EL-HAZARD THE ILLUSIONAL WORLD !! 



 幾千もの時を越え 拓かれる太古の力 意志を抱きし力達
 光と影 相容れぬ存在 憎しみ合う心と心
 光と影が在りし所 人の息遣い有り それは世界
 今 幻影の扉 開かれし時 新たなる出会いが始まる
 神秘と混沌の世界エルハザード 今ここにその扉が開かれる…



幻影の世界 エルハザード

第参夜 変幻の世界へ



 夜,それは光の下に住む者達に眠りを与え、全てを不可視の世界へと誘う時間
 そして、闇に生きる者達の世界ともなる…
 草木も眠るうしみつ時,ファトラは寝巻のまま中庭を歩いていた。
 彼女には珍しく夜這いではなく、『なんとなく眠れない』のであった…
 冷たい月の光が彼女を、中庭にあるベンチごと照らし出す。
 ふと、ファトラが影に包まれる。
 「?」 空を見上げるファトラ。彼女の上空3m余りのところに影の正体が浮いていた。
 「…アフラか?!」 呟き、一歩下がる。
 「…ファトラ姫,王家の血筋を引く者だな」 そのアフラの異なる気配に、ファトラは本能で背を向けて逃げ出した。しかし…
 「!? っな!」 次の瞬間にはファトラの懐にアフラは飛び込み、強烈な肘打ちを食らわす!
 「…貴様!」 ファトラの薄れゆく意識の中には表情のないアフラ=マーンの瞳だけが残っていた。



 「他愛もない」 アフラはファトラを肩に担ぐと、城内に踏み込む。
 廊下を進み、城の北側,地下への階段を下りて行く。
 「ふぁぁ,ん? ! あ、貴方は…」 地下へと下りきったところで、番兵が二人の姿を発見した。しかしアフラが軽く左手を振ると、番兵は物凄い勢いで背後の壁に打ちつけられ、気を失う。
 進むこと数分,廊下に施された虎をイメ−ジしたかのようなレリ−フの口の部分を、アフラはファトラの右手を当てた。
 ヴン!
 くぐもった音を立てて、扉が出現する。ファトラを担いだアフラは何のためらいなく、その部屋に足を踏み込む。
 中は黒いガラス張りの部屋だった。埃一つないその部屋はしかし、明らかにこの時代のものではない。
 アフラは空いた左手でガラスに触れる。部屋一面のガラスは仄かな光を放ち始めた。そして部屋の入口が不意に消える。
 「ふむ,ここはまだシステムが生きているようだな」 呟くと、アフラは無造作にファトラを床に下ろした。
 「サーチシステム起動,試作体イフリーナ及びアブザハールの現在の状態を表示せよ」 アフラの言葉に伴い、壁のガラスはある一定の表示を映す。
 それはこのロシュタリア城を中心とした正確な地図だった。
 数瞬の後、アフラの目の前に宙に浮かんだ文字が現れる。立体映像である。


   イフリーナ   起動中   精神プログラムに異常
   アブザハール 起動中   Unknown



 そして地図には赤い点と青い点が一つづつ点滅し始める。
 青い点はココリコ山,赤い点はここから北西の地、やはり遠くロシュタリアから離れていた。
 それを見たアフラは訝しげな表情をする。
 「どういうことだ…アブザハールが?」 が、それも瞬間的なものですぐに無表情に戻る。
 「異常の発生しているイフリーナから処置すべきか…」 呟き、アフラはファトラを残して部屋を後にした。
 部屋の扉が開き、彼女は出る。そして部屋全体に映し出された地図は消え、ガラスからは仄かな光のみが放たれ、倒れるファトラを照らし出すのみだった。



