なりたい (後編)
Written by Uma



 城に入ったシェーラだが、なんとなくルーンの所へすぐ行く気にはなれない。
 かといって一昨日の事もあり、誠の所にも顔を出し辛い。
 アフラが気になったが何か思い付いた事があって行ったのかもしれないし、彼女が変な事をするとは考えられなかった。


 だがその頃、予想に反し誠は自室で寝込んでいた。
 まずアフラに覚えのない事で責め立てられた。
 次に丁度昼食を持ってきた菜々美が最初仲裁(というか誠の弁護)に入ったものの、アフラがシェーラの件で来たのだと分かるとアフラと一緒に誠をつるし上げる始末。
 結局誤解と分かったが(昨日はファトラの身代わりをしていた)既に誠はぼろぼろになっていた。
 「すんまへんなぁ誠はん」 傍で看病しながらアフラは頭を下げる。
 「いえ、いいんです。そやけどシェーラさんそんなにおかしかったんですか?」 寝たまま話す誠。起き上がる気力もないようだ。
 「そうなのよ。本当に変だったわ。あれは絶対なんかあったわね」 りんごを剥きながら話す菜々美。


 そんな事になっているとは知らないシェーラは、ぶらぶらと庭園の方へ歩いていった。
 さすがに手入れが行き届いていて年中花が咲いている。
 「自然に咲く花も奇麗だがこいうのも悪くないな」 一人ごちるシェーラだが思いがけない返事が返ってきた。
 「そのお声はシェーラ・シェーラ様ですね。良かったらこちらへいらっしゃいませんか」
 どきっとして声の方へ行くとルーンが一人でお茶を飲んでいた。
 「ルーン王女。こんな所に一人じゃ危ないだろ」 全然違う答えを返すシェーラ。
 「大丈夫ですよ、シェーラ様。シェーラ様こそお一人で何をなさっているんですか」 笑いながら問い掛けるルーン。
 シェーラはルーンのその余裕のある表情が羨ましかった。
 「どうなされました? 難しいお顔をなさって」
 「な、なんでもねえよ、いえなんでもないですルーン王女」 慌てて言い直すシェーラ。
 「シェーラ様、今は公務中でもありませんし普通に話して戴いて結構ですわ。それよりもこちらへどうぞ。本当はファトラを呼ぶつもりだったのですが、あの子ったらまたどこかへ行ってしまって」
 「相変わらずだなあ、ファトラは…。あっ、すいません王女。あたいはそんな意味で言ったんじゃ」 どんな意味だ?
 「ふふふ、構いませんよ、シェーラ様。それよりもどうしました。失礼ですが何か悩み事があるようにも見えますが」 すばり核心を突いてくる。
 「え、いや、そのぅ…」
 「取り敢えずこちらへいらっしゃいませんか。おいしいお菓子もありますよ」 にっこり笑うルーン。
 シェーラは昼食をとっていない事を思い出した。
 「そ、それじゃあちょっとお邪魔します」
 なんとなく居心地が悪いような気もする。
 というか、ヴァイの時とはまた違った意味で緊張していた。
 考えてみればルーンと差し向かいと言うのは初めてである。
 「今、お茶をお入れしますね」
 「そ、そんな王女様にそんな事をさせる訳には」 慌てて立ち上がるシェーラ。
 「シェーラ様。シェーラ様はお客様ですから座っていて下さい」
 「だ、だけど」
 「私がお呼びしたでしょう?」 優しく笑ってお茶を注ぐルーン。
 さすがのシェーラも恐縮している。
 ”そう言えば昨日も姉貴にお茶入れてもらったんだよな” 変な事を思い出すシェーラ。
 「所でヴァイ・ラール様がいらしているそうですがお会いになりましたか?」
 飲みかけたお茶を吹き出しそうになるのを必死に堪えるシェーラ・シェーラ。
 万一正面に座るルーンにお茶を吹きかけようものなら…。
 ルーンは許してくれてもミーズやヴァイが許してくれるとは到底思えなかった。
 「な、なぜ、げほげほ、ぞれを…」 むせながらも何とか質問する。
 ルーンは可笑しそうに笑いながら答える。
 「あれほどのお方がこの街へいらしているのです。すぐに分かりますわ」
 「は、はあ…。あ、そのぅヴァイ様なんですが明日こちらへ見えられると仰っていました」
 ”馬鹿野郎!なんて言い方してんだ、あたいは!” もっとましな言い方があっただろうにと思う。
 「まあそうですか知らせて頂いて有難うございます。私、ヴァイ様とはまだお会いした事がありませんので、ぜひこの機会にと思っていたのです」 笑ってルーンは続ける。
 「もしヴァイ様のご都合が悪ければこちらから参ろうかと思っていたのです。これでロンズに無理を言わずに済みます」
 「そんな、王女様。ヴァイ様は元大神官です。今はそれほど忙しい身ではありませんからヴァイ様の方からお伺いするのは当たり前の事です」
 珍しくまともな受け答えをするシェーラ。
