ガルーダシップの中ほどに存在する作戦会議室。
そこには三人の騎士がいる。
そのうちの一人、シャイロクは送られてくる書類に目を通していた。
そして判の要るところにはリースの名で判を押す。
本来ならばリースの行うべき仕事であるが、彼女はお世辞にもデスクワークに向いているとは言えない。
何名かの他の騎士団の団長にも言えることだが、武勇のみを重視して団長を選ぶとその副官に労働のツケが回ってくるものだ。
乗員内容> 第七騎士団二百七十三名。非戦闘員三十名
宮廷魔術師二名。皇国魔術師隊七十五名 以上
積載内容> 皮製防具三百五十 防寒具四百 保存食六ヶ月分 以上
なお到着の際、三隻のガルーダシップ・非戦闘員十名は帰還
「宮廷魔術師か」
シャイロクは報告書を見てふと呟いた。
二名の宮廷魔術師――一人はユーフェ・フロイスという少女。
彼女とはすでに面識がある。リースの館において警備に当たってもらったのが初対面だ。
彼が調べたところ、彼女は宮廷魔術師団長ルースの懐刀の一人。
得意とする魔術の系統は特になく、全般的にバランスの取れた魔術師との評価だ。
リースの館で言葉を交わしていた中でも、思想的に特に偏ったところはなさそうだった。
だが、もう一人はシャイロクにとって厄介な存在である。
「どうかなさいました?」
シャイロクを手伝う騎士の一人が声を掛ける。
黒い頭にやや白いものが混ざっている男であった。
「いや、何でもないよ。タイラス」
「ミアセイア王子のことですね、シャイロク様」
そうツッコミを入れたのは、タイラスと呼ばれた男の隣で同じように書類に目を通していた若い騎士だ。
歳の頃はシャイロクよりも五つほど若そうだ。黒い髪に黒い瞳と典型的なニールラント人である。
「ああ、ザート。あの方だけはどうも分からないんだ」
判を一つ押し、溜息と共にシャイロク。
「ルース殿が直接魔術の手ほどきをしたとしか、ね。今回の遠征が王族の暗殺回避の意向も含まれているとしてもだ」
もう一人の宮廷魔術師。それがミアセイア・アークス、王位継承第二位の王子であった。
現王の二番目の息子である彼は、兄のアルバートとは腹違いである。
なお、弟であり王位継承第三位のウルバーンとは母を同じにしていた。
ミアセイアは外に出ることが少なく、専らルースの下で魔術の研究をしているという。
実力値が見えないが、ルースの直弟子のような彼だ。相当な魔力と知識を有していてもおかしくはない。
それがリースと同様、王族故に命を狙われているためにこうして遠征部隊に配属になったとすれば、暗殺を仕掛けている側はどれだけの力を持っているのだろう?
「ミアセイア様の事が知りたかったのならば、シシリア様に聞いてみればよかったのでは?」
「……今思えばそうなのだが。私はシシリア様が残念ながら苦手なのだよ」
ザートの言葉にシャイロクは何度目かになる溜め息をつく。
シシリアはリースの歳二つ上の姉で、第四王位継承者である。
現王のすでに亡き弟の長女である彼女は、五人の王位継承者の中で最も城内の者――騎士や文官達の人望が篤い。
性格は穏健であり、会った者は彼女の全ての言動に知性の輝きを感じることが出来るだろう。
幼い頃に患った病の為に盲目であるが、城内の各部署へくまなく足を運び、気兼ねなく人々に接している。
その容姿は王女の位にふさわしく美しい。
特徴としてはリースと同じ燃えるような赤く長い髪であるが、リースが猛る炎だとするならばシシリアは暖を取るための柔らかな火といった感じだ。
「あの方は目が見えない分、本質が見えてしまっているようだからね」
「「はぁ」」
分かったような分からないような相槌を打つタイラスとザート。
「でもシシリア様もルース様に魔術を習っていらっしゃると聞きます。その際、ミアセイア様ともよくお話になるとか」
騎士ザートは書類を整えながら言った。
「シシリア様は誰とでも別け隔てなく接しますからの。ミアセイア王子は無口な方ですが、シシリア様とお話しているのをわしも見たことがありますぞ」
騎士タイラスが出来上がった書類の束をシャイロクに渡して告げる。
シャイロクはその書類を封筒に入れ、席を立つ。そして窓の外を見つめた呟いた。
「やはり、ウルバーンか」
「どうしました?」
「いや、何でもない」
彼は窓の外から視線を外し、ザートに向き直る。
「用を思い出した。書類の整理は頼むよ」
「はい」
「いってらっしゃいませ」
そう言うとシャイロクは残りを二人の部下に任せて部屋を出ていく。
残された二人は、引き続き静かな船室でペンの音を立てていた。
「なぁ、タイラス」
ザートが不意にタイラスに声を掛ける。
「何だ?」
「姫様のお命が狙われているから、シャイロク様はこの北方守護の任務をお引受けになったんだよな」
ザートの問いに老騎士は無言で頷く。