 陣内はコクリと息を呑む。
 カツヲは彼の後ろに隠れた。
 鬼神の目がゆっくりと,一つ一つの機能を確認するかのようにゆっくりと開かれていく。そして…
 「いよっ! ダンナ,今日も精がでますな!」
 「…は?」 ガラスケースから下り立った鬼神の男は揉み手をしながら陣内にへつらった。
 「何、ぼけっとしてるんでさぁ,さ、こんな陰気臭いところからはさっさと出ましょうや! そっちもムシのあんちゃんもそう言ってまっせ」
 「ヘ?」 カツオは戸惑いながら首を横に振る。
 「お、お前、テンション高いな…」
 「そうでっか? 鬼神なんてみんなこんなもんでっしゃろ,HaHaHa!!」 言葉も変だが、陣内はつっこむのを恐れた。
 「あ,あ〜、ところでお前は何ができるのだ?」 陣内の問いに鬼神は待ってましたとばかりゼンマイを手にする。
 「良くぞ聞いてくれました,私の特技、それは!」 ゼンマイを振り上げる。
 「それは!」
 「ウガ?!」
 2人のギャラリーの前で鬼神の振り上げるゼンマイは見る見る内に変化,一本の傘になった。
 そして右手に取り出したるや3個のゴムボール。
 おもむろに鬼神はそれを上に放り投げ,
 廻した!
 「「おおっ!」」 驚愕する陣内とカツオ!
 「いつもより多く廻しております〜」
 「…帰るぞ,カツオ」
 「ウィ…」
 「ま、待ってくださいって,アメリカンジョークの通じない人達ですな」 やれやれと肩を竦める鬼神。
 「何でアメリカを知っておるのだ,貴様が!!」
 「細かいことは言いっこなしっスよ,HeHeHe!! とまぁ、ふざけるのはここまでにしておいて,私の能力はイフリータと同じものと思っていただければ分かりやすいでしょう」 どこから取り出したのか、パイプを口に持って行きながら鬼神は言った。
 「?? 何故、貴様がイフリータを知っておるのだ?」 怪訝に陣内は男に尋ねる。
 「私はイフリータの前衛機ですからな。イフリータは感情によって抑制されている分,私の方が能力の幅が大きいのですよ」 得意気に鬼神。
 「? 私にはイフリータの方が感情がないように思えるが…まぁ良い,貴様も鬼神の端くれ、私の力になってもらうぞ」
 「へい,私の力の及ぶ限り、マスターの為に動きますわな」 ハナクソをほじりながら答えるやる気なしの鬼神。そこにとうとう切れた、陣内のこめかみキックが決まった。
 「HuHuHu…いい突っ込みだ,オー○阪神…」
 「誰がオール阪○だ!! …ふぅ、疲れる,ところで貴様の名は何だ?」 本当にげっそりと疲れた顔で陣内は鬼神に尋ねた。
 「あっしの名前? アブザハールと言いますが、それを略して昔は皆『花の子ル○ルン』と呼んでました」
 「き、貴様…花の○ルンルンを侮辱するのかぁぁ!!」 観客がカツヲ一人という漫才は、この後、二時間は続いたという…



 所変わって、翌日早朝のロシュタリア城…
 「ロンズ,兵は精鋭のみだ。それとあくまで大掛かりな戦闘を目的としている訳ではない,装備はそれに準ぜよ!」
 「ハッ」 てきぱきとしたファトラの指示に、ロンズを始めロシュタリア城に在住する兵士達が動く。
 やがて2台の大型の高速飛空艇にファトラ姫,ロンズを始めとした総勢30名が乗り込んだ。
 「ファトラ! 一体これは何の騒ぎなの!?」 騒ぎを聞きつけ、ストレルバウを伴って現れたルーン王女が船上の妹に尋ねる。
 「おお、姉上,ちょっと外出致します故。詳しいことはそこのストレルバウにお聞き下され,では!」
 「何を考えてるの,ファトラ!!」
 「ウニャァ,るーん、心配スルナ」 珍しくファトラに纏ったウーラが眼下のルーンに言う。
 「出発するぞ,ロンズ。行く先はロシュタリア城より北西,聖石ヶ丘!」 船首に片足を乗せて、ファトラは腕を振り下ろした。