 「そうかもしれませんが、私は個人的にもお会いしたと思っておりました。ですのでそういう場合、立場は関係無く私の方から参るのが礼儀だと思います」
 「そうですか…」 余裕あるルーンの言葉、態度に接し再び悩み出しそうになる。
 「シェーラ様。何かお悩みのようですね。よろしければ話されてみませんか。少しは楽になるかもしれませんよ」
 「…」
 ミーズやヴァイと違いルーンはシェーラの事を良く知っている訳ではない。
 また神官でもなく一国の王女であり同盟の指導者でもある。
 そんな方に相談するのは、とも思うが逆にシェーラの事を余り知らないからこそ客観的な事が聞けるかもしれない。
 ”どうするか…” 昨日から悩んでばかりいる。
 そんなシェーラをルーンは何も言わず見つめていた。
 決心がついたのか顔を上げるシェーラ。
 彼女を見つめていたルーンと目が合い思わず赤面する。
 普段は指導者としてのルーンしか見る事ができなかったが、今はミーズやヴァイと同じような優しさが感じられる。
 ちゃんと話す内容を考えていたシェーラだが、そんなルーンの顔を見た途端全部吹き飛んでしまった。
 「あ、あの、あたい…」 言葉がうまくでない。
 「あたい大人になりたいんだ」 言ってしまってから後悔する。
 ”何馬鹿な事言ってんだあたいは。これじゃルーン王女もわかんねえだろ” 昨日から同じ事を繰り返しているような気がしてくる。
 しかしルーンは気にもせず問い掛けてくる。
 「シェーラ様は十分大人ではありませんか。ファトラにも見習わせたいくらいですよ」
 半分は世辞だが実際そう思っている所もある。
 「いえ、あたいはまだ…。あたいより年下のアフラの方が落ち着いて見えるってよく言われるし、あたいは失敗ばかりでそのぅ…」
 ますます混乱してきている。
 そんなシェーラに構わずルーンは話を続ける。
 「シェーラ様、私は自分と他の人を比べるのは意味がないと思います。人の良い所を取り入れていくと言うのは必要かと思いますが自分自身の判断で他と比べると言うのはどうでしょうか」
 「だけど皆そう思っているしよう…」
 「誰がそう言っているのですか!」 突然強い口調で言われシェーラはびっくりする。
 「よろしいですかシェーラ様。あなたは大神官です。ですかあなたが希望しただけでなれるものは有りません。私やファトラのように生まれた時から王女という訳ではないのです。あなたが神官になって以来の修行や行いの数々を先代のルシア様が認められてあなたを推挙なされたのですよ」
 「だけどルシアの姉貴だって、あたいが一番できが悪いのでって言ってたし」
 「シェーラ様、あのルシア様が本当にそんな人を選ぶとお思いになりますか?」
 「だ、だけどよう…」
 「あなたがそんな事ではルシア様、そしてルシア様を選ばれたクレンナ様を始め歴代の大神官の方々に申し訳が立たないとお思いになりませんか」
 「あ、あたい…」
 「シェーラ様、大神官になったら修行は終わりと言うものではないはずです。もしも今御自分に足りないものがあるとお思いなら、別に今すぐではなくゆっくりと時間をかけても宜しいかと思いますが」
 「駄目なんだ時間がかかっちゃ。また誠に寂しい顔をさせっちまう…」
 言ってから思いっきり赤面するシェーラ。
 その時、ルーンの眼の奥がきらりと光ったが下を向いていたシェーラは気付かなかった。
 「よく地位が人を作るとも言います。また同様に外見もある程度関ってくると思うのですがいかがでしょうか?」
 「外見? 見かけだけじゃあ、中身がないんじゃまたやっちまうよ、あたいは」
 シェーラは完全に言葉遣いが元に戻っている事に気付かない。
 もっともルーンも気にしていなかった。
 「今、シェーラ様は大変動き易い格好をされています。どうでしょうか例えばお城の中だけでももう少し大人っぽい格好をされれば少しは変わるのではないかと思いますけど」
 悪魔の囁きだ。ただしシェーラはそれに気付かない。
 「大人っぽい格好…。確かに服とか邪魔になれば動き難いし多少ブレーキになるかな…」
 呟くように言っているがその言葉を聞き逃すルーンではない。
 「ではこちらへいらっしゃいませんか。実はファトラにと思って仕立てたドレスが数着有るのですが肝心のファトラが見つからなくって。ちょっとサイズは合いませんが軽く合せて頂いてもしお気に入りの物があればすぐにお作り致しますよ」
 「だ、だけどルーン王女。公務の方は」
 「この時間はファトラのために空けていたんです。そのファトラがおりませんしシェーラ様にお付き合い頂けるのなら私も嬉しいのですが」
 シェーラはなぜファトラがいないのか考えるべきであった。しかし
 「そうだな…。あたいも特にする事はないし。じゃあお願いします、ルーン王女」



