってシェーラの思考はおかしな方向へと向き出したようだ。
 “そうだ、夏だ。夏は開放的だよな! それにここは無人島,おまけにイフリータもいないぜ”
 「あのー、シェーラさん?」
 “よくよく考えたら今しかないんじゃないのか? そうだ、今しかないじゃねぇか!”
 「もしもし、起きてますか、シェーラさん??」
 “よし、アタイは行くぜ! 誠を、誠をぉぉ!!”
 シェーラは、ばっと己のビキニの上を脱ぎ捨てた!
 ボリュームのある双丘がフルリと震えてお日様の下に晒される。
 その勢いで彼女は誠に抱き着き、迫った。
 ……想像の中で。
 「シェーラさん?! ちょっとぉぉ!!」
 端から見ると薄気味悪いとしか思えない笑みを浮かべたまま、シェーラは熱中症で砂浜に顔から倒れ伏したのだった。


 「なんや、幸せそうな顔で寝る子どすなぁ」
 アフラはパラソルの下、彼女の隣で横たわる同僚を眺めながら呟いた。
 「何の夢、見てはりますのやろ?」
 「さぁ? でもびっくりしましたよ、急に倒れるんですから」
 「誠はんもしっかり帽子かぶっておいた方が良いどすぇ」
 「そうですね」
 頷き、しかし手元にはないのでパラソルの下,シェーラを挟んで砂浜の上に腰掛ける。
 「でも役得でしたなぁ」
 文庫本に視線を戻したアフラはぼそりと言った。
 「何がですか?」
 「この子の背負い心地は如何どす?」
 「?! な、なにを言うんですかーーー」
 先程のシェーラのように顔を真っ赤にして誠。
 そんな彼の反応が意外のように思ったのか、アフラは続けて問う。
 「そんなん、イフリータので触り馴れとりますやろ?」
 「馴れてません! って、そんなことしてません!!」
 「え……」
 力一杯否定する誠にアフラはパラソルの下から逃げ出した。
 「誠はん、アンタやっぱり男の方が……」
 「違いますっ!!」
 「なら、何で男女一つ屋根の下で何もあらへんの??」
 心底謎という表情一杯で問うアフラに、誠は空を見上げて困った顔で呟いた。
 「いえ、何もない訳でもないですけど、でも何もないと言うか……って何をメモとってるんです、アフラさん!!」
 「水原誠観察日記」
 「変なもの記録しないでくださいっ!」
 アフラはそんな誠に呆れ顔で溜息一つ。
 「誠はんもイフリータも国宝級の奥手みたいやねぇ」
 「そ、そんな事ないと思いますよ」
 しかし自信なさげに誠は反論。
 「ほなら、イフリータを隅々まで見慣れてるんどすな?」
 「……言い方がものすごくいやらしいですね」
 「いやらしいと思うからそう思うんどす。で、どうなんで?」
 「そ、そんなの……見慣れてますよ」
 あさっての方向を眺めたまま誠は返答。
 「ほな、ちょっと正面見てみてくださいな」
 「はぁ?」
 誠は視線を前へ。
 「誠さんは泳がれないんですか?」
 いつ海から上がったのか、問う声は誠の目の前。
 まだ、全身濡れたままのクァウールだった。
 白いスクール水着などという破天荒なものの下に、無防備にも何も着ずにいる、濡れた彼女の肢体を前に誠は。
 鼻から一筋の赤い線が走った。
 そしてシェーラと並んで砂浜の上に倒れる。
 「どうされたんですか?! 誠さん!!」
 慌てて彼の横に駆け寄るクァウール。
 「アフラ、誠さんは一体?!」
 アフラは慌てるクァウールを一瞥。
 そして一言呟いた。
 「帽子かぶらんかったから、熱中症やおへんか?」
 濡れた白い水着の下に、しっかりと透けて見えるクァウールの体を眺めて、アフラは興味を無くしたように文庫本に戻ったのだった。


