You lose "Sad".
You blind your Dream.
「主任,有森主任!」
悲痛な声が木霊する。
薄暗い部屋だった。
おそらく林立する、まるで塔のようなオブジェ群がなければ広い部屋なのであろう。
ヴンヴンヴンヴン…
まるで地獄の底から響く音が部屋を低く漬していた。
「主任!」
「なんだ、何があった?」
叫ぶのはモニターに向かう、白衣を着た技術者。
慌てふためく彼の後ろからスーツ姿の男が現れた。
30代前半の、キツネ目の男だ。
刃物のような鋭さを全身に纏っているような、そんな男。
「有森主任,これを、これを見てください!」
慌てる者というのは得てして冷静さを周囲に与えるものなのだろうか,それとも有森の胆力が並みでないのか,技術者らしい白衣の男の指差すモニターを有森は覗く。
表情は、変わらない。
しかし彼の纏う気配が一変した。
「ひっ」
思わず技術者の男が小さな悲鳴を上げる。
有森から漂う雰囲気。それは警戒から殺意へと変化していた。
「キラー衛星のハッキング…だと?」
端正な唇から思わず声が漏れる。
「ここは天下の橘ネットワーク社だぞ…セキュリティはどうなっている!」
「は、はい! 『敵』はExeプログラムに対する指向性ワームの攻性プログラムを用いたものと『推測』されます。我が社のサーバーより直接、橘重工社の衛星・来火へアクセスしたと『思われ』ます」
しどろもどろに答える技術者を、有森は無言のまま強引に押しのけた。
代わりに席に付き、モニターに向かってキーボードを叩く。
長い指がまるでピアニストの様に踊った。
やがて、
ピ
電子音とともにハッキングされたサーバーへのアクセスログが表示される。
鉄壁のセキュリティかつ侵入者のシステムに致命的反撃を与え得る、橘ネットワーク社の防御プログラム『牙城』。
それはワームを使用した高性能な攻性プログラム『白銀の踊り子』と名付けられたモノにより侵食,サーバーへのシステム介入をされ、成層圏を回っている同系会社・橘重工のスパイ衛星の一つにアクセスされたのだ。
キラー衛星『来火』,地表の観測のみならず、レーザー兵器『メテオ』にて誤差20cmで地表の物体を破壊し得る能力を備えた、社外秘の衛星兵器。
アクセスしたのは有森の知り得るハッカーであった。
御丁寧にも、サーバーに一通のReadmeファイルが残されていたからだ。
『借りちゃったよ、さんきゅ!
しっかしここのセキュリティ,案外弱いわねぇ。
次世代OS作る資格ないよ,やっぱり。
もっとも『作らせない』けどね。
じゃ! by 機神』
衛星・来火のレーザー砲『メテオ』が放たれたのは午後3:30,場所は五代ビックサイト。
動機は…有森には分からなかった。しかしそんなことは関係ない。
機神は彼の『主』の敵なのだ,よって彼の敵でもある。
いや、それは『この間の戦い』までのこと。
今や彼個人にとっての『敵』である。
機神は己の左目と引き換えに、主の右足を奪った恐るべき相手。
有森は機神の辿ったと思われるサーバーを遡って行く,根幹を見つけることで機神がどこからアクセスしていたのか、判別する為だ。
東京―北京―ギリシャ―パキスタン―そして…
「ここか」
思った通りの結果に、有森は初めて表情を浮かべた。
苦い顔だ。
機神のアクセス元としてこれ以上は調べられないサーバーに行き付いてしまったのである。
シーアイランド公国
イギリスの南方,5kmに浮かぶ岩だけの小さな島。
そこはイギリス国王より指定された、とある公爵領である。公爵領であるゆえに『国』としての権限を持つ。
現実には何もない、満潮にはほとんど沈んでしまう島。
しかし仮想現実,契約上・紙面上では存在する国家。
その国は電脳世界において、完全なるプライバシーを保証する『国家』なのだ。
如何なるプライバシー開帳の手をも受けつけない。それは『国家』としての力で保証されている。
その電脳国家は現在その性質上、ハッカーやクラッカー達の温床となっていた。
もっとも、悪いことはホンの一角だ。
データの共有化の叫ばれる世の中での完全なる機密,その与える恩恵は何にも捕らわれない自由な発想だ。
この国の『国民』達に有能なプログラマー,作家,作詞家,文化人,芸術家が多いのは事実であり、現在進行系で生まれてもいる。
機神も確かに天才,ハッキングの腕は特Aクラスに部類されるだろう。
