Elhazard The Shudderly World !! 



戦慄の世界 エルハザード

第八夜 終戦の世界へ



 霊峰マルドゥーン。
 世界の天井が如き遥か高い頂に、旅行者と思われる男女が訪れていた。
 一人は男,不精髭を生やし、背には登山と旅に必要な道具や食料の詰まった大きなバックパックが目立つ。
 もう一人は女,長い髪を纏め上げ、涼やかな表情の中にはひどく優しげな色が垣間見える。
 彼女の背には穏やかな寝息を立てる赤子が一人。
 藤沢夫妻である。
 彼らは大神官以外には滅多に出入りのないマルドゥーンの大神殿に足を踏み込む。
 澄んだ空気と目に見えない緊張が満ちた石造りの建造物だ。
 三人が進んでほどなく、一人の少女が待ち構えていた様に通路に立ちすくんでいる。
 声をかけるのはその少女。
 「お久しぶりです、ミーズ様,藤沢様」
 深く頭を下げる。
 「お仕事はしっかりやっているかしら? クァウール」
 「元気そうでなによりだよ」
 笑顔を向けるミーズと藤沢。
 と、ミーズは神殿をキョロキョロと見渡し、問うた。
 「ところでシェーラとアフラはどうしたの?」
 「出かけましたわ」
 ミーズの背中の子に視線を向けながらクァウールは答える。
 「残念ねぇ…せっかく美味しい物を差し入れに持ってきてあげたのに」
 「出かけたっていうとロシュタリアか?」
 藤沢の言葉にクァウールは小さく首を傾げ、考える。
 「どうなんでしょう? 私用だとかおっしゃってましたけど」
 「どうせクァウールに全部雑用押しつけて遊びに行ってしまったんでしょう。困った子達ねぇ」
 「ミーズ様、立ち話もなんですし、奥の間へどうぞ。もちろん泊まって行かれるんですよね?」
 「ええ。たまには貴女のグチを聞いてあげないと、ストレスが溜っちゃうでしょう?」
 「え、そんな…」
 ウィンクして微笑むミーズに、クァウールは困った顔を浮かべるだけだった。



 その頃のシェーラは一人の男と対峙していた。
 マルドゥーン山の麓,街道沿いに南へ向って歩いていた彼女は偶然通りかかったエアボートにヒッチハイク。
 止まってくれた(半ば無理矢理止めた)エアボートには、彼女の知っている顔がいたのである。
 「貴様!!」
 「青瓢箪かっ!!」
 東雲高校のブレザーを着込んだ男の名は陣内 克彦。
 バグロムの司令官としてエルハザードに名高い悪党だ。
 シェーラは反射的に炎のランプを発動させる。
 紅蓮の炎が彼女の体を包み、敵意は炎という形で陣内に向けて放たれた!
 しかし陣内は迫り来る炎に恐れるそぶりすらない。不敵な笑みを浮かべたまま、シェーラを見下ろしている。
 「焼き尽きろ!」
 炎がシェーラの殺意に呼応し、陣内を焼き尽くす!!
 かに見えた炎はしかし、まるで水をかけられたかのように存在を抹消された。
 「え?」
 「ご苦労、イフリーテス」
 「ったく、何よ、知り合いなの?」
 ぶつぶつと文句を流しながらエアボートの甲板に上がってきたのは長い黒髪の女性だ。
 明らかに機械と思われる杖を手にしている。
 「何をもめてるの?」
 彼女の後ろからはもう一人の女性の声。
 彼女は面倒くさそうに甲板に上がると同時、彼と対峙している女性の姿を確認して絶句する。
 「シェーラ? どうしてこんなところに??」
 「菜々美じゃねぇか? なんでコイツと一緒にいやがる??」
 ビッと人差し指で陣内を指差しながら、不快そうに菜々美を見上げるシェーラ。
 それに対し菜々美は彼女の後ろに風景として映るマルドゥーンを改めて目にし、己の質問の答えを導き出す。
 「色々あってね。今は取り敢えずは目的が同じだから一緒にいるのよ」
 「どうした、菜々美? 誰かいるのか??」
 新たに現れたハスキーな声に、シェーラは息を呑む。
 そして改めて陣内を睨みつけ、菜々美を見た。
 2人の間に敵意のない緊張が走る。
 それを解いたのはシェーラの方だ。彼女は地面を蹴ってエアボートの甲板に飛び乗った。
 「……場合によってはアタイも協力してやる。何があった?」
 そしてエアボートは炎の大神官を降ろすことなく、南へと滑って行く。



 天空の階段をミュリンはジッと見つめる。
 神の目へと通じるその装置の前には、賢人ストレルバウを始めとしたロシュタリアの研究機関に属する者達が各々手を動かしていた。
 準備の整う一週間後、ここと、ここから通じる神の目はミュリンを主人公とした舞台に変わる。
 これまでその存在だけで脅威となってきた神の目。
 異界より侵入者を招き入れることとなった神の目。
 敵とは言え、あれだけ手こづっていたバグロムを数瞬にそてこの世から消してしまった神の目。
 これは人の手に余る先文明の遺産だ。
 ”私が封じないと、ね”
 「どうしたの? ミュリン??」
 「何でもないわ、イフリーナ」
 侍女の服装を身に纏って彼女の隣に控えるイフリーナに、ミュリンは笑顔を向ける。
 それを見て、機械であるからこそのイフリーナは不審に思った。
 ミュリンの笑顔はいつもの笑顔だけれども、しかしその裏では泣いているように見えた事に。
 だから彼女は自らの意思で、ミュリンの傍にいる。
 初めてイフリーナを鬼神と知らないまま、出来た友達だから……。



 「まったく、面倒くさい。そう思わないか、パルナス?」
 「うわわっ、変なトコ、撫でないで下さいよっ!」
 「顎の下を撫でるのがそんなにイケナイことかい?」
 「気持ち悪いんですっ!」
 「なぁに、慣れればそれは快感に」
 「慣れたくないぃぃ〜〜〜!!」
 翌日。
 ラマールは手勢――ラマールホスト隊を率いてセルメタへと入城していた。
 カシュクの将軍として、フィリニオンの将軍であるブリフォーに会う為である。
 会見の理由はラマール自身も詳しい事は分からないが、ある程度は予測が付いている。
 彼は今朝方、上司であるクレンナの使いとして早馬でやってきたパルナスから預かった書状をブリフォーに手渡すのが目的だ。書面の内容はおそらく、この戦いにおいての激励の文句か何かだろう。
 そんな訳だから、彼がこの城に留まる時間などホンの数刻でしかなかったはずだった。
 さっさとブリフォーに書面を手渡したラマールは、老将軍からの返しの書状を受け取り帰路に付いたのだが……
 「迷ったな」
 「意味もなく美少年を追いかけるからでしょーが!!」
 広く、無駄に豪奢な城の中で2人は迷子になっていた。
 困った事にすれ違う人影すらない。
 これは堕ちた城に雇うだけの余裕がない事の現われであり、次第にこの城は朽ちて行くことが予想された。
 と、先を行くラマールの歩みが急に止まり、そんな彼の背中にパルナスは顔からぶつかった。
 「どーしたんです?」
 「音が…聞こえる」
 文句を言おうとしたパルナスだが、ラマールのこれまでにない厳しい表情にはっと息を呑む。
 ラマールは懐にある短刀を服の上から掴み、左右に並ぶ客室と思われる扉――そのうちの一つを唐突に蹴り開けた!
 「「?!」」
 彼が踏み込むと同時、部屋の中で高まっていた緊張が弾けたのだった!!