 誠が目を覚ましたのは西の空が僅かに赤くなる頃だ。
 額を押さえて現状を把握する。
 把握して、遭難している事を思い出し、把握した事を後悔した。
 「あ、起きたわね、まこっちゃん!」
 元気な乙女の声は菜々美だった。水着からTシャツ姿に戻っている。
 「そろそろ晩御飯だからね,眠かったらちゃんと顔洗ってよ」
 言い残して彼女は墜落したジェット機の方へ。
 誠はそちらに目を向けると、小さなテントが張られてその傍には煙が一筋上がっていた。
 香りが僅かに流れてくる、魚を焼いているようだ。
 微少の香りはそのまま彼のお腹を鳴らせた。
 「ま、なんとかなるわ」
 一番星が見え出した茜色の空を見上げ、誠は踏ん切りが付いたように立ち上がる。
 と、鋭い視線を感じた!
 感じる方向――浜の向こう,森の中へ視線を走らせる。
 しかしそこには奥暗い茂みが風で葉を揺らしているだけだった。
 「……何やろ?」
 気のせいと思う事にして視線を菜々美のいる火の元に戻す。
 と、近づいてくる人影があった。
 「シェーラさん、具合は良くなりました?」
 菜々美と同じくTシャツ姿のシェーラは照れくさそうに頷いた。
 「すまねぇな,ところで……」
 シェーラは左右を見回して他に誰もいない事を確認すると、小声で誠に尋ねた。
 「アタイがぶっ倒れてるとき、何か寝言みたいな事言ってなかったか?」
 「寝言、ですか?」
 「あ、ああ」
 誠はうーんと唸る。何かぶつぶつ言っていた気もするが、特に気に留めていなかったので思い出せない。
 対するシェーラは誠の返答を死刑宣告を受けた囚人のように息を呑んで待っていた。
 「なんか言っていた気はしますけど……すいません、聞いてませんでした」
 「そ、そか」
 シェーラはほっとしたような、僅かに残念そうな複雑な顔で頷く。
 「寝言になにかあるんですか?」
 「いや、何もないぞっ! あれば良いと思ったけど、なかったならそれでいいんだ、うんうん」
 「??」
 シェーラの態度に首を傾げる誠。ふと西の空に光るものを見つけた。
 「あ、一番星」
 何気なく指差す誠。
 「金星か? 明るいな」
 並んでシェーラも微笑を浮かべて見つめた。
 と、
 輝く星が次第に大きくなってくる。
 「さすが南の島だと星が大きく見えますね」
 「……そういうものなのか?」
 シェーラはなんとなくそれは違うと思いつつも、しかし今がなかなか良いシチュエーションだと気付く。
 南の島,砂浜,すぐ傍にはうるさいのがいない,一番星を見つめる男女――――
 “落ち着け、落ち着け、アタイ!!”
 シェーラは深呼吸。お昼のような失態は許されない。
 「シェーラさん」
 「へ?」
 いきなり誠が彼女の右手を掴んできた。
 “誠?! ちょっと待て、アタイはまだ心の準備がっ!”
 思い切り引き寄せられる,がまだ心の準備ができていない。
 シェーラは案外力強く引っ張る誠に抵抗した。
 「シェーラさん!!」
 「ま、誠!」
 耐え切れなくなって叫ぶ誠に、シェーラはようやく目を向け……
 一番星が目の前に迫っていた。
 「あれ?」
 シェーラにはその時、自分の声がまるで他人のように聞こえていた。
 一番星―――それは見る見る間に大きくなって行き、人型を取ったのだ!
 誠は衝突軌道上にあるシェーラを思い切り引っ張るが、何故か動いてくれない。
 一番星はやがて、彼らの知る者の姿を取った。
 「よっ、誠!」
 「ファトラさん?!」
 どがしゃ!!!
 空をまるでパーマンかスーパーマンの如く飛んできたのはエルハザードの王女。
 彼女はぼーっとしていたシェーラにそのまま衝突すると、砂浜に2人して埋まったのだった。