ともあれ、この国に逃げられてしまったか、もしくはここのサーバーを通しているだけなのか分からないが、これ以上の探索は民間人であり何より法人である有森には不可能だった。
「機神め…次に合い見舞える際には必ず…殺す!」
立ち上がる有森。
技術者は立ち去る彼の背中を震えながら眺めているしかなかった。
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不連続設定
Part.06 Hacking Game
≪Site of Seiiti Itimura≫
清々しい朝日が目に痛い、痛すぎる。
俺はまるで梅崎のように目を細めながら教室に入った。そのまま倒れ込むようにして己の席にダイブ。
「ふぁぁぁぁ…」
思いっきり欠伸。月曜なのにこの調子じゃ、一週間が思いやられるな。
昨日のこみパは、うやむやの内に完売。
その後、四人で売上げ金を元にたらふく食べ物を買い込んで師匠宅に戻り、ちょうど眠りから覚めた残る3人と夜半までどんちゃん騒ぎをしていたのである。
…十分には寝ていないからなぁ。
机の上にカバンをどん,置いた。
「お、おはようございます,市村さん」
指向性を伴った、まるで何度も練習したかのような女性の声。
俺は靄が掛かったような頭を振りながら隣の席に振り向いた。
「おはよ、若桜さん」
畏まってあいさつする彼女に、俺は欠伸を押さえつつ応える。
俯き気味に俺を見上げる彼女の様子は、どうしても昨日のアリスには繋がらない。
”そういやアイツ,昨日はお神酒をラッパ飲みしていたが…若桜さんの方に影響は出ていないんだろうな??”
しげしげ見つける俺の視線に小さく首を傾げ、彼女は小さく微笑んだ。
やはりどう見てもあのアリスとは全く繋がらない,外見すら異なって見えてきた…ような気さえする。
「眠そうにしてらっしゃいますね,遅くまで起きていらしたんですか?」
同級生なのに敬語はどうかと思うが…まぁ、仕方ないかな。
「んー。そんなトコかなぁ。若桜さんは眠くない?」
眠いはずである。昨日の深夜までの騒ぎにはアリスも参加(というより中心)していたのだから。だが答えは思った通り異なっていた。
「私は…」
ひのふのみ…指を折って彼女は数え、
「8時間は寝ています」
アリスは彼女を記憶操作していると言ってはいたが…どういう原理なんだろうか?
そんなことを考えていた俺の表情をどう読み取ったのか、彼女は眼鏡の向こうから伏せ目がちにおずおずとこう尋ねた。
「…やっぱり変ですか?」
か、かわいい…
思わずそんなことを思ってしまう。
あのノリと勢いとその場の雰囲気(全部同じ意味か…)で生きているような『アリス』に対しては決して抱かない感情だった。
そもそも若桜さんは美人である。
漆黒の長い髪の間に覗くぱっちりとした瞳に整った唇,新雪を思わせるほどのきめこまかな白い肌はそう見かけるものではないだろう。
もっとも自分自身を飾ることに興味がないのか,分厚い眼鏡に顔は隠され、何よりも身に纏う怯えたような、警戒した雰囲気が全てのプラス要因を果てしなく無効化しているようなそんな娘だった。
”彼女自身が自信を持てば…病弱でもなくなるし、アリスも消えるんだろうか”
昨日の帰り道でアリスが俺に言った事を思い出す。
若桜さんは、原因は教えてくれなかったが、極度の対人恐怖症らしい。病弱というものも精神面から来ている。
アリスは道すがら、俺が若桜さんに対して『普通に接する』ように改めて頼んだ。
そうすることで少しずつ、彼女の排他的な精神を解放していきたいと言うのである。
俺のアリスに対する答えは、当然ここで言うまでもないだろう。
思えばすでに、初めて会った時に特別な感情を抱いてしまったのかもしれない。
まるで粉雪のように周囲に溶けて消えてしまいそうな、そんな彼女を守ってあげたいというアリス的な感情を。
ともあれ、俺はそんな内心を悟られないよう、答えた。
「あ、いや、若桜さんらしいなぁって思って」
…どもってるしな,案外俺は顔に出やすいのかもしれない。
「…どういう意味でしょう?」
いささかムッとしたような、そんな表情で切り替えされる。
「いや、ええと…」言葉に詰まる。
そんな俺のあたふたする態度を見てか、若桜さんは表情を和ませた。
「ふふふ…」
笑う。
…会話の主導権の握り方というのはアリスも若桜さんも同じらしいな。単に俺がだまされやすいのか?