 「いつまでもこうしている訳にもいかへんなぁ…どないしてこうなってしもうたんやろ」 そして溜め息一つ。誠は今日も今日とて市場の修理屋に身を下ろしていた。
 「よぉ、何暇そうな顔してんだよ!」 聞き覚えのある声に誠は顔を上げる。そこにあったのは見覚えのある顔だった。
 「あ、君は確か…」 人間と幻影族のハーフ,誠がここに来た初日、スリを働いていたところをアイシェルと一緒に逃げ出した少年だった。
 「アイシェルの姉さんは?」
 「何でも今日は夕方まで用事があるそうや」
 「ふぅん…」 少年は誠の正面,作業台であるカウンターに肘をつき、誠をじっと見つめた。
 「な、何や?」
 「…へぇ、兄ちゃん,幻影族じゃないんだね」
 「え…」 誠は凍り付く。
 ”な、なんでばれたんや,いや、そもそもどうして僕がこんな姿になってるのか分からへんけど…とにかくバレてしもうた!”
 しかし次の瞬間、今まで冷たかった少年の目に多少暖かみがあることに気づく。
 「兄ちゃんも人間の血が混じってたんだね。オイラと同じかぁ」 言って手近の椅子に腰かけた。
 「何でばれたかって顔してるね,オイラ、幻術を見破る力だけは強いんだ,逆に兄ちゃんみたいに作り出す方はさっぱりだけど。やっぱりハーフだからかなぁ…」 溜め息一つ。
 ”幻術? てことは僕のこの姿は幻術ってことやあらへんか…同じ幻影族すら騙す幻術なんて、誰がかけたんや?!”
 しかし、取り合えず誠は頭の中のその問題を隅へ追いやる。少年は自分を人間そのものであるとは思っていないらしい,話を合わせないとまずいことになる。
 「兄ちゃんは良いよなぁ、そんな強い幻術も使えるから普通の幻影族に扱ってもらえるし、古代遺産も直せるし…」
 「…そんなにつらいんか? だったら上の世界で暮らせば」 誠の何気なくはなった言葉に少年の視線はジト目になる。
 「何言ってるのさ,あいつらの世界に行ったら殺されちゃうよ。オイラの父ちゃん,人間だったけど、オイラを庇ったせいで同じ人間に殺されたんだぜ。オイラだけじゃない,他にも同じような奴がゴマンといるよ」
 「そ、そう…」 それだけ深い対立なんやなぁ,誠は思う。しかしそんな対立など、ハーフであるこの少年のような幼い子供が理解しうることはできないし、する必要はないはずだ。
 「ほな、もうスリなんてしなくて済むよう,僕が道具の直し方を教えたげるわ」 それに少年の目が輝く。



 「マコット兄ちゃんはアイシェル姉ちゃんの何なの?」電気スタンドを誠に言われた通り、器用にドライバーを使いこなしながら少年は尋ねた。
 「何なのと言われてもなぁ…倒れてた僕を助けてくれて、そのまま居候させてもろうてるって関係やなぁ」
 「へぇ、2人ともお似合いだと思うけどな」
 「子供が偉そうなこと、言うんやない」 からかうように言う少年の頭を誠はこずく。
 「でも、兄ちゃんはアイシェル姉ちゃん好きなんだろ」 少年は手にしていたスタンドの紐を引っ張る。するとカチッと言う音とともに灯りがついた。
 「…嫌いやないけどなぁ」 誠は言いながら、今度は時計のようなものを渡す。
 「アイシェルさん,力も強いし、何より美人だからハーフって分を差し引いても普通の幻影族からも人気があるんだぜ,そんなんじゃ取られ…」 少年は言葉を止める。誠が驚いたように少年を見つめていた。
 「…アイシェルさん,ハーフなんか?」
 「そ、そうだよ。気づかなかったの?」 少年の言葉の最後は誠の耳に入っていなかった。
 ふと、少年と合った時のアイシェルの言葉が思い出される。
 “なら、どうやって生きて行くのよ!!” 誠は怒鳴られた。
 その意味するところがこうならば、確かに辻褄が合ってくる。
 さらに少年の言う彼女の強い幻術という力,顔立ち,アイシェルと言う名…・・誠の中にあった疑問が解消され、新たな疑惑が生まれる。
 そしてそれは否定したくともし難い、確信へと変わりつつあった。



