11. 喪心の世界へ!
城に辿り着いた誠達はまだアフラ達が来ていない事を知った。
「遅いですね。お姉様方」
「そうやな、だけどマルドゥーンは離れているし早くと言うても無理があるやろ。もう少したら来てくれる思うで」
希望的観測を述べる誠。
「そうですね、こうなったら三神官のお姉様達が頼りですから」
「ね、ね、誰が来るの?」
「あ、ああ三神官、三人の大神官の方々や」
「えーと、それって偉い人たちなの?」
「そうですよファトラ様、水、炎そして風の神官達を束ねるのが三神官の方々ですよ」
「へぇ、そんな偉い人たちがここに何しに来るの?」
勿論ファトラの治療のためだが本人は自分が病気とかいつもと違うとかの自覚症状が全くない。
「アフラさん達はファトラさんの記憶を戻すための治療に来るんですよ」
「ふぅん、そうかぁ私のために来てくれんだね」
「そうですともファトラ様」
「それじゃぁしっかりお持て成ししないとね! あら、どうしたの誠、アレーレ」
誠とアレーレは床に突っ伏していた。
ルーンの執務室へ行くとそのままルーンの私室へと案内された。
「まあ待ってましたよファトラ」
「どうも遅くなりましたお姉様」
「誠様もご苦労様です。アレーレ疲れているようですけど大丈夫ですか?」
「誠も疲れているんだって。後で膝枕してあげようと思うんだけど」
誠より先にルーンが口を開いた。
「そう、誠様もきっと喜びますよ。ねえ誠様」
さすがに違うとは言い難い。
「はあ、その」
アレーレが小突く。
「誠様はっきりおっしゃって下さい」
「アレーレそんな怖い顔をせんと、この状況でまさかいややとは言えんやろう」
小声で答える誠。
「じゃあ誠様、アレーレとこのお部屋でお待ちください」
「え、誠は一緒じゃないの」
「ええ、ちょっとだけこのお部屋で待ってもらうだけですよ、ファトラ」
「だけど」
「大丈夫ですよファトラさん。僕はこの部屋から動かんから。所で王女様どちらへ行かれるんですか」
「この奥の部屋です。ですからファトラ、誠様はすぐ近くにいらっしゃいますからね」
「うん…」
「終りましたら膝枕でも何でもして構いませんから」
「はーい」
「ちょっと」
「王女様」
「わあ今度は輪唱だ。バリエーション広いねぇ」
「そうですねファトラ、では行きますよ」
「はい、お姉様」
後に残った誠とアレーレは口を開いたまま立ちすくしていたがややあってアレーレが改めて口を開いた。
「誠様まさかとは思いますが」
「も、勿論や。そんな事をしてみい,後でどないな目に遭わされるか分かったもんやないで」
冷や汗を流しながら答える。
「結構です誠様、所で」
「なんやまだ何か」
「いえ、今ファトラ様が入っていったお部屋なんですけどね」
「あの部屋がどうかしたんか?」
「ええ、過去何度かルーン様はファトラ様を連れてあのお部屋へ入られたのですが」
「それやったら別に何も問題はないんと違うかアレーレ」
「いえ、お部屋から出てこられたファトラ様は決まってお顔の色が悪く大変お疲れになったご様子でした」
「いつもか?」
「ええ、それで私もファトラ様に何があったのかお尋ねしたのですがお答えにはなりませんでした」
「アレーレにも?」
「はい、お尋ねしますと決まって青い顔をされて何も聞くな、とそれだけで」
そう聞くと誠も心配になってきた。
「大丈夫やろうかファトラさん」
「ルーン王女様がファトラ様に酷い事をされるとは到底思えないんですがただあのファトラ様のやつれ方は普通ではありませんでした」
アレーレも自分で話していて不安になってきた。
「大丈夫でしょうか誠様?」
「分からんけどもう少しだけ様子を見てみよう。ルーン様とファトラさんあないに姉妹仲がいいんやから」
「そうですね」
自分に言い聞かせるように頷くアレーレ。
とは言うものの心配なのには変わりなく時間が経つに連れ不安も増大してくる。
何よりも奥の部屋から殆ど物音が聞こえてこないのが気になった。
「アレーレいつもこんなに静かなんか?」
