Elhazard The Confusly World !! 



 幾霜もの夜を越え 蓄えられし位相の力
 想いは時に引き金となり 壊れた歯車を再び廻す
 過ぎ去りし時と 訪れる時 信じ得る時は今この時
 想い出により開かれし時の扉 今、訪れし約束された出会いが始まる
 神秘と混沌の世界エルハザード ここにその扉が開かれん



混迷の世界 エルハザード

第六夜 混同の世界へ



 「へぇ…」 嬉しそうにルーンは誠に腕を絡ませ、キョロキョロとまわりを見渡しながら歩を進める。
 ほとんど街中が祭りと化し、至る所に屋台が並び、異国からの訪問者もそこかしこに見られる。
 人の海の中を三人は揉まれながらも何とか進んで行く。
 「フリスタリカにこんなに人がいるんは初めて見ますわ」 なんとか誠との距離をキープしながらアフラは感嘆混じりに呟いた。
 「皆、楽しそうですね。良かった」 と、こちらはルーン。
 「?」
 「皆さんの表情が輝いて見えます。未来が明るくて、良かった…」
 「え、ええ…」 ルーンのその心からの微笑みに、誠は曖昧に相槌を打った。
 経過はどうであれ、現在は平和ではある。
 この若いルーンにとっては、もしも過去に戻れた場合、様々な苦悩にぶつかることだろう。
 「私ももっと皆さんが笑えるように頑張りますから」
 小さく、彼女は付け加える。
 「ええ、楽しみにしています」 誠は応えた。
 同時に小さな彼女から安心できる力強さと、元の世界に戻してあげなければという誠自身に対する責任感を感じる。
 「御二人とも、何処行きますぇ?」 離れたところからアフラの声が飛んでくる。
 ちょっとした瞬間に人の波に流されてしまったようだ。
 誠は何とかアフラの待つところまで戻る。
 「呆けてますからや」
 「えらいすいません」 苦笑する誠。
 アフラはそんな誠を見て、わざとらしく溜め息を付く。
 そしてルーンによって束縛されていない、彼の右手を握った。
 「離したらあきまへんで」 強く引っ張り、二人に背を向けたまま、アフラはつっけんどんに言い放つ。
 「はぁ、何とか努力はします」 相変わらずな誠の答えに、アフラは人知れず微笑みをこぼしていた。




 バササッ
 「お、おのれぃ,大神官めぇぇ!! おい、カツオ,私をここから降ろせぃ!」
 「ウゴゴ」
 フリスタリカ郊外の森の中、陣内の甲高い声が木霊する。
 木の枝に引っかかる彼は、下りられなくなったネコの状態で木の下で見上げているバグロムの一人に言い放った。
 彼はバグロムが上ってくるのを確認すると、改めて辺りを見渡す。
 その視界に、何やら人が集まっている場所が目に入った。
 そしてそこから少し離れたところに、彼の良く知る乗り物が隠すように置かれている。
 「あれは…我がバグロム軍が誇る高速武装艇,何故あんなところに?」
 カツオに降ろされる陣内,メンバーを見渡して気が付く。
 「イフリーナはどうした?」
 「「??」」 バグロム一同は首を傾げた。
 「ううむ、まだ気絶しておったからな,何処かに引っかかっておるのだろうが…まぁいい、行くぞ!」
 陣内の指揮の下、彼らは飛空挺目指して歩き始める。
 月が神の目に隠れ、星明かりと街から零れる明かりだけを頼りとした、おぼつかない行軍ではあったが。




 「そこまでぃぃ!!」
 ジャァァン!!
 銅鑼が鳴る。そこで二人の手が同時に止まった。
 完成した料理は個々一品,平皿に盛られたそれらは、それぞれ銀色のフタがされ舞台裏に運び出される。
 もっともファトラの直径2mはある巨大な皿だけは、始めから終わりまで結局開かれる事なく終わったのだが。
 「お疲れさま!」 挑戦者の一人である少女はエプロンを外して、隣の水色の髪の少女に声を掛ける。
 「お疲れさまです。料理、楽しみにしておりますわ」
 「おねぇちゃんのも、砂沙美,楽しみにしてるからね」
 微笑み合う二人。少女,砂沙美の視線がその奥の女性に向く。
 「あっちのおねぇちゃんは結局ずっと寝たきりだったね」 首を傾げて彼女は尋ねる。クァウールはそんなファトラの方を見た。
 目をこすって背伸びをしている。その後ろでは三人がかりで彼女の大皿を係員が運び出していた。
 「ファトラ様は…きっともう準備されていたんですよ」
 「それって、この場で作るっていう意味がないような気がするんですけど」 額に汗を流し、砂沙美はクァウールの言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。




