16. 現実の世界へ!
良い天気だった。
今日もフリスタリカは好天に恵まれていた…。
「わああ、よるんじゃねぇ」
「ああん、もうあっちに行ってよ」
「そんなぁお姉様方照れなくてもいいですぅ」
「そうじゃシェーラに菜々美。此度はわらわのために尽力してくれたそうではないか。褒美を取らすぞ」
「だからぁそんなもの要らないって」
「はっはっは、照れるなほれ黙って受け取れい」
「だからよせって、こっち来るんじゃねぇ」
言うまでもない。ファトラとアレーレがシェーラと菜々美を追い回しているのである。
「ほらほらシェーラ、ファトラはんが右へ回りましたえ」
「て、てめえアフラ! 汚ねえぞ、てめえだけ先に逃げやがって!」
「そうよ覚えてらっしゃい!」
アフラはさっさと安全圏へ逃げていた。風の神官の特権だ。
「何言ってますの。誠はんも一緒や、安心してええどすえ」
「ふざけんな、後で、うわぁ、菜々美逆行け逆」
「何よシェーラあんたが、きゃあこっち来たあ」
「アフラさん、大丈夫やろか」
「どっちがです誠はん?」
「どっちがって、あー、アフラさんその瓶お酒やないですか」
「そうどす。中々おもろい見世物やおへんか。肴にぴったりどす」
「肴にって、そんなアフラさん,シェーラさんが切れたら」
「大丈夫どす。シェーラには釘を差しといたさかい」
「釘ですか…」
ゆっくり頷くアフラ。
方術を使わないシェーラ。使いたくとも使えない理由があった。
「今回偶然に戻った訳やけどまたなんかのショックで前に戻ることがあるかもしれまへん。用心してや」
「てえと、例えばファトラを殴ったりするとまた」
「そうどす。方術で吹き飛ばすと言うのもあきまへんえ」
ファトラが前の状態に…。誠にちょっかいさえ…。
「宜しいどすな、シェーラ」
「分かったけどよ、もうあたいら帰っていいんじゃねぇのか」
「何言うてますの。ミーズねえさん言うとったやろ、藤沢センセが来るまで城にいろと」
実際の所ファトラが元に戻ったのだからシェーラが言っている事が正しい。
しかしシェーラはミーズの言いつけというアフラの言葉を鵜呑みにしてしまった。
「ちっくしょう、後で覚えていろアフラ・マーン!」
「ファトラさんも覚悟してなさい!」
逃げながら言ったのでは迫力がない。
アフラはシェーラ達を追い回すファトラを見つめる。
”そうそう、アフラさん。笑った方がずっと素敵だよ” ふとファトラの言葉を思い出した。
「どうしたんですか、アフラさん」
「え、うちがどうかしました?」
「いや、今アフラさん、くすっとわろうたんやけど菜々美ちゃん達を見てわろうたんやないでしょ」
ふふ、と笑いアフラは呑みかけのグラスを差し出す。
「いかがどす。誠はんも一杯」
「えっ、いや僕はまだ未成年やから…」
「ほう、うちのグラスからは呑めんゆうんどすな」
「いえ、決してそんな訳では」
「くっくっく、だから誠はんは」
「アフラさん!」
「ふふふ、堪忍や誠はん」
笑いながら再び下を見る。
花瓶が倒れたり壁に穴があいたり散々だ。
元気よく駈け回るファトラを見る。ふとある事を思い隣にいる誠を見る。
「なんですかアフラさん。今度は?」
「誠はん、ファトラはんと一緒に寝とったんやろ。いかがどした?」
誠の顔色がさっと引く。
「ぼ、僕は別に何も…」
「ほんま判りやすいお方どすなあ」
「あ、もしかして」
「見事引っ掛りましたな誠はん」
「アフラさん、この事は」
アフラはすっと指を立てる。
「なんです、アフラさん?」
「一週間でええわ。一週間菜々美はんの所でご馳走してくれましたら忘れる思うんどすが」
「ええっ、一週間もですか」
「このお酒ええ味どすなあ、呑み過ぎて口が軽うなるかもしれまへんな」
「是非ご馳走させてください!」
アフラはくっくっく、とまた笑い落ちこんで下を向いている誠と走り回るファトラを見比べる。
”あの時のファトラはんはほんま素直やった” 誠に中断された考えを再開する。
”あれはなんやったんやろ” ゆっくりグラスを呷る。
そしてまた酒を足しながら考える。”あれはファトラはんの心の深層部やったんやろうか”
誠を見る。”しかし、あのファトラはんが…”
菜々美を追い回すファトラ。隙あらばシェーラへ飛び掛ろうとするファトラ。
”どれがほんまのファトラはんやろね” 誠に寄り添い幸せそうな顔をしていたファトラを思い出す。
”ま、ええわ。その内、答えも見えてきますやろ” 酒瓶はもう空だ。
「やっといつものロシュタリア城に戻りましたね」
「御意にございます。殿下」返事したロンズは体のあちこちが焦げていた。
大気との摩擦と言うストレルバウの説明だった。
「さてそれではお茶の時間も終りましたし仕事に戻りましょう」
「ははっ」
ルーンはファトラを見て優しく笑い執務室に消えていった。
後には…。
「見てろよー、アフラにファトラー」
「そうよ。いつか思い知らせてやるからねー」
いつまでもシェーラ達の悲鳴が響いていた。
完
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