 時間は多少前に戻る。
 ファトラは惰眠を貪っていた。
 セルメタ城に数ある客室,そのうちの一つ。
 ふかふかのベットの上で安らかな寝息を立てている彼女しかいないはずのこの部屋。
 僅かに開け放たれた窓から一陣の風が吹き込み、彼女の髪を僅かに撫でた。
 同時。
 突として現れる2つの人影。
 一つは女,長く黒い髪を持った女だ。
 そしてもう一つは男。両手に抜き身の剣を持つ短髪の青年。
 音もなく、そして気配もないままにベットの上で眠る王女に向って迫る2人。
 ファトラは、眠ったまま……
 2人の侵入者達は飛び退いた!!
 暗闇を纏った冷たい光が2人の迫る空間を切り裂いたからだ。
 「乙女の眠りを妨げるとは……けしからんのぅ」
 ベットの上では小さな欠伸を押し殺して、中腰の体勢で2人を見据えるファトラの姿があった。
 右手には夜の光を放つ曲刀――夜月刀が握られている。
 絶対零度の敵意を宿した彼女の瞳に捕らわれながらも、しかし侵入者2人には臆した色はない。
 いや、この状況を予測していたと言った感さえある。
 「やはり簡単にはいかないか」
 呟く男、そして苦笑する女。
 「で、何用じゃ? ユフィールにシオンよ」
 ユフィールは右に構える,一言。
 「貴女が欲しい」
 シオンは左に構える,一言。
 「その命、ミュリンの為にな」
 「わらわもモテモテじゃのぅ」
 溜息一つ、ファトラは言葉を吐くと同時、2人に向って先制攻撃とばかりに凶刃を振るった!
 ユフィールの風がファトラの身を拘束――猫系の肉食獣を思わせる王女の肢体は風を引き千切り、旋風のような一撃を振り下ろす。
 ギィン!
 元風の神官の前に飛びこんだシオンは双剣で一撃を食い止める,今度は力で負ける事はない。
 それどころか、
 ニヤリ
 笑みを浮かべる,ファトラは直感!
 彼女は後ろへと飛び退いた!!
 一瞬遅れて巻き起こる凍結の嵐。
 ファトラの前髪の一房が氷漬けになった。
 「普通、気付くかっ!?」
 舌打ちして左手の剣を投げ捨てながらファトラに躍り掛かるシオン。
 投げ捨てた左手の剣は、刀身の輝きを失い、床に落ちると同時に砕け散った。
 「呪剣か!」
 ファトラは眉をひそめ、夜月刀で迎え撃つ。
 呪剣――先エルハザード文明の遺物で、水・炎・風・大地といった神官の力をチャージできると言われる稀少品である。
 チャージした法術の特性によって剣の切れ味が上がったり軽量化できたりするのだが、恐ろしいのは一度しか使えないが最終発動と呼ばれる機能。
 封じられた法術を一気に解放、相手にダメージを与えるというものだ。
 もっとも今の様に避けられては、武器を失って不利になっただけでしかない。
 「しかし、もはやお主は敵ではない」
 今度はファトラがシオンに向って打ちかかる番だった。
 シオンの本領は双剣で発揮される。一本でも強いには違いないが、ファトラの敵ではない。
 その時だ。
 ドアが唐突に開いた。
 「ファトラ様、そろそろ起きては…」
 侍女の言葉が止まる。
 急激に吹いた風が、ポニーテールの彼女を剣士の元へと飛ばしたのだ。
 そして剣士は彼女の腕の中に、首筋に剣を突き付ける。
 「さて、どうする? ファトラ姫?」
 シオンは動きの止まったファトラにそう問うた。
 対するファトラは無言。
 シオンの右手が動く,同時に腕の中の彼女――アレーレの白い首筋にうっすらと赤い糸が生まれた。
 ファトラの剣先が僅かに下がる。
 「刀をお捨てなさい、ファトラ姫」
 「私を切ってください、ファトラ様」
 ユフィールとアレーレの声が重なる。
 ファトラの表情は無表情。ただアレーレを見つめている。
 「見捨てるのかい、お気に入りなんだろう?」
 シオンの言葉にファトラは一瞬目を閉じた。
 開く。
 決意の瞳,下がり始めていた剣先が上がる。
 時は再び唐突に訪れる。
 バタン!
 扉が蹴り開けられた!!
 がぶり、アレーレがシオンの腕を噛み、拘束を脱出する。
 逃げるアレーレの背に向ってシオンの剣が振り下ろされた。
 ファトラの手がアレーレに伸びる。
 掴むのは……一陣の風!
 「クッ!」
 その風に乗って舞い散る赤い飛沫。
 「逃げて、ファトラ様……」
 床の上にくず折れるアレーレ。ファトラには全てがスローモーションの様に見えた。
 「姉さん!」
 扉の外からは聞き覚えのある少年の声、だが目を向けられない。
 ファトラは刀をシオンに向って振り下ろし…止まる!
 「さぁ、どうする?」
 倒れ伏すアレーレの首筋に剣先を軽く触れたまま、己の首筋にも夜月刀の剣先を僅かに触れさせてシオンは余裕の笑み。
 ファトラは背後にシャーレーヌの気配を感じながら、扉の方に目をやった。
 そこには昨夜、一線を交えた自分自身にそっくりな男と、斥候として潜りこませておいたパルナスの姿がある。
 男と目が合う。
 ”ほぅ”
 ファトラは思わず心の中で嘆息した。
 誠とは異なる、どこか自分にそっくりなものを見るような感覚があった。
 だからこそ、気に食わない。
 だからこそ、良く分かる。
 相手もきっと、同じ気持ちに違いない、彼女は思う。
 だから、
 ファトラは男に向って無造作に夜月刀を放り投げた。
 飛来するそれを、穏やかな瞳のまま受け取る青年――ラマール。
 得物がファトラの身から離れたと同時、ユフィールの右手がファトラの背に触れ、そこから電撃が流れる!
 声もなく気を失うファトラ、彼女を抱き止めるシオン。
 シオンとユフィールは、扉に立つラマールを一瞥すると、現れた時と同様に瞬時に風となって消え去った。
 「姉さん、姉さ〜ん!!」
 倒れ伏して気を失うアレーレに駆け寄るパルナス。
 そんな姉弟を視界の隅に納め、ラマールは受け取った夜月刀を握りしめた。
 ”この貸しは高くつくよ、ファトラ姫”
 溜息一つ。
 その吐息は、吹きこんできた自然の風によって消え去って行った。



