10. 暴利の世界へ!
フリスタリカの街を歩くファトラ一行。
ファトラの足取りは軽い。
それに対し誠とアレーレは早くも疲れが見え始めた。
「誠様ぁ」
「言わんといてアレーレ」
「ですがぁ」
ファトラに手を引かれちょっとふらつきながら歩いていく誠。
「思い出せんのはファトラさんのせいやないし、まあようはしゃいでおるけどこれも仕方ない事やで」
「そうでしょうか」
「…」
「なんか行き当たりばったりのような気もするんですけど」
はぁ、と誠は嘆息する。
「アレーレ。世の中にはな無駄かもしれんと分かっていてもやらなあかん事もあるんや」
「そういうもんですか」
「そうや、ファトラさんの記憶、何がきっかけで元に戻るか見当も付かん。場当たり的になるのも仕方ない事や」
アレーレも嘆息する。
「そうですね。ああだけどファトラ様。本当ならお側にいるのはこの私なのに…」
どちらかと言うとアレーレにとってはこっちの方が大きな問題であるらしかった。
散々歩き回った(引きずり回された?)後、彼等は菜々美の所へ向かった。
ファトラはテンション上がりっぱなしである。
誠は頼むから変な事はいわんといてや、と思いつつ暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。まこっちゃん…」
誠の隣にいるファトラを見て一瞬顔が曇る。
「こんにちわ菜々美お姉様、今日はお招きありがとうございます」
「いいのよアレーレ。ちゃんとお代はもらっているし」
「こんにちは菜々美さん。今日どんな料理が出るのか楽しみで夜も眠れなかったんだよ」
夜と聞いた途端、誠の顔が引きつるが幸いにも菜々美は気付かなかったようだ。
「そう、待っててね今最高の料理を用意するから」
「うん、お願いね」
誠とファトラを交互に見る菜々美。
”これで誠ちゃんにちょっかい出さないのなら放っておいてもいいんだけどねぇ”と呟きながら厨房へ向かう。
「誠様、先ほど一瞬お顔がこわばりましたけど、やはりやましい事がおありで?」
勿論本気で言っている。
「ち、違うってアレーレ。今朝のやり取りを思い出しただけや。さっきも言うたように僕は人の弱みに付込む真似は」
「分かっていますよ。だったら堂々としていればいいじゃないですか。おどおどしているのを見るとこちらも勘ぐりたくなります」
「すまん、アレーレ。やっぱ疲れているんやな」
「大丈夫誠? 疲れているのなら後で昼寝でもする? そうだ私膝枕して上げるよ」
勿論ファトラには悪気はないのだが今の言葉は丁度お茶を持ってきた菜々美の耳にも届いた。
「まことちゃん」
耳元でどすの利いた声を出す。
「うわぁ。菜々美ちゃん耳元でそんな声ださんといて。痛っ!」
テーブルの下からアレーレがすねを蹴ったようだ。
「誠様、鼻の下を伸ばさないで下さい」
「本当アレーレ?」
「本当です菜々美お姉様。全くでれでれして」
完全な言いがかりではあるが嫉妬に燃えるアレーレには真実だった。
「まこっちゃん、どういう事? ファトラさんの記憶を」
「ちょっと待ってや! 菜々美ちゃん!」
「何よ大声出せば済むと思っているの!」
「そうやない、ちょっとこっちへ来て菜々美ちゃん」
誠は菜々美の耳元に口を寄せる。
「なによ」
「ええか、菜々美ちゃん。ファトラさんが一昨日倒れた事も今その後遺症で記憶がない事も重要機密事項なんや。他の人に知れたらロンズさんが黙ってへんで」
「そうなの?」
「ああ、今朝もしっかりと念を押されたわ」
菜々美はちょっと眉間にしわを寄せ
「だけど今のファトラさんを見たら誰だって変に思うわよ」
「だから頭痛いんや。頼むから協力してや」
「ふうん。分かったわ。一つ、いいえ二つ貸しにしておくわ」
「なんで二つなんや?」
「慰謝料よ」
言い放つ菜々美。
取り敢えずは助かったようである。
「あー美味しかった。菜々美さんて料理がうまいんだね」
「本当、菜々美お姉様。今日の料理は、いえ今日もですけど本当においしゅうございました」
「ほんまやで菜々美ちゃん。気合入った言うとっただけあって最高の出来や」
口々に賛辞の言葉が出る。
「あのファトラさんそれでどう? なにか思い出した事はない?」
「えーとですねぇ」
「うん」
期待に満ちた目をしている。
誠はふと疑問に思った。”ファトラさんが元に戻っていないのは明らかなのに何を菜々美ちゃん確認しとるんやろ?”