「その遠征にミアセイア王子も参加している。いや、させられていると言った方が良いのかな?」
一旦ザートは言葉を区切る。
「王位後継者一位のアルバート様は放浪していて相変わらず行方知れず。そして残るシシリア様は、腕力と言う意味ではさほど力を持っていない」
「何が言いたいのだ、ザート」
至って穏やかにタイラスは問う。
「王位を継承できるもので、城に残っている者はもう一人。おまけにそいつは騎士団長の位を権力と暗殺で奪ったような奴だ」
心配気に呟くザートをタイラスが一笑に付する。
「後継者争いが起こるというのか、馬鹿な」
彼は懐からパイプを取りだし、小声で呪語魔術。
人差し指についた小さな炎をパイプに刺し入れ、それを口にくわえた。
吸う事数度、紫煙が立ち昇る。
「ふぅ」
煙を吐き出し、タイラスは続ける。
「何より親衛隊と宮廷魔術師がおるのだぞ。例え暗殺者が王を狙ったところで、王の間にもたどりつけぬよ」
「ウルバーン第三王子はあの勇者として名高い元龍公であられるステイノバ団長を暗殺したんだ。そして何より王の息子だし…」
「ザート!」
タイラスの声が響き、若き騎士の言葉が寸断された。
「滅多なことを言うものではない、そんなものは噂に過ぎん」
「むぅ」
「それにウルバーン王子以外にステイノバ団長の変わり役を務める者がいたと思うのか?」
声を荒げるタイラスはザートに言い聞かせるが、自分で言った言葉にまるで説得力がないことに気付いている。
「確かに滅多なことを言うものではないね。壁に耳あり障子に目ありと言うし」
「もっとも、壁に耳があったところで、誰もわしらなどを追い落とそうとはせぬよ」
「あー、そうかもなぁ」
乾いた笑いをあげる二人。
特に永年普通の騎士止りのタイラスに、ザートはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
風が吹き抜けて行く度に、彼の腰まである長い黒髪は大きく膨れあがる。
リース達の乗るガルーダシップとは別の艦のマスト。
その一番高い見張り台に、血の様に赤い法衣に身を包んだ男が立っていた。
二十代半ばか、少し下の鋭い瞳を有した青年だ。
現在は臨戦態勢ではないから、この場所を歩哨は用いないはずである。
「良いのか、シシリア」
彼の呟きは風に消える。いや、
”彼一人なら、私で大丈夫。だからミアセイア、貴方は私の妹を守ってあげて”
彼の呟きに応えるように、風は耳に心地良い声を運んでくる。
”例えアークスから離れて、あの娘を狙う力は弱くなっても。本来のあの娘の使命は、もっともっと厳しく危険なものなのだから”
風に乗って伝わる思念は、アークスにいるシシリア皇女からのものだ。
「分かっている、リースは私が責任を持って守ろう。お前の方こそ気を付けろ」
”それを言うなら貴方もよ。こちらには皆いるから私のことは心配しないで。それと向こうは寒いのだから、ちゃんと着るものを着なさいね”
「ああ」
憮然と風に呟くミアセイア。
”それでは、貴方の無事を祈っています”
そして心地良い思念は、風に流されるようにして消えた。
風の中、ミアセイアは小さく呟く。
「どの道、楽な苦難などあろうはずはないのだがな」
口元が小さく歪む。そして、
「アルバート、お前がしっかりしていればシシリアは―――」
見えないはずの兄を睨みつけるようにミアセイアは青空を厳しい目で見上げた。
鳥すら追いつけない速度で進むガルーダシップ。眼下の風景は次々と変わって行く。
ただ上空の雲だけは、その位置を変えてはいなかった。
物音一つしない巨大な氷の城。
透明なその壁は外の吹雪きをまるで壁の絵柄のように写し、その猛威の一片すら届かせない。
氷の彫刻の巨大なドーム状の部屋。氷の床の上一面に描かれた二重の五芒星と真なる言葉が刻まれたその図形の中心に微かながらの穴が開いていた。
それは針の先よりも小さなもの。
そしてそれが覗ける者は分かるはずだ。その穴の先に広がる永遠に続く灰色の空間と微かな生命の息遣いを。
『やはり奴か…』
「ああ」
魔術陣を宙に浮かんだまま見据える二人の男がいた。
白いローブを纏い、大きなルビーがその頂点に嵌まった杖を持つ男と、対称的に黒いローブをフードごと頭から深く被った男。
黒と白は共に、まるで影のように揺らめいている。実体ではない、幻影のようだ。
「封印に際して準備の甘かった我々が悪かった。奴が『世界の外』でも生き永らえるとはな。この亀裂の伸張具合からして、奴の復活も間近」
白の言葉通り、小さな穴を中心にして細い細い線が亀裂のように氷の上を走っている。
『そうだな、だからこそ我々はやがて来る災厄に備えてきた。その為に、私は子だけでなく妻をも犠牲にしてきたのだ』
黒いローブの男は感情の起伏なく、静かに言った。