 日が沈みやっとルーンから開放されたシェーラは、足取りも怪しくフリスタリカの街を歩いていた。
 ”え、エライ目に遭った”
 仮に敵意を持つ相手にならすぐに反応できるがルーンにそんな物あるはずがない。
 相手が悪かった、と言った所か。
 こんな時は呑んでさっさと寝るに限る、そう思いながら行きつけの小料理屋の暖簾をくぐる。
 早いと思ったが店内は結構混んでいた。
 「シェーラ・シェーラではないか。珍しいなこんな所で会うとは」
 「ファ、ファトラ。てめえこんな所で何やってんだ」 先程の事が思い出される。
 「何って、見ての通り酒を呑んでおる。それ以外ここで何をするのじゃ?」
 「そうじゃなくって今日てめえはルーン王女と約束が有ったんじゃねえのかって聞いてんだ!」
 「姉上と…。おおそうじゃったな。すっかり忘れておったわ」 勿論嘘だ。
 「て、てめえのせいでなあ…」
 ファトラはおや?という顔をする。少し考え
 「シェーラ、もしかして姉上の私室へ行ったのか?」 少し顔が青くなっている。
 怒りの表情のままゆっくり頷くシェーラ・シェーラ。
 「おかみ。コユウをくれ。五年貯蔵のものが有ったろう。瓶ごと頼む」
 酒の名を聞いて一瞬だが頬が緩むシェーラ。
 「こっちへこぬかシェーラ。良い肴も入っておるぞ」
 「誰がてめえなんぞと」
 「そうか…。ではわらわが席を外そう。おかみ、シェーラの呑み分はわらわにつけておいてくれ」
 「ちょ、ちょっと待て。なんでおめえがそんな事をするんだ」
 普段のファトラから想像できない行動に戸惑ってしまう。
 「お主には迷惑をかけた。今席が空いているのはわらわの隣しかないがお主はわらわの隣はいやじゃと言う。そうなるとわらわが河岸を変えるのが筋と言うものじゃ」
 ”ファトラって見かけよりも大人なのか?それともあたいが…” 何度目かの長考に入りそうになるシェーラ。
 「どうしたのじゃシェーラ?」
 「な、なんでもねえ。仕方ねえな隣に行ってやるよ。だけど変な事するんじゃねえぞ」
 「ああ、分かった…」 ”なるほどいつもと様子が違うのう…”
 「どうしたファトラ変な顔をして?」
 「いや何でもない。では呑むか」
 「ああ。コユウなんて久し振り、いや五年物なんて初めてだぜ」
 「そうか、しっかり堪能するがよい。他にもグリンリバーとかも置いてあるしな。ハクガンの特別吟醸も入っていたはずじゃ」
 「何! 本当かファトラ? そいつはいいや。よしどれだけ呑めるか勝負だ」 いつもの調子が戻ってきた。
 「ふ、おろかな。わらわに勝とうなぞ10年早いぞシェーラよ」 それを見て挑発するファトラ。
 「てやんでえ。その言葉そっくりけえしてやる! 行くぜファトラ」



