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〜 Prologue 〜 

 燕達が海を越えてやって来た。
 彼らの目的地は暖かい春が訪れていることだろう。
 その燕達の中に一匹だけ、白い燕がいた。彼は目的地に到達した仲間を尻目に一匹,さらに飛んで行く。
 そう、彼の旅はまだ終わってはいない…



 雲一つない青空の下、のどかな山合いの小さな村に、数ヶ月振りの外界からの来訪者がやってきた。
 腰にまで流れる空の色の髪を無造作に後ろに束ね、同色のローブに身を包んだ二十後半の女性,その肩にはザックと供に、見事な細工を施した小さな竪琴が掛けられている。
 彼女は畑仕事に勤しむ村人一人一人にすれ違う毎に軽く挨拶を交わしながら、村に一つしかない宿屋に足を向けた。
 食堂と酒場を兼ねている二階建ての木造の宿屋だった。昼前であることから人はいないらしい,ただ静寂だけが支配している。
 ギィ…
 青い髪の吟遊詩人は、その両開きの扉を開く。薄暗い店内には、カウンターでグラスを磨く中年の男が一人。
 「いらっしゃい、ようこそ回想亭へ」 店の主人である彼は、そう言って数ヶ月振りの客である彼女に微笑んだ。
 「部屋を一つお願いできる?」 歌うような声で尋ねた彼女に店の主人は無言で頷く。
 「それと、ブランデーを少し入れた紅茶を貰おうかしら。可愛いお客さんも来たことだしね」 彼女は彼の前のカウンターに着く。
 「…詩人さんよ」 
 「お前が先に行けよ!」 
 「君が一番聞きたがってるじゃないか」 
 宿屋の前で子供達の声が聞こえる。言い争う声はすぐに跡絶え、代わりに眼鏡を掛けた六つくらいの子供を筆頭に、少女と一番年上らしい十くらいの少年の三人がつつき合いながら入ってきた。
 彼らは来訪者である吟遊詩人の前にやってくる。
 「…お姉さん、あの〜」 
 「なぁに?」 眼鏡を掛けた少年に、屈んで吟遊詩人は答える。
 「え〜と…」 
 「もう! じれったいな、俺が言う!」 もう一人の少年が眼鏡の少年を引っ込める。
 「吟遊詩人のお姉さん、何か話を聞かせてください!」 セリフを考えていたのだろう,おさないそんな少年に青い髪の吟遊詩人は微笑み、そして竪琴を取った。
 「そうね、何のお話が良いかしら?」 
 「強い英雄の話!」 
 「僕は有名な話は本で読んでしまってるので、誰も知らないようなものがいい」 
 「妖精さんとか、優しい魔法使いさんとかが出てくるのがいいな」 
 三人は先を争うように注文する。それに吟遊詩人は微笑みながら竪琴を軽く鳴らした。それを合図とするように子供達はピタリと静まる。
 「じゃ、少し長いけど聞いてね。マスター,いいかしら?」 店の主人は微笑みながら、紅茶を彼女に差し出した。
 吟遊詩人は紅茶を一口含み、その香りを確かめながら、竪琴を軽く引き鳴らし始める。



 今は昔、遥かなる時を越えて、私は語るであろう
 かつて光と闇が呼び合った。それは美しき恋の物語り
 かつていくつもの国が生まれ、滅びた。それは興亡の物語り
 かつて精霊が人を愛し、育てた。それは優しき世界の物語り
 そして受け継がれしは好奇心。これは冒険の物語り・・・・・