 玄関の戸が開く。
 入ってきた人物はリビングのテーブルに肘を付いた人物を見つけて多少驚く。
 「あら、まだ起きていたんだ」
 「おかえり、イシエルさん」
 「ただいま,え…」 アイシェルは自分を見つめる青年を見つめ返す。
 彼の瞳には確信と、そして寂しさとが写っていた。
 「そっか、気が付いたんだ」 言いながら、アイシェルは軽く指を鳴らす。
 するとアイシェルの姿が陽炎のように揺れたかと思うと、次の瞬間には 先日、誠がイフリーナの遺跡で会った冒険者に姿を変えていた。
 同時に誠が元の姿に戻っている。
 「そ、アイシェルはイシエルを読み替えたものよ。私は幻影族と上の人間とのハーフ」 言いながら彼女は誠の向かいの椅子に腰掛けた。
 「イシエルさん…どうして…」 誠の言葉をイシエルは無言で遮る。
 「イフリーナの遺跡でマコット達と会ったのは偶然よ,そして貴方をさらうつもりなんてなかったはずだった…」 しかし今度は誠が彼女を遮る。
 「あの…マコットっていうの,もう止めてもらえます?」
 「ついつい,で、あそこでナハト様に会ったのも偶然だった。あとは誠の考える通り。ただ、誠をあいつらに渡したら酷い目に会いそうだから、無理矢理私が引き取ることにしたの」
 「そうすると、イシエルさんは幻影族では中心的な人なんですね…」
 「違うわよ,ただ…力が強いだけ,ただそれだけよ」 誠の言葉を無理矢理押しこめるイシエル。
 「で、水原 誠君はこれからどうする気? 私を倒して、さらに門番を倒してここを出るか,それともナハト様のいる中央に押し入るか,それとも…ここで暮らすか」 試すようにイシエルは尋ねる。
 しかし3つ目の例えに彼女の僅かながらの願望が含まれていたことに、誠は気付くことはなかった。
 「僕は…ここにいるべきじゃあらへん。でもイシエルさんと戦う気もあらへんし…正直、ナハトが手に入れたイフリーナの使用法も気になるところや」
 「ふぅん,鬼神ね。誠,ここの中心、ナハト様のいる建物、なんて呼ばれるものか知ってる?」 思い出したようにイシエルは尋ねた。
 「あの中心にある建物…? 先エルハザードの物としか」
 「あれはね,アブザハールの神殿。古代兵器だか鬼神だかが封じられていた遺跡よ。もっともここ自体が遺跡なんだけどね」
 「アブザハール? どこかで聞いたことのあるような…」
 ゴウン!
 衝撃音が街中に響き、振動が建物を揺らした。
 「な、なんや、突然!!」
 ゴウ,ゴウ,ゴウゥ!!
 今度は立て続けに起こる。揺れる中、イシエルは窓の所までたどり着き、外の様子を伺った。
 「く、崩れとるっしょや…」
 「崩れてるって,一体?」誠もまた窓まで駆け寄る。薄明かりの街の中に、上空から瓦礫が次々と降り掛かっている。
 ゴウ!
 上空から一条の閃光が下まで走った! 閃光が直撃した民家は火を吹く。その後に瓦礫が降り注いだ。
 「上の世界からの攻撃…?」
 誠が呟く間にも閃光が次々と走る。その内の1つが誠達のいるすぐ近くに落ち、その衝撃に彼は床に尻もちを付く。
 「誠,逃げるなら今の内よ」 イシエルはいつ用意したのか、小さな背負い袋を床に腰を下ろした誠に手渡して言った。
 「逃げるって…イシエルさん?」
 「我ら幻影族の長ガレス様を傷つけた水原 誠は混乱に乗じて逃げ仰せました,こう報告すればいいっしょ?」 そして彼女は微笑む。
 「誠の守りたいこのエルハザード,ナハト様から守り切れたとして、その後に何が残るのか…期待してるわ」 イシエルは言い、立ち上がろうとする誠の頬に手を添えた。
 「? イシエルさん?」
 「魔法をかけてあげる」 寂しそうに微笑むイシエルの顔が誠に近づく。
 ゴゥ!
 何度目かの閃光が走る。
 その光に2人のいる部屋が一瞬照らされる。
 そこに青年の額に唇で触れる女性のシルエットが浮かび、そして消えた。



 ドン!!
 濛々と上がる煙,ぶち抜かれた壁から一人の女性が現れる。
 侵入した部屋,ここ地下世界で最も大きい建物の一番奥の部屋、そこには一人の男性と、彼の前に立つ子供,そしてその子供を守るように、杖を手にした少女が、彼女の前に立ちはだかる。
 「イフリーナ,見つけたよ」
 ザッ,呟く彼女を遠巻きに、衛兵と思われる者達が次々と囲む。
 ジリジリとその包囲を輪を狭めて行く衛兵達。
 「くだらん」 彼女は肩から提げた長い棒状の兵器を軽く横に振う。
 コゥ
 淡い光を放ち、彼女を中心に光と突風が同心円上に広がった。
 「うあ」
 「くっ!」
 壁に,通路の奥に飛ばされる衛兵達。
 が、彼女の前に立つ少女とその後ろの2人はまるで見えない何かに守られたように平然としていた。
 「イフリーナ,こいつを追い払え」 少年の抑揚のない言葉に、杖を構えた少女は手にしたそれを振う。
 「…ほぅ」 と、猛然と襲い来る彼女を、風の法術で受け流す。
 「…様,奥へ」 その後ろで、少年は依然長椅子に座る男を奥へと誘導しようとした。
 「良いではないか,余興だ」
 「しかし!」
 「…分かった,下がっていよう」 呟き、男は席を立つ。そして物腰静かに奥の部屋へと下がって行った。
 ギィン,イフリーナのゼンマイを、女性は力を持った腕で振り払う。
 イフリーナは跳躍!
 「ハッ!」 上へ逃れたイフリーナを銃口が捕らえる。
 放たれる光の奔流。
 「グッ…」 少女はまともにそれを受け、幾枚もの天井を背に受けながら上へ上へと吹き飛ばされた。
 兵器を下げ、彼女,サーリアは残る少年を見つめる。
 「イフリーナを何の為に目覚めさせたか分からんが…壊させてもらうぞ」
 「…できるかな?」 不敵な微笑み。
 「ああ」 そしてサーリア/アフラは彼にはまるで興味を失ったかのように視線を外し、イフリーナが吹き飛ばされた上空へと飛んだ。



