You get "Warmth".
You feel yourself & ourselves.



 前回までのあ・ら・す・じ♪

 俺の名は市村 誠一,大学受験に(そこそこ)燃える慶京高校の3年生だ。
 そんな俺はごく普通の学生で、健全なる青年。え? 自分で健全なんて言ってる奴に限ってそうじゃないって?
 …まぁ、俺の周りにはそりゃ、変な奴が多いさ。関西弁のキチ●イ科学者の卵とか、高慢ちきで飛んでる矢を素手で掴む非常識男とか、手よりも口が早い強暴女やら。
 そして今、俺の隣にはおぼつかない足取りで帰路につく万年欠席娘がいたりする。
 え? 類は友を呼ぶって??
 …むー
 ともあれ、そんなこんなで僕の高校生活は結構騒がしかったりする。そんな生活もあと一年を切ってしまったかと思うと、どこか寂しいと心の片隅で感じる事が…ないなぁ…。

 乙音:「誠一さん、あらすじ紹介になっておりませんわ」
 誠一:「ん〜、前回までを読んでね」
 乙音:「…いいのかなぁ」


だめです!


不連続設定

Part.04 異天使達の遭遇 下



≪Site of Seiiti Itimura≫

 うららかな春の陽気。
 桜色の小片が俺の鼻先を掠めて風に消える。
 空は晴天,所々に白のアクセントがゆったりと流れて行く。
 「すっかり春だね、若桜さん」
 俺は隣を行く同級生に声をかけ、思わず額に汗。
 若桜 玲,生まれつき病気がちで、学校も出席日数ギリギリにて人生を邁進する剛の者だ。
 その彼女は顔を真っ赤にしておぼつかない足取りで歩いている。当然、俺の声は聞こえていないだろうな…
 ”熱あるんじゃないか?”
 彼女は『なんともないから!』なんて言っていたが、そうは見えない。だからこそ担任が俺を帰宅の同行に付けたのだけれど。
 「あの、若桜さん?」
 ふらふら…彼女は応じずに心ここにあらずといった感で歩を進めている。
 分厚い丸眼鏡の向こうの瞳の色は窺い知れない。
 「わ・か・さ・さん!」
 「?! ふぇぇ?!?!」
 と、間抜けな声を出したかと思うと俺に振り返り…倒れ掛かってくる。
 俺は慌てて彼女を抱きとめた。
 「やっぱり熱があるんじゃないのか?」
 真っ赤に頬を上気させた彼女の額に左手を添える。
 ”げ…”
 すごい熱だった、微熱どうこうのレベルじゃないぞ?!
 「ちょ、若桜さん! すごい熱じゃ…」
 「あ、あの、私、その…」彼女は慌てて俺から一歩離れ…ぺたりとその場に尻餅を付いた。
 これだけ熱が出てれば俺でも歩けないぞ。
 俺はしゃがんで彼女に背を向ける。
 「あの、市村さん?」
 「おぶってあげるから。早く病院に行くぞ!」
 「えと、その…」
 「早く!」
 「…はい」
 やや怯えた返事をして彼女は俺の首に腕を廻した。背中に彼女の感触を覚えると同時に俺は立ちあがる。
 ”軽いな”
 圭に後ろから抱きつかれるのと大違いだ、などと場違いな事を憶えつつ俺は、頭の中で近くの病院を検索する。
 「ええと…近くに市原クリニックがあったな」
 「あの、市村さん?」
 「ん?」
 耳元におずおずとした若桜さんの声が、吐息を伴なって伝わってきた。
 「どうして初対面の私にここまでしてくれるんですか?」
 困ったような、そんな弱い声だった。俺は思わず苦笑。
 「こんな若桜さんを放っておく奴なんて、いるのかい?」
 「………ありがとうございます」
 首にまわす彼女の腕の力が少し強くなった様な気がした。
 強く…強く?
 「ぐぇぇ〜」
 危うく落ちそうなる寸前に、俺の彼女の足を支える腕が弱まる。
 俺の腕を振り解いた彼女の足はふりこの原理を利用して俺を突き飛ばし離れた。
 俺は前のめりになりたたらを踏んで倒れるのを防ぐ。
 「ちょ、若桜さん!」