   第一章


<Rune>
 幼い頃、僕は闇と親しく話した覚えがある。
 その頃は闇だけでなく、暖炉の火や水瓶の水,吹き抜けて行く風や木々の声を聞いていたような気がする。
 しかしいくら思い返しても、幼い頃には決して戻れない。
 いつの頃からだろう、声が聞こえなくなったのは。そもそも声など聞こえていたのだろうか?
 僕は時を戻せたら、と思うことはある。
 だが後悔はするが決して今という時からは目を逸らそうとは思わない。目を逸らしてさらに失敗を生んで困るのは自分自身だからだ。
 だから僕は幼い頃、聞いた覚えのある声に未練はなかった。
 あれは子供にしか聞こえないものだったのだろう,そう思い、回想することなど滅多になかった。
 が、今になって無性に闇からの声だけが懐かしく思える。あの声は一体誰だったのだろう?
 誰にも増して、大切な人であったような記憶がある。
 しかしそれを知る術は、今の僕にはない…



 真冬の冷気を取りこんだ僅かな風が僕の前髪を揺らす。
 カーテンから漏れた弱々しい朝日は、まだ眠気顔の僕とベッドを優しく包み込んでいた。
 朝。
 街は人という血液をその身に循環させ、次第に活気を取り戻して行く。朝日が闇を振り払い、この街を光で満たす。
 「ルーンお兄ちゃん、おっはよう!」
 聞き馴れた少女の声とともに座布団が僕の顔を押し潰した。
 「クレア…入る時はきちんとノックをしないか。それに何だ、こんな朝早くに。今日は日曜だぞ」
 このアパートの大屋さんの娘,クレオソートの元気な声が僕の聴覚を目覚めさせる。
 「朝一番にソロン達が帰ってきたのよ。ルーンお兄ちゃんを起こせって騒いでるの。なんでもいい物見つけたって」
 活気ある声で少女はカーテンを開けながら言った。雪雲に包まれた弱々しい朝日が僕の視覚を刺激する。
 「下で待ってるからね、早く下りて来てよ!」
 朝日の中でクレアの金色の髪を見た僕は、その眩しさに目を細める。
 「ソロンのいい物か…ろくな物じゃなさそうだな」 元の静寂を取り戻した部屋で僕は、誰となく呟いていた。



 僕の名はルーン=アルナート。ここエルシルドにある賢者育成所の一つとして名高い、アイツール王立学院に通う十八歳のニールラント男子だ。
 ニールラントとはこの国,アークス皇国の大部分を占める民族で、黒髪黒目、肌色の肌という肉体的特徴がある。
 そしてここエルシルドの街はアークス皇国首都,アークスに近い、文化と魔術の街として知られている。
 アークス皇国というのはこの国の名前、中央の央国とそれを囲む四つの獣公国…北の虎公国,南の竜公国,西の鷹公国,東の熊公国から成り立っている王国だ。
 ちなみにこの街は央国に属し、位置的には東寄りに位置している。
 そんな、至って平和な世の中に僕にとって暗黒の時代が訪れていた。
 僕は来年の二月、後二ヶ月とちょっとで学院を卒業する。成績は悪くないにしろ、決して良くはなく、目立って悪いのも良いのもない僕は、典型的な普通の男であった。
 賢者というのはかつては数が少なかったが、今ではこのアイツール王立学院他、様々な学びの場のお蔭で需要は完全に満たされたいた。
 加えて、緩慢な経済体制から生じた株の下落,大幅な貿易赤字。
 そして今は僕の様な卒業生にとって暗黒の時代,すなわち不況故の就職問題であった。
 言うまでもなく僕の就職先は、未だに決まってはいない…。