「そうだな、ああ、そうだ。彼女によれば、奴の指令系統が回復し始めているとのことだったな。しかしそれは…早すぎる」
『問題あるまい。早過ぎるというのならば、こちらも早めるだけのことだ』
黒いローブの言葉に白いロ−ブの男は溜息一つ。
「だが君のやり方は強引過ぎる面が強い。必ずしも諸手を上げて賛成はできんな」
『ならば黙って見ていれば良い。いくら我が直接この世界へ力の関与を認められていないとは言っても、この世界がなくなれば我々も存在していけぬのだ』
「全く、分かっていたこととは言え、辛いものだ」
白いローブの男は寂しげに呟いた。
「聖魔剣を取り出す。それを託すとしようか」
『異議はない』
黒いローブの男は魔術陣の中央に降り立ち、そして針の穴よりも小さなその穴があると思われる氷の上に掌を当てる。
軽い閃光を伴って氷の中からやはりそれと同じ冷たさを思わせる両刃剣がそり立った。
柄頭に円環の付いた、黒い握り手を持つ鏡のような刃の剣だ。
「来なさい、母の心を抱く智天使よ」
力ある言葉に応じ、男の後ろに二対の翼と二羽の純白の鳩を従えた女性が虚空より現れる。
天使だ。高位の階級に位置する智天使である。
「これを機を見て、お前の愛する者に渡しなさい。大きな力となって彼を守り、時代を導くはず」
黒い男は言って、剣を天使に手渡す。天使は両手でそれを無表情に抱えながら現れた時と同様に、虚空へと姿を消した。
ピシッ
小さな割れる音がドームに響く。
『聖魔剣を失うのは痛いな。やはり彼らの成長を無理にでも促進させねばならぬか』
黒いローブの男の言葉に、しかし白いローブの男は首を横に振る。
「実際、失敗したのだろう。お前の息のかかった力を退けたのだ、安心しろ。二人は確実に成長している」
『ならば私の娘だけでも成長を促す。奴の動きが早まっているのならば、なおさらだ』
白いローブの男は、呟く黒い幻影に目を背ける。そして何か小さく呟いたかと思うと、その姿は揺らめき消える。
白い男は黒い彼に何を言っても無駄だと知っているから。
黒い彼は白い男が了承したものと思い。
『パスウェイドよ。そろそろ動けるか?』
虚空に問う。彼の発した疑問に対して、空間から滲み出るようにして褐色の肌を持つ一人の青年が姿を現した。
「ほぼ回復しております、カルス様」
答える彼にカルスと呼ばれた黒い男は満足気に頷いて指令を告げる。
『これを見よ』
骨のようなカルスの右手に黒い水晶球が現れる。
すると闇のようなその水晶に映像が生まれた。
そこに映るのは一人の翼を持った娘。かつて魔人パスウェイドが拉致を行おうとし、返り討ちを受けたのは最近の話だ。
『再度命ずる。娘は近日にでも首都アークスへと至るだろう。今度こそ連れてくるのだ。繰り返すが傷つけることはならぬ、良いな?』
「承知」
応え、魔人の青年は生じた時と同様に虚空へと溶けた。
『待っているぞ、アスカ』
カルスの呟きは氷の中へ染み渡っていく。
黒き水晶球の映像は氷の宮殿に反射し、そこかしこに仲良く歩く若い二人の男女を乱反射させていた。
<Aska>
ルーンと共に故郷の森を旅立って三週間が過ぎた。
これだけの時間を外で過ごすとさすがに人間というものも見慣れ、故郷とは異なる習慣にも順応できてきたように思える。
そしてルーンというこの人も、どんな人間なのかが分かってきた。
真面目に見えるけれどその実、いい加減なところのあるお人好し―――そんなところじゃないかな?
人間によくある『矛盾さ』という点をうまく使いこなせている興味深い性格。
だからかな、村では気難しいと言われていた私とも衝突することなくこれまでやってこれている。
もっとも……今日こうして共に旅をする以前に、彼には何か私と繋がりがあるような気がしてならない。
初めに会った時からそう感じていたけれど、今では彼が側にいると安心できる。
まるで昔からこうして共に歩いてきたかのように。
さて。
そのルーンによると今日の夕方にはようやく、人間達の王国の首都であるアークスという街に着くそうだ。
アークスは私が今まで見てきた人間達の街より遥かに大きく、私の育った集落よりも遥かに大きい城が建っているという。
これにはルーンの過大評価が加わっているのだろう。無論、信じられない話である。
当然ルーンは嘘じゃないと言っているけれど、頭から信じてしまうほど私もバカじゃない。
とにかくも、アークスに着くのは楽しみだ。
人間の色々な生活が見れるし、野宿しないで済む。そして何より、食べ物がおいしいことだ。
旅の間、ルーンが作ってくれる料理も美味しいが、人間の料理人が作る料理というのは非常に美味しい。
もう一つある。
この話が嘘だったら何でも願いを聞いてくれると、ルーンは約束してくれた。もう願いは決めている。
え?