 ゴゥ!
 「な、なんや?」誠は街の中心に立つ高い建物から放たれた光に目を疑う。
 建物の下から放たれたようなそれは、つき抜けるように天井を突き破り洞窟の天井にまで届かんばかりだ。
 「なんか分からんけど…さっさと逃げやな」 再びその足を早める誠。
 「ぶあ!!」
 と、突如その背に衝撃を受け、思いきり正面から地面にキスする。
 「な、なんや?!」 背中に何かが乗っている。
 身を起こし、それが人であることを知る。
 「って…これは!」 幻影族にはない妙に白い肌,黒い髪。そして手にしたゼンマイ。
 「イ,イフリーナ? 何や,一体…」
 「うっ…」 小さく呻くイフリーナ。
 「壊れたんか?」 ホコリに汚れたその額の髪を退けてやる。その瞬間、誠の手が彼女の額に触れた。
 唐突に誠に流れこんでくる大量のヴィジョン。
 花畑,お菓子,青空,白い雲,二人の男女,形なき力,争い,微笑み,涙,束縛,そしてその奥に懐かしい香り…
 「はっ! この娘…」 我に返る誠。未だその瞳を閉じている鬼神の顔に、誠は異世界に旅立った最愛の人の表情を何故か感じる。
 「ダメージは負ったようだな」 誠の背後からの女性の声。
 振り返る誠。
 「アフラさん!」 銃口を誠に向ける女性,それは彼が良く知る顔だった。
 「あの時の少年か…残念だが、今は私はサーリアだ」
 「? 何言うて…」 そこまで言って、誠はイフリーナを背後に隠す。
 「何者や,お前は!」 明らかにアフラとは異なる何かを感じる誠。
 「言ったであろう,サーリアだ。そこの鬼神を作った者,今一度その鬼神を無へと返す」
 「させへんで!」 両手を広げ叫ぶ誠の、こめかみすれすれを光の帯が駆け抜ける!
 ドォォォ!
 彼の背後の家、数件が吹き飛んだ。しかし誠の視線はサーリアに向けられたまま動かない。
 「イフリーナは生きとる,製作者だろうが何だろうが、壊す権利はないはずや!」
 「生きている…だと? 主人の命にのみ反応する人形にすぎん」
 チャキ,もう一度、今度は誠の額に照準を合わせて言い返すサーリア。
 「僕には分かるんや,この娘は、自由になりたがっとる,あんたがつけた従順機能を外したがっとるで! そもそもあんた,この娘の親みたいなもんやろ、少なくとも、イフリーナはそう思っとる!」 サーリアを見つめ、強い口調で誠は言い放つ。
 「…ロバーツ?」 そんな誠を見つめ、小さく呟くサーリア。
 ゴッ!
 鋭い衝撃波がサーリアの武器を襲う。
 「キャ!」 軽い暴発,サーリアの肩から提げていた銃器の銃身が吹き飛び、彼女は地面に叩き付けられる。
 誠の陰からゼンマイを振り上げ、目を覚ましたイフリーナが倒れたサーリア/アフラに飛び掛かる!
 「止めるんや,イフリーナ!」 叫ぶ誠。
 「…」 ピタリ,イフリーナの動きが止まる。そして誠にゆっくりと振り返り…
 「二人を殺せ,イフリーナ」 抑揚のない、子供の声が彼女にかけられた。
 「!! ナハト!」 建物の陰から、少年が一人,現れる。誠は声の方向に振り返り…
 「君は…」 声を失う。そこにいたのは幻影族と人間のハーフ,誠が近頃良く合っていたスリの少年だった。
 「そんなに驚きかなぁ?」 彼は右手を振り上げ、軽く下げる。
 すると肌色だった肌は青く染まり,また顔立ちも変わる。
 「どういうことや?」 ナハトの姿となった彼から、誠は一歩後ろに下がる。
 「…どういうもこういうも,ただガレス様をあそこまで追い詰めた君を観察したかった,ただそれだけさ。いずれ始末するつもりだったけど」 一歩踏み出すナハト,誠は気を失ったアフラの元に駆け寄る。
 「イシエルは僕のことに気づかなかったみたいだけど。見た感じだと君のことをいたく気に入っていたようだけね,ま、後できつく言っておかないとね」 少年の微笑みを浮かべ、ナハト。
 「さよなら,誠。イフリーナ!」
 チャキ! ゼンマイを構えるイフリーナ。
 アフラを抱え、目をつむる誠。
 数瞬の沈黙…
 「どうした,イフリーナ?」 いつまでたっても動かないイフリーナ。
 「…ロバーツ…さん」 小さな鬼神の呟きは、しかし二人には届かない。
 「今や!」 アフラを抱え、駆け出す誠。
 「クッ!」 それを追おうと動くナハト,しかしその彼の行軍をイフリーナが遮る!
 「ど、どういうつもりだ!!」
 「…」 暴れるナハトを胸に抱くイフリーナ。
 「ぶっ,は、放せぇ!」 動く事ままならず、もがくナハト。
 そして、まるで力尽きたように彼女のブレーカーが落ちた…。