 慌てて後ろに振り返り彼女を見る。硬直。
 「キャハハハハ! もっと体を鍛えなよ!」
 甲高い笑い声を上げる彼女はしっかりと二本の足で大地を踏みしめ、生気の溢れる顔で俺に言い放っていた。
 今までの若桜さんとは対極の印象を受ける、思わず俺は呟いていた。
 「誰だ、お前…」
 ニタリと、若桜さんは微笑む。その顔だけで、俺は今の言葉が間違っていない事を感じた。
 「そう尋ねられるのは初めてなのよねぇ」
 頬に手を当て、彼女は考える。
 「そうね、私はアリス,アリス・リデルよ」
 「アリス…だって?」
 「そ。玲ちゃんを護る騎士なんだ」
 言いながら分厚い眼鏡を取る。現れた大きな瞳は病弱さなどカケラもない、強い意志が宿っていた。
 俺は確信する。もしも彼女達が近しい性格ならば自身は持てなかったろう。
 「二重人格者…」己の声が乾き、別人のものの様に耳に届いた。
 「違うわよ、私は彼女の騎士。彼女がちゃんと一人立ちできたら消えるもの」
 「? 騎士?」どうも何を言っているのか分からない。
 「そ。彼女がどうしたら良いのか分からなくなって逃げたい,そう思った時に私が出るの」
 「…じゃ、若桜さんは今、熱が辛くて?」
 「ばぁか!」鼻で笑ってアリスは抗議する。
 「もともとあの子は病弱なんかじゃないのよ。こうして私がぴんぴんしているんだから!」
 言ってアリスは俺に顔を突き出した。
 「何?」
 「私の額、触ってみな?」
 「?」
 触れると人肌よりも少し低いくらいの熱が伝わってくる。
 「ね? 平熱でしょ?」
 「…じゃ、さっきのは??」
 「精神的なものよ。あの子は異性に免疫がないからね。アンタは別に何とも思っちゃいない行動が、あの子にはびっくりするもんなの」
 ”何かやったか?”自問して…んー分からん。
 「これでも最近は私の出番は少なくなったもんなのよ。今日は学力テストっていうから無理して行かせたけど、アンタが着いてこなきゃ最後まであの子一人で一日過ごせたのに…ったく!」
 「そう言われても…すまないな」今思うと俺は何も悪い事はしていないのだが…迫力に押されて謝っていた。
 アリスは非難の目を向けたかと思うと、不意に優しげなそれに変わる。
 「まー、おかげであの子は学校に行きやすくなったわけだから結果的には良かったかな
 「へ?」ボソリと呟く彼女の声が聞き取りずらい。
 「いえ、こっちの話。取り敢えず、玲ちゃんのことは宜しく頼むわよ」
 「頼むって…そういわれてもなぁ…」
 「アンタは今まで通りしていれば良いの。私のことを忘れてね!」
 「?」忘れる?
 「玲ちゃんは私の存在を知らないのよ。明日の玲ちゃんの記憶では、今日は病院に行った後に帰宅したってことになってるわ」
 「そうなのか…そりゃ恐いな」
 自分の知らないうちに、他の人格が自分の体で動いているのだ。これ以上の恐怖はあるだろうか?
 「もう分かっていると思うけど、玲ちゃんは病弱なんかじゃない。人が苦手で会いたくないから、自分で病弱と思い込んでしまっているだけ」
 「結果的に本当に熱が出ていたけどな」
 「ええ。これは私がどう動こうと治るようなものじゃない。だからアナタに力を貸して欲しいのよ」
 「…」
 アリスの瞳には『彼女』の意志が宿っていた。若桜 玲ではなくアリス・リデルとかいう者の意志だ。彼女の言わんとしている事は分かる、若桜と友達になってくれという事だ。そうすることで彼女の心の溝を生めて欲しいと。
 しかしそれは…
 「君は消えるということだぞ」
 「そうね」俺の一言に、アリスは無表情に頷いた。
 「私は死にたがっているのかもしれないわね」
 呟いたアリスの横顔は、俺は一日しか出会ってはいないが若桜には決して出来ないものだと感じた。