 数時間後、店を出た二人だがさすがに千鳥足だ。
 「中々やるではないかシェーラ・シェーラ」
 「おめえも結構いけるな。知らなかったぜ」
 「所でシェーラよ。お主時々何か考え込むようにしておったが何かあったのか?」
 本来プライベートな事では有るが気になってしょうがなかった。
 酔った勢いできいてみたのである。
 「ん、ああ、そうだな…」
 「なんなら相談に乗るが」
 「ば、ばっきゃろー。昼間はそれでえれえ目に遭ったんでえ!」
 「そ、そうか済まぬな。姉上も悪気が有った訳ではない。許してくれ」 素直に頭を下げる。
 「え、いや別に許すとか許さねえとか思ってる訳じゃねえんだが…。だけどファトラ、おめえ王女のくせに居酒屋に出入りしたり、高飛車かと思うとすぐに謝ったり変な奴だな」
 「そうかシェーラ・シェーラ? わらわはただ自分の思う通りに行動しているだけだが」
 「思う通りか…」 ”あたいもそうやってきた。だけどその結果誠に…”
 「どうしたのじゃ、シェーラ。また考え込んで」
 「いや…。おめえは見かけよりもずっと大人なんだな…」
 「大人? それがどうしたのじゃシェーラよ。何かわらわに関係があるのか?」
 「おめえはあたいより年下なのにずっと大人なんだなって思ってな」
 「だからそれがどういう関係があるのかときいておるのだが」
 不意にファトラは立ち止まりシェーラをじっと見る。
 「どういうってよ、そりゃおめえやっぱ子供扱いされるよりはいいだろ…」
 ファトラは溜め息をつく。
 「どうしたシェーラ・シェーラ。お主はそんな事を一々気にするような女ではなかったはずじゃ」
 誠と同じ顔で見つめられ少しどぎまぎしているシェーラ。
 「だけど」
 「だけどではない。いいかシェーラ。わらわが大人とか子供とかそんな事は関係ない。わらわはこのエルハザード一の美少女じゃ。それ以外の何者でもないわ。大体大人とか子供とか意味がないであろう」
 自信たっぷりに宣言するファトラ。
 「大したもんだなファトラ。ただの変態かと思っていたが第二王女はだてじゃねえんだな」
 感心して言うシェーラに対し
 「誰が変態じゃ、誰が」 ずいっとシェーラの方へ出る。
 「ははははは、すまねえすまねえ。だけどおめえ本当にあの癖さえなけりゃいい奴なのかもしれねえな」
 とても謝っているようには見えない。
 「馬鹿を言え美少女は国の、いや世界の宝。それを愛する事のどこが行けないのじゃ」
 「くっくっく。そうだよなおめえはいつもそうだよな。だけどおめえはそれでいいんだなきっと」
 「シェーラ」
 「なんでえファトラ」
 「動くなよ」
 「なんだって?」 突然ファトラが抱き付いてくる。
 「な、なにしやがんでえ」
 「動くな! シェーラ」
 「な、なにを」 いつもと違い真剣なファトラの言葉に動きが止まるシェーラ。
 「そうじゃ動くでないぞ…。ふむ、体つきは十分大人じゃな」
 「おい、ファトラ」 殺気を含んでいる。