 風の大神官は言葉に詰まっていた。
 こんなことは滅多にない。聡明な彼女が口にする言葉を紡げなくなるなど、おそらくはこの先にも見ることはほとんど出来ないのではなかろうか?
 所狭しと研究素材の置かれた研究室。
 彼女の前には白衣を纏った彼が一人だけ。
 彼女に全てを告げ、静かに見つめる誠の表情は、ない。
 感情を殺していることをアフラは知り、その理由を痛いほど分かっていた。分かりすぎていた、と言った方が良い。
 今の彼女はそれを後悔していた。これまで自分でも気が付かないくらい彼を気にしていたことに,そしてそれ故に大神官として取るべき行動は決まっているのに、それが彼女には出来なくなってしまったことに。
 ”大神官…いえ、人として失格やないの,ウチは”
 彼女の高潔なる魂は彼の行動を許さない。
 彼女の彼を想う心はしかし、いつの間にかその魂に深く突き刺さっていた。
 常に最善になるように、良識を以って彼女はこれまで生きてきた。冷たいといわれることもあったが、自分自身の行動は常に自分と、周囲にとって良い方向へ向う為に取ってきた行動だと自信を持っている。
 良識を以ってクールに。それが彼女だ。
 しかしそれは唯の個人的な感情というあやふやなものの為に、いつの間にか後戻りできないくらい変形してしまった。
 今更ながらそれに気付き、己を恥じる。
 今の彼女はしかし、自分自身の行動に制約をかける事が出来ない。
 自らの意志を貫く為だけに、世界の闇と手を結んだ青年を、ただただ愛しく想う己の感情に。
 彼の心が自分自身に決して向かない事は分かっている。そして向いてもらおうとも思わない。
 一方通行な自分の想いに内心苦笑しつつ、けれども決して否定しない。
 ”ホンマ、アホな女どすわぁ”
 理屈も、良識も、論理的思考も、名もない今の彼女の心を占めている感情に比べれば、全く些事に過ぎない。
 アフラは指輪――風のランプを外す。それは彼女の手から落ちて研究室の床に転がった。
 「ホンマ、アホどすぇ、誠はん……」
 彼女は誠の胸にしなだれかかる。伝わってくる彼のぬくもりに身を任せながら呟いた。
 「これ以上アホならんよう、ウチが付いていてあげるわ」
 目を閉じる彼女の髪に誠は指を絡ませ、耳元に小声で囁く。
 「ごめんな、アフラさん」
 彼女は彼が何に対して謝っているのか、決して思考しなかった。



 長い髪がウザかった。
 服装も彼の好むところではない。
 何より、化粧の匂いが大っ嫌いだった。
 「で、パルナス。ファトラ姫をさらった理由は何か、分かったのか?」
 「はい、ラマール様」
 女装して、歳が下な分、誠以上にファトラそっくりに変装したラマールは少年に問うと明確な返事が帰ってきた。
 「神の目の封印の為です」
 「はぃ?」付いていた肘から顎が落ちてラマール。
 「神の目の封印は先日、各国首脳がロシュタリアに集った際に決定された事項です。そしてその封印に当たっては王族の血筋に当たる者の血液が必要なんだそうです」
 「物騒な話だな」
 「その量は人一人にして致死量。ようするに」
 「命その物って訳か」
 眉をしかめてラマールは呟いた。
 「現在、ロシュタリアとフィリニオンの間で取り引きがあったらしく、ロシュタリア王家の遠縁である女王ミュリンの命を封印に用いるみたいですね」
 「で、主を失われては困ると、その部下が代わりとしてファトラ姫を捕らえた、と」
 やれやれ、とラマール。
 彼は視線をパルナスと同じ姿を持つ隣の少女に移す。
 「で、アレーレ。ファトラ姫の居場所は掴めたのか?」
 「ええ、ラマール様」
 パルナスとは姉弟ながらも異なった笑みを浮かべてアレーレは続けた。
 「ファトラ様は現在、フィリニオン興国の首都アイオンにある王城に幽閉されていると考えられます」
 「脱出してくる可能性は?」
 「0です,元・風の大神官ユフィールに抜かりはないものと想定されます」
 ユフィールに対して『様』を付けずにアレーレは淡々と状況を報告する。
 「風の神官相手じゃ、どこに幽閉されていようがすぐに逃げられてしまうな」
 「それではどうしたら…」
 アレーレの言葉にラマールは考え、言葉を漏らす。
 「奴らの狙いはミュリンとかいう女王が血を流す瞬間だろうね、ファトラ姫と差し換えるつもりだろう。その時くらいじゃないのか? 助け出せるのは」
 「でもここはセルメタ,ロシュタリアまで4日はかかりますよ。それに神の目にはきっと一部の人間しか立ち入りは許可されないはず。いっそのことルーン様にこのことを報告してしまうのはどうですか?」
 パルナスの意見に首を横に振るラマール。
 「ファトラ姫は自身の不手際をルーン王女に決してバラされたくないはずだ。きっとあの人は姉にこれ以上仕事を増やしたくないと思っているはず。だからこそ僕に代役を頼んだんだろうね」
 「でも、ファトラ様のお命が危険に晒される事はルーン様にとっても第一級の大事かと」
 「だからこそ、だろ。まぁ、まだ僕の出番はあるんだろうけどね」
 「「??」」
 不意に立ちあがったラマールに首を傾げる双子。
 「ブリフォー将軍達に挨拶しに行くよ。パルナスの報告から察するに、そろそろファトラ姫に対して帰還命令が出るはずだからね。ここにロシュタリアがいる意味はもうないはずだから」
 そう言うと同時だった、ロンズが部屋へ飛び込んでくる。
 「姫様,ルーン殿下より早々に帰還するようにとの連絡が入りました」
 「ね?」
 2人に対して、ラマールはウィンクしたのだった。
 この日、ファトラを筆頭としたロシュタリアの軍勢は一路、ロシュタリアに向けての帰路に就く。
 その中にラマールホスト隊が混じっていることを不信がる者は何故かいなかった。