「菜々美ちゃん」
「ちょっと待ってて。ね、ファトラさんなんでもいいのよ、お願い。何か思い出して」
「んーとぉ」
「だから菜々美ちゃん」
「だからちょっと待ってって言ってるでしょう。ごめんなさいファトラさん続けて」
アレーレも不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんでしょうね菜々美お姉様。なんか必死ですけど」
「そうやね。ファトラさん前とかわっとらんのは明白なのに」
「何かお考えがあるのでしょうか」
「さあ菜々美ちゃんの事やから考えも無しに動く事はないと思うけど」
二人の期待(?)を受け菜々美のテンションが上がっていく。
「ねえ、早く、何かないの?」
「う〜〜」
「もう! はっきりしないわね! ちゃんと答えなさい!」
バンとテーブルを叩く菜々美。ついに我慢できなくなったようだ。
「誠ぉ、菜々美が怒った。恐いよう」
当然誠に抱き付く。
菜々美とアレーレが切れる前に誠が先手を取った。学習機能という奴だ。
「菜々美ちゃんそないな言うたらあかんやろ! なんでそんなに問詰めるように言うんや!」
アレーレもファトラが責められたと言う点に反応した。
「そうですよ菜々美お姉様。一体どうしたのですか? いつものお姉様らしくありませんが」
二人に言われ菜々美も小さくなる。
「あ、ごめんなさいファトラさん。私そんなつもりじゃくて、そのう、なにか一つでも思い出してくれないかなってね」
顔を見合わせる誠とアレーレ。
「「なんでや(です)? 菜々美ちゃん(お姉様)」」
「あ、惜しい。少し違うわね」
「だあぁ、もうファトラさん。それはいいですから。で、菜々美ちゃんなんで、ファトラさん前と同じなのにそんなに一生懸命確認したんや?」
「えーと、それはね」
「「それは」」
「わあ今度は」
「だからいいですってファトラ様」
「はあ」
「あのね、ロンズさんとの契約でね」
「契約書まで作ったんか、菜々美ちゃん?」
「そりゃあそうよ。こういう事は口約束だけじゃ駄目に決まっているでしょ」
「まあええわ。で、その契約の内容は?」
「うん、ファトラさんの記憶についてだけどね、何でもいいから思い出した事があればOKという物なの」
「というと何か。ファトラさん、別に元に戻らんでもなにか思い出した事があったらOKって事か?」
「ええまあそういう事ね」
「それって菜々美お姉様、詐欺では」
さすがにアレーレも呆れたようだ。
「そんな事ないわよ。ロンズさんも納得してサインしてくれたし」
「昨日のロンズさんを丸め込むのはそう難しい事ではなかったやろう、菜々美ちゃん」
「そうなの、いつもなら渋面作って色々と難癖つけてくるんだけど昨日はあっさりと」
「「菜々美ちゃん(お姉様)」」
「え〜ともう言わなくてもいいんだよね」
「はぁぁ、もうええわ」
今度は菜々美がファトラのおかげで助かったようだ。
「ごめんねまこっちゃん。さっきの貸し一つにしとくから」
無しにしない所が菜々美らしい。
「誠、菜々美さんに何か借りているの? 駄目だよ。ちゃんと返さないと」
「はいはい、ファトラ様その事も良いですからお城に戻りましょう」
「そうやななんか疲れてもうた」
「だったら誠私が膝枕で」
「「「もういいですって!!!」」」
「本当綺麗にはもるな〜」
精も根も果てた誠とアレーレだった。
[BACK][TOP][NEXT]