 「人間大砲っていう発明があってな。使ってみた訳じゃ」
 魚に荒塩をふって焼いただけのものを美味しそうに頬張りながら、ファトラはさらりと言った。
 「ボリジョイサーカス?!」
 「で、ファトラはん。ウチらの位置はどうして分かったんどす?」
 「ああ。シェーラのイヤリングにわらわが個人的に装置を仕込んでおいたのじゃ」
 「げ、マジかよ」
 シェーラは苦い顔で両耳に光るイヤリングに触れた。
 「その位置情報は他の者には?」
 「むろん、知る所ではない」
 偉そうに胸を張って答えたファトラに、一同はがっくりと俯いた。
 「何じゃ何じゃ。こんな事もあろうかと携帯電話をわらわは持っておる」
 一同が一斉にファトラを取り囲んだ。
 その中心でファトラは懐から携帯電話を取り出し……
 「あ、圏外じゃ」
 とてつもなく大きな溜息の一同。
 「やっぱりPHSはダメじゃな」
 「「王族がPHS使うなっ!!」」
 ツッコミがはもった。
 「まぁ、きっと救助が来るじゃろう。それまで楽しもうではないか」
 ファトラの答えは、誠を除く昼間までの一同の答えと同じだったのだった。


 夜もある程度更けてきた頃、菜々美が立ち上がる。
 「どうしたの、菜々美ちゃん?」
 トランプを片手に誠。
 「あ、ちょっと、お花を摘みに、ね」
 苦笑いしたまま、菜々美は森の茂みに消えていく。
 やがて数分。
 「キャーー」
 叫び声が響き渡る!
 それも最後の方は口を塞がれたかのような尻すぼみだ。
 はっと一同が立ち上がる。紛れもなく今のは菜々美である。
 森を見つめる……がそれ以上の動きはなかった。
 誠が森に向かって駆け出そうとするのをシェーラが停める。
 「アタイとアフラが行く。誠は2人を頼む」
 緊張した声でシェーラが焚き火の前の2人を親指で示し、アフラと頷き合うと2人して森の中へと消えて行く。
 そして、消えたままだった。


 「参りましたね」
 「困ったな」
 「どうしましょう?」
 焚き火を囲んで3人―――誠とファトラ、クァウールは悩んでいた。
 菜々美が消え、シェーラとアフラも戻ってこない。
 すでに2時間は過ぎてしまっていた。このまま行動を起こさずに朝まで待つべきか、それとも何が起こるか分からないが森に飛び込むべきか?
 誠はすぐにでも探しに行きたかった。が、無闇に3人をどうにかした相手の領域に踏み込む事は同じ運命をたどる事必至だ。
 まだ、心の衝動に理性のブレーキがかかっていた。
 ファトラにしてもそうである。もっとも彼女の場合、自分がつっこんでいって何かあった場合、残る誠とクァウールでは誰も守れる者がいないという心配が付随していたが。
 「朝まで待ちますか?」
 「それしかなかろう」
 苦渋の誠の問いに、ファトラが答える。
 その時だ。
 「あれを!」
 クァウールが森の中を指差した!
 「「?!」」
 誠とファトラは身構える。
 1つ、焚き火の光に反射して獣の者と思われる一対の目が光っていた。
 それは1つ、また1つと増えて行く。
 やがてそれが100対、すなわち200ほどの光点になった時、
 「「うぉぉぉぉん!!」」
 一斉に吼えた。
 人のものでもなく、犬のものでもなく、あきらかに獣の声。
 まるで火にすがる3人をせせら笑うかのような挑戦の雄叫び。
 「な、なんでしょう、あれは?」
 いつの間にやら誠の右腕を胸に抱いて震えるクァウールが尋ねた。
 「な…なんやろね?」
 「言える事はわらわ達も狙っておるという事じゃろうな」
 森の中を睨み、挑戦的な笑みを浮かべてファトラが応える。
 「やはり3人は捕まってしまったんでしょうか?」
 恐る恐る問うクァウールに王女はあっさりと答えた。
 「食われたか…もしくは浜田雅敏も鼻血を噴くほどのえっちな事をされているか…それはそれで羨ましいではないかっ、くぅぅ!!」
 「ひぃぃ!」
 いっそう誠にしがみつくクァウールを横目に誠は呆れた顔でファトラにツッコミ。
 「あのー、そこは怒る所ちゃいますよ」
 「わらわならばあんなことやこんなこと…はてはそんな事までしてやるぞ、ぐふふぅ」
 いつの間にやら自分の世界に飛び込んでしまったファトラに溜息を吐き、誠は森と、そして焚き火を見比べた。
 「……どうしますか、誠さん?」
 心配を顔いっぱいに表わしたクァウールに誠は優しく微笑むと砂浜の上に腰を下ろす。
 「探しに行きたいのは山々やけど、全員が犠牲者になりかねんわ。朝まで待つしかあらへんなぁ」
 「で、でも、菜々美さん達がファトラ様のおっしゃるあんなこととかそんなこと……されちゃってたら?」
 恥ずかしそうに上目遣いに問うクァウール。
 「そんなか弱さがあったら、僕も日々が楽になるんやけどね」
 案外薄情…というか一応学習能力はあるらしい誠だった。
 しかし誠のその判断にクァウールは不満を漏らす。
 「…では誠さんは私が菜々美さん達の立場だったら、やっぱりここで朝を待ちますか?」
 青年はうっと唸り、そして空を見上げる。
 「……星がキレイやねぇ」
 「誠さんっ!」
 そして、夜が過ぎていった。