 「冗談じゃ、シェーラ。それより分かるか。わらわの体温や鼓動が?」
 ファトラが何を言いたいのかよく分からない。
 「あ、ああ確かに感じるがそ、それがどうかしたのか」
 ファトラは誠と違う事は分かっていてもやはり同じ顔。つい意識してしまう。
 「それが愛し合う事の基本じゃシェーラ・シェーラ」 シェーラの胸に顔を埋めながら話すファトラ。
 シェーラはぐっとファトラを抱きしめる。
 「ファトラ、このまま地獄に行ってみるか?」 ゆっくりと、ゆっくりと温度を上げていく。
 「ま、待てシェーラ。冗談じゃ。いやわらわが悪かった。許してくれい」 さすがに慌てるファトラ。
 シェーラは苦笑いしながらファトラを開放する。
 「ふう、本当に燃やされるかと思ったぞ。まあお主を抱けた代償と思えば釣りが出るが」
 「ほっほう、ファトラなんならお望み通り骨まで燃やし尽くしてもいいんだぜ」 指を鳴らすシェーラ。
 「ま、待て。冗談が分からない奴だな」
 「てめえの冗談は洒落になってねえんだよ」
 「そうか?わらわはそうは思わないが」
 「ったく、しょうがない奴だな」
 「なあシェーラよ」
 「なんでえ」 先程の事がある。さっと身構えるシェーラ。
 「そう構えるな。今のでも分かる通り人それぞれ基準が違っておろう。比べるのは無駄な事だと思わぬか?」
 シェーラはルーンに言われた事を思い出す。
 「どうしたシェーラ、考え込んで」
 「ああ、ルーン王女もおめえと似たような事を言っていたと思ってな」
 「姉上が?まあ姉妹だからな考えも似てくるのかもしれんな。だがシェーラよ、悩む姿はお主には似合わんぞ」
 「どうせあたいは馬鹿だよ。ほっといてくれ」
 「誰もそんな事は言っておらん。お主は常に前向きに生きてきたとわらわは思っておるからな。いや、わらわだけでなく皆そう思っているのではないのか? お主がそんな顔をしているとつい心配してしまう」
 はっとするシェーラ。 ”そういやアフラもなんか気にしていたな…”
 「心配の余り正常な判断ができなくなったものもおるようじゃ。明日にでも誠の所へ行って見るのじゃな」
 「えっ、誠がどうかしたのか」 ファトラに詰め寄るシェーラ。
 「行って見れば分かる。それに誠もお主の事を気にかけていたぞ」
 「☆▽○…。ば、馬鹿野郎あたいは別に誠なんて…」 下を向くシェーラ。
 ファトラはすっとシェーラに顔を寄せ軽く頬にキスをする。
 「な、なにしやがんでえファトラ!」
 「はっはっは、お主はそうしている方が可愛いぞ。では明日誠を宜しく頼んだぞ」
 誠の名前が出た途端体が竦むシェーラ。その隙にファトラは一気に逃げ出した。
 「今日は楽しかったぞ。じゃあまたな」
 「ばっきゃろう、誰がおめえなんかと…」 もう姿は見えない。
 「だけど誠がどうかしたのか…」
 さすがにこの時間に尋ねていく訳にはいかない。
 取り敢えず今夜は大人しく寝る事にした。