「あはは…」
笑うしかない…と俺の背後から軽い声がかかった。
「朝からラブにコメってますな、お二人さん!」
振り返ることなく腕だけを振り上げる!
「うぐぅ!」
クリティカルヒット,梅崎は35ポイントのダメージ。
「あ、あの、市村さん?」
表情を凍らせて若桜さん。どうやら俺達のボケ&ツッコミは彼女にとっては刺激が強すぎるようだ。
え? ボケは何処にあったかって?
「ところで若桜女史,昨日はすさまじい飲みっぷりやったけど体の方は大丈…」
何事もなかったように復活した梅崎の言葉に俺は瞬時に反応!
「うぐぅ!」
肘をえぐり上げるように彼のみぞおちに食い込ませる。当て身…かな?
さすがにすまんな、梅崎。あいにく「この」若桜さんはまだ君のことを知らないんだ,混乱する発言は止めてくれ。
「市村さん…この方は…?」
かなり引いた、怯えの表情を浮かべて気を失う梅崎に視線を投げながら若桜さんは問う。
「ああ、俺の腐れ縁で金魚のフンの梅崎。俺達と同じクラスだよ」
「はぁ…ところでこの方、さっき私がどうとか」
さすがに聞こえていたか。
「ああ、アレな奴だから」
「アレ?」
「そう、アレ」
「…アレ、ですか。市村さん、大変ですね」
実際にアレなんだが…そう簡単に認められると梅崎が可哀想に思えてくるのは…気のせいだな、うん。
「誰がアレやねん!」
「「うわぁ!」」
唐突に復活の梅崎。首をコキコキ鳴らして、何事も無かったかのように彼は微笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。
「ところでセイちゃん」
「セイちゃん?」首を傾げる若桜さん。数瞬後、それが俺のことを指しているのが解ったのか、理解した顔をする。
「? セイちゃんはセイちゃんやろ。ま、ええわ」
梅崎もまた、訝しげな表情を浮かべるが特にツッコミところではないと思ったのか、話を続けた。
「今夜チャット、やらへん?」
「チャット?」
「せや。通信で話す機能や」
「ふぅん」
パソコンは買って、インターネットやら表計算やら色々試してはいたが、そういう第三者が絡んでくる機能は未だに使ったことはない。
しかしどうして急に?
「同人誌買うの手伝どうてもろたから、僕の仲間がお礼言いたい言うとんねん」
そういうことか…昨日は駆けずりまわされたからなぁ…
「いいよ、別に」
「セイちゃんのパソコンの練習にもなるやろからな。そや、若桜さんも、どや?」
急に話を振られ、彼女は顔を真っ赤に染め上げた。救いを求めるように俺の方を見る。
ホントに人が苦手なんだなぁ…
「時間が空いてたら、どうかな?」俺は微笑みを浮かべて尋ねた。
「私は…」彼女はしばし考え、
「やっぱり止めておきます」消え入りそうな声で応えた。
そんな若桜さんの様子を梅崎は釈然としないのか、首を傾げながら続ける。
「ほな、セイちゃん,チャットのサーバーは東雲大学,会議室#は『にっぽんチャチャチャ』やで」
意味不明な言葉の羅列である。
「はい?」
思わず声が一オクターブくらい高くなってしまった。
「取り敢えずメモしておいてな。セイちゃんトコの乙音ちゃんに言えば一発やから」
「そか?」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪
朝のHRの開始を伝える予鈴が鳴った。
≪Site of Mie≫
ウチは猫である。
名前はミィ。
市村家で飼われている猫なのだ。
歳は? じゃと?
レディに対してそのような無粋なものを訊くではない!