 僕の家族はここ、『失われた風景荘』の四階に住んでいる。五階建てのこの建物は、一階が大衆食堂,二階から上がアパートとなっていた。
 そして僕は父と母の三人で暮らしている。
 しかし幼い頃から両親は家に帰ることが少なかった。今日も一昨日外出したまま帰っていない。
 仕事と言うが、両親は仕事の内容を一度たりとも話してくれたことすらない。
 『父の七つの秘密の内の一つさ』 と訳の分からないことを父は言う。
 そんな訳で僕は食事などは一階の食堂を経営し、大屋さんでもあるマイア夫妻にずっと頼っている。食事だけでなく様々な意味で彼らが育ての親であった。
 その為だろう、一人娘であるクレオソートは僕を兄のように慕ってくれている。
 僕は彼らの待つ一階へと、寝巻きから動きやすいチェニックに着替えて足を運んだ。
 「おはよう、お兄ちゃん」 クレアが再び声を掛けてくる。
 「おはよう」 
 冬の朝日では暗い為、明かりの魔法でセピア色に染まった店内には七人の知人達が思い思いに腰を下ろしていた。
 辺りには失われた風景亭自慢のコーヒーの香りが立ちこめている。
 僕はカウンターに就いた。
 「おはよう」 クレアの母,レナおばさんがカウンター越しにパンとコーヒーを僕の前に置く。
 クレアの金色の髪はレナおばさん譲りである。おばさんもまた、南の民族ディアルとニールラントとのハーフだと聞いたことがあった。
 「おはよう、おばさん。今日も雪かな?」 微笑むレナおばさんに言って、僕はコーヒーカップ片手にソロンの元へと移る。
 ソロンとその相棒であるシリア,吟遊詩人のシフとエルシルド警備隊隊長のケビンの四人は暖炉の前の丸テーブルに陣取っていた。
 ソロンは何か企むような光を目に宿して僕を待っている。
 その前に彼らの紹介をしておこう。
 ソロン=エリシアン,僕より四歳年上で二年前魔法学校を卒業した。
 文武両道,知能明晰にして、顔もスタイルも良い。すっきりとした銀髪のスポーツ刈りと何事も見通すような青い瞳は、東に位置する熊公国によく見られるスーフリュー民族譲りだ。ここまでならはっきり言ってモテるだろう。
 しかし神は完璧という言葉がお嫌いのようだ。彼は性格的に人道から外れていた。どう外れているかは表現しようもないが、とにかく酷い。
 隣の女性、シリア=マークリーもソロンと同い年で卒業している。魔法に関しては学院で一,二位を争うほどの使い手であった。
 おまけに美人でもある。黒いショートヘアに端正な顔立ちは男子生徒の目を釘付けにしていた。
 しかしこいつもソロンと同類項としてカッコで括れる。
 彼ら二人はかつてこのアパートに住んでいた。そして幼い頃から僕を含めて悪ガキ三人組と呼ばれたものだ。
 しかし本当に悪いのはこいつとシリアだけである事を知っている者は、僕とクレア以外存在しない。
 学院卒業後、優等生であった二人の下に国王から勅使が来て是非とも仕官してくれと頼まれたらしい。が、彼らは断わり、冒険者としての旅に出たのだ。
 何故彼等がこのような道を歩んだのかは未だ疑問である。
 それからというもの彼らは数々の冒険談をおみやげに語ってくれる。
 今回は警備隊隊長ケビンの依頼で、近くの山に巣喰い始めた大蟻を吟遊詩人のシフを交えて退治しに行ったのだ。
 「おはよう、ルーン。眠そうね」 青い髪の万年20代後半の女性,シフ=ブルーウィンド,通称シフ姐が僕の背中を叩く。
 青く長い髪は一見染めているかと思われるが、自然の光彩を放っている。シフ姐=青い髪という会った時からの印象が強いので不思議と違和感がない。
 そもそも髪の色以上にどうも人間を超越しているような雰囲気を持っている人なのだ。第一、歳をとらないし神出鬼没,いつの頃からこのエルシルドにいるのかすら僕には分からない。
 僕が幼いときにソロンと供に歌をよく聞かせてもらっていたものだ。
 「そうそう,ルーン。就職見つかったのか? 警備隊ならコネで入れてやるぞ。代わりにみっちりしごくがな」 口髭の似合わないケビンのおっさんが笑いながら言った。