★ミ ☆ミ ★ミ ☆ミ



 灼熱の日差しが5人を焼いていた。
 内、3つの人影はフラフラとして足取りはおぼつかない。
 その街の中央通りを往来する人はそんなには多くはない。
 ここはグランディエは首都グラスノーツ。
 昼は灼熱地獄、夜は極寒地獄という砂漠の真っ只中にある街だ。
 この地に住まう者達は、昼間は日差しを避ける為に出歩かないか、もしくは体をすっぽりと布で覆い、直接の日光を避けている。
 ふらふらして歩いているのはまさにその格好だが、どこか着なれていない感があった。
 対してしっかりとした足取りで三人に続くのは肌の白い美女二人。
 降り注ぐ日差しから身を守る事もなく、その素肌を惜しげもなく晒している。
 伴に手にしているのは杖,そして表情は極めて涼やかなものだった。
 「……」
 「………」
 「…………」
 前を行く三人は互いに何かを言い合った後、通りに面した飲食店の一件に吸い込まれる様にしては入って行った。
 ひんやりとした日陰の空気が三人には心地好い。
 「ふぅ、死んじゃうわよ、こんなんじゃ」
 「たまんねぇな、こりゃ」
 「シャレにならぬ暑さだな」
 フードを取る三人。女性が二人に、男性が一人だ。
 「暑がりねぇ、アナタ達」
 「この調子では見つからぬぞ」
 後から入って来た二人の美女は、そんな二人を見て呆れがちに言った。
 「アンタら鬼神と人間を一緒にしないでよっ!」
 「ひどーい、菜々美ちゃん。差別よ、差別っ!」
 「こっちが羨ましがってんのよっ」
 菜々美とイフリーテスは言い争いながらも席に就く。
 店内はガランとしている,丁度昼時も過ぎて一段落しているようだった。
 「しっかしこの街に到着して2日,陣内の言う『学者』とやらが何なのか、はっきりしねぇなぁ」
 「ふむ、この国の研究機関か何かの学者だろうか? それとも在野の士か……ともあれ地道に聞き込みを進めるしかなかろう。こればかりはカツオ達では出来ぬからな,っと水くらい出さぬか!」
 陣内の声に応じて店の奥から一人のウェイトレスがトレイに水の載ったコップを5つ持って駆けてくる。
 「お待たせしました、5名様ですね。ご注文……は?」
 ウェイトレスのセリフの語尾のイントネーションが上がった。
 一同はその様子に彼女をまじまじと見つめる。
 「「ああっ!!」」
 ウェイトレスを含む若干名が声を上げた。
 「イシエル、何でここに?!」シェーラの驚きに満ちた言葉と、
 「何やってるのよ、こんなトコで!?」菜々美の素っ頓狂な声が重なった。
 「シェーラに菜々美ちゃん?! それに……えっと」
 イシエルは陣内を見て、「うー」と唸る、どこかで見たことがあるけど思い出せない,そんな感じだ。鬼神二人については完全に『知らない人』として処理されている様だ。
 「ま、いいわ。アンタら、この国で何してるべさ?」
 「それはこっちのセリフよ」
 菜々美の言葉にイシエルはクルリと一回転。
 「ウェイトレスだべ」
 「そーじゃなくて!」
 「じゃ、何?」
 「何って…ねぇ?」
 菜々美は困った風にシェーラを見る。
 シェーラはイシエルを睨み、そして、
 「やっぱりこの街には何かあるな、イシエル?」
 「……街外れの東に施設がある。きっとアナタ達の『探している』何かがあると思う」
 「どうして私達が何かを探しているって分かったの?」
 菜々美の問いかけに、イシエルは小さく微笑む。
 ここにはそれくらいしかないからっしょ、菜々美ちゃん。さ、ご注文は?」
 一同がイシエルを加え、エアボートで待機していたカツオ達と合流して街外れの施設――科学者ハーゲンティの下へと特攻をかけるのは、この日の夕方のことだった。



 天空の階段が起動する。
 ロシュタリアの王女は、フィリニオンの女王の肩を軽く叩いた。
 ミュリンは小さくコクリと頷くと同時、空へと伸びた天空の階段に向けてその身を躍らせる。
 そしてミュリンの姿は消える。
 上空に浮かぶ神の目へと転送されたのだ。
 「果たして巧くいくでしょうか?」
 「さぁ、成功しようが失敗しようが、その過程が同じならば私達の体勢には影響はありませんわ」
 ストレルバウ老にそう言って笑いかけるルーン。
 ストレルバウの解読した神の目の解説書をさらに訳すと、こうあった。
 神の目の封印とは、神の目をこのエルハザードよりも上空――惑星圏外へと飛ばす事だという。
 その為には神の目の契約者の血液を意志伝導盤、すなわち操縦装置に注がなくてはならない。
 血液の量は致死量。今回の神の目の封印により、ミュリンは神の目と伴にその亡骸ごと宇宙の果てへと旅立つ事となる。
 「もっとも成功してくれる事を願いますわ。神の目は使い方によってはこの世を滅ぼしてしまうモノだから」
 一陣の風が、舞った!
 「え?!」
 「ファトラ様!?」
 関係者以外立ち入り禁止としていたここ天空の階段に向って駆ける三つの人影。
 ルーンはストレルバウの呟きを内心で否定した。
 「失礼」
 ルーンに向ってウィンク一つ,ファトラは不恰好な槍を肩に、光の消えようとする天空の階段に向って身を躍らせた。
 後に続くのは、主人の持ち物であった夜月刀を抜き放つアレーレと、その背を必死に追いかけるパルナスだ。
 ヴゥン
 三人が光の中へ消えると同時、天空の階段の光は収まり元の通りまるで何もなかったように静かになる。
 ルーンの表情は一変,険しい瞳で上空の巨大な人工物を睨み付けた。
 そこは今、戦場となったはずだった。
 天空の階段は連続起動は出来ない。ルーンは無性にもどかしさを覚える。
 彼女は妹の為に、今はただ無事を祈るしかなかった。