「そうですね。時々話し声のようなものは聞こえてきますがまさか盗み聞きする訳にもいきませんし」
「うーん、なんか気になるなあ」
「誠様ぁ本当に大丈夫でしょうか?」
アレーレは今にも泣きそうな声で問い掛けてくる。
「そうやなぁ…、時間も経ってるしちょっと覗いてみよか」
「ええ、お願いします。誠様」
アレーレの期待を一身に背負い誠は扉の前に立つ。
一度大きく深呼吸してからノックした。
「すんません。誠ですけどファトラさんの」
突然扉が開いた。それも勢いよく。
「わっ、な、なんや」
もう少しで扉に当る所だった。
ほっとして中を見た誠の目の前に下着姿のファトラが立っていた。
回りには色鮮やかなそしてフリルなどの飾りがついた服が並んでいる。
次ぎの瞬間ファトラが抱き着いてきた。
「誠、誠ぉ、いやだよー。あんな服は着たくない。いつもの格好がいいよう。ね、誠もそう思うでしょ」
一気に捲くし立てるファトラ。
「ファ、ファトラはん…」
「ねえ、何とか言ってよ誠も。あれ誠。どうしたの誠?」
誠は大量の鼻血を出しながらそのまま後ろへ倒れた。気絶と言う奴だ。
そのまま一緒にファトラも倒れるが誠がクッションとなり怪我はない。
「ファトラ様だいじょうですか?」
慌ててアレーレも駆け付ける。
ファトラは誠を揺するが応答はない。
「どうしたのですかファトラ」
「誠が、誠が起きないの」
ファトラは泣きそうな顔をしてルーンに訴える。
ルーンは誠の傍に座り様子を見る。
「ファトラが抱きついた後に倒れましたからファトラがタックルした訳ではありませんね」
「ルーン様それ本気でおっしゃっていませんよね」
アレーレが半分ジト目で言う。
ファトラは誠を一生懸命揺らしている。
「ファトラ様そんなに揺らしては駄目です。ルーン様これをご覧下さい」
アレーレは誠の顔から胸にかけて流れている血を指差す。白い服を着ているだけによく目立った。
「あらそういえば、どうしたのでしょう誠様。ファトラは素手でしたし」
「あーんもう!これは誠様の鼻血ですよ。王女様」
思わず大声を出すアレーレ。
咎めもせずルーンは問い返す。
「あらそうなのですか、でもどうして?」
アレーレはゆっくり首を振ってから一度深呼吸し答えた。
「宜しいでしょうか。まず誠様が扉を開けた時」
「ううん、開けたのは私だよアレーレ」
「だあぁ。どなたでも結構です。とにかく扉が開いたとき誠様がまずご覧になったものは」
「「なったものは?」」
「あら今度は私達がはもりましたね」
「そうですわねお姉様」
「あーもー、お願いですから話しを聞いてください!」
さすがにアレーレも苛立ってきた。
「いいですか、誠様がご覧になったのは下着姿のファトラ様です」
「そうでしたね。ファトラちょっとはしたないですよ」
「この姿では駄目なんですか?」
「ええベッドの中なら構いませんが」
「じゃあ今度誠と」
「お・ね・が・い・し・ま・す!」
「わあアレーレ顔が真っ赤よ。どうしたの」
「はあはあ、いいですかファトラ様、ルーン王女様。誠様は下着姿のファトラ様をご覧になった上に裸同然のファトラ様に抱きつかれたのです。誠様も若い男性です。免疫も余りありませんから倒れて当然ですよ」
今度は邪魔されぬよう一気に話す。
「あら誠様って純情なんですね。初夜の時はどうされるおつもりなのかしら?」
「誰と初夜を迎えるというんですか! わあああ。おっしゃらなくても結構です。それよりも誠様を」
「そうですね。このままと言う訳には行きませんから風通しがよい所へ運びましょう」
「誠は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよファトラ」
「私一生懸命看病するから」
「ええお願いしますよファトラ」
アレーレはもう突っ込む元気はなかった。
ただファトラが誠の看病をすると却って誠は回復できないのではないかと思った。色々な意味で…。
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