12. 快眠の世界へ!

 誠は揺れを感じていた。
 ”なんやこれ? 船にでものっとんのか”
 頬に誰かの手が触れているのを感じてはっと目を覚ます。
 「あっ、やっと起きたね誠」
 目を開けた誠の目の前にファトラの顔がある。
 だけどやたら近い。更に胸(勿論服越しだが)を下から見上げる形になっている。
 ”これってもしや”、慌てて起きようとするがファトラに押さえられて体を起こすことはできない。
 「駄目だよまだ動いちゃ。いきなり倒れたからびっくりしたよ」
 下着姿のファトラに抱きつかれて気絶した事を思い出す。
 頭のすぐ下はファトラの膝である事は間違いない。
 誠は顔が熱くなるのを感じた。
 「あれ誠顔が赤いよ。熱でもあるのかな?」
 ファトラは額をつけようとする。
 「わあ、たんまやファトラさん。ちょっと待ってや」
 慌てて叫ぶ誠。本当なら手を出したい所だが格好が格好だけに手を伸ばすと何に触るか分からない。
 誠はこれ以上リスクを負いたくなかった。
 「なんなの誠?」
 「ファトラさん、僕を起こしてくれへんか」
 「でも…」
 「お願いや」
 仕方ないなぁと言った感じでファトラは誠を開放する。
 誠は服が変っている事に気付く。
 「あれこの服は」
 「ああ誠いっぱい血を流して服が汚れっちゃったから替えて上げたの」
 「ファ、ファトラさん」
 「なあに」
 丁度その時ノックの音がした。
 誠は慌てて立ち上がり扉へ向かい声をかける。
 「はい、どなたでしょうか?」
 「おう! あたいだ。炎の大神官シェーラ・シェーラ様が来てやったぜ!」
 「あっ、お待ちしてましたどうぞ入って下さい」
 姿を現したのは炎の大神官シェーラ・シェーラと同じく風の大神官アフラ・マーンであった。
 だけどミーズと藤沢の姿がない。
 一瞬変に思ったが取り敢えず二人を中へ招き入れる。
 「お久し振りどすなぁ誠はん」
 「ええアフラさんもお元気そうで」
 「ねえねえ、この人達誰?」
 一瞬シェーラの動きが止まる。
 アフラはちょっと柳眉を寄せたがすぐにいつもの表情に戻る。
 「なるほどいつものファトラはんとは違いますなぁ」
 「ねえねえ誰なの?」
 「ああ、この人達は、さっき話したやろ三神官の」
 「ああ偉い人!」
 「アフラほっといて帰るか」
 復活したシェーラが言う。
 「待って下さい! 後はシェーラさん達が頼りなんです」
 「分かっとりま。大方はルーンはんから聞いてますけどもう一度お願いできますやろか」
 「ええ分かりました」
 「あのう」
 「ファトラさん! 分かりました。座って話しましょうね」
 「うん」
 怪訝な顔のシェーラとアフラ。
 「どうしたんでぇ誠の奴?」
 「さあうちらの知らんとこで色々苦労があったんと違いますやろか」
 さすがアフラである。