 リンゴが消えた。
 一同はゴクリ、息を呑む。
 5秒経過
 10秒経過
 30秒が経過する。
 長い長い時間だ,数十の瞳が何もない空間を凝視している。
 そしてそれは唐突に出現した。
 60秒後、リンゴが元の位置に姿を現したのだ。
 おおっ,確信と安堵の混ざったどよめきが生まれる。
 「成功、どすな」
 「ええ。成功です」
 アフラはリンゴを見据えたままの誠を心配げに見つめる。
 ここ数日、彼は寝ていないはずだ。その影響だろう、瞳は僅かに赤く染まり、殺気だった気配に包まれている。
 「あとは生物に応用できるかの実験だな、ハーゲンティ」
 「そうですね、ナハト。ここまでこれたのは皆さんのお陰ですよ」
 カーリアの隣に並んだハーゲンティは回想するように呟いた。
 「貴方の調達してくれた神の目の中にあった空間破砕珠、そしてアルージャの持ってきたこの『意志を信号へ変える』球体、水原くんの所持していた神の目内部の細かい構造スケッチに、みなさんの頭脳があったからこそ、ここまで来れました」
 白い野球ボール大の球体を手に、リンゴを囲む4方のポール上のやはりこれもまた球体を眺めまわしてしみじみ言う。
 「あと少しで、ワシもこの世に戻る事が出来るな」嬉しそうにカーリア/アルージャ。
 と、不意にハーゲンティは苦笑。
 「そしてここまでです。皆さん、本当にありがとうございました」
 「「??」」
 彼の背後の扉が開く。
 入ってきた光は夕焼けの赤。閉めきった部屋にいた研究者達にはそれでも眩しい光だった。
 その赤を背後に現れるのは一組の男女だ。
 一人は青年,もう一人は眼鏡を光らせた女性。
 「ご苦労だったね、ハーゲンティ」
 青年――フレイアは彼から白い珠――次元移動の起動装置を受けとって微笑んだ。
 「ハーゲンティさん?」
 「ゴメンね、水原くん」
 のほほんとした中年を睨み付ける誠に応えるのは、青年の隣に立つシャーレーヌだ。
 「貴様、ワシらを裏切るつもりか!」
 身構えるカーリアにナハト、そして幻影族の研究員達。
 対してハーゲンティは両手をパタパタ振りながら告げる。
 「裏切りも何も、もともとそんな信頼関係なんてなかったじゃないですか」
 「総員、起動装置の奪還,及び回収を最優先!」
 「「はっ!!」」
 ナハトの指示の下、幻影族の研究員達がフレイアに襲いかかる!
 が、
 「物騒ですね、俺は平和主義者なんだよ」
 フレイアは特段身をかわした訳ではないが、六名からなる幻影族の攻撃のその事如くをかわした。
 「できる?!」
 神速のナハトの短刀の一閃がフレイアの首を掻き切る…が、彼には怪我一つもない。
 「どうして?!」
 驚愕するナハトに向けて符が一枚、舞い落ちた。
 バリリ!
 光が舞い、少年は呻き声すらあげる間もなくその場に倒れ伏す。
 「みんな、逃げるんや!」
 誠の叫びは遅い,次の瞬間にはシャーレーヌの放った電撃の符が幻影族一同に降り注いだ。
 「あの男、一体…」
 カーリアはギリと奥歯を噛み締めてフレイアを見つめる。攻撃をかわすだとか、そう言うレベルのものではなかった。ましてやナハトは暗殺のプロでもある。その彼の攻撃をあっさりかわせる者などそうはいないはずだ。
 「俺を傷付けることは誰にも出来ない、俺は平和主義者だからね」
 立ち竦む誠、アフラ、カーリアに向けてフレイア。
 アフラははっとする。
 「契約者か?!」
 「そうやったのか!」
 誠もまたアフラの言葉に気付き、そして実行に移した。
 無防備のまま、フレイアに駆け寄り、
 「あーあ」シャーレーヌは場違いな声を上げた。
 無造作に誠はフレイアの手から起動装置を取り戻す。
 「あ…」
 「聞いた事あるで。ある砂漠の民は自らに制約をかける事でそれに見合う力を得るって。フレイアさんは相手に暴力を振るわない代わりに、決して傷つく事がない,そんな契約を交わしたんやろ?」
 「大当たり」
 苦笑いのフレイア。
 「だけど、私にはそんなものはないのよね」
 符を手に、シャーレーヌが迫る。
 「恨まないでね、水原くん。これも私の仕事なのよ」
 「分からん事もないけど、そりゃないで、シャーレーヌさん」
 誠はアフラを後ろに、起動装置を手にしたまま対峙。
 アフラは風のランプを手にしていない為に法術は使えない,そしてカーリアは…
 「取り敢えず共闘じゃ、マコト」
 「そうやな」
 お互い頷き合い、シャーレーヌを睨む、その時である!
 ドゴン!
 豪快な音と伴に研究室の壁が崩れた。
 それはエアボートの舳先である。
 あるはずのないモノに、一同は一瞬沈黙した。
 「全員、動くな!」
 「抵抗すると怪我するわよ!!」
 聞くものを畏怖させる声が響き渡った。
 この研究所に突っ込んできたエアボートから飛び降りたのは赤い髪の少女と、機械を手にした女性だ。
 「シェーラさんにイシエルさん?!」
 唐突な登場と、その姿を目にして誠は思わず声を上げた。
 「んな!?」
 「まこっちゃん!?」
 二人にしても誠の存在は寝耳に水だった様だ。さらに彼に頼る様にして立つ同僚の風の大神官の姿を見て、各々個人的感情から殺気立った。
 「誠だと!」
 「菜々美ちゃんに…陣内まで??」
 イシエルの声に同様に驚いて姿を現すのは、誠にとって懐かしい顔ぶれだった。
 思わず誠の警戒心が薄れる。
 それをシャーレーヌが逃すはずもない,誠に向って飛びかかった!
 「あぶねぇ!」
 ゴゴゥ!
 「クッ!」
 シェーラの炎の法術がシャーレーヌの鼻先を焼き、彼女は慌てて後ろへ下がる。
 「テメェは、もしかしてシャーレーヌじゃないのか?」
 「お久しぶりね、シェーラさん」
 ウィンク一つ、同時に彼女は素早く氷の呪符を投げ放つ。
 バキン!
 氷の矢と化したそれを弾くのはイシエルだ。
 彼女は床に伏した幻影族の面々を見渡し、そして誠を見る。
 「誠、アンタ…一体?」
 「カーリア、見つけたわよ!」
 イシエルの呟きは菜々美の声によって掻き消えた。それを合図にイフリータがカーリアに向ってゼンマイの一撃を振り下ろす!
 「ぐぅ!」
 両腕でガードするカーリア,その彼女の腹部をイフリータの右足が容赦のない蹴りを撃ちこむ。
 カーリアは壁まで吹き飛び、しかし身構え直した。
 「しつこい女じゃな、全く」
 睨む先は菜々美だ。
 「約束したでしょ? 私がアンタを殺してあげるって」
 「…返り討ちにしてくれるわぁぁ!!」
 カーリアはイフリータと、菜々美に向って襲いかかって行った。
 そんな状況を後ろの方から見つめるフレイアとハーゲンティは、お互い顔を見合わせ溜息をつく。
 「どうしましょうかね、殿下?」
 「どうもこうも…大神官が三人も揃ってるとは思いもしないし、バグロムまでとはね。軍も一部隊連れてきた方が良かったかな?」
 「今更遅いですよ」
 「どうする?」
 「どうもこうも…被害がこれ以上広がらないを祈るばかりですね」
 壊されて行く研究室を見つめてハーゲンティ。
 「ったく。俺は平和主義者なのにな。取り敢えず幻影族の皆さんには帰ってもらいたいのだが」
 戦いに関しては全く無力な二人だった。
 他方ではやはり非戦闘員同士が久しぶりの再会を果たしていた。
 「水原、貴様、何を持っている?」
 「これか、これは元の世界に戻る装置…」
 「誠はん!」
 「あ」
 アフラの注意によって慌てて口を閉じる誠だったが、すでに遅かった。
 「ほぅ、それはそれは、また面白い物を持っているじゃないか…カツオ!」
 「ウィ!」
 「行け!」
 陣内の腕の一振りにより、バグロム達が誠とアフラを包囲する。
 じりじりとその包囲の輪が縮まって行き…
 ドゲシィ!
 連続した打撃音とともにバグロムの三体が床に伏した。
 「アフラ、何してるっしょ! こんなザコ相手に!!」
 炎と氷の演舞の中からイシエルの一喝が飛んでくる。
 シャーレーヌとシェーラ、イシエルの戦いは壮絶なものだった。威力は低いが手数の多いシャーレーヌの前に、シェーラ達は結構苦戦している様だ。
 他方ではイフリータとそれを指揮する菜々美を相手にカーリアとの打撃戦が行われている。
 こちらは技を使うとこの一帯が消し飛んでしまう為に地味な戦いが続いていた。
 「誠はん、ともあれここは起動装置を持って脱出しましょ」
 「はい」
 「逃がすかっ!」
 三体のバグロムの抜けた穴には陣内本人が埋める、彼は誠に飛びかかり、手に握られた起動装置を奪いにかかる!
 「さっさと渡せぃ!」
 「渡すか!」
 「誠はんから手ぇ放せ!」
 「ぐぅ!」
 アフラが陣内の脇腹に鋭い蹴りを撃ちこむ,一瞬、陣内の力が緩んだ。
 「きゃ!」
 が、そんな彼女もイクラによって羽交い締めにされる。
 「アフラさん!」
 後ろに振りかえる誠。再び彼の手にしがみつく陣内。
 「諦めて私にそいつを渡せ!」
 「誰が渡すかぁ!!」
 二人が叫ぶと同時、
 起動装置は『作動』を始める。
 「んな!」
 「なんだ、この光は?」
 光は地面から。そして部屋に据えられた4本のポールの上の球体もまた光り始めた。
 この4本のポールに囲まれた空間が淡い光を輝き始めているのだ。
 これは先程行った実験と同じ…リンゴを60秒後の世界に送った実験と同一の現象だ。
 ただ違うのは、どこへ『送られるのか』分からないこと。
 「何でぇ? コレは??」
 「シェーラ!!」
 「?!」
 イシエルの警告は間に合う,シャーレーヌの放つ爆炎の札をそれに勝る爆炎で吹き消した。
 爆炎の衝撃波で遥か後ろ,シャーレーヌは吹き飛ばされ、フレイアに背中から抱き止められる。
 「イタタ……やっぱり大神官の法術には敵わないわ」
 ペロっと舌を出し、シャーレーヌは光の中へと消え行くシェーラと、そして誠に向って手を振った。
 「今度会う時は利益なしの状態で、ね」
 「ちょ、どうなってるんだよ、誠ぉ〜〜」
 慌てるシェーラの声を最後に、4本のポールごと全てがこの場から消え去った。
 途端、静かになる。
 夕暮れ前の涼しい風が三人の間を走り抜けて行く。
 「あ〜あ、起動装置はまだ解明してなかったんですよ。次元破砕珠は作成できましたけど、コレだけじゃどうにもなりませんねぇ」
 やれやれとハーゲンティ。
 「ま、それだけでも良しとしようじゃないか。それにそこからどうするかを考えるのが、お前達科学者だろう?」
 「ごもっともで」
 フレイアに対して、中年科学者は軽く一礼。
 王子はそんな科学者に苦い笑みを見せると、壁をぶち抜いている今や無人となったエアボートを見つめる。
 「コレ売り払ってここの修繕費になるかな?」
 「足りないわよ、きっと」
 フレイアの腕の中、気丈な笑みを浮かべてシャーレーヌは笑ったのだった。



