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願いの行き先

 
 「ねぇねぇ、ユウ?」
 「ん?」
 「雨降りな七夕ではさぁ、願い事はやっぱり天に届かないのかな?」
 そう呟いた彼女が見上げる空は曇天。
 今にも泣き出しそうな、重く暗い空だった。
 「さ、どうかな」
 オレ達が歩くのは駅前の交差点。
 今は商店街のアーケード目指して歩を進めている。
 視界の先の目指すアーケードには大きな竹が2本、色とりどりの紙飾りを纏わせて飾られている。
 その枝にはびっしりと願い事が書かれた短冊が結われており、葉と一緒に雨の予感を含む風に吹かれてさらさら鳴っていた。
 「届かなかった願い事は、どこにいっちゃうのかしら?」
 「そうだな」
 オレもまた空を見上げた。
 途端、鼻の頭に冷たい感触。降ってきてしまったようだ。
 「きっと雨にキレイさっぱり流されて、海にでも行きつくんじゃないのか?」
 「あー、なんかそれもロマンがあって良さげね」
 何故か嬉しそうに頷いた彼女。
 そうか?内心呟く。
 未紅の感覚は時々分からなくなるが、オレの手を握って雨の中を駆け出しているその足取りは、なんだか上機嫌っぽいので良しとしておこう、うん。


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