≪Site of Camera≫

 「遅いな、セイちゃん」
 「梅崎先輩、一体なんです? 話って??」
 「仕方ない、梅崎殿。誠一抜きで始めようか」
 「そうですね、那智殿」
 「俺に何の用だ?」
 「何でこの馬鹿づらにーちゃんがいるのよ」
 「馬鹿ゆ〜な!」
 「「そこ、うるさい!」」
 那智老と梅崎は困り顔の三木を挟んで睨み合う、土御門と北見に注意。
 梅崎はともかく那智は2人の師匠である事もあってか、しぶしぶ黙り込んだ。
 「皆に集まってもらったのは他でもない」
 那智老はそう言って一同を見渡した。
 北野天神社の社務所。そこに5人+一台の男女が揃っている。
 丸いちゃぶ台を囲んで年長者の那智 詠祥。この神社の神主で当年75歳。
 隣にはこれから話される計画の副首謀者・梅崎 圭,慶京高校3年生にして那智老の趣味の親友。
 その2人を前にして心配そうに相対するのは3人の若者。
 ますは紅一点の北見 葵,慶京高校3年の特別進学クラスに在籍する俊才にして、ここ北野天神社の弓道場に通う門下生。高校においても弓道部に属している。
 その隣には坊主頭の学生、三木 三郎。慶京高校に入学したばかりの一年生。やはり北見と同じくこの道場の門下生と高校の弓道部の二足わらじだ。
 最後にがっしりとした体つきの男、土御門 亜門。那智老の甥にあたり、昨日から北野天神社へ彼の父から問答無用で住み込み修行を強要された高校二年生だ。
 本日、慶京高校に転入手続きを行い、土日を挟んだ来週から通うこととなっている。
 土御門家はかつては那智家の裏家で、阿倍晴明が開祖の土御門神道・陰陽道を今に伝える家系だ。彼自身、幼少より古の術を叩き込まれ、武道もまた鍛えられたという文武両道の男だった。
 もっとも現代の『文』と『武』かというとそうでもないようだが…
 そして部屋の隅には白い上着に赤い袴を纏った黒髪の女性が一人。橘重工のメイドロボHXXP-8802・個体名『伊織』である。
 だが彼女の意志は『死』んでおり、今は単純な命令のみをこなす人形だった。
 そんな一同をゆっくり見渡した後、那智老はこほんと一つ咳をして梅崎に目配せする。
 梅崎はコクリ、頷き立ちあがると手にしたポスターを勢い良く開く。
 「「「??」」」
 北見、三木、土御門の順で目が見開かれ…
 「「「し、師匠??」」」
 一斉に那智を見た。案外気が合うのかもしれない。
 「その通り、わしらはこれより修羅場に入る!」
 「「「わしら?! 複数形?!?!」」」
 ポスターはこんなものだった。
 『こみっくぱーてぃー 4/24(日) 場所:五代ビックサイト』
 こみっくぱーてぃー,それは同人誌即売会である。
 がちゃり、伊織が何気に部屋の鍵を閉めていたりする。
 「僕、そんなんに興味ないでス!」慌てて立ちあがる三木に、梅崎は懐から写真を数枚取り出した。
 「三郎君、逃げるとひ・み・つをバラすよ」
 「僕で良ければ手伝うっス!(あとでネガくださいよ、先輩)」
 「私はゴメンだからね,なんでそんなことやんなきゃいけないの! 大体、明後日の話じゃない。友達で緒方さんっているけど、その子は3ヶ月前から準備してたわよ!」
 叫ぶ北見。それに対し、那智老は残念そうに呟いた。
 「その緒方殿と北見殿の『知り合い』の遠藤殿が手を組んで今回は出店しとるのじゃ。負けたくなかったのじゃが…致し方あるまい」
 「何やってんのよ、師匠! さっさと始めるわよ! 晶なんぞに負けた日にゃ、悔しくて半年は眠れないわ!」
 梅崎と那智はニタリと微笑み合う。と、
 「あの、那智師匠?」
 「何かね? 亜門君?」
 状況に付いていけないといった風で、鋭い目つきの青年は尋ねた。
 「こみっくぱーてぃーとは何でしょうか?」
 梅崎の説明に、彼は結局あらゆる手段で逃げ様と試みたが、全てを那智老&梅崎にあっさり阻止され、泣く泣く修羅場に突入したそうである…
 後に彼は曰く、
 「俺の陰陽術がかくもあっさり,それも梅崎とかいう一般人の若者にさえ破られるとは、まだまだ修行が足りない様だ」と。
 彼の言葉には誤りがある。
 梅崎はあらゆる意味で、限りなく一般人ではない場所にいるということだ。
 「で、師匠。題材は何ですか?」
 北見はGペン片手に老人に尋ねた。
 「『神秘の世界エルハザード』、表紙は16色カラーで32Pの予定じゃ」
 「進行状況は?」三郎が遠慮がちに聞く。
 「「0」」
 那智&梅崎は胸を張って答えた。残された時間は一日半,いや、印刷する時間もない。
 「印刷屋は当日の朝一を押さえてある。楽勝楽勝!」
 笑う梅崎の額の汗を、土御門は見逃さなかった。(ちなみにこんなスケジュールは物理的に不可能です)
 「取り敢えず、北見殿はこの作品は知っておるようじゃな。三郎君は彼女のサポートを、亜門はワシのサポートを頼む。梅崎殿は伊織を使ってくれ」
 「了解!」
 各々の作業に取りかかろうと動く、その時、
 「そうそう、梅崎君?」
 「何です?」北見は思い出した様に梅崎に尋ねる。
 「私らのサークル名は?」
 「えれくとら、です」
 そして無理矢理に、5人は修羅の道へと踏み込んで行った………



