風の王国 −vol.3 日常非日常(小話集)


 和に臨む波止場。
 海からの柔らかな風にあおられながら、仙人の少女は海の彼方を睨んでいた。
 全身にピリピリした殺意の雰囲気を纏う、近寄りがたい女の子であった。
 「どうしたの?」
 声をかけたのは豹柄のケープを纏った妙齢の女性だ。
 手にするのは英霊魔法棒と呼ばれる法具。
 それは彼女が魔術の理を知り、施行する魔術師であることを意味している。
 仙人の少女は彼女を一瞥。
 「何か、見えるのかしら?」
 隣に並ぶ女魔術師。
 仙人の少女は小さく首を横に振り、大きく嘆息。
 「私が仙人になった理由、知ってたっけ?」
 魔術師とは顔見知りのようだ。仙人はそう女性に問うた。
 魔術師は「いいえ」と答える。
 「私は兄を殺すために仙人になったの」
 物騒な話だ。しかし女魔術師の表情は変わらない。
 「先の高句麗と扶余の大戦でね、兄様はまだ5歳だった私を谷底に突き飛ばしたの」
 「そぅ」
 魔術師の反応は相変わらずだ。
 「運良く私は川下の村で助けられたわ。そして誓ったの。私を殺そうとした兄様に復讐するって」
 「クククッ」
 耐えられなくなったように女魔術師から笑みが漏れた。
 仙人の少女は不快感を露わにして隣の彼女を睨む。
 魔術師はひとしきり笑った後、鋭い視線を少女に向ける。
 「何故、仙人を選んだのよ?」
 「え?」
 言葉の意味が分からずにたじろぐ少女。
 「殺すのならば義賊を選択すれば良かったじゃないの。何故『癒す』ことしかできない仙人を選択したのかって聞いてるのよ」
 僅かに怒りのこもった口調で少女に迫る女性。
 少女は小さくうめく。
 「貴方は大切なことを忘れようとしている、忘れなくては寂しさに押し潰されてしまうから」
 「忘れようとって……私は何も…」
 「魔術師の私に隠しても無駄。貴方自身が忘れてしまっていても、私には分かるわ。貴方は貴方を突き飛ばした兄のその時を忘れようとしているの」
 「………どういう…」
 「こういうことよ」
 女性は思わず後ずさった少女の額に人差し指で触れる。
 途端、少女の体がビクリと震えた。
 「思い出しなさい、貴方の兄が貴方を谷底に突き飛ばしたことを」
 少女の瞳の焦点がズレる。
 次第に靄のかかった過去の出来事が少女の前に展開された。
 そこには馬に乗った兵士が数名と、小さな少女の手を引いて駆ける少年の姿。
 やがて追われる2人は後ろを崖に接することになる。
 少年は彼には長すぎる剣を引き抜いた。よろめきながらも兵士に構える少年。
 その後ろで少女はがたがたと震えている。
 兵士達は馬を降り、2人に迫った。
 剣を交える少年。彼は意外にも巧く渡り合うが、兵士の一人の繰り出した突きの一撃に左目を突かれた!
 思わず目の前の幻影に癒しの術を施行しようと少女。だがそれは叶わない。
 少年はそれでも少女を背後に。
 彼は大切な妹に少しだけ振り返ると、優しい笑みを浮かべた。
 血に顔を半分赤く染めた、少女の大好きだった優しい笑顔だ。
 彼は妹を谷底へ突き飛ばす。生き抜くことへの祈りを込めて。
 少女は兵士達に果敢にも再び挑みかかる兄の背中を、落ち行く中に見た。
 彼は―――死ぬだろう。
 死なせたくない,もしもこの時、彼女に癒しの力があったならば。
 故に彼女は、
 「私は仙人を選んだ。あんな辛い思いはしたくないから。大切な人を無くしたくないから」
 現実の少女の瞳の焦点が合った時、その双眸からは大きな涙が零れ落ちていた。
 少女を女魔術師は優しげな瞳で見つめる。少女が落ち付いたのを見計らって、彼女は懐から一枚の紙片を取り出した。
 「実はね、私には姉さんがいるんだけど……貴方の兄さん、知ってるって」
 「え?!」
 驚きに顔を上げる少女。
 「今は扶余で流れの戦士をやっているみたいよ。私の姉さんは貴方と同じ仙人だから、そっちのつてで紹介してもらってね。これはそこまでの地図」
 紙片を少女の手に押し付ける女魔術師。
 「行ってきなさい。貴女のやることは分かっているでしょう?」
 仙人の少女はしばらく呆然としていたが、やがて力強く頷いた。
 走り去る少女の背中を見送り、女魔術師は吐息を一つ。
 「借りは返したわよ、戦士殿」
 呟きは風に散る。