 誠はアフラを抱え、走る,走る,走る…
 やがて地上へと通じる通路が見えてきた。
 当然のことながら、見張りはしっかりといた。見ただけでも合計5人,街が混乱しているとはいえ、彼らは任務は全うしていた。
 「イシエルはんがくれた魔法…大丈夫やろか?」 誠は別れ際に彼女から教えてもらった、良く分からない文句を思い出し呟く。
 キィン,澄んだ金属音が流れた。
 誠は自分と,アフラを眺める。
 「…ほんとに消えたんかなぁ?」 しかし誠は意を決したのか,堂々と通路の入口へと向かい…
 門を通過した。
 「…ほんとに見えとらんかったようやな」 誠は上へ上へと続く通路を進み、しばらく行った所で振り返った。
 相変わらず見張りはいるが、彼ら2人に気づいた様子はない。
 「しっかし…重いなぁ」
 ドス!
 「うっ!」 気を失っているはずのアフラの肘鉄を脇腹に受ける。
 「起きてるんちゃうんか?」 しかしアフラの表情は変わらない。
 やがて2人は低い稼働音を立てる装置のある大きな部屋に出た。
 「先エルハザード文明のもんや,これは何に使うんや?」 袋小路の部屋,誠は文様と所々光る床を眺めながら中央へと進む。
 不意に浮遊感が2人を包む!
 次の瞬間には誠は額に風を受けていた。
 冷たい光,三日月が誠を,アフラを,地上を照らしている。
 回りを見渡すと四方八方の草原,そして誠達を囲むように巨石が円状に配置されていた。
 「どこや,ここ…,ま、ともかく早く逃げんと」 取り合えず、星の方角から南へと進路を取る誠。
 ものの10分しないうちに、完全に草原の真っ只中になる。目標がないので、いくら星を頼りにしているといっても不安になってくる。
 「いたか」
 「こっちだ!」
 背後から声,振り返る誠。遥か遠くではあるが、かなりの数の人影が誠目掛けてやってくる。
 「ま、まずい…」 足を早める。しかしアフラを担いでいる以上、追い着かれるのは必至だ。
 やがて距離が50m程にまで近づいた。
 「も、もう終わりや…」 息を切らし、立ち止まる。
 不意に、月明かりに照らされた誠が陰に入った。
 空を見上げる誠。
 空は見えなかった,あるのは船影…
 ロシュタリア王家御用足しの浮遊艇である!
 そして浮遊艇から地上の幻影族に向かって飛び降りる兵士達。
 「一掃せよ! わらわに恥をかかせたこやつらを一人も逃すな!」 澄んだ女性の声が草原に響き渡った。
 「この声…ファトラさん!?」 誠は後ろを振り返る。多くの兵士と幻影族の中に、自ら剣を振う女性の姿を認めた。
 月明かりに照らされたファトラは、さながら戦の女神のように見る者の動きを敵も,また味方も鈍らせる。
 「ここにもいるぞ!」
 「え?」 我に返る誠。いつの間にやら兵士に囲まれていた。
 よく考えたら、今は幻影族の姿をしているのだ。
 「ちょ、ちょっと待って!」 問答無用で切り掛かってくる兵士達!
 ゴゥ! しかし誠を中心に兵士達は吹き飛ばされた。
 「これで借りは返したわよ」 誠の腕の中から抜け出し、アフラは言い放つ。
 「…アフラさんをどうするつもりや!?」 彼女を強い視線で見つめる。
 「返す,イフリーナを破壊した後にな」 イフリーナとの戦いで怪我をしたのだろう,右腕を押さえながら、サーリアは言った。
 「破壊するのが最も良い方法なのだ…あの時に壊していれば、私も目覚めることがなかったものを…」
 「…」 誠は無言,サーリアもまた静かに彼を見つめ…
 夜の空を飛び立って行った。