 「おばちゃん,これ頂戴!」
 「はいよ、200ロシュタルだよ」
 「はい,ありがとね〜」
 「まいどあり」
 カーリアは小さな駄菓子屋でそれを手に入れると、走ってコンテスト会場へと戻って行った。
 「お釣り、結構あるなぁ。菜々美ったら、お菓子でこんなにお金掛からないのに」
 すでにこの時点で、菜々美の『菓子』感とカーリアのそれが、全く食い違っていたことが誤りの発端だったかも知れない。




 叢を掻き分け、陣内が到着したのは森の中の高速艇。
 その船の前に良く知るものを見つけ、駆け寄る。
 「マスオ,マスオではないか! お主、こんなところで何をしておる?!」
 「?! ジンダイザマ,ジヅハ…」
 警備に当たる屈強なバグロムは彼の姿を見つけ、事情を手短に説明した。
 「なんだと? ディーバが味皇決定戦なるものに? 食べたくなったからだと?!」
 「ウイ」 困ったようにバグロムは頷く。
 「ううむ、あやつめ,食べ物に目がないとは知らなかったぞ。しかし…国際行事というと、各国首脳が集まるな」 陣内の目の奥に邪悪な炎が灯る。そして腕を組み、円を描くように歩き始める。
 何かを企んでいるときの行動だ,それを知るバグロム達は期待した眼差しで彼を見つめる。
 立ち止まり、彼は拳を握ってそれを高々と夜空へ上げた!
 「今こそ好機! 同盟を支配下に置く最大のな!!」
 勝利の確信に満ちた陣内の表情が、神の目から徐々に出始める月の冷たい明かりに照らされていた。




 「席、空いておます?」 衛兵に尋ねるアフラ。
 会場の入口,とはいっても、開放され、なだらかな傾斜のある底に当たる部分に舞台はあるので、双眼鏡でも持っていれば舞台は見ることができる。
 その入口で、観客と一緒になって見物する衛兵に彼女は尋ねた。
 アフラを見て、彼女を知っているのだろう,衛兵は慌てて気を引き締める。
 「あ、アフラ様! 席で…ございますか」 しかし彼は困ったように頭を掻く。
 「見ての通り、埋め尽くすほどの人でございますので…あ、でも席の前の方は来賓席になっておりますので、アフラ様なら顔パスで」
 「そう、ありがと。ほなら、行きまひょ」
 「え、ええ」
 「はい」
 3人は再び人の海の中へと潜り込んだ。