 エルシルドの警備隊隊長,と言っても中間管理職だが、それを務める中年男がこのケビン=コスナーだ。
 一言で言うならただのおじさん,しかし色々な意味で結構悪者である。
 「おかえり、みんな。怪我はないの?」 彼らが退治しに行った大蟻と言うのは、一匹が二m程の大きさの怪物である。
 その表皮は硬く、なまくらな剣は通さないレベルの高い怪物だ。そんなもの数百匹相手に無傷でいる彼らこそが化け物であるが敢えて言うまい。僕も命を投げ出したくないからね。
 「ルーン,あなた今、私達の方が化け物だなんて思ったでしょ」 感の鋭いシリアが僕の首に腕を掛け、絞めていく。
 「く、苦しい…」 
 「まあまあ、ところでルーン。蟻の奴、おもしろい物持っててな。これをやろう」 言ってソロンが僕に渡したのは一振りの剣,柄は錆びで鈍く光りながらも、かつては細かい細工がしてあったようである。
 「ちぃと早いが、俺からの卒業祝いだ。大事にしろよ」 
 僕は剣を良く調べる。今までそうであったように、ソロンの渡すものなど普通であるはずがない。僕は学院で学んだ知識を総動員して剣を調べた。
 「おいおい、人の贈り物を疑ってるのか?」 ソロンの笑いが含まれた非難を無視する。
 鞘はごく普通の金属性のもの。特別な装飾は一切見られなかった。そして柄だが、なにやら魔法文字が見て取れる。このことから魔術的な細工がしてあると見て、間違いないようだ。
 またこれは叩きつける意味合いの強い直剣の部類ではなく、切ることを主とする曲刀の一種『刀』と呼ばれるものだ。
 そしてこの剣と鞘は縄でしっかりと括り付けられ、引き抜けないようにされていた。これはソロン達によるものらしい。
 「その剣の秘密が分かったら俺の全財産をやろう」 薄笑いを浮かべながらソロンは言う。
 もっとも、彼の財産など白く塗られた板金の鎧と、背中に背負った大剣くらいなものである。
 「痛い目にあったものね、アナタは」 シリアが笑って言った。
 どうやらソロンがまず引っ掛かり、一人だけでは気が済まないので僕も引っかけてやろうという魂胆らしい。
 「…鞘を抜いてみるしかないか。でもそんなことしたらソロンの二の舞だしなぁ」 四人の好奇の目を受けながら結局、僕はそこに行き着いた。
 「どうでもいいけどお兄ちゃん,お店は壊さないで」 クレアの問いにシリアが答える。
 「大丈夫、痛いのはルーンだけだから」 
 「やっぱり痛いものなのか! 何が起こるんだよ」 僕は剣を置いて言う。
 「いいからさっさと抜いてみろって」 ソロンが急かした。
 僕は縄をナイフで切って、剣に仕掛けられているであろう,罠に対して慎重に鞘を抜いていった。錆のない美しい刀身が少しずつ現れる。
 その刃は、なにやら魅惑的な光を放っていた。
 僕は何事もなく鞘を抜き放っていた。
 「…で?」 まるで不発の花火を見る目で、四人は首を傾げている。
 僕にしても何か起こるであろうと警戒していただけに拍子抜けしてしまう。
 「でも、きれいな剣だね」 僕は改めて刀身を見つめる。
 研ぎたてのようなその刀身には、僕の顔がはっきりと写っていた…はずであった。
 「あれ?」
 写っているのは僕の顔ではなく、怪しげな化粧をした少女の顔である。
 黄色い長髪に透けるような白い肌、妖精に見られる長い耳と、その整った面には黒く鬼神を思わせるようなペイントが施してあった。それがかえって彼女の怪しげな魅力,おそらく魔的な魅力を引き立てている。
 だがそれ以外に何か,そう、かすかに懐かしいものを感じる。それが何なのか分からない。気のせいかも知れないが…。
 茫然と見つめる僕に、刀身に写る彼女は青く澄んだ優しい瞳を僕に向け、軽く笑釈した。
 「あ、どうも…って何? これは!」 慌ててソロンに目を移す。彼はいつの間にか、僕の後ろで刀身を睨んでいた。
 「随分対応が違うじゃねぇか。これはどういう了見だ?」 