 ジャジャジャジャ〜〜♪
 「あ?」
 誠一の胸ポケットからダースベーダ―のテーマの電子音が流れる。
 彼は音源である携帯電話を取り出し、
 「はい、もしもし?」
 『セイちゃん、早く! 早く社務所に来るんや!』
 「圭?」
 『急ぐんやで! プッ… プープー』
 「何があったんだ?」
 訝しげに一方的に切られた携帯を見つめる誠一。
 「急いだ方が良いんじゃないの?」吐息と伴に声が耳に吹きかかる。
 「うわ!」
 横から聞いていたのだろう、いつの間にかアリスが薄い笑いを浮かべて立っていた。
 「…そうだな。取り敢えず君を家に送ってから」
 「私も行くわ」
 「なんで?!」
 「玲ちゃんも今日一日は疲れて起きないだろうから。私も暇だもの」
 「暇…ねぇ。良いのかなぁ??」
 「私が良いって言ったら良いの! 行くわよ!」
 先導するアリス。
 「どうして君が行き先知ってるんだ?」
 「てきとーに進んでるだけ,案内なさいよ!」キッと振り返り彼女。
 額に伝わる一筋の汗に誠一は思わず笑みを漏らしてしまう。
 「はいはい。案外、若桜さんよりも子供っぽいんじゃないか?」
 「何か言った?」
 「いや、何も」



 二人が社務所の一室に入るとともに部屋の鍵は閉められた。
 「何だ?」
 「これって?」
 誠一とアリスは目の前の光景に呆然とする。
 飛び交う怒号、舞い散るスクリーントーン,飛び散るインク…
 「ようこそ、地獄の3丁目へ」
 ニタリと迎えた梅崎に、アリスは思わず悲鳴と拳の一撃を放っていた。
 こうしてサークル・えれくとらは二人の新戦力を半ば強引に引き入れたのである。


 以下、この一日半を断片的に覗いてみました。


 「土御門…君、だよな」
 「何だ?」誠一の問い掛けに、青年は憮然と答える。彼の前にはラフで描かれたマンガの原稿があり、彼は清書していたりする。
 「…一日にしてキャラが変わってないか?」
 額に(おそらく強引に)『必勝』と書かれた白いハチマキを結び、傍らにはユンケル皇帝液が数本並んでいる。
 「逃げられないんだからしかたあるまい!!」心底悔しげに、彼は叫ぶ様にして答えた。
 「恐るべし、那智流…」などとぶつぶつ呟きつつ、まじめに作業を続ける彼だった。


 「最近、晶のヤツ付き合い悪いと思ったらこんな方面に手を出していたのね」
 「美術部の緒方さん、バイト募集してたっスから。でも遠藤先輩、受験の大切な時期にバイトしてどうする気なんスかね?」
 「そんなこと、私が知ったこっちゃないわ。私の見ない所で知らないことやって…ムカツク!!」
 「別に先輩に許可とる必要はないと思うんですけど」
 「あるの,アイツは!」
 ”遠藤先輩、大変な幼馴染みに捕まってまスね…”
 「こうなったら、おがちょには悪いけど売上げNo1を目指すわよ! 会場を埋め尽くすくらいの行列を作ってみせるわ!」
 「頑張ってください」
 「アンタも頑張るのよ!」
 「ひぃ〜〜〜」