【先達】
 歳の頃は20代後半であろうか?
 彼女は薄紅色の生地にスミレの花が模様としてあしらわれた着物を折り目正しく着込んでいる。
 長く黒い髪はそのまま後ろに流し、白く整った顔立ちのその唇には紅をひいていた。
 右手と左手の甲には細いリボンが巻かれている。
 彼女が訪れたのは夕方の扶余の町にある酒屋の一つ。
 店内を見渡し、席の一つに見知った顔を見つけたのだろう,しずしずと歩いて行った。
 足を止めたのは紅酒の杯を傾ける陰陽服姿の青年の前だ。
 「こんにちわ、お久しぶりですね」
 柔らかな彼女の声に、一人で机を暖めていた長く赤い髪を持つ戦士は顔を上げる。そこには驚きの表情が浮かんだ。
 「お久しぶりです,和に行ってらしたのでは??」
 背筋を伸ばし、戦士は前の席に腰掛けた彼女に問うた。
 「ええ。今帰ってきたのです。貴方も和に来ればよかったのに」
 「私にはこちらでやることがありましたから」
 戦士は苦笑。そして続けた。
 「如何でしたか? 和は」
 運ばれてきた空の杯に戦士は紅酒を注いで微笑む。
 それを彼女は小さく微笑んで受け取り、赤い唇を僅かに濡らせた。
 「今の時期は奈良でね、鹿の角切りというものが行われているの」
 「角切り?」
 「和は和でも奈良と言う地域に住む人達はね、鹿を神鹿と呼んで崇めているんですよ。でもこの時期、鹿は角が延びているでしょ? 怪我をしないために切るんですよ」
 「それは鹿も災難ですね」
 杯を傾けて戦士。
 「そうですね、でもまた来年生えてきますから」
 「へぇ、一年で生え変わるものなんですねぇ」
 感慨深げな戦士だ。
 「縄を鹿の角にかけて捕まえるんです。なかなか迫力がありました」
 「相手も必死でしょうから」
 戦士の言葉に女性はそうそうと頷き返す。
 女性は再び杯を傾ける。今度は濡らす程度ではなくちょっと一口だ。
 それを見て戦士の顔に「しまった」という色が浮かぶ。
 「あとね、その奈良にあった宝物殿ではたまたま刀剣展がやっていたの」
 女性の顔は真っ赤になっていた、だがそれに本人は気づいている風はない。
 戦士の額に汗が一筋流れた。
 「奉納用の刀剣がほとんどだったんだけどね、五鈷杵を塚にした両刃の剣なんてのにはちょっとびっくりしたかなぁ」
 女性の口調が次第に舌足らずになってゆく。
 彼女は自らの杯に残った酒をくぃっと一気に飲み干した。
 「あっ」
 戦士がそれを止めようとして伸びた手は宙を掻くのみだ。
 「楽しかったわよ、和の旅行は。他にも朱雀門とかも見たしね」
 眼が虚ろになってきた目の前の彼女に、戦士は内心頭を抱えていた。
 「それで、君はどうだったの?」
 「へ?」
 唐突に話をふられて戦士は戸惑う。
 「私がいなかったときのこっちの生活は、何か変わりはあったの?」
 「いえ、別に」
 「そぅ?」
 女性の細い指が机越しに戦士の頬へと伸びた。
 指は彼の右目を覆い隠す長い前髪に触れる。戦士は特段振り払おうともしない。
 「見つけてきたんだけどな、その傷を癒す薬を」
 彼女の白い指は彼の前髪を僅かに払う。
 隠された右目がそこからは現れた。
 閉じた瞼に、その上から引っかいたような深い縦筋が一つ。古い傷なのだろう、僅かに白い線に見えた。
 「すでに癒されていますから…その心遣いだけでもうれしいですよ」
 戦士は微笑み、彼女の指をそっと右手で包み込んで机の上に置いた。
 「……そう、そうだったわね」
 女性は残念そうに、それでいて悔しそうな、嬉しそうな複雑な表情で呟く。
 そして、かくっとその頭が垂れた。
 「くーーー」
 寝息があがる。
 「まったく……」
 戦士はいつもと変わらぬ彼女の姿に、小さく笑ったのだった。