 翌朝。
 鬱蒼と茂る森を前に、誠は腰に差したナイフを確認する。
 アフラの荷物に残されていたものだ。刀身は30cmほどで湾曲している大振りなもの。
 何故彼女がこんなものを持っていたのかは、誠は想像しない事にした。
 同じように彼の背中に隠れる様にしているクァウールは、ファトラから渡された短銃を胸の上から抱く。
 最後に憮然とした顔のファトラだ。結局、昨夜は1人で森の中へ行こうとしたのを二人に止められたのである。
 「では行きますよ」
 「はい」
 「ああ」
 やがて間もなく、小さな草木が倒された、明らかに争った後のような空間に辿り着く。
 「何か手がかりがあるかもしれへんな」
 「相手は爪のある生物みたいです」
 木に刻まれた引っ掻き傷らしきものを見つけてクァウール。
 「案外小さな動物の様じゃの、しかし数は多そうじゃ」
 多数の足跡を見つけたファトラ。子供の足くらいの大きさの、猿人の様にも思える。
 そして誠は見つけた、白い四角形の紙片を。
 「これは?」
 誠は拾い上げる。
 それはA5の大きさの、文字がタイプされた紙だ。
 誠はそれに見覚えがあった。
 「アフラさんの読んどった文庫本や……あそこにも」
 少し進んだ所にも一枚落ちている。
 それを拾うと更に進んだ所にもう一枚。
 「連れて行かれたと見て良いのぅ」
 「これを辿っていきましょう」
 2人は頷き、アフラの遺した次の紙片を探した―――


 時は結構溯る。
 深夜だ。菜々美は後ろを歩くシェーラに問う。
 「何処に連れて行く気かしら?」
 「知らねぇよ。アフラに聞いてくれ」
 「ウチも知らんわ」
 シェーラの後ろを行くアフラから呆れた返事が返ってきた。
 その3人を威嚇しながら先を促すのは……大量のサルである。
 オラウータンほどの大きさはあろうか,しっかりと連携が取れていた。
 3人を囲む最も内側のサルの手にはそれぞれ尖った石片の付いた槍が握られていることから驚くほどの知能があるとも察せられる。
 「なー、アフラ。こいつら一体何なんだ?」
 「だからなんでウチが知ってるんおます?」
 無駄口を叩くシェーラをちくちくと槍で刺しつつ、サルは先を促した。
 「あー、分かったから刺すなっての!」
 やがて一行は拓けた岩場に辿り着く。
 目の前には岩壁と、ぽっかり開いた洞窟。
 ちょっとした広場になっているそこは、月明かりに明るく照らされていた。
 その中央、たくさんの果物に囲まれてまるでサル達のボスのようにどっかりと腰を下ろしている何者かの姿がある。
 薄雲に隠れていた月が夜空から顔を出した。
 照らされるその姿に、3人は絶句。
 そいつは、卒業したのに東雲高校のブレザーを着用。
 相変わらずの七三分けの髪、青白い肌。
 そぅ。サル達に王の如く指示を下していたのは、あの陣内克彦だったのである―――


