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2人

 
 眼下に広がるのはこれから三年間、彼が学ぶ学び舎。
 それは久々の夕焼けに赤く赤く染まっている。
 まだ肌寒さを残す春の夕暮れの中、校庭を様々な運動部がはりきって活躍していた。
 どこの部も新鮮味を感じるのは、新入生が入っているからだろう。
 「ったく」
 それらを見下ろしながら、彼は大きな楓の木の下でギターをケースから取り出した。
 フォトジェニックのLP-280。黒いその身はところどころ剥げ、練習量だけは積んでいることが伺える。
 彼は調弦を開始しながら、小声で愚痴り始めた。
 「まさか軽音部が女子5人の部活だなんて聞いてねぇぞ。なんだよ、あの軽い音楽は」
 「軽音だから軽くていいんじゃないの?」
 「そういう意味での軽いじゃねぇ!」
 どこからかのツッコミにご丁寧にも答えつつ、彼はギターを弾き始めた。
 井上陽水の「少年時代」だ。
 初心者の登竜門とも言うべき曲だが……腕前は微妙なようだ。
 「まだまだ練習が必要ね」
 「うるさいな」
 2度目のツッコミに答えたところで、彼は気づく。
 誰からのツッコミなのか、これは??
 声のした方を、楓の木である真上を見上げれば一人の女生徒が枝の一つに腰掛けていた。
 「誰だ、お前」
 「あなたこそ、誰よ」
 それが。
 2人の出会いだった。


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