【草原にて】
 「あら、流れ星」
 長い黒髪の女性は夜空を見上げて一人、呟いた。
 この国には珍しい、薄紅色の生地にスミレの花が模様としてあしらわれた着物を纏う女性だ。
 新月の今宵、草原へと続くこの道を歩く者は他にはいない。
 光はただ、空から降り注ぐ無数の星々からの慈悲のみである。
 夜目の効かない者にはこの道は辛いだろう。
 そんな中であっても彼女は特段、問題がある風も無くのんびりとした顔で歩みを止めて空を見上げていた。
 南天には無数の星の帯が天頂に向かって伸びる。
 それは天の川。後にこの銀河の中心と判明される星の大河だ。
 そこから再び、星の帯がキラリと落ちる。
 「あ……」
 着物の女性は思わず手を合わせる。
 「っと。ふふふ……」
 そして笑みが漏れた。きっと流れ落ちる前に願いを祈り終えたのだろう。
 「叶うと、良いわねぇ」
 その願いは、星のみが知っている。


【昼の寝】
 扶余の北西にはすでに使われていない、古くなって久しい監獄がある。
 ツタ類に覆われたそこからホンの少し南に行くと、桜の木が一本生えている。
 暖かな春の陽気を受け、桜散るその木の下。
 赤く長い髪の戦士は樹の幹に背を預けて目を瞑っている。
 耳を澄ませば規則正しい息遣いが聞こえてくる、眠っているのだろう。
 そんな彼の膝の上には紫紺の髪を無造作に下ろした仙人の少女の顔。
 どうやら少女は膝枕をしてもらっているようだ。
 重なる静かな寝息は、春の風の中に溶けて消え行く。
 時にはこんな日もあるのだろう。


【不調】
 フラフラと赤い陰陽服を着た男が殺意漂う洞窟を歩いていた。
 片目を覆い隠すほどの長い赤い髪。
 その間に覗く鼻からは鼻水,左目はぼぅっと中空を見つめていた。
 見たところ、高熱により茫然自失状態のようだ。
 その時である。
 岩陰から白骨が踊りかかってきた!
 窪んだ眼窩には青白く禍禍しい光を灯し、骨で出来た右手には湾曲した刀を一振り。
 男は敵意を放つその存在を一瞥。
 まるで蚊を振り払うような軽い動作で、手にした薙刀を振るう。
 ざしっ!
 硬い音とともに彼のなんでもなさそうな振るまいとは正反対の事象が生じる。
 骸骨の化け物は薙刀の先端に触れた途端、岩に押
 しつぶされたかのようにひしゃげ、力無くその場にばらばらになって落ちたのだ。
 「風邪引いていても技は切れが良いな」
 呟き声は彼の後ろから。
 眼帯をした坊主が一人と、火照った頬をした少女が一人。
 「奥義・大尽力か」
 言葉に男はコクリと頷き、今まで以上にフラフラと体が傾いた。
 その彼の体を青い光を包む。少女だ。
 生命の祈りと呼ばれる癒しの力によって、奥義を繰り出す事で
 減少した生命力がみるみる補われて行く。
 「はわー、世界がまわる〜〜」
 少女もまた男と同じく足取りがおぼつかない。
 そう、風邪だ。
 フラフラな2人を後ろから眺めながら、坊主は問うた。
 「風邪引いている時になんで気合の入った狩りをしようとするかな?」
 呆れた声だ。
 青年は立ち止まり、うーんと唸る。
 「あれですよ、例えばテストの前に全然勉強進んでいないというのについ部屋の掃除とかやってしまう……」
 「よーするに現実逃避ねぇ、ははは〜〜〜」
 酔った様な顔でお互い力無い笑みを浮かべる兄妹。
 「どーでもいい。寝てろ、オマエラ」
 坊主は冷たくそう言い放ったのだった。