ルーンの言うことが本当だったら?
そんな訳はない、人間達の言う宿場街の百倍の広さがある街などあるはずがないもの。
あるはずがない―――と思っていたのだけど。
「はいやぁ〜」
私は開いた口が塞がらない。
「何だよ。はいやぁ〜、って言うのは」
ルーンが呆れて言った。
小高い山の向こう、およそ10キリール前方に見えるのは紛れもなく街。
それも城壁で二つに分けられた街である。
二つというのは、おそらくは当初は円形の城壁の中に街を作っていたのだろう。
けれど人が集まるにつれて人が多くなり、やがては城壁の中に入りきらなくなった為、外にも街が溢れ出したのだろう。
そしてその奥には大きな白い城。
巨大な城の背後にはルーンに教えられた、天然の岩壁として知られるフラッドストーンという草木がほとんど生えていない岩山が見える。
「た、確かに百倍の広さはあるわね」
「感心してないで、行くよ」
ルーンはそう言って私の手を取り、先を行く。
「あ、ちょっと」
引っ張られながら、私は握られた彼の手を感じた後に強く握り返した。
いつの間にだろう、これまでロクにすれ違う人のいなかった街道は往来が激しくなってくる。
気を抜くと確かにはぐれてしまいそうだ。
「ねぇ、ルーン」
「ん?」
若干歩くスピードを落として彼は振り返る。
「えーっと、あの遠くに見えるのが首都アークス、だよね?」
「そうだよ。近くに見えるけど広い分、結構距離があるからね。ちょっとペースを上げないと日が暮れちゃうよ」
確かに冬の短い太陽は、白亜の城の背後にそそり立つフラッドストーンの向こうに傾き始めている。
「分かった、急ごう」
答え、私は彼の隣に並ぶ。同時に内心安堵の溜息。
どうやら彼は私との約束などすっかり忘れているようだ。
しかし、はたと考える。彼が私に望むとしたら一体、何を望むのだろう?
「ま、思い出させないことが先決ね」
「ん?」
「ううん、なんでもなーい」
私は小さく笑って視線を彼から外す。
ふと、すれ違う行商人らしき男性と目が合った。
彼は慌てた風に視線を逸らす。
「?」
今度は後ろから追い抜いて行く馬車の御者と目が合う。
彼もまた私から視線を泳がせて、先を急いで行った。
「??」
どうも行きかう人々の視線の多くが私達の方を捕らえるようだ。
私は心細く感じ、ルーンの背に隠れるように歩いてしまう。
「どうしたの?」
ルーンが心配そうに私を見る。
間違いない。
彼の目と私達、いえ私を見る周囲の目とは決定的に違う。
亜人は人間の間では珍しく、異様に目立つ。そう思って今まで街や村に入る前に背の翼は精霊に頼んで人には見えないようにした。
しかし最後に泊まった宿場街。
ルーンが「大きな街では珍しくないから隠す必要はないよ」と言った為、魔術をかけずにここまでやってきたのだが。
「ねぇ、ルーン」
私は気にかけてくれる青年に耳打ちする。
「何でみんな、こっち見るのかな? やっぱり翼、隠した方が良いんじゃないかな?」
私の言葉に彼は始めて気がついた風に周囲を見る。
しかし。
「気にし過ぎじゃない?」
「むー!」
ダメだ、こりゃ。話にならん。
「気になるんだったら、直接聞いてみれば?」
「あのねぇ」
でもそれも一理あるかも。
私は歩きながら聞き耳を立ててみる。
私達ファレスは人間とは異なる聴覚を有している。すなわち精霊の声を聞く耳だ。
風の精霊にお願いして、周囲の声を運んできて貰うことにしよう。
まずちらりとこちらを見たまま、通りかかった馬車にぶつかった男の声。
『美人だなぁ』
それは分かってるわよ……でも人間の感覚でもそうなのね。
『翼? 天使、の訳ないよなぁ?』
と、これはゴロツキ風の男達の声。
やはり私の容姿に、しかしそれは翼だけではないようだけれど問題があるみたい。
でも私自身、振り返られるほどの容姿ではないと思っていたのだけれど。
お隣に住んでいるアズチちゃんの方がキレイな髪をしていたし、三軒隣のショウカお姉さんは目鼻がくっきりしていて村の男子達の羨望の的だったし。
他にも……そこまで思い出して、ちょっと落ち込む。
対して私なんかは、ヤマトやヤヨイだとか空気読まない奴に気に入られたり、魔人に目をつけられたりなんだろう、と。
そんな私が、容姿で憧れられることなんてあるのかな?