 高所の風は冷たい。
 神の目の上。
 ミュリンは辺りを見渡す。
 丁度神の目の上部に当たるそこは10m四方ほどの広場になっていた。
 その中心には意志伝導盤と称する神の目のコンソール台がある。
 先の大戦において、ここでルーンとファトラによって神の目が行使されたのだ。
 台座のような意志伝導盤には彼女の腰辺りまでの高さのポールが伸び、その上に手を置いて直接神の目にアクセスするのだろう,直径30cmほどの表面はつるつるした円形の板状になっていた。
 ミュリンの髪を一際冷たい風が吹き抜ける。
 彼女は服の上から短刀を確認する。このポールの上の円形の板に己の血を流せば良いだけだ。
 撫でて行く冷ややかな風は、急に絶たれる。
 「?」
 後ろに振りかえるミュリン。はっと息を呑む。
 そこにいるはずのない少女を見つけて。
 「イフリーナ……どうしてここに?」
 そこまで言って、彼女はイフリーナの手にする杖に気付く。
 そして一つの情報が思い出された。鬼神という名の少女の話を。
 「ミュリン、死んじゃイヤだよ」
 汚れなき瞳に涙を溜めて、イフリーナは訴える。
 「嫌、ダメだよ、絶対!」
 「…これが私の運命なのよ」
 疲れた声で呟くミュリン。
 「こうすれば、神の目のせいで泣く人もいなくなるんだから。私一人の命なら安い物よ」
 パシン!
 「?!」
 乾いた音とそれに伴う頬の痛みに、ミュリンは目の前の鬼神を見つめた。
 人間よりも表情に富む機械人形は、涙するその瞳に確かに意志の光を湛えてミュリンの手を掴んだ。
 「人はミュリンに守ってもらいたいと願ったの? 人はそんなくだらない事に女の子の命を捧げるほど、弱い存在なの??」
 「イフリーナ?」
 「そんな人達なら、滅んじゃえば良い!」
 「イフリーナ!」
 ミュリンは彼女の手を振り払おうとするが、しかし鬼神は放さない。
 「人だけじゃない,生きているあらゆる者達は常に『生きる』為に生きている。だからミュリンに守ってもらおうなんて、ムシの良いこと考えちゃダメなの。ミュリンもそう。こんなのただの自己満足だよっ!」
 「……そんな、こと、ない」
 「ミュリンが死ぬ事でしか解決できない運命だって言うんなら、鬼神の私が壊してあげる。破壊をする為にこの世に生を受けたことを、今ほど感謝した事はないよ」
 「イフリーナ……ありがとう」
 イフリーナの小さな胸にミュリンは涙を落とす。
 「そう、貴女を失う訳にはいかない」
 「君のいないフィリニオンを収める気は、俺にはサラサラないよ」
 「「え?」」
 風を纏って現れたのはユフィールとシオン。そして、
 「ファトラ様…?」
 名を呼ばれて彼女はミュリンに顔を向ける。
 ファトラは拘束などされていない。だがその表情は人形の様だった。
 「ユフィール,彼女に一体何を?!」
 「ちょっとクスリを飲んでもらっているだけですわ。彼女が喜んで貴女の代わりになってくれます」
 「そんな…」
 ミュリンは人形と化しているファトラを見つめる。ファトラは彼女の視線に気付いても何の反応もない。
 「さ、ミュリンは下がっていて。見ない方が…」
 シオンの言葉は途中で止まる。
 彼の視線の先に現れた三人の姿を確認したからだ。
 「捕らわれの姫君を取り戻しに騎士と愉快な仲間達の登場だよ」
 ぶん、炎帝を一振りしてニヤリと微笑むラマール。彼は風になびく長髪のカツラを投げ捨てた。
 「カシュクの英雄がロシュタリアに就くのかい? それは意外だよ」
 シオンは双剣を抜く。呪剣と、もう一本は鋼の剣だ。
 「私的に彼女には興味があってね。どうも他人の気がしないのさ。それにね」
 炎帝が炎を纏う。クレンナの込めた法術を解放したのだ。
 「君みたいな強い奴と戦いたいというのが一番の理由かな」
 突きかかるラマール!
 ボシュっと空気の焦げる匂いが身を捻って避けたシオンの鼻をついた。
 槍のリーチ内に入ったシオンは呪剣の一閃をラマールの下段に。
 カシュクの英雄は跳躍してそれをかわし、
 「ハァ!」
 ボ・ボ・ボ・ボ!
 四段突き。そのうち2発を鋼の剣に受け、シオンの剣は赤熱する。
 「さすがに強いな」
 「君もだよ」
 ニヤリと笑い合う二人の青年。
 「「ハァ!!」」
 再び剣と槍が交錯した。
 他方ではユフィールとアレーレが交戦している。
 ユフィールは傍らにファトラを抱えながらの為に体勢は不利だった。
 対するアレーレの剣技はまるで踊るかのように華麗なものだ。意外といえば意外な才能だが、ファトラの侍女を務めるに当たってそれはなくてはならない才なのかもしれない。
 同時にアレーレは夜月刀の能力を発動させていた。
 夜月刀の能力――それは、
 アレーレは風に乗って上空から不可視の刃を放つ風の大神官の影の二の腕を、切る!
 「っ!」
 ファトラを抱える右手が浅く裂けた。
 ロシュタリアの至宝・夜月刀は影を切る事で本体を切る事が出来る。
 所持者のファトラ本人はこの能力を嫌っているために滅多に発動させることはないが、主の為ならば自らの死も厭わない今のアレーレは利用出来るモノは全て利用する。
 「ファトラ様、目を覚ましてください!!」
 上空に向って叫ぶアレーレ。
 その応えはなく、あるのは襲い来る不可視の刃だけだった。