さてウチは今、那須さんの実家,北野天神社に来ている。
とはいっても小さな山一つ分のこの土地,ウチが足を運ぶのは社でもなくその裏手にある弓道場でもない。ましてやここの神主の住むあばら家でもなかった。
社務所である。
人気のないこの神社,ウチは人目を気にすることなく堂々と中央の石段を登っていく。
86段の石畳を越え、三つの鳥居をくぐるとそこは長い時を刻んだ本殿とその隣の、やはり薄茶色に染まった木造の社務所が見えた。
そのまま社務所に向かう。
おみくじやら、破魔矢やらが並ぶ窓にひょいと跳躍。
窓の向こうでウチを見つめるのは2つの硝子球だ。
人の形を模した、人に在らざる者。機械人形である。
本来、付喪の力を応用して魂を込められたはずのその人形からは生命の息吹を感じ取ることは出来ない。
巫女姿のこの乙女の人形は、単純な命令をこなすだけのカラクリ人形に過ぎない。
『オペレーティングシステム/雅4.05/改,起動せよ』
ウチの尾の先から放たれる電磁波が、機械人形に向かって力ある言葉を投げかける。
機械人形の硝子球が仄かな光を放った。ややあってその唇から言葉が放たれる。
「仮想個体人格・伊織…起動しております。現在プログラムルーチンD−42を実行中」
『強制割り込み/機能停止命令!』
「きゅぃぃぃい!」
人形から奇声が発せられる,途端、両目の硝子球から光が消えた。
人形は行動を完全に停止させ、仰向けにひっくり返った。
ウチは窓から社務所の中へ。畳の上で完全に物体と化した彼女の額に両手を付ける。
肉球越しに人の温もりでない、ひんやりとした感触が伝わってくる。
『システムインストール…遠隔アプリケーションプログラム【鏡】実行開始…XMSメモリ空間DD00BB〜EE3453にて常駐完了』
コマンドがウチの脳裏に光の早さで通り抜けてゆく。昨夜練ったプログラムは正常に実行されたようじゃ。
ウチは機械人形から離れ、実行コマンドを飛ばしてみる。
『オペレーティングシステム/雅4.05/改,起動せよ』
むくり、機械人形が身を起こす。再起動は正常だ。
『プログラム【鏡】,起動』
尻尾が受信する情報量が、途端に倍化した。
「実行しました,操作を移行いたします」
人形がそう告げると同時に、ウチの視覚/聴覚/触覚その他全ての感覚が二つとなる。
すなわち…
「乗っ取り、成功じゃな」ウチは機械人形『伊織』の口でそう呟いた。
ウチら、化け猫は日々進化している。
人化などはもう古い。今は人間達の作り上げた電気信号による産物,それらを電磁波の強制割り込みによって操るのがトレンドなのじゃ。
とはいえ、もともと世間に関心のないウチら猫族,人を化かしたりこんな悪戯をするのは余程暇か、あるいは切羽詰った奴だけだ。
そしてウチはその前者と、後者それぞれに属している。
「ったく,小僧も面倒なことに巻き込まれたものじゃのぅ」
昨日乙音が語った言葉を思い出しつつ、ウチはきっと今頃学び舎で居眠りをしているであろう少年を思い浮かべ、人知れず笑みを浮かべていた。
小僧には素質があり、努力もする。それ故にこれから乙音の示唆するとんでもない事件に巻き込まれるのは必至じゃろう。
それが誇らしくもあり、また選ばれてしまったことに不運を感じずにはいられないのは…もしかして親心に近いのではなかろうかの?
伊織から感じる視界は案外高かった。これならば真実は一体何なのか…見渡せるような錯覚すら感じた。
≪Site of Seiiti Itimura≫
「チャット、ですか?」
彼女は画面の中で困ったような表情を浮かべていた。
「うん。まだ…早いかな?」
「いえ。梅崎さんも出られるんですか?」
「ああ」
弓の練習を終えて帰宅,晩御飯も済み一息就いた頃、俺は今朝方に梅崎が言っていたチャットについて乙音に話していた。
「HNは?」
「通天閣とか言ってたかな」
訳の分からんHNである。
HNとはハンドルネームのこと,この世界で本当の名前をバラすことは危険なのだそうだ。
古の祈祷、占いに支配された日本のようではある。
もっともインターネット空間で個人情報が何らかの形でバレると、呪いではなく実質的な被害となってやって来るのが恐ろしいのだと言う。
例えば海苔が一年分送られて来てクレジットカードの残金が0になったり、よくあるものではメールアドレスが何処かの業者に渡り、一日に20通近くのSPAMメールが送られて来たり(えれくとらの元が体験済み)と症例は様々である。
乙音はしばらく顎に手を当てて何かを考えると、顔を上げた。
「…彼がいるのなら大丈夫でしょう。分かりましたわ,まだその段階に進むには早いと思われますが情報の漏洩を防ぐように努力いたしますね」
微笑みを浮かべて言う彼女。
「ありがとう」
「? 何故お礼なんて言うのですか?」
思わず出た言葉に、しかし乙音は訝しげな表情を浮かべる。意味が分からない、そんな顔だ。
「何故って…俺の力になってくれるんだろ?」
「そうですよ,私は誠一さんのサポートの為に存在しているんですから」
当然とばかりに彼女。戸惑いが見える。
「う〜ん…手伝ってくれる人にありがとうって言うのは、おかしいことじゃなくて普通だと思うんだけどなぁ」
「…そうですか。難しいものなのですね」
しみじみと彼女。未知のものを見た、そんな感じでいるようだ。
「嫌かい?」
「いいえ」
彼女はやや俯き、
「嬉しい…ですわ」
彼女の微笑みは、グラフィックの変化だけでなかったように思えたのは…気のせいだろうな。
乙音は右手を一閃,黒枠の小窓が画面に展開する。
「用意はいいですか?」
「ああ」
「相手も誠一さんが初心者と御存知ですから。無理して早くキーボードを打たなくて言いと思います。落ち付いて楽しんでくださいね」
「ああ、ありがと」
彼女は今度は何も言わず、ニッコリと微笑んで画面から消えた。
乙音<通信を開きます。
サーバー:東雲大学
会議室#:にっぽんチャチャチャ
Welcome to A&M Chat Station !