【苦いもの】
 坊主は、すり鉢に見るからに苦そうな薬草を数種、すり潰してどろどろの液体を作っていた。
 それを横から覗くのは長い腰までの黒髪を後ろで一つに結ったひょろりとした若者だ。
 腰には銅製の剣を一振り下げ、両腕にはやはり同じく青銅製の腕輪をはめている。
 そのことから彼は義賊という分類に帰属するものと判明できた。
 「ダンナ、何作ってるんで?」
 人懐っこそうな顔で義賊は坊主に問うた。
 坊主は面倒くさそうに顔を上げて嘆息一つ。
 「あの兄妹が揃って風邪ひいてな。少し暖かくなったからって外で昼寝なんかするからだ」
 坊主は怒っているらしい、すりこぎを握る手に力が入る。
 「で、ダンナは嫌がらせにと、にがいにが〜い薬を作ってる訳か。苦すぎて殺さないでくれよ」
 「一生忘れられない味ではあるさ」
 ニタリと微笑み坊主。
 義賊は知っている。
 この魔術師の坊主は結局のところ、善人だという事を。


【夜の小道】
 豹柄のケープを纏った女魔術師は夜の闇の中、早足で歩を進めていた。
 ここは高句麗の東門周辺。
 民家はほとんどないために、朧月である今夜は夜目が利かないとすぐに躓いて転びそうだ。
 彼女は目指す場所へと向かって急ぐ。
 何かに追われているわけではない。しかしこの深い深い夜の闇は密度が濃く、彼女を捕らえて深遠の闇の世界へと連れ去りそうな錯覚を覚えても不思議ではないだろう。
 当然、おばけや妖怪を恐れたりするような少女でもなければ、職業柄それをむしろ倒す側にいるのではあるが、そこは乙女,足は速くなってしまう。
 がさり
 横手の茂みから音がして、彼女の歩が止まる。
 風だろうか?
 当然、確かめる気もなく彼女は駆けるように歩く。
 額にうっすらと汗が浮かぶのを気にしながら。
 やがて道はT字路へと折れ曲がる。
 と、
 どん
 「何か」に彼女は横手からぶつかった、薄暗い路地だ。何かは見えなくてよく分からないが、ぶつかった感触が生物のように暖かかったと思う。
 道に対する恐怖はまず口から溢れ出した。
 「きゃーーーーー!!」
 「ちょ、ちょっと」
 「おばけーーー!」
 「違いますって」
 「一つ目おばけーーー!」
 「せめて人型と思ってくださいよ」
 「変質者ぁーーーー」
 「失礼な」
 「とにかく、きゃーーーー!!」
 彼女が手にした英霊魔法棒を振り上げて呟く呪文を聞いてその内容が地獄の炎だと知ると、闇の中で蠢く者は彼女の両手を掴んで慌てて下ろした。
 「人間ですよ、ほらほら!!」
 女魔術師の目の前には、白い長い髪で片目が隠れた男の恨めしそうな顔があった。
 「ぎゃーーーーー!!!」
 「どーして今迄で一番大きな叫びになるんですか?!」
 「襲われるーーー!!」
 「……襲いますよ?」
 「…ごめんなさい」
 落ち着いた魔術師の手を離して白い髪の男。
 「こんな夜中にどうされたんですか?」
 彼女に並んで歩き、男は問う。
 「美容室ができたっていうから、ちょっと行ってみようかと思って」
 「でしたら、ご一緒します」
 月下に微笑む男に、魔術師は首をかしげて視線を向ける。
 陰陽服を着た男だ,片手に持った薙刀から戦士であると憶測。
 「アンタも美容室に用があるの?」
 「ええ」
 溜息を1つ吐いて戦士は言い、己の前髪を一房掴む。
 「昼寝から起きたら何故か髪が白く染められていましてね。高句麗には髪の色を元に戻せるところがあると聞きまして」
 「そっか。じゃ、さっさと行きましょ」
 「ええ」
 2人は再び並んで歩き出す。
 その歩みはしかし、1人の時のように早くはなかった。
 心なしか、月明かりがやや明るくなったようにも思えた。