 パルナスは繰り広げられる二つの戦闘を分析する。
 力は五分五分だろうか?
 今、彼が出来ることは……
 ミュリンを見る。
 彼女の前には鬼神イフリーナの姿。
 ”結構ドジって聞いてるけど…でもそうは見えないなぁ”
 ミュリンを守るように周囲に気を配っている彼女を見て、素直な感想。
 と、パルナスは気付いた。
 ラマールとシオンの争っている背後で、空間が『動く』のを。
 「え?!」
 目をこする。空間が揺らめいている様だった。
 その時だ。
 「ハッ!」
 シオンの裂帛の吐息と伴に、彼の持つ炎の呪剣が最終発動を起こした!!
 紅蓮の炎を纏った灼熱の炎が、炎帝を振りかぶったばかりのラマールに向けて放たれたのである。
 「…っ!」
 思わずパルナスは目を瞑る。
 空間が裂けたのはホンの直前。
 「ラマール?!」
 声は唐突に現れた多数の人影の中から。
 呪剣の炎がラマールを焼く寸前、それは発動する。
 ギィン!!
 絶対無効化の、完全なる盾。
 イフリーテスだ。
 「「?!」」
 目の前で消えた炎の嵐に唖然とする二人の青年。
 交錯する剣と槍が、互いの打撃力により手から離れて上空高く舞い上がる!
 そこにファトラを抱いたユフィールが落ちてきた。
 「「ぐわっ!」」
 「キャ!」
 「ファトラ様!!」
 駆け寄るアレーレ。
 「舐めるな、鬼神」
 しわがれた声は他方から,どすんという重低音を伴って鬼神イフリータがカーリアの掌蹄を食らって折り重なったラマール達に背中から突っ込んだ。
 「「ぐぅ!」」
 カーリアの破壊力はそれだけでは止まらない,四人を巻きこんで横っ飛びに飛ぶイフリータはそのままイフリーナに衝突、そこでようやく動きを止めた。
 「大丈夫、ミュリン?」
 飛ばされたのだろう,コンソールにもたれる様にしたミュリンと、その隣に同じように背中からもたれるのはファトラだ。
 「イフリーナ,どうしてここに?!」
 「あ、ご主人様!?」
 その方向から飛んできた絶対的な声に振り向いてしまったイフリーナは、一生このことを後悔した。
 光が二条、上空から降り注いだのだ。
 それは剣と槍。
 吹き荒れる風は気紛れながらも意志があるのだろうか?
 「っ!?」
 「くっ!!」
 落下加速度の付いた剣はミュリンに、槍はファトラを貫いたのだった。



 コンソールに広がって行く赤い液体。
 それは異様な光景だ。
 二人の女性から溢れ出す赤い命は、まるでコンソールを通して神の目に染み込んでいくようだった。
 その場に居合せた、誰もが音を止めていた。
 ゴゥ
 ただ、風の音だけが一同の耳に届く。
 その沈黙を破ったのは、ファトラの侍女だ。
 「いやぁぁぁ! ファトラ様ぁぁぁぁ!!!!!」
 「ミュリン!!」
 「なんてことだ!」
 「一体何がどうなって??」
 「ここは神の目やないか……ちょっと考えてもうたんかな?」
 「あ、風のランプがどうしてここに?」
 「うっ……? 僕はここで、どうして神の目に??」
 「くっ、カーリア!!」
 誠が、アレーレが、陣内が、菜々美が、ラマールにシオン,イフリーナもナハトも、気が付いた幻影族達も思い思いに立ち上がる。
 「ファトラ様,止血しないと……あああああ!」
 「くそっ、ミュリン,目を覚ませ!!」
 コンソールからファトラを引き剥がすアレーレと、ミュリンを抱き起こすシオン。
 それぞれの声に、主達は弱々しく目を開いた。
 「カーリア,まだよ、まだ終わってない!!」
 菜々美はカーリアを、いや、アルージャの胸倉を掴む。
 対するカーリアは苦笑すら浮かべていた。
 「無理じゃよ、人間たるお主に鬼神は殺せん。それも武器もなしでは、な」
 あっさりと菜々美を振り払うカーリア,菜々美はカーリアを憎々しげに見上げる。
 そしてどこからか、警告音と伴に声が響いた。
 『照合完了。コレヨリ神ノ目ハ大気圏ヲ離脱,大地ヨリ離レマス。総員ハ速ヤカニ退避下サイ。繰リ返シマス………』
 同時、ごごんという揺れと伴に神の目の高度が上がって行く。
 騒然とする一同。
 ………場を支配するのは困惑――混乱。
 「テメエら、落ちつきやがれ!!」
 事態の収拾は炎の大神官の一言をきっかけにカタが付いた。
 「神の目から離脱するよ。死にたくない奴は誠のトコに集まりな!」
 イシエルは叫ぶ。
 「イフリーテス,盾の能力を解除しろ」
 「はいはい」
 陣内の指令によりイフリーナの能力は解除され、法術と誠の持つ次元移動の能力がが使用可能となる。
 「怪我人は揺らしたらアカン。ウチが風の法術で運ぶわ。ユフィールはんも手伝って!」
 アフラはファトラを,ユフィールはミュリンを風に包んで誠の下に。
 「ナハトさん,どこが『安全』かな?」
 誠は起動装置を握って幻影族の少年に問う。
 少年は瞬考,そしてその場を告げた。
 誠は想う,ナハトの告げた場所を。
 四本のポールの上の宝珠が輝き出す,そして空間自体も輝きを増し―――
 キィン!
 一同の姿は神の目から消える。
 その神の目は、藍色の空の遥か上空,一番星の見え始めた夜のキャンバスの光点の一つとなって、やがてその存在を長くあったエルハザードから完全に消したのだった。



 背の高い草の間に巨大な石が輪になって立っている。
 聖石ヶ丘―――
 そこが誠達の転送された場所だった。
 降ってきそうな星空の下、各々散って行く。
 在るべき場所へと。
 それぞれの想いを胸に秘めて。


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 東雲食堂の朝は早い。
 新鮮な食材は早朝に行われる市場から取り寄せる為だ。
 菜々美は新鮮な空気を胸に、大きく背伸び。
 「おっはよ、菜々美」
 陽気な声は背後から。
 菜々美はこの瞬間を噛み締める様に僅かに目を閉じ、そして、
 「おはよ、カーリア。今日も忙しくなるわよぉ!」
 朝焼けの中、彼女の笑みが広がった。


夕立の雨音に溶けた君の声 

 