 「亜門君、今こそ例の技を!」
 「いや、しかし…はい」那智老の本気の顔色を悟った亜門は、コクリと神妙に頷くと懐から数枚の紙片を取り出した。
 そこには古の文字で何かが書かれている。お札のようなものだ。
 「オンキリキリハマラウンケンソワカ…」怪しげな言葉を呟きつつ、彼は原稿の上に置いた3枚の紙片に集中。
 「何やってるんです?」誠一のその言葉を無視し、那智もまた彼を見つめ続ける。
 やがて…
 「きえぇぇい! 出でよ、我が至上最強の式神・天を疾走する飛天君よ」
 「応!」札の一枚から光を纏った天使のような美しい青年が現れた!
 「たゆたいし水の王・水透君!」
 「はい」これまた札の一枚から薄い羽衣をまとった美女が出現。
 「地獄の門兵・地踏君よ!」
 「ふん!」最後の一枚からは赤い肌を持った巨漢が登場!
 「「「我等3君、盟約により参上仕った!」」」
 人に在らざるものの出現に、一同は呆気に取られる。亜門は特に呆然とする北見に「どうだ?」と言わんばかりの顔を向け…
 「これやったの、土御門君…アナタ?」ギギィと顔を向ける北見嬢。
 「フッ…ぐうの音も出ま…」言葉はそこで途切れる。
 どげしぃぃぃ!!
 彼女のかかと落としが、見事なくらい彼に決まっていた。そのまま土御門は痙攣しながら意識を失ったようだ。
 「「「なっ! 御主人!」」」慌てる式神3人衆。
 その内、鬼のような地踏君が北見のボディブローに吹き飛ばされた。
 「アンタらいつまでちゃぶ台の上に乗っかってんのよ! せっかく描いた原稿、めちゃくちゃにしおって!!」
 見れば倒れたインクで彼女の原稿が再起不能になっている。鬼以上に鬼らしい北見の迫力に、式神3人は思わず涙目になる。
 「だって…」
 「ねぇ?」
 「俺達は呼び出されただけで…」
 顔を合わせる3人に、北見が迫る。
 「原稿駄目にした分、さっさと手伝いな!」ギロリ、神をも圧倒させる必殺のガンつけが3人を縛った。
 「は、はいぃぃ!!」
 「頑張ります!」
 「粉骨砕身、努力するっス!」
 慌ててペンを持つ式神達。もともとその為に呼び出したのであろうが…なんとも不恰好である。
 「師匠、式神って呼び出した人のことを聞くんじゃないんですか?」
 「…何事も気合と言う事じゃ、しっかり憶えておきなさい」
 額に汗の誠一に、那智老は涼しげに笑ってそう答えた。


 「伊織,編集者モードや!」梅崎はそう『彼女』に告げる。
 「はい…ロードします…ロードしました」
 すっくと立ちあがる巫女。そして…
 「血を吐いてでも描くのよ! 死ぬのは描いてからにしなさい!」
 「伊織、ストップストップ!」
 慌てて梅崎は巫女を引っ張り止める。あまりにも現実に忠実過ぎる。
 「同人作家モードに変更してくれ」
 「はい。ロードします…完了しました」
 と、彼女は今度はその場に寝転がる。
 「あの、伊織さん?」呆気に取られる梅崎に、同人作家モードの伊織は眠たげな目を向けた。
 「大丈夫大丈夫、誰かがやってくれるから」
 「お、恐るべし、橘重工…ここまで忠実に同人作家を再現するとは…」

 *注  一部大げさな表現が含まれておりますが偽りではないと思われます。



≪Site of Seiiti Itimura≫

 「市村くん…」
 「ん?」
 「悪いけどそろそろ逃げさせてもらうね、玲ちゃんも起きると思うし」
 時は夜7時、成り行きで巻き込まれた彼女だが、良くもここまで手伝ってくれたものだ。
 「今日はありがとう、助かったよ」
 「私も、まぁ、楽しかったわよ」小さくぎこちなく笑ってアリス。そして部屋を見渡し、続ける。
 「日曜日、この人達多分、みんな寝てて動けないだろうから手伝ってあげるわ」
 「いいのか?」意外な言葉だった。
 「その代わり!」ぴしっ,人差し指を立てて彼女。
 「玲ちゃんを月曜日からちゃんと学校行かせるから、フォローしなさいよ」
 「…ああ」俺は笑って答える。
 アリスの言葉の意味はそれもあるが、きっとそれ意外もあるような、そんな気がした。
 若桜さんの極度に人見知りするという癖のようなものは、アリス自身も苦しめているはずだから…
 変わり者の多いこの場で、なんのしがらみのなくアリスに接するみんなに親しみを覚えたのかも…いや、それは俺の自惚れた考えだろうな。
 「あ、ちゃんと一人で帰れる?」
 立ちあがる彼女に俺は尋ねる。彼女はチラリとこちらに振り向き、軽く笑って親指を立てて答えた。