【失敗と報復】
 「ギニャーーーーー!!」
 隻眼の坊主が叫んだ。
 そりゃもぅ、信じられないくらいの苦痛の叫びだ。
 「ど、どした?!」
 赤い陰陽服の戦士が驚いた顔で彼を見る。
 坊主は何かを作っていたようだ。
 折れた棒のようなものと、鉄粉の臭いがした。
 「何、作ってたんです?」
 問われた坊主は壊れた人形のようにギギギ…と顔を上げて、ボソリと呟く。
 「大魔霊魂棒」
 「あちゃぁ」
 「材料だった大魔法棒は先輩に頂いたものだったのに…」
 戦士は残念ながら坊主の交友関係までは知らない。
 先輩と言うからにはやはり同じ魔術師なのだろう。
 ”もしかして尼さんでしょうか?”
 とか思ったりもする。
 「仕方ありませんよ。その先輩とやらもきっと笑って…」
 そこまで言って戦士は気付く。
 坊主が青い顔をして震えていた。今だかつて彼のこんな顔は見たことがない。
 「あの人……あの女の怖さをお主は知らぬのだっ! きっとワシは焼かれて食われてしまうっ!」
 「またまたぁ」苦笑いで戦士。
 脅しでも『食うぞ』なんて言う女性がいるはずも……
 ”まさか??”
 思わず彼の知る豹柄の女魔術師が脳裏に浮かぶが、慌ててそんな思考は消した。
 しかし、もしもだ。もしもそうだとしたら……
 ”歳が合わないしなぁ”
 女の年齢というものは、いつの時代も男にとっては未知の領域である。


【お祝い】
 紫紺の髪の仙人の目の前には赤飯が置かれていた。
 「あの、これは??」
 おずおずと尋ねる仙人の彼女は、それを用意した二人の女性――
 猫のような雰囲気を持つ女性の仙人と、豹柄のケープを纏った
 女魔術師――に問う。
 「そりゃ」
 「お祝いよね」
 2人は顔を見合わせてそう言った。どことなく顔立ちが似ているのはおそらく姉妹なのだろう。
 「お祝い?」
 「そぅ。大人の階段を登ったのよ、アナタは!」
 「の、のぼっちゃったんですか?!」
 ずずぃと猫仙人に詰め寄られ、額に汗の仙人。
 先日、仙人として昇格したことを指しているのだろうと彼女は思う。
 「もぅ、夢見る少女じゃいられないの、いいこと?」
 「なんかよく分からないです」
 「まー、ともあれ」
 女魔術師が笑いながら一着の和服を取り出した。
 それは仙人の少女の兄とお揃いの陰陽術師の服だ。
 「これは私達からのお祝い、受け取ってね」
 「あ、ありがとうございます!」
 思わぬプレゼントに喜ぶ少女、だが。
 「着て見せて?」
 「へ?」
 猫仙人の目が光った。
 「着せてあげるわ〜〜〜!」
 「えええ?!」
 少女の着物の帯に手をかけて思い切り引っ張る。
 すると少女は帯を引っ張られてくるくると回り始めた。
 「あわわわわわ」
 「よいではないか、よいではないか、あはははは〜〜」
 「お姉ちゃん、ずるい! 私も!」
 「目が、目が回る〜〜〜」
 やがてパサリ、と着物がはだけた。
 「何をやってるんですか、何を?」
 その時である。唐突な男の声に、3人の女性は硬直した。
 振り返るそこには赤い髪の戦士が1人。
 「「覗くなーー!!」」
 「ぐっは!!」
 強烈なアッパーカット×3が大尽力さながらに戦士に決まったのだった―――


To be continued ...


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