 「幻影族がいたというのは…
 「本当らしいな」 言葉をつなぐロンズ。その彼にイシエルは冷たい目を向けた。
 「いつから着いてきてたっしょ」
 しかしロンズは無言。
 「お主が心配だったそうじゃ」 降って湧いたように少女の声が2人の間に入った。
 「ファトラ様!」
 「やっぱりファトラ王女だったのね,にしても、ロンズさん,心配なら心配って言って出てくれば許してあげないでもないべさ」 呆れた様に苦笑。
 「…誰も心配などしてはおらぬ。これがルーン様に近づく近道と思えばこそ」
 「あ〜、はいはい,でもどうしてこんな場所にファトラ王女を連れてきたの!」
 「姉を救いたいというのは人として当然の衝動であろう?」
 「子供の頃のファトラ王女の方がまとも…」
 「何か言ったか?」
 「いいえ、空耳」
 「ここは何処なのだ?」 辺りを見回しながらロンズ。
 「あの場所よ,私達を幻影で惑わしてるだけ」
 「そのようだな」 無造作にロンズは剣を振る。
 灰色の虚空に赤い飛沫が飛び散った。
 「徐々にではあるが、視覚以外の感覚も幻影に包まれてきているな」 厳しい表情で彼は言う。
 「結構、力がある幻影族のようだな」 ファトラの言葉にイシエルは苦笑い。3人は背を合わせ神経を研ぎ澄ます。
 やがて、霧のように11,2歳くらいの少女の姿が現れた。1人2人3人…彼女は前に、後ろに、足下に頭上に姿が点滅するように見え隠れする。
 「これは…」 イシエルは額に汗した。その姿は良く知る者の姿だったから。そして、まさかと思っていたことの裏付けでもあった。
 「覚えているか?」
 「え?」
 ロンズの呟くような呟くような小さな問いに、イシエルはその意味を心の中で反芻,気付く。彼はすでに気付いていたのだ。おそらく一度別れた時の言葉と態度で。
 「まいったな,わらわはもう完全に惑わされておるぞ」 一方、引き吊った笑いを浮かべながらファトラが言った。彼女の視点は宙を見ている。
 「…この森の奥に小さな村,いや、集落があるわ。そこには私みたいな者達が自然と集まったっしょ」
 「そうか」 溜め息一つ,ロンズは剣を横に一閃,それはしかし空を切る。
 返す刀で下段から上段へ切り上げる!
 「あっ!」 声が聞こえ、灰色のキャンバスに赤い線が走った。
 そこから灰色の壁が崩れ落ちる。
 茂みに燃え移った松明の炎が少女を照らし出す。
 軽く切られた肩を押さえた彼女は悔しそうに3人を睨つけている。
 「イシエル,退くぞ!」 その声はファトラに昏倒されていたはずの頭領の声,だがそれに反応するのは少女だった。彼女は一歩二歩,後ずさる。
 そしてきびすを返し、森の中へと消えて行った。
 「ふぅ,何とか終わったっしょ」 大きな息を吐き、イシエルは街道の真ん中で膝を付く。
 「おい、追わないのか?!」
 「ルーン王女はいないべさ」 ファトラの言葉にイシエルは素っ気なく答えた。
 そして彼女は剣を鞘にしまうロンズを見上げる。
 「ありがと,ロンズさん。皆の急所は外していてくれたっしょ?」
 しかしロンズは答える事なく、飛び火しようとする茂みの火を足で消しに掛かっていた。
 「しっかし、そうなるとルーン王女はどこに行ったのか…?」
 「そうじゃ,何故さっきの連中の所にいないと言えるのじゃ?! 娘を一人さらったと言っておったじゃろうが」
 「それは私だったから」
 「???」 苦笑いするイシエルを、しかしファトラは何のことやら分からずに首を傾げるだけ。
 「でも」 イシエルはロンズに尋ねる。
 「でも何で皆を生かしたの?」
 しばらくの沈黙が空間を占有する。それをロンズは小さな言葉で破っていく。
 「俺のような想いを持つ奴を増やしたくなかった,それだけさ」 2人に背を向けたまま、彼は言葉を選ぶ様に紡ぐ。
 「…?」
 「妹を失った時、茫然自失の俺を救ってくれた方がいる。その方は俺に安らぎを与えてくれた」
 「…」
 「そして人の痛みを知ったつもりでいた俺に、人の悲しみを教えてくれた奴がいる」 軽く微笑んで、ロンズはイシエルに振り返った。
 「俺は悲しみを忘れないために,安らぎを得るために、その二人のためだけにこの剣を捧げようと思う」 言いながら、ロンズは懐から小さな黒い何かを取り出す。
 そしてイシエルの前で膝を付き、その藍色の髪にそっと右手で触れた。
 「??」
 イシエルの髪に夜空石の髪飾りが輝く。
 「ん? 何か来たぞ」 ファトラは言い、今まできた方向を振り返る。
 ドドドドド…
 かなりの数の馬の足音だ。それが次第に近づいて来る。
 「これは…」 やがて3人の前に赤い髪の女性とロシュタリアの衛兵達がその姿を現した。
 赤い髪の少女、炎の大神官クレンナ=クレンナはイシエルを一瞥,しかしすぐにそれをファトラへ、そしてロンズへと戻す。
 「ロンズよ,ルーン王女,ファトラ王女誘拐の咎で汝を捕らえる」 朗々と読み上げるように言うクレンナのそれを合図に、背後に控える衛兵達が一斉に剣を抜いた。
 「…何か勘違いしている様だ」ロンズもまた、剣の塚に手を掛けた。
 「ロンズさん」
 「ロンズよ、あれは我らが味方ぞ」
 二人の言葉に、しかしロンズは薄く笑う。
 「俺が捕らわれるだけで済むのなら良いのだがな」 クレンナとその後ろの兵士を見て、ロンズは剣を手にする!
 それは止め金でしっかりと鞘と固定されていた。
 「どの道、いつかはアイツと決着は付けようとは思っていたのさ」 彼の睨む先には同じ瞳の炎の女性がいる。
 月明かりが差し始めた。
 神の目に隠れていた月が、徐々にその姿を現し、地上の彼女達に冷たい光を降り注いで行く。