疑問はすぐに解消しないと、ってことで手近な人間に聞いてみることにした。
「ね、ルーン?」
「何だい?」
「私って美人……かな?」
おずおずと尋ねる。それに彼はしばし考え、こう答えた。
「自分で美人だと思えばブスだし、そう思わなければ美人だろうね。それより飯は何が良い? アークスは色んな名物があるよ♪」
「……ルーンは色気より食い気ね」
「君に言われたくないな、ったく」
ルーンは苦笑い。
んー、要するに私は人間の間で美人、ってことでいいのかな?
そんなことをルーンに手を引かれながらうんうん考えていると、視界の隅に何かが引っかかる。
いつしか私達は首都アークスの外周部の街中へ入っていた。
首都を貫くこの大通りには、人通りを期待しての露店も並び始めている。
その一つ。
視界を潤す柔らかな色と、花をつく甘い香りに足を止めた。
そして私は彼の袖を引っ張る。
「今度はどうしたの? アスカ」
「どうして花なんて売ってるの?」
花屋と書かれた看板の下がる露店の商品に近づきながら、ルーンに尋ねる。
「どうしてって……首都の人間は忙しいからね。自分で取りに行く暇はないんだよ。それに近くには咲いてないし」
「そぅ、少しは休めば良いのにね。あら、この花かわいい」
私は様々な種類の並ぶ花の内の白い一輪を手に取った。
それを見たルーンが感嘆の溜息一つ。
「珍しいな、セリネっていう高山植物だよ。昼はこんなに白いけど、夜になると黒に変わるんだ。ここいらじゃ滅多に生えてないんだけど」
言いながら彼は辺りを見渡す。
確かにこの周囲には山などない。草木のほとんどない岩山であるフラッドストーンならあるけれど。
「いらっしゃいませ、珍しい花でしょう?」
店主らしい若い女性がそう声をかけてきた。
「北の方から取り寄せた、今朝届いたばかりの品ですよ。如何ですか?」
彼女は私の翼を一瞥しただけで、特に感じたものはないようで営業スマイルを浮べてセリネを勧めてくる。
「今朝届いたばかり、ですか」
「えぇ、こう見えてもウチは皇国全体に展開する花ギルドの一つですから」
「へぇ……??」
思わず感嘆の声を上げてしまう私は、セリネの花を一本だけ貰う。
ギルドというのは後でルーンに聞いたところによると、同業者同士の協力体のようなものなのだそうだ。
例えば塩を扱うのならば塩ギルド。
主に塩の卸売業者と生産者によって形成されているこれは、この世界全体に草の根レベルで行き渡っている。
彼らによってこの世界の塩の価格は決定されているといっても過言ではない。
またこの塩を商品の一つとして扱う商人ギルドも巨大なものだ。どの国家においても商人ギルドの発言権は大きい。
闇の組織としての盗賊ギルドも挙げられる。こちらはしかしながら、悪を以って悪を制すという感が強く、むやみに都市犯罪が起きないように抑制する側らしい。
病んだ都市では盗みの稼業も儲からないからだ。
そして、この露店である花屋も稼業がある以上、その業種に伴うギルドに所属している。
一見、何でもありに見えるこれら露店商だが、その実は全て何かしらの管理下、所属下にあるということを知って驚きを隠し得ない。
外の世界は自由と思っていたけれど、案外好き勝手というわけではないようだ。
「さて、宿屋を捜そうか。見物はそれからだ」
握っていた手をもう一度強く握りしめられて、はっと我に返る。
「うん、そうだね!」
隣を行く相棒の言葉に私はセリネの花を胸のポケットに。
満面の笑みで握り返したのだった。
私達は壁の外側に数多くある宿屋の内、一軒に身をおいた。
壁の外側と内側とでは値段が二倍ほど違うというのだから不思議なものだ。言うまでもなく外側の方が安い。
『紅葉の旅籠屋』と書かれたこの宿の一階で、腰を下ろした早々の夕食をとった時のことだ。
ざわざわ
外――大通りの方で人々の集まる声が聞こえてくる。
窓から見える景色には人だかりの中にゆっくりと、白い服を身に付けた数十名もの人々が行進しているのが見えた。
「ねぇ、ルーン。あれは何かな?」