 輪になって座る四人。
 ふと誠はアレーレがいない事に気付く。
 「あれ、アレーレは?」
 「ああ、アレーレなら何でも王女はんからお使い頼まれたとかいうてうちらと入れ違いに出て行きましたえ」
 「お使いですか?」
 「なんでもファトラの好きな菓子を買いに行くとか言ってたがな。なんかあいつ怖い顔してたぜ」
 「そうどしたなぁ。なんかあったんどすか」
 勿論思い当たる節は山ほどあるが今回は間違いなく膝枕だ。
 「さ、さあなんでしょうね」
 「どうした? 誠声が上ずっているぜ」
 「い、いえ何でもないです。ちょっと喉が」
 「風邪でも引いたんどすか」
 「いえ、大丈夫です!」
 ここでなんか言おうものならまたファトラが何かを言うに決まっていた。
 シェーラがいる以上それだけは避けたかった。
 「ま、よろし。それではお願いできますか誠はん」
 「はい分かりました」
 誠は簡潔に話始めた。
 アフラは真剣に聞いている。
 が、シェーラはすぐに退屈になったのかファトラへ何か話しかけていた。
 ちょっと気になったものの取り敢えず誠は話を続けていた。
 突然ファトラが大声を上げる。
 「なんや、どうしたんやファトラさん」
 ファトラは涙目で誠に訴える。
 「あのね、シェーラさんが言うの。私シェーラさん達や誠に迷惑ばかりかけていたって。本当なの?」
 「「シェーラ!(さん!)」」
 さすがに今度はファトラも突っ込まない。
 「いやぁ悪りぃ悪りぃ。こいつが大人しく話を聞くもんだからさ」
 「だから言うても言っていい事と悪い事がありますよシェーラさん!」
 「そうやシェーラ。あんたそれでも大神官かいな」
 「だから謝ってんだろう」
 とシェーラはアフラの方を向き
 「だけどよぉアフラ。ファトラこのままの方がいいんじゃないのか」
 「どうしてどす」
 「考えてもみろよアフラ。今までこいつのせいで苦労ばかりしてたんだぜ。挙句には迫られるしよ」
 両肩を抱え震えて見せるシェーラ。本当にいやだったらしい。
 「それがよ今は、まあちょいとばかり調子は狂うけど大人しいもんじゃねぇか」
 「それで」
 促すアフラ。
 「それでって、アフラ。簡単じゃねぇか。あたい達はこのまま帰る。そりゃ暫くは大変かもしれねぇけどすぐに落ちつくって」
 「それから?」
 「だからぁ、こいつが大人しくしてりゃあたいらも振り回されずに済むしルーン王女だって心配事が減るんだからいいんじゃねぇのか?」
 「あんたはそれでいいと?」
 「おおよ。さっさと帰ろうぜ」
 「じゃ、あれはそのままにして帰りましょか」
 「あれって」
 アフラの指差す方向には誠に抱き着いて半泣きのファトラとそれをあやす誠がいた。
 「ファットラー! 何してんでぇ」
 「シェーラ、あんた帰るんやなかったんか」
 冷たくアフラが言い放つ。
 「ばっきゃろう! それ所じゃねぇ! おうファトラ! おめぇ何してんだ」
 殆ど不良だ。
 「誠もそんな奴抱きかかえて何やってんだ!」
 「何ってねぇシェーラさん。あなたが変な事ファトラさんに言うからこうなったんですよ」
 誠も負けていない。実際シェーラには憤りを感じていたのである。
 「そんな事はどうでもいいだろう。なんでファトラが誠に抱き着いてんだって聞いてんだ!」
 「シェーラ、あんた王女はんの話もちゃんと聞いとらんかったようやね」
 「話?」
 「そうどす。王女はんいわはったやろ、ファトラはんが誠はんに懐いてしもうて傍をはなれへんて」
 「そうだっけ、か?」
 「あ、あのアフラさん。王女様他に何か」
 いきなり弱気になる誠。昨夜の話しをされたらさすがのシェーラも切れるだろう。
 ファトラを抱えて逃げ切れるはずがなかった。
 もっともいなくても逃げ切れないのには変わりなかったが。
 「いえそれだけどす」
 ほっと溜息をつく誠。
 「だけどなんや王女はん楽しそうでしたなぁ。ファトラはんが病気やいうんにのんびりしてはったわ」
 「そ、そうですか、そういえば王女様昨日夕方くらいからもういつもと変らん感じでしたよ」
 背中は汗でぐっしょりだ。
 「よおし、あたいに任せな!」
 突然シェーラが大声を出す。
 バックに炎をしょっている。気合十分だ。
 「なんやシェーラまたしょうもない事考えたんと違いますか。あんたの手に負えるとは思えまへんで」
 アフラが的確な判断を下す。
 「ふん、この炎の大神官シェーラ・シェーラ様をなめんなよ。おう、ファトラついてきな」
 「どうしますアフラさん」
 「しょうがおへんな。取り敢えず行ってみましょか」
 誠は何とか機嫌が直ったファトラを伴い後をついて行った。


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