 カーリアは目標を確認する。
 彼女の手にはクァウールの平皿と同じものに、買ってきた菓子を入れて銀色の蓋をしたものがあった。
 視線の先にはイベントの係員が往来し、当の本人達も近くにいる。
 「さて、どうしようかな」 カーリアは久しぶりに己の力を解放する。
 すなわち鬼神としての力。
 目標の皿までおよそ10m,その間には人間が数多くいる。
 その全ての視線が彼女の進行方向に対して関わることのない瞬間!
 カーリアの時間が早まり、人々の動きが緩やかになる。
 間延びした声、音,空間がまとわりつくような感覚。
 ”今!”
 ダッシュ,風のように駆け抜けるカーリアは瞬時にクァウールの皿に接近,自らの手にしたものと交換し、撤退!
 元の位置に戻る,この間、わずか10秒。
 時間は元に戻り、ざわめきが辺りを満たす。
 そしてカーリアの手には異臭を発する皿が一つ。
 開きたいという心境もあるが、間違いなく強烈に嗅覚と視覚を襲われ、悶絶するのが見えている。
 カーリアはともかく隠しておけそうなところを探した…




 ジャァンジャァン!!
 銅鑼が鳴らされる。
 スチームが舞台上に立ちこめた。
 「幾人もの料理人が、この場を去って行きました」
 白煙の中から厳かな老人の声が聞こえる。
 「そして長き試練を乗り越え、残った三人の料理人,最後の審判によって今、ここにクッキングマスターが誕生します!!」
 ブワァ,風が吹き、煙が晴れる。
 そこには厨房は取り除かれ、審査員席が設けられていた。
 横長のテーブルに5人の審査員が席についている。
 「審査員を紹介致しましょう。まずはロシュタリア元首ルーン=ヴェーナス殿下」 紹介にルーンは赤子を抱いたまま小さく礼。
 「お隣は隣国ガナン王女…」 ストレルバウは次々と審査員である各国要人達の紹介を続け、最後の一人を。
 と、舞台脇からストレルバウに指示が飛ぶ。
 作業服を着た男が腕を回している。
 回せ,そのままの意味だ。時間が押しているのだ。
 「では、まず始めは河合砂沙美選手の料理」
 「わらわの紹介は…」 手を振るディーバ。
 「さ、料理は…」 冷汗を掻きながら無視するストレルバウ。
 それに合わせて審査員席の前に皿を持った係員と、少女の姿が現れる。
 「砂沙美選手は何をお作りになったので?」
 「はい!」 少女は満面の笑みで皿の蓋を開ける。
 そこには香ばしい香りを放つパイが一つ。
 それをもう一人の係員が人数分に切り別けて行く。
 「砂沙美特製のニンジンパイです!」
 ルーンを始め、審査員の前にそれぞれ切り分けられたそれらが並んでいく。
 各々、フォークとナイフを手に。
 「これは美味しいですわね」 一口,ルーンは驚いたように手を口に当てる。
 「甘みが押さえてあるところがいいですな」
 「人参嫌いの子にも受け入れられるでしょう」
 「…なかなかにして美味じゃ」 ほくほく顔のディーバ。
 なかなか好評のようだ。
 それを満足げに司会であるストレルバウは見つめ、指を鳴らした。
 「では次はクァウール選手,どうぞ」
 「はい」
 その声とともにクァウールと皿を持った係員がやってくる。
 「私の地方に伝わる伝統のお菓子ですわ」
 「あの料理法を見ているだけ、どんなものが出来ているのか楽しみですな」
 軽いトークの後、銀の蓋が開く。
 そこにはビスケットのような棒が数本…
 「これは…」
 「カロ○ーメ×トじゃ?」
 「あ、あれ?」 明らかに戸惑うクァウール。
 「なんか、鳥とか捌いてなかったか?」 ディーバのツッコミ。
 「あらら…???」 首を傾げざるを得ない当の本人。
 そしてこれは、仕掛けた本人ですら予測外な出来事だった。
 舞台を降りた一番前の列,来賓席に二人の関係者がいる。
 「うまくいったみたいだよ」 カーリアは菜々美に聞く。
 拳を震わすは菜々美,ギギィ,機械的にカーリアに顔を向けた。
 「誰が駄菓子を買ってこいって言ったの?」
 「違うよ,カ×リー○イトは駄菓子じゃないもん、携帯食だよ!」