スープを啜っていた目の前の青年に尋ねる。
「ああ、今日は寒冷祭だからね。それを祝う神官行列だよ」
「寒冷祭?」
「うん。寒冷祭っていうのは冬の寒さをほぐす為のお祭りなんだ。寒さの精霊をおだてて、冬にするべき精霊の仕事を忘れさせようというのが始まりだそうだよ」
「へぇ」
今日は年の瀬も迫った一年の最後の月。冬月の二十四日。
あー、そう言えば私の村でも今日は祝日になっていたなぁ。確か寒さが和らぐようにお祈りする日だ。
「で、神官行列は水の神アクアリーンの神官たちを中心に組まれてる。まぁ、他の神の神官達もお祭り騒ぎしてるけどね」
なるほど。
ルーンの説明を聞いて、私の頭に残った言葉。
それは、
「お祭りっていうとタコヤキ屋があったり、綿アメ売ってたり、射的があったりするのかな?」
「ああ、儀式が終わり次第、大騒ぎになるよ。さらに!」
彼はここで一呼吸置く。
「今夜、空に向かって『ぎぶみーぷれぜんと』と叫べばサンタクロースというトナカイに乗ったジジイが欲しいものをくれるのだよ、アスカくん」
「な、何と、本当ですか先生?! おそるべし、人間社会!」
彼の説明にかなりの嘘が盛りこまれていたことに気付くのは、そう遠いことではなかった。
「ねぇ、ルーン。あの神官行列、最後まで見に行きたいな」
「ん。じゃあ、早く食べちゃおうか」
「うん!」
私達は食事を急いで平らげて、宿屋を後にする。
神官行列は、その人数の数倍もの見物客を従えて街の中心に向かって進んで行く。
水の神の神官達は氷で作られた大きな柩をかついでいた。
すでに日も落ち、街灯や人々の持つたいまつの明かりを棺はキラキラと反射させている。
それはまるで大きな宝石で出来ているように思えてしまう光景だ。
「ルーン、あの氷の棺ってなんだろう?」
「んーと、確か寒さの精霊への供物だったかな。この首都の北にあるレントール湖ってあるんだけど」
「ん?」
「街の水源でもあるんだ。今の時期は半分くらい凍っちゃってて、そこの氷を切り出してあんな風にしているって聞いた事があるな」
「溶けちゃうのに、あそこまで作り込むなんてもったいないねぇ」
やがて彼らは、街の東部に立つ大きな大理石造りの神殿へと入って行く。
水の神アクアリーンの神殿と見て取れた。
私達見物人は彼らが神殿へ入って行く所までを見送ることができる。
それ以上、すなわち神殿の中へは入ることはできない。
神殿の中からは何やら呪文の声が歌うように聞こえてきていた。
水の神の神殿を見上げている私達は、身動きできないほどの見物人に囲まれてしまっている。
「しっかし人間って、たくさんいるわね」
「人間だけじゃないよ」
思わず漏れてしまった私の呟きにルーンは答える。
確かによく見回してみると、ちらほらとエルフ族とドワーフ族の姿が見て取れた。
どうやらこの二種族は人間社会においてはそれ程珍しいものではないらしい。
そして、相変わらず私に向けられる視線も感じるが、もぅ慣れたので良しとする。
「ん? 儀式が終わったようだよ」
ルーンの言葉に私は人々の間に見える神殿を見上げた。
神殿の入口には先程の氷の柩が置かれ、ハンマーを担いだ二人の神官がその両隣に立っている。
彼らは互いにそのハンマーを振りかぶり、柩に叩き付けた。
キィンと澄んだ音とともに柩は砕け散り、その氷の破片があられのように周りに飛び散る。
「いえ、違う…雪?」
私は頬に冷たいものを感じて空を見上げた。
白濁した空からは白い結晶が撒かれている。紛れもない、雪だ。
氷の柩を砕く槌の音が響き、破片と舞い降りる雪が神官達の持つキャンドルの灯りに青く光る。
その幻想的な雰囲気に私を含め、観客達からは溜め息が聞こえてくる。
「珍しいな、何年振りだろう? 寒冷祭で雪が降るのは」
ルーンの呟きが現実的な響きを以って私を我に返らせた。
同じような声が辺りから聞こえ、さらには来年は良い年になるぞ、やら、株が上がるだとか景気の良い声も聞こえてきた。
確か寒冷祭と言うのは寒さを和らげるための物ではなかったのか?