 「元の姿に戻ったな」
 「ええ、朝日を受けると同時に戻る聞いてましたから」
 飛空艇の甲板で、誠は昇る朝日をその身に受け、大きく背伸びした。
 あれからアフラの法術を見たファトラが誠に気づき、何とか間違われて切られることだけは避けることができたのだった。
 戦況は大半の幻影族が撤退することで終始した。しかし戦果は燦々たるものであったが。
 「いまいましい,聖石ケ丘くんだり来たのに、入口すらないとは!」
 聖石ケ丘,そう呼ばれているこのストーンサークルの地は、地の神官達の聖地ということだ。
 昨夜の戦闘は、精鋭だったロシュタリア軍にも関わらず、幻影と夜の闇という強い力を得た幻影族によって兵士の半分が怪我,もしくは命を失うという悲惨な状況である。
 撤退した幻影族の後にここを調べたが、誠のいた地下世界へと行く方法は見つからずじまいだった。
 おそらくは向こうから入口を閉ざしてしまったのであろうと、誠は考える。
 またサーリア/アフラが力ずくで侵入してきた径路も、不思議なことに見つけることはできなかった。
 そして幻影族の本拠地は掴めなかったが、唯一の手柄・誠を救出したことを手に、飛空挺はフリスタリカに帰還する。
 「でも、ファトラさん,どうやってここに?」
 「べ、別にお前を助けにきた訳ではないぞ,この間、ひどい恥をかかせてくれたこいつらに仕返しするためにだな…」 視線を誠から逸らし、朝日を眺めて言い返す。頬が赤く見えるのは朝日のせいであろうか?
 「いや、どうしてじゃなくて、どうやってって聞いたんですけど?」
 「あ? 何だ,それは城に戻ったら教えてしんぜよう」 髪をかきあげる。朝日にアミュレットが光った。
 「あれ? それ…」 誠が首を傾げる。
 「え? あ…も、もともとわらわに渡すつもりであったのだろう,こ、細かいこと,気にするでない!」
 「はぁ…ま、何はともあれファトラさん,助けに来てくれてありがとうございます」
 「だからお主を助けに来た訳では…」 誠に振り返る。そこまで言ってファトラは諦めたように軽く微笑んだ。



 「寒くなってきたな」 ホバーの上で、シェーラは両肩を抱いた。
 「ほんと…もっと厚着してくれば良かったわ」 毛布に包まり、菜々美もまた呟く。
 「これからもっともっと寒くなりますよ」 やれやれと言った風にアレーレ。
 「それじゃ、近くの街にでも寄って服を仕入れるとするか」 シェーラの提案に異議を唱える者はいなかった。



 小さな村,3人を乗せたホバーは通りを進む。
 「あれ? おおい,菜々美君じゃないか!」 とある2人組とすれ違い、そんな言葉を掛けられた。
 「あ、藤沢先生!!」 ホバーから身を乗り出し、菜々美は後ろを振り返る。アレーレはホバーの徐行を止めた。
 「あら、シェーラ,何やってるの?」 2人は追いつき、女性の方が搭乗員の1人にそう言葉を掛ける。
 「ミーズの姉貴! あ、そうか,新婚旅行の帰りか」
 「ええ、どうしたの,あら、アレーレまで…」
 「お久しぶりですぅ」
 「こんなところで何やってるんだ? お前達…」



 村の軽食店に5人は入る。
 「アフラさんなら、ココリコ山で見たぞ。真っ直ぐフリスタリカの方へ飛んで行ったが…まるで他人みたいだったな」 お茶を啜りながら、藤沢はその時の状況を思い出しながら言う。
 「誠は,誠はどうしたんでぃ!」 身を乗り出し、首を絞めるシェーラ。
 「く、くるしい…」
 「シェーラ,落ち着きなさい!」
 「あ、す、すまねぇ」 ミーズに止められる。
 「ぜぇぜぇ…誠の姿はなかったな,しかし…それならばアフラさんの行動が気になる」
 「一度フリスタリカに戻った方が良くなくて?」
 「「う〜む」」 腕を組み、思案顔をする菜々美&シェーラ。
 「…決まりですね,御二人も一緒に乗っていきます?」 決めてしまうアレーレ。
 「ああ、嫌な予感がするぜ」 藤沢は立ち上がる。
 「ええ,急ぎましょう」