 それからのことはあまり憶えていない。
 土曜日を怒涛の様に過ごし、日曜日の早朝にバイク便で原稿を印刷屋に届けてもらった…らしい。
 我に返ると朝の9時だった。
 「セイちゃん、起きぃ!」
 誰かに体を揺さぶられて目を覚ます。疲労が形となって体に纏わり付いている錯覚を覚えた。
 「ん…あ、圭か…おはよう」
 「さ、会場に行くで。これからが本番や!」
 「顔でも洗ってさっさと支度しろ」後ろでは憮然とした顔の亜門(すでに呼び捨てになった)が立っている。寝不足などおくびにも出さない、なかなかの根性である。
 「あ、他のみんなは?」
 見ると三郎、北見嬢、那智師匠がそこらへんに転がって完全に寝こけている。
 「僕ら3人でええ。3人にはゆっくり休んでいてもらお。ほな、伊織、留守はお願いするで」
 「はい、いってらっしゃいませ」
 疲労で重い足取りで玄関へ向かう俺達3人に、巫女姿の伊織さんは無表情にそう答えた。



 五代ビックサイト,駅から4つ目にあるイベントで良く用いられるドーム状の建物である。
 広大なその敷地に本日は所狭しと、しかし整然とサークルの机が並ぶ。
 開場は11時。荷物はあとから印刷屋の方から運ばれてくるという。
 「しっかし…すごい人だな」駅前に1時間半前に俺達3人はやってきていた。人だかりの山,山,山である。よくよく見れば整然と列を作っているではないか。
 「これに並ぶのか?」俺と同じく呆然とする亜門に、圭はチッチッと人差し指を振った。
 「僕らはサークル参加で一般客やないさかい、裏口から入れるんや」
 「「はぁ」」もやはどうでも良いと言うような溜息が、俺と亜門から吐かれる。
 と、
 キッキ〜〜〜〜〜!!
 「うぁ!」
 目の前に突如、スクーターが出現! 横滑りで俺の目の前に停止した。
 それに跨るはTシャツにジーパンとラフで活発な格好に身を包んだ少女。
 「ハァイ! おはよ、市村くんとその御一行さん」
 ゴーグルをヘルメットへと上げる。挑戦的な光を灯した2つの瞳が光る。
 「若桜さん!」
 「アリスよ。玲ちゃんは今日はずっと寝てると思うわ」言ってクスリと彼女は笑う。
 「え…?」
 「今朝の4時ごろまで何か色々やってたみたいだから。そんなことより!」
 彼女は辺りを見渡す。
 「すごい人ねぇ。それも皆、同じオーラに包まれているような…」
 「みな、同志やからな」ニヤリ、圭が割って入った。
 「ところで一昨日は名前すら聞かずに手伝ってもろうたけど…僕は梅崎,梅崎 圭や。宜しゅうな、こっちは土御門 亜門。亜門ちゃんよんであげてな」
 「やめんか!」アッパーブローでツッコミ,しかし効いていない。
 「宜しくね、梅崎君に…亜門ちゃん?」
 「すみません、土御門です…」キャラが壊れ始めの彼だった。
 「私は…若桜です。改めて宜しく」彼女は僅かに迷った後、そっちの名を告げる。まぁ、二重人格である事をやたらめったらあちこちに振り撒く必要はあるまい。
 「さて、そろったところで…えれくとら出陣と行きますか!」意気揚揚と圭。
 「どうも人ごみは苦手だな」その隣では苦そうな顔をして亜門。
 「パーティの始まり、ね」
 「ん〜、ほどほどにな」スクーターを引きながら、どこか楽しげなアリスに俺はしかし、つられて彼女と同質の笑みを浮かべてしまう。
 圭を先頭に、俺達4人は五代ビックサイトに踏み込んで行った。


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