雪が降っては逆効果なのではないか、と思ったがどうせ何か謂れがあるのだろう。
「何か言いたそうだね、アスカくん」
「はい先生。やっぱり雪が降ると精霊が喜んでる合図だとでも言うんでしょうか?」
ルーンは笑って首を縦に振った。
「さ、お祭り見物といこうか。今日はゆっくり羽を延ばそう、いや翼かな?」
そう笑うルーンからはぐれないよう、私は改めて彼の袖をしっかり掴む。
同じように散会する人々に流がされるように、私達は神殿の前から移動した。
首都の大通りには着飾った人々が往来している。
その中で特に目を引くのが、長く白い付け髭で飾った、赤い衣装を着こんで老人に化けた人達だ。
彼らは広告なんかを配っている。
「何だろ、ケーキ大安売りだって。こっちは七面鳥売り。あれ? これは……きっと貴方を満足させます、クリスマスギャル二十人?」
「ったく」
ルーンに無言で、いつの間にやら両手いっぱいに貰ってしまったチラシの束を取り上げられる。
「あれは、さっき言ったサンタクロースに扮して自分の店を宣伝しているのさ」
「ふぅん。良く分かんないけど大変ねー。で、本物のサンタクロースって何処にいるんだろ?」
私の言葉にルーンは何故か苦笑した。
「良い子にしか見えないんだよ。大人には見えない」
あぁ、なるほど。サンタクロースというのは偶像という訳、か。
素直にそう言えば良いのに、ルーンはまるで私を子供のように扱って。
だから、いじわるしたくなった。
「ルーン?」
「ん?」
「どこからが大人なのかな?」
「へ?」
目を丸くするルーン。彼の手を握り締め、私は彼の手ごと自らの胸に当てる。
「私は、大人? それとも子供??」
見つめ合う瞳と瞳。
ルーンの黒い瞳には私の真摯な表情が映り込み、私の青い瞳には彼の真面目な顔が映っていることだろう。
そのまま、しばらくの時間が流れて。
先に音を上げたのはルーンだった。
「参りました」
大きく溜息をついて、目をそらす。
「サンタクロースの代わりに僕が一つ何か買ってあげるよ」
「え、本当?!」
「でもあんまりお金ないから、高いものは勘弁ね」
そして彼は微笑んだ。
”結局、一つ願いを叶えてもらったわね”
人込みの中、私ははぐれないようルーンの腕に自分のそれを自然と絡める。
「え、アスカ?」
ルーンの僅かに驚いた声が聞こえたのと同時、道端の露店にキラリと光る物が私の目に飛び込んだ。
「ルーン、あれ!」
「ちょ、え??」
私は彼の腕を抱いたまま、そこへと足を向ける。
「いらっしゃい」
そこは古びた台車の上に雑然と宝飾具を並べる露店。
あご髭を不器用に伸ばした、ビール樽を思わせる腹を抱いた店主が私達を出迎えた。
いかにもいわくつきっぽい商品が並ぶ中、私は一つの髪飾りに目が止まる。
それは鳥の羽を形どった黒い髪止め。
ドワーフが作るものに比べると劣るが、新鮮な感じを受ける。思わず私は手に取ってみた。
形そのものを表現するかのように軽い。木製、かな??
「お嬢さん、お目が高い!」
いかにも勿体つけた感じで店主が大げさな身振りで語り出す。
「それはかの名匠カトゥーの逸品でして―――」
長々と語るが、取りあえず名匠の作というのは大嘘。
ただ、大量生産した中で数個あるかないかの、非常に良く出来た偶然の産物だと思う。
「今日は特別価格、普段の半額だ。どうです、お兄さん、彼女へのプレゼントに」
饒舌なおじさんだ。
ルーンは私と同じく聞き流しながら、こちらに視線を送る。
「ルーン、これが良いな」
私は彼にそう言って微笑んだ。
「いいの、これで?」
「うん。ほら、似合うでしょう?」
後ろ髪に付けてみる。
それを見て彼は優しく微笑んだ。
そして、ふと小さく呟く。
「これ、どこかで見たことがあるような」
「ルーン?」
「あ、うん、良く似合ってるよ。アスカの黒髪に黒い髪飾りは目立たないかなと思ったけど、これはこれで良いね」
まじまじと見られると、なんだかこそばゆい。
「ありがとう、ルーン。おじさん、これください」
「へい、毎度あり!」
ルーンは店主に銀貨を二枚手渡す。景気の良い声を背に、私達は再び人込みに混じった。
そのまま流されて進んで行くと、やがて広場に出る。
中央に一本の大きな木が立っている。見た感じではかなり古い木だ。
まるでこの都市を見渡すようなそれは、石造りの街の中でその緑を目立たせていた。
大木は魔術による明りで様々な色に輝いている。さらに星やサンタクロースなどを形どった飾りがその木に括りつけられていた。
「へぇ、きれいね。七色に光ってる」
「これは大きいなぁ」
木の下で思わず立ち止まって見上げてしまう。それは夢の中に出てきそうな景色だった。
いつの日か村に帰ったら、これくらいはやってみても良いんじゃないかな?
村中の木々をきれいに飾りつけたら、今日の首都に迫るくらいきれいな光景が生み出せるような、そんな期待を抱いてしまう。
そんな夢からふと我に返って視線を回りに移すと、妙に男女のペアが多いことに気付く。
それもいわゆる恋人同士的な二人組ばかりだ。
”う〜、何か居心地が悪い――ような?”
あちらこちらでどんな結界より強い、半径一リールの世界を作り出している。
人目も憚らずに……うぁ、あんなことしてるよっ! あっちではそんなことも?!
