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選択ミス

 
 彼からこんな言葉を何気なくかけられたのはつい2時間ほど前のことだ。
 「明日はプールでも行くか」
 そう言った彼はどこか気恥ずかしそうに、視線をアタシから外しながら言ったものだ。
 それに対してついついアタシも、
 「う、うん。暑いし、ちょうど良いね」
 なにがちょうど良いかっ! もうちょっとひねった答えがなかったのか?!
 今思うと恥ずかしさで、いてもたってもいられなくなってくる。
 そしてアタシは今。
 明日の準備として一人、お店で水着を選んでいた。
 「ユウの好きそうな水着って、こんなのかなぁ。いやいや、こんな露出が大きいのはダメダメ。でも野暮ったいのはどーかと思うし」
 明日は勝負だ。
 滅多にアタシを女扱いしないユウに、私はやればできる子であることを証明する、絶好のチャンスなのだっ!
 「で、でもそのまま行くとこまで行っちゃたら…いえいえいえ、アタシはそんなに軽い女じゃないのよっ!」
 頭の中に浮かびかけた妄想を吹き消し、アタシは水着選びに意識を戻す。
 「必ずあるはず! 露出が大きすぎず、かつユウの目を惹くような、そんな水着がっ!!」
 
 別れ際の未紅の様子が変だった。
 妙にそわそわして落ち着かない雰囲気だったのだけれど。
 「ま、変なのは今日に始まったことじゃないか」
 オレは思考をそこで中断し、帰路へとついたのだった。
 翌日、オレは『6−4 秋月』と胸に大きくネームが張られたスクール水着姿の未紅を目にして「昨日のうちに何とかしておけばよかった」と後悔することとなるのだが。


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