 ファトラは剣を振るう。
 久々に体を動かした様な気がする。いや、実際そうなのだろう。
 僅かに脇腹に引きつるような痛みが走るが、それもすぐに消えるに違いない。
 「ファトラ、あまり体を動かしては傷口が開いてしまいますよ」
 「だいじょーぶですよ、姉上!」
 心配そうに言う姉に、彼女は余計に無理をして剣を振った。
 数日前、ファトラは死にそうな目にあったのだ。
 怪我で、ではない。
 ファトラの怪我を聞いて泣きながら飛び込んできた姉を見たことで、である。
 己の不甲斐なさで大切な姉にとんでもない心配をかけてしまった,そのことで恥ずかしく、情けなく、そして己に対して苛立って死にそうだったのだ。
 「いやはや、しっかしわらわも案外ドジですなぁ。転んで己の剣で怪我してしまうとは。はっはっは!」
 ファトラの笑い声は、乾いていた。
 無論、そんなウソはルーンにはとっくにバレているのだが、真実を告げるつもりはない。
 そのことで大切な姉の心配事が増えてしまう事を、ファトラは許せないからだ。
 ”しかしこの仕返しはいつかしてやるぞ。その時には暇であろう、ラマールの奴にも手伝ってもらうとしよう……見ておれ、フィリニオンの一派めぇ”
 「フッフッフ……」
 「元気そうね、安心したわ」
 陰気な笑みを見て、ルーンは心底安心した様に呟いたのだった。


それは君だけの、君しか持たない君自身 

 

 「遊びに行ってきまーす」
 「夕方までには帰ってこいよ」
 「はーい」
 イフリーナは飛び立った。今日も友達に会いに行く為に。
 友達――ミュリンと言う名の少女である。


他の誰にも放てない声だから 

 

 「忙しそうね、シオン」
 「ミュリン! まだ寝てないと!!」
 「大丈夫よ。ありがとう、シオン」
 杖を突いて微笑むミュリン。
 彼女とファトラの二人分の血により神の目は封印された。
 封印に際して、何も一人の血だけに限るものではなかったのだ。
 「私も、もっと頑張らなきゃ。みんなの為に,いえ、自分の為にも」
 朝日をその身いっぱいに浴びて嬉しそうに言うミュリンを、ユフィールは眩しそうに、そして満足げに見つめ続けていた。


聞かせて欲しい、僕だけに 

 

 幻影族は分かたれた。
 先祖の世界に戻る者達。
 エルハザードに残る者達。
 光の中に彼ら、青い肌の者達は消えて行く。
 そして彼らは消えなかった。
 「ガレス様はどうしてこのエルハザードに残るのですか?」
 男は微笑む。その笑みは満足げなものだった。
 「このまま世界の闇として生きて行くのが、私には似合いそうだからだよ、ナハト」
 「では私も、貴方にこの命尽きるまでお伴致します」
 闇は、尽きない。


雨に溶ける、その前に 

 

 ナバハスの街外れに二人の女性が『帰って』きた。
 「イフリータ!」
 少女は彼女の首元に抱きついた,普段は無愛想なイフリータに優しい表情が生まれて行く。
 「元気だったか、マリエル」
 「うん!」
 「お帰りなさい、イフリータさん」
 男の声に、彼女はマリエルを抱いて立ち上がる。
 マリエルの父・デュラムである。
 イフリータは彼に、やや困った顔で応えた。
 「た、ただい、ま」
 「イフリータさん、君はいつでもここに帰ってきてくれて構わないんだよ。もちろん妹である君もね、イフリーテスさん」
 二人の鬼神は嬉しそうに顔を上げた。そして同じ言葉に声が重なる。
 「「ただいま」」


きっと僕の心に根付くだろう 

 

 「ただいまー」
 シェーラの間延びした声が神殿の入り口に響く。
 返事は、ない。
 彼女達はそのまま神殿の奥にある居住空間へと歩を進める。
 ギィ
 扉を開けるのはアフラ。
 「クァウールはん、ちょっと色んなおまけが付いてきてもうたけ…ど?」
 彼女の言葉はそこで止まる。
 「どうした、アフラ…げ!」
 「何よ、『げ』っていうのは!」
 ジト目で睨むのはミーズだ。その隣では藤沢がいびきをかいて眠り、クァウールは藤沢Jrをあやしていた。
 「ミーズ姐さん、いつこちらに?」
 「随分前よ。で…」
 ミーズは後ろの客人を見る。
 「なんか見た事のあるようなないような人達がいるみたいね」
 彼女の言葉に従い、二人は姿を現す。
 「久しぶり、ミーズ!」
 「……ふむ、ここは居住空間ということか」
 イシエルと、そして目の大きな老人が一人。
 「ミーズ姐さんがいてくれて丁度良かったわ」
 アフラは部屋に腰を下ろして老人を横目に見て続ける。
 「時の大神官をエルハザードに迎えるにあたって、どうしたら良いか……ミーズ姐さん、そんな疲れた顔、せんといてな」
 アフラは額に手を置いてしまった先達に苦笑。
 「ん、なんだか急に賑やかになったな」
 大欠伸をたてて、藤沢が目を覚ます。彼はシェーラとイシエルの姿を認めるとどこからともなく酒瓶を取り出して一言。
 「ま、困った事があったら呑んで考えよう、うん」
 「アナタ!!」
 ミーズの一喝。
 今日もエルハザードは平和な様である。


そして放つ僕の声は 

 

 誠は光の中を進む。
 この光の先に、彼女が待っているはずだ。
 再会を果たす為、何万年もの月日を待っていた彼女。
 「今度は僕が再会する番やで」
 どんな表情をしたら良いだろう、彼は僅かに悩む。
 彼女の遺した杖を手に、そして彼はついにその世界に降り立った。
 朝靄の中、彼女はフェンスに身を預けている。
 死にそうだった彼女の表情に、信じられないものを見つめる時の驚きの色が広がる。
 誠は、微笑む。それは心から自然と涌き出た微笑みだった。
 イフリータが駆けてくる,よろめきながらも確かな足取りで彼に向って。
 彼は彼女を抱きとめた。
 腕の中、確かに忘れもしないイフリータの存在を抱き締める。
 万感の想いを込めて、誠は告げた。
 「おかえり、イフリータ」


きっと君と君以外の誰かに届くだろう 

 
THE END



あとがき

 戦慄の世界エルハザードをお送り致しました。
 エルハザードで国間の争いをやったらどうなる? というのとキャラクタの暗黒面を描いてみたいというのがこの章の目的です。
 特にアフラの悲恋を描きたかったというのもありますけど…
 この作品は性質上オリジナルキャラクタが登場しており、人によっては好き嫌いがはっきりしてくる話と思われます。
 書き手としてはこの点もひっくるめて、非常に書きにくいモノでした。
 それ故に生みの苦しみもあって、満足いくものが書けました。
 少しでも気に入っていただければ嬉しいのですが……
 さて、幻影・混迷・戦慄と長きに渡りお付き合いいただきありがとうございました。
 このシリーズはこれでお終いですが、また別のお話で貴方とお会いできたら幸いです。


2001.9.30. 自宅にて 

一言コメントを頂けると嬉しいです




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