 「私は剣魔イリナーゼ,高貴なる魔族の血を引く者よ。よろしくね」 ソロンを頭から無視し、彼女は自己紹介する。
 「僕はルーン,よろしく」 反射的に答える僕を遮るようにソロンが剣を引ったくり、剣に怒鳴りつけた。
 「人を無視すんじゃ…だぁぁぁ!」 ソロンが掴むと同時に稲妻のようなものを剣から彼へと向かって飛んだのが見えた。
 「私、女性に優しくしない人は嫌いなの」 刀身に写る彼女はきっぱりと言い放つ。ソロンは床で固まったまま、ただ剣を睨つけている。どうやら痺れて動けないようだ。電撃系の魔法か?
 「分かった、ソロン。今度から女性には優しくするのよ」 
 「ホホホホホ」 シフが諭し、シリアはここぞとばかりソロンを嘲笑う。
 確かにこんな女性ばかりがまわりにいれば、ソロンでなくとも気を使うという馬鹿なことはしない。
 「どうでもいいけど、君は誰だい?」
 僕もソロンを無視し、刀身に目を戻す。彼女は僕の質問に首を傾げる。
 「さっきも言ったでしょう? 剣魔イリナーゼ,魔族の血を引く者よ」 
 「魔族…なの?」 彼女はこくりと頷く。
 この世,つまり物理的世界には『人間』の知識にて区別すると、動物達や人間,亜人などが住んでいる。
 亜人というのは人間以外の知的生物で、エルフやドワーフといった者達のことだ。彼らは能力的に人間より大きく秀でているが、圧倒的にその数は少ない。
 また僕達は生きている以上、精神世界にもその身を僅かながら置いている。夢を見ることなどが精神世界の現象なのだが、正しく解明されてはいない。
 そんな精神世界に存在を大きく置くのが、彼ら魔族。完全に精神世界の住人である精霊に近い存在なのであるが、それぞれに孤立化した意志が存在する為に一個の生体と呼べる。
 しかし魔族は人間の価値観とは相容れない存在であり、一方的な敵と呼んでよい存在であった。邪悪にして滅びと混沌を望むもの,それが魔族である。
 それに相反している立場にあるのが天使,神聖にして生成と秩序を望むものだ。しかしながら天使もまた僕達賢者と呼ばれる者の間では理解し難い考えを持った者達である。
 魔族と同様に生物としての意志を有しているのだ,エネルギー体でしかない精霊とはやはり異なる。
 また一般には神の使いとされているが、神はすでに実体として『存在』していないと仮定している僕達賢者の間では、完全に否定されていた。ま、それはともあれ、だ。
 「魔族だと悪いかしら?」 試すように彼女は尋ねる。それに僕は頭を軽く掻いた。
 『魔族こそ諸悪,問答無用で滅ぼすべし』,そう説いているのは神に仕える神官達であり、また普通はその考えが根底に深く普及している。
 だが僕達賢者の間には、天使に対しての解釈と同じ考え・天使と魔族は人の心と密接な関係を持つ、相反する精神生命体である、というのが主流である。
 またこんな考えもある。
 『存在するものに存在してはいけないものはない』,風の神の教えであり、シフ姐によくそう聞かされていた。
 簡単に言えば、この魔族も天使も『良く分からない』生命体なのだ。あからさまに敵と決め付けようにもその考え方自体が彼らには通じない。思考形態が異なるからだ。
 そもあれ、僕の彼女(?)に対する答えは…
 「それもそうだね。悪いことなんてないか」 僕は微笑んで答えた。別に彼女が悪いことをした訳でもない。悪事ならここにいる全員,レナおばさん以外だが、そんじょそこらの悪党よりも働いているに違いない。
 「でも、どうする? 君は生きているんだから、ソロンから貰う貰わないどころじゃないと思うんだけど」 後ろでケビンが、「律儀な奴」とか何とか呟いていた。同じように剣魔も軽く笑う。
 「じゃあ、私を貰ってくれないかしら。この剣士に返品されたくないの」 
 「…君さえ良ければ、ね♪」 不思議な魔族に僕は微笑んでそう答えた。

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