交錯した過去〜彼女の能力

  ぶろろろろろろ
  夜から夜中に時が移り変わろうとしている時、一台のいかにも新車な車が湾岸線を走っていた。
  しかし、新車っぽいのだが、なにか不審な点が多い。
  まず、車のいたるところに弾痕がある。
  つぎに、あるはずの後部荷台の屋根が半分ない。
  さらにスピードは法廷速度の3倍ぐらいは軽くでている。
  乗っているのは、まだ眠いモードではない若かりしころの姫萩だ。
  彼女は、やっと免許をとり、慣らし運転の最中だったのだが、
  なぜか気絶した梅崎と蘭東も車の後ろのスペースに乗っていた。
  なぜか?
  時は数時間前にさかのぼる…
 


  「兄ちゃん、免許取れたよ」
  姫萩家唯一の男兄弟の功兄ちゃんに末っ子の夕はできたての免許を見せながら言った。
  「おぅ、そうか。よかったな。夕はレースゲームは昔から得意だったもんな」
  ちなみにレースゲームは免許に何の役にも立っていない。
  「兄ちゃんの車貸してくれない?」
  「いいけど、大事に乗れよ、俺のお気に入りなんだから」
  ちゃりん と鍵を渡す功兄ちゃん
  「大丈夫大丈夫、そういえば、煙草、ない?」
  「未成年が吸うな」
  「う〜ん…じゃあ、いってきます…」
  「おう。あんま遠くまで行くんじゃないよ」
  「は〜い」
  「あっ、夕! 帰りに雑誌買ってきて!」
  「あっ、あたしも…」
  「…」
  「…」
  「…」
  末っ子にできる限りの買い物を押し付けた姉達の心には「いっしょに行く」という精神がなかった。


  ぶろろろろろろろ
  そして彼女は、人生において運命的なドライブへ出発したのだった。
  「やっぱり、本物のドライブはいいねぇ、夜風がきもちいいなぁ…」
  などと思いながら湾岸線をオーバー180キロでぶっ飛ばしていた。
  しばらく走り、彼女は重大なことに気付いた。
  「ここ、どこ?」
  彼女は重度の方向音痴なのである。
  しかも今の彼女には車という長距離用輸送機っつーものがあるのでどこまででも行けちゃえるのだった。
  「まあ、いいか」
  ちなみに彼女の実家のある某地下組織が市街征服しようと企んでいるF県F市からは、すでにかなり離れていることを彼女は知る由もなかった…




  第7話:出会い、そして覚醒 / TOP