 文庫本が半分ほど出来上がる頃、捜索隊である3人は気配に気が付いた。
 「いますね、この先に」
 「ああ、気をつけろよ」
 クァウールは無言で頷く。
 「取り敢えず、木陰から覗いてみましょう」
 誠を先頭に、一行は拓けた広場に視線を向けた。
 そこでは…………
 山と積まれた果物を摘まみながら、サルのような生物にうちわで風を送らせる3人の女性の姿があった。
 そして背後に開く洞窟の傍には、何故か猿ぐつわを噛まされて縛られ転がされた陣内の姿が1つ。
 「えーっと」
 「どうなってるんでしょうね?」
 「いや、なんとなく分かる気がするが」
 戸惑う3人を見つけたのはシェーラだった。
 「おぅ、遅かったじゃねぇか。そりあえずこっち来いよ!」
 元気そうだ…というかむしろ昨日よりも元気だった。
 「どないなってんねん?」
 「実はね、お兄ちゃんがここに不時着してたみたいでサルの王様になってたのよ」
 菜々美がかなりはしょって説明する。それをアフラが補足。
 「陣内はんは何故か野性化して記憶がおかしくなっておました。だからそこに転がしてますぇ。で、陣内はんを倒したウチらをサル達はボスと認めたみたいおすなぁ」
 「そうなん…ですか」
 誠たちを囲むサルからは新たな3人に対する警戒はあるものの、敵意は感じ取れなかった。
 「でもお兄ちゃんがここに不時着してるなんてねぇ」
 洞窟の片隅でうんうん唸る兄を眺めながら妹。なかなか薄情だ。
 「ともあれ無事で良かったわ。ん?」
 キーンと音がして誠は周囲を見渡す。
 同じく聞こえているのだろう、一同はきょろきょろと何かが飛んでくるようなその音を探して見渡し……一斉に上を見た。
 何かが降ってくる!!
 「ぎにゃーーーー!」
 それは見事、ファトラの上に降ってきた。
 地面に半分埋まった王女の背に立つのは、20代後半の穏やかな顔立ちをした女性だ。
 誠はその人を知っていた、もっともTVを通してだけの一方通行であったが。
 「ファトラ、こんなところにいたのね」
 地面に埋まった王女の襟を摘み上げ、彼女は少し怒った風に言った。
 「あ、姉上……何故ここに?」
 うめく様にファトラ。
 そう、降ってきたのはエルハザード第一王位継承者・ルーン王女であった。
 「いつも何処に行くか分からない貴方の服には、私が発信機を仕掛けているのです」
 「どうやってここまで?」
 「貴方の部屋にあった人間大砲とかいうものを使いました。ちょっと恐かったけど」
 案外チャレンジャーだ。
 「さ、帰りますよ」
 ルーンはそこまで言ってから辺りを見回した。
 周りは森である。
 そして空から降ってきたルーンを女神様か何かと勘違いしたのか、サル達は誠たちを無視してルーンを一斉に拝んでいた。
 「えと……ごめんなさい、ここは一体何処ですか?」
 後先考えない場面があるのは、姉も妹も同じらしいと誠は心底思ったのだった。
 結局、無人島での暮らしはルーンをも交えてあと5日間も続いたそうな。


 後日談
 ………というわけで酷い目に会ったで」
 「お疲れ様、誠」
 そう言って微笑むイフリータは両手を差し出している。
 「??」
 握手でもないようだ、誠は首を捻る。
 「それで。お土産は何?」
 「あ……」
 すっかり忘れていた誠は、しばらくイフリータに無視されたとか………


 後日談その2
 「うっきーーー」
 「「うっきーーー」」
 すっかり無人島に忘れられたままの陣内は、再び自分の王国を築いたとか。


The End


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