それを見てふと気付く。
他人から見れば私達もそうなのか、な?
そういや、ルーンは私のことをどう思っているんだろう?
いや。
逆に私は彼のことをどう思っているのかな?
私はルーンのことを――嫌いなら一緒に旅などしない。
彼と旅を始めようと決めたのは、彼だったからだ。
彼がソロンや、馴染みであってもヤマトやヤヨイなら一緒に行くなどしない。
何故、ルーンなのか―――今まで確たる理由を考えたことがなかったことに今更ながらに気付く。
ルーンにしてみたらどうなのんだろう?
私でなくシリアなら……あ、いや、例えが悪いか。他の人でも共に旅をしようとあの時決意したのだろうか? 例えばあのクレオソートとかいう娘だったら。
「分かんないなぁ」
「ん、何が?」
つい、口に出てしまった呟きにルーンが尋ねる。
さらに、その言葉が私のすぐ近くから聞こえてきたことに驚く。
隣を見上げると彼の顔が私のすぐ近くにあった。私がルーンの腕を抱くように掴んでいたのだから当たり前だ。
けれど急に私は無性に恥ずかしくなり、彼の腕を放して顔を背けてしまう。
「ひゃ!」
途端、冬の夜風が私に吹きつける。その冷たさに顔を上げてしまった。
重なる私とルーンの視線。
彼の視線は純粋に「どうしたの?」と問うてくる。
どこからか知れず湧き出した恥ずかしさは次第に大きくなり、私は自分を誤魔化す為に取りあえず言葉を口にする。
「ねぇ、ルーン。この街に入る前、約束したでしょう?」
口に出てしまった。私の中で話題を変えたかっただけなのに。でも何故この話題を出してしまったのか?
「何を?」
やはり彼はすっかり忘れている。
「ア、アークスの街の広さのこと! あの賭けは私の負け、何でも一つだけ言うことを聞いてあげるわ」
そこまでまくし立て、そっと彼を見つめる。
きょとんとしたルーンの表情に、恥ずかしさはやがて苛立ちへと転化した。
「ああ、そんなこともあったな」
ぽん、と手を叩いて彼。
「確かに言うことを聞いてあげるとは言ったね。『聞いてあげるだけ』ってことで、いざというときは誤魔化すつもりだったけど」
おぃおぃ。
苛立ちは瞬時に脱力に変わった。
「あのね……で?」
「ん?」
「何か、ないの?」
呆れながら、私は尋ねる。
「そうだなぁ」
ちらほらと雪降る夜空を眺めた後、彼は、
「特にない、かなぁ」
むぅ。
よっぽど無欲なのか、もしくは期待していないだけか。
「欲しいものとかもないの?」
やはり彼はしばし考え、首を横に振る。
「ったく、こうして私がせっかく聞いてあげるっていうのに」
「ああ、一つだけ願いがあるな」
思い出したようにルーン。
「何?」
問いに彼は口を開きかけ、しかしすぐに考え込むように閉ざしてしまう。
「あー、うん、やっぱり言わないよ」
そう告げてルーンは視線を逸らせる。
「もったいぶらずに言いなさいよ。気になるじゃない」
「僕が望むからって、それが叶えられるってものでもないモノだしさ」
「そんなの言ってみなきゃ分からないでしょ! むしろ言いなさい、さぁさぁ」
じりじりと詰め寄る私に、背を反らせて逃げるルーン。
「い、いや、大したことじゃないから、ね、アスカさん?」
「言・い・な・さ・い」
息が触れ合うくらいに顔を合わせる。
そして。
とうとうルーンは負けたといった風に溜め息をついたところで一旦離れてあげる。
「あー、まぁ、なんだ」
彼はまっすぐに私を見て、いつもの笑顔を浮かべることなく真顔で願いを告げる。
普段と違うその態度だけで、何故か私は緊張してしまう。
「こうして君と旅をしたい、これからも」
まっすぐに届く彼の言葉。
一瞬、舞い落ちる雪が止まって見えるくらいの時間の長さを感じる。
驚きと、なんと言っていいか分からない感情……嬉しさと言えなくもない。
そんな気持ちに包まれた一瞬。
その長い一瞬の中で反芻する。
ルーンの願い、それは確かに彼のためだけに叶えられる願いではない。
けれども。
それはきっと叶うと思う。
何故なら、彼だけが望む願いではないのだから。
「って、こんな願いはダメかな?」
いつも浮かべる笑みに表情を変えて彼。
「バ、バカじゃないの、もぅ!」
私は思わず顔を背け、しかし乱暴に彼の右腕を取り胸に抱いて歩き出す。
ルーンを引きずるように、ただ前へ前へといく私はいつの間にか不思議と微笑んでいた。
聖なる夜は更け、それに合わせるように街の活気はますます溢れていくように思えた。
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