現在、このチャンネルには四人の参加者がいます。
COM<誠二がログインしました。
通天閣<お、来たな、セージ!
誠二<こんにちは。
変人<いらっしゃい!
黒目<はじめまして。
鍵屋<どうも〜
誠二<なんかスゴイHNですね<変人さん
黒目<いきなりそういうツッコミ…只者じゃないね!(^^)
鍵屋<通天閣の認める御人だけあるなぁ。
変人<いや、ここのサーバーはHNが漢字指定だから。ホントはカタカナ表記で『スプーキー』って言うの
通天閣<意味は同じだけどな。
変人<死ね(^ー^)ノ
鍵屋<ところで誠二,こみパは初めてだって聞いたけど、どうだった?
誠二<人が多くてびっくりしました。
黒目<アレは特に多い集まりだからなぁ,普段あちこちで開催されてるのはあんなに人はいないんだよ。
変人<もっともこみパは全国オタクの祭典だからね、地方でやってるのとは存在意義も格もちょっと違うよ。
黒目<そんな祭典に誠二はいきなり洗礼を受けたんだ。(^^)
鍵屋<極悪人だね<通天閣
通天閣<目的の本を手に入れるためだったら、悪魔にも平気で魂を差し出すのさ
変人<悪魔も受け取りそうもない魂じゃないのか?<通天閣
通天閣<うきー!(^ー^)ノ
|
そんなこんなで話はのんべんだらりと続いていた。
乙音(誠二限定)<そろそろ起動してから2時間が経ちます。通信料金を考えるとそろそろ引き上げた方が。
「もうそんなに経ったのかぁ…そうだね」
俺は見えない彼女に頷いた。
誠二<それじゃ、落ちます。今日は楽しかったです。
通天閣<おつかれ、セイちゃん。
黒目<また来てね〜
鍵屋<おやすみ。
変人<またあお〜〜
COM<誠二はログアウトしました。
|
そしてウィンドウは閉じる。
「お疲れさまでした、楽しかったですか?」
入れ替わるように乙音が画面の隅に現れた。
「うん、顔が見えないっていうのがなんとも不思議な感じだね」
「親切そうな方々で良かったですね」
「そうだね、梅崎の知り合いって言うからどこかぶっ飛んだ人達かと思ってたんだけど」
もっともその判断は誤っていなかったことを俺は後々に知ることになる。人は一回話しただけでは当然ながら分からないものなのだ。
「ところで誠一さん、メールが届いていますわ」
「ん、誰から?」
乙音が差し出すような仕草をするとともに文面のウインドウが開く。
差出人は先程の『変人』からだった
『 こんにちは、変人(スプーキー)です。
チャットの雰囲気は掴めたでしょうか?
もしもこの後、通天閣でも分からないようなことがあったら遠慮なくメール下さいね。
また私は下記チャットルームにもいますので暇な時は覗いてみてください。
サーバー:五代大学
会議室#:イリーガルコネクション
それでは、快適なPCライフを過ごせますよう祈りつつ…
スプーキー
spookey@wired.go.si 』
「マメだねぇ」
「そうですね」
何故か苦笑いをしながら乙音はそう相づちを打った。
夜は拭けてゆく。
遠く、犬の遠吠えが聞こえていた。
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