 翌朝、ロシュタリア城の廊下を歩く三人連れ。
 「そやけどシェーラもヴァイ様がいらしてはるなら、そうゆうてくれてもええのに…」
 「しょうがないわよあの調子じゃ。悩むのに精一杯で他の事には気が回らなかったんじゃないの?」
 「そうかもしれませんね。ああ見えて繊細な所がありますから」
 「ヴァ、ヴァイ様。今なんて言われました?」
 「ふふふ、想像できませんか、アフラ・マーン」
 「えっ、いやそういう訳ではないんどすが…。あの子はいつも前向きでうちみたいにうじうじ悩んだりせえへんかったし…」
 「シェーラはねえあなたみたいに勉強もできないしとか言っていたわよ」
 「そうでしたね、ミーズ。人間成長の過程で色々と悩むものです。シェーラが真っ直ぐ成長できたのもあなたのお陰ですね」
 「いやですわ、ヴァイ様。そんな事はありませんよ。元々あの子の資質ですよそれは」
 話ながら歩いていると突然爆発音が聞こえてきた。
 「この方向は…誠はんの部屋ですなあ」
 「て事は…」
 「いや誠はんの事ですから実験が暴走してという事もあるかもしれまへん」
 珍しくアフラは希望的観測を述べる。
 「アフラ、誠さんって危ない人なのですか?シェーラの想い人だと聞きましたが」
 「まあ見れば分かりますよって…行ってみまひょ」
 「そ、そうね。だけどなんかいやな予感がするわね…」
 「姉さん言わんといてくれます。うちもさっきからそんな気が」
 近付くに連れ音も明瞭になってきた。
 「これは…間違いなくシェーラの方術どすなあ…」
 「そうね…。どうやら菜々美ちゃんもいるみたいね」
 怒鳴り声も聞こえてきた。
 部屋の近くまで来て三人は足を止めた。
 「中に入るのは危険どすなあ」 ぼそりと呟く。
 「そうね、少し様子を見るのがいいかもね」 頬を汗が流れる。
 「ふう、ではルーン王女の所へ行きましょう」
 ヴァイはゆっくり振り向き歩き出そうとした。
 その時一際大きな音と共に壁に穴が開き、小さい破片が飛んできてヴァイに当たった。
 「ひっ!」 それを見てミーズが真っ青になる。
 ヴァイはゆっくりとまた振り向いた。
 「ミーズ、先に行っててもらえませんか」
 「は、はい。ルーン様には少し遅れるとお伝えしておきます」 顔が引き攣っている。
 「お願いしますね。ミーズ」 にっこり笑うヴァイ。
 なんなのかよく分からない。アフラは口を開こうとしたがミーズの目を見て思い留まる。
 ゆっくりと誠の部屋へ向かったヴァイだが入り口の前に(奇跡的に扉は壊れていなかった)立ったかと思うと突然扉を吹き飛ばした。
 「シェーラ! どこにおるんじゃあ! おとなしゅう出てこんか!」
 中は埃と煙で良く見えないらしい。怒鳴りながら中へ入っていくヴァイ。
 「はああぁ。何でこう炎の大神官って揃いも揃って皆切れ易いのかしら…」 溜め息交じりにミーズ。
 「皆って姉さん。クレンナはんやルシアはんもですか?」 驚いたようにアフラ。
 再度溜め息をついて続ける。
 「クレンナはね同期の間じゃ頭も性格もよく切れるって有名だったし、ルシアは、まあ確かに頭も良かったんだけどね。それ以前に前衛任せるとすぐにぷっつんしちゃって折角立てた作戦がよく台無しなってたわ。またひどい時にはバグロムと一緒に吹き飛ばされた事も何回かあってね」
 「は、はあ」 初めて聞く真実に驚きを隠せないアフラ。
 「あなたの先代とも相談して後ろを任せる事にしたの。最初の頃はいつ背中から撃たれるかと冷や冷やものよ」 額の汗を拭きながら話すミーズ。
 「それからすれば、シェーラなんてまだ可愛いものね」 断言するミーズ。
 「姉さん、苦労したんどすなあ」 しみじみ話すアフラ。
 「ま、それはいいわ、それよりも早くここを離れましょ。現役を退いたとは言えヴァイ様が参加したからもうただじゃ済まないわ」
 「誠はん大丈夫やろか…」
 「さあ。今回だけは…。幸運を祈るしかないわね」
 さっさとルーンの執務室へ向かう二人。
 後には爆発音と罵声そして…悲鳴が響いていた。



 後日、修復費の見積もりを受け取ったロンズだが中身を見て卒倒してしまった。
 ロンズの年俸とほぼ同額の金額がそこにあった。
 その後、爆発の原因は誠の実験の暴走とされ、誠は費用の半額を払わされる事になる。
 「僕が何をしたと言うんやー!」
 医務室で包帯だらけの誠が叫んでいた…。



お・わ・り 




なりたい によせて (By 元)

 Umaさんより頂きました,毎度ありがとうございます!
 シェーラが大人に『なりたい』物語,如何でしたでしょうか?
 派手なアクションがウリのシェーラですが、時にはこういった「静か」な部類に属するお話も似合っていますね。
 いつもどこかでふざけているエルハザードのキャラ達ですが本当に相手が悩んでいる時、出来る限りの力を以って手を貸してあげているというのがこの作品で見受けられます。
 きっとシェーラでなく、アフラであってもクァウールであっても、みんな親身にそれぞれ相談に乗るのでしょうね。
 特に後半部でのファトラのシェーラに対する応答ですが、非常にファトラらしい『真面目な対応』だったと思います。
 ところでUmaさん,エルハザードのお酒も呑みたいですね(笑)


2000.5.27. 元 


 Uma氏への励ましのお便りは こちら 


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