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夏の不眠
青い空。
所々に浮ぶ白い雲。
輝く太陽は容赦なく夏の日差しを投げかけてくる。
ジリジリと焼けたアスファルトの上を、多数の男女が一定方向に向かって歩いて行く。
男女の共通点は白いYシャツ。
男子は薄地の紺色のスラックスに、女子は膝の長さの緋色のスカートだ。
彼らが向かう先には、5階建ての鉄筋構造の大きな建物がある―――高校の学び舎だ。
朝。
顔を出してから間もないはずなのに、元気一杯な太陽からの日差しを受ける彼らの足並みは重い。
その中でも、特に気だるそうに歩を進めている男子が一人。
まるで水中専用ズゴックが無理矢理に砂漠の行軍をさせられているかのような重い足取りだ。
そんな彼の背が唐突に、後ろから軽快に叩かれた。
同時。
「おはよっ、ユウ!」
聞き慣れた女子の声に、彼は重たげに顔を上げた。
「うわ……何よ、寝不足?」
「あぁ」
ユウと呼ばれた男子の顔には、両目にクマが出来ている。
「ネトゲーのやりすぎは体に毒だよ?」
「それは春海であって、オレはハマってない」
「え、じゃあ勉強のやりすぎ??」
「オレが夜を徹して勉強するように見えるのか、美紅?」
「見えない」
「即答かよ」
「じゃ、どうしたの?」
8割は興味、2割だけ心配を滲ませて美紅と呼ばれる女子は問う。
「蚊がな。昨夜は3匹は倒したんだがまだ2匹くらいいるようで」
「あー、耳元に、ぷぁ〜んって来るとウザイよね」
「眠れないんだよな、あれが来ると」
「へぇ、ユウって案外繊細?」
「もともと繊細だっ」
「でもでも、いいじゃん」
「何が良いんだよ」
「今日の午前中は、英語・数学・歴史でしょ。寝る時間たっぷり」
「………否定できないところが我ながら情けない」
やがて遠く、学校の鐘の音が聞こえてくる。
2人を始め、周りの生徒達の足が僅かに速まり、やがて校舎の中へと消えて行ったのだった。
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