 そしてこちらはバグロムの第二拠点。
 バグロム達の女王,ディーバの下に3つの影があった。
 「これが鬼神か…随分と…」
 「いよっ,姉さん、アブザハール申します。以後、宜しゅう!」
 「…軽いのぅ」 ジト目でそいつを見つめるディーバ。
 「取り敢えず、あっしの力を見せる意味で近くの国を破壊してきやしょうか?」
 「…できるのか,お前にそんな力あるとは思えんが」 陣内もまた、ジト目で鬼神アブザハールを見る。
 「ムリムジ…」 やれやれと言った風に両手を広げるカツヲ。
 「まぁ、見ていて下さいって」 アブザハールはふとしゃがみ込み、床に両手を付く。
 淡い光が彼の手を…そして彼と遺跡を瞬間,光が包んだ!
 「な?」
 「なんじゃ?」
 「んじゃ、ちょいと行ってきやす」 立ち上がるアブザハール,そしてそのまま外に向かって飛び去って行く。
 「寒いギャグで国を滅ぼすつもりか?」 陣内はそう呟かざるを得なかった…



 アブザハールが空の上から見下ろすのは城塞都市ミハルド,フリスタリカより北東に位置する中規模の都市国家である。
 「ふむ,ま、こんなとこでっしゃろな」 トントン,ゼンマイで方を軽く叩く。そして軽く目をつむり…
 ヴン!
 アブザハールの姿が歪む,かと思うと小柄な少女の姿に変わった。
 褐色の肌の少女,かつて鬼神と呼ばれた者,その名はカーリア…
 その彼女は右手を眼下の都市に向ける。
 「消えろ」
 彼女の手の内に生まれた小さな光は、都市の中心部にゆっくりと舞い降り…
 光芒がミハルド全域を包んだ…
 街のざわめき,人々の息遣い,その全てを飲み込む。



 眩い光が砂漠の遥か先に見て取れた。
 「陣内殿,あれは例の鬼神の仕業か?」
 「さぁ…?」 二人はカーリアの遺跡の高台から、次第に消え行く破壊の光をただただ、茫然と眺めていた。



 彼女はその光を飛行中に見た。
 ふわぁ,風の衣を脱ぎ、上空で立ち止まる。
 圧倒的な破壊の光,そのエネルギーは古き時代、彼女とは敵対していた国家の一つの開発したものに相違ない。
 「イフリーナではない…アブザハールか!!」 叫び、彼女、サーリアはその光に向かって一路、向かって行った。



 まずは光が襲った,そして次は突風が!
 「うわぁぁ!」
 「何じゃ何じゃ?!」 飛空艇は大きく揺れ、甲板に立っていた誠とファトラはマストに必死にしがみつく。
 ズズズ…
 遅いくる衝撃波に耐え切れずに、飛空艇は砂漠にその船体を沈める。
 「「…」」
 やがて沈黙,半分砂に埋まった二人は顔を上げる。
 「ファトラ様、御無事ですか!」 ふらつく足取りで船内からロンズが現れた。
 「ああ,一体何が起こったのじゃ?」 頭の上の砂を払い落としながら、彼女はロンズに尋ねるが、ロンズもまた首を横に振るのみである。
 「ロンズさん…あの方向には何があるんです?」 誠は砂漠の一点を指さす。そこは地平線の果て,濛々と黒煙を上げる何かがあった。
 「あの方向にはミハルドという都市があります,一体?!」
 「ロンズ,船の被害状況を調べよ! 復旧次第、城塞都市ミハルドへ舵を取れ!」
 「御意!!」 走り、戻るロンズ。
 ファトラと誠は黒い煙をあげる地平線をただ、眺めているしかなかった。


To Be Contiuned !! 




なかがきU
 機械に心は宿るのか? 魅力的なこのテーマに様々な創作がなされてきました。
 当然、エルハザードのOVA1はこれを主のテーマにしているように思えます。
 さて、科学の発達する今、機械に,いや、コンピューターという人の作ったものに心が宿る日が来るのでしょうか?
 もしもその日が来たとすると…人は必要なのでしょうか…考えるとちょっと恐く、それでいてワクワクするような気もします。
 機械に心が宿る,そんな空夢事のような日を思い、人が機械になる事を心配しながら…




次回予告

 誠の奴め。わらわに似ているのを良い事に美女に手を出しおって
 本来ならそやつらはわらわの獲物なのじゃ!
 ん? これは鬼神じゃと? むぅ,そうか。ではそっちは? ぬぬ,なんと!
 仕方あるまい,わらわは官女で我慢するとしよう
 なんじゃと? そんな暇はない? ええい,うっとうしい!
 な!? 陣内、それは何じゃ?
 次回幻影の世界エルハザード 第四夜 『幻惑の世界へ』
 さぁ姉上,今こそわれらの力を合わせる時…


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