 「アンタねぇ…なら菓子を買ってこいって言った私は何なのよ!」
 「で、でも、結構ウケてるみたいだよ」 首を絞められながらも、舞台の上を指さすカーリア。
 「ふぅむ、変わった味ですな」
 「これもまたこれで良いかもしませんね」 初老の審査員の感想にルーンは頷く。
 「いつも食っているものと変わらんな」 こちらはディーバだ。
 どうやらお偉いさんは普段口にするものではないらしい。
 「…う〜」 その様子に唸るは菜々美。
 「どないしたんや,菜々美ちゃん」
 突然の声は隣から。
 「あ、まこっちゃん,それにアフラさんに…」
 「ルーンですわ」 笑みで応える小さなルーン。
 「え、ああ、そうそう」 あまり興味はなさげに彼女は相槌。
 「隣、空いてる?」
 「うん、ここは来賓席だから。さっきまで審査員のルーン様達がいたから空いてるよ」
 「ほなら」 カーリアの返事に、菜々美から、誠,アフラ,ルーンの順で席に就いた。
 見上げると次の選手に変わっていた。
 「最後はファトラ選手ですな」 ストレルバウは期待に満ちた瞳で彼女を見つめる。
 「わらわの料理はすごいぞ」 その期待に答えるように、ニタリと妙な企みを持った時の笑みを浮かべる彼女。
 ファトラは銀色の蓋を景気よく開けた!
 「「おおおおおおおお!!!!」」
 ストレルバウが、審査員(男)が、会場がその料理にどよめいた。
 そこにあるものとは…・・
 「私をた・べ・て
 皿の上で寝そべり、ウィンクするはアレーレ!
 一糸纏わないその澄み切った白い肢体には、みつ豆を始めとしてフルーツがまぶせられ、所々、チョコレートでやばい所は隠してある。
 「まぁ、アレーレ!」 それを見て、審査員ことルーンは驚愕の表情。
 「食べられてしまうのですね」 うっすらと涙,なにか勘違いしているようだ。
 そしてファトラへ視線を移し、
 「ファトラ,貴女にはこういった才もあったのですね」
 ”ないって…” 引き吊った表情で愛想笑いのファトラ。
 ふと、ファトラはルーンの胸にある赤毛の赤ん坊に首を傾げる。
 「ところで姉上」
 「なぁに? ファトラ選手?」
 「その赤子は一体何でございますか?」
 「この子? この子はねぇ,風の大神官アフラ=マーン様と水原 誠様のお子さんなの」 不思議なことにフルネームで,さらにカメラ目線で衝撃の告白をするルーン。
 「「なんですとぉ!!」」
 「ね、アフラ様?」 舞台上からルーンは来賓席の風の大神官に尋ねた。
 アフラ及び誠はただただ、呆気に取られている。
 一番先に我に返ったのは菜々美だ。
 「まこっちゃん,一体どう言うこと…」 目が座っている。
 「ち、違う…あれはシ」
 誠は言葉を切る,アフラに脇腹を抓られたのだ。涙が出るほど痛い。
 「シ? 何よ、それ!」
 「な〜んか砂漠でもヒソヒソ話してておかしいなぁって思ってたら、そういうことかぁ」
 「な、何言うてまんの,カーリアはん!」
 「そうだったんですか、お二人ともご結婚なさっていらっしゃったんですね」 こちらは小さい方のルーン。
 「「ちがうって」」 シンクロ率95%くらいだ。
 「じ、じゃぁ,フライングゲット?!」 マイクを持ってレポーターと化したストレルバウが二人にそれを突きつける。
 「「ちがうわぁ!!」」
 「はぶしぃ!」
 当然、複数のカメラはしっかりと音声を広い、偶然の大神官のスキャンダルを片時も離すまいと捕らえて全国に生中継中であることは言うに及ばず。
 「これじゃ、ラチがあきまへんわ」
 「どうします?」
 「当然…シェーラに泣いてもらいましょ」 冷酷な光を瞳に宿す。
 「そうですね」 と、頷くは誠。薄情×2。
 「不潔よ,まこっちゃん!」 立ち上がる2人の背に向って、菜々美が叫んだ。
 「おおっ,愛憎の末の悲劇に突入かの?」 復活したストレルバウに裏拳を放ち、アフラは大きい方のルーンに駆け寄る。
 「どうなさったの? アフラ様?」
 無言のまま、懐から取り出した小さな薬瓶の蓋を開け、ルーンの胸で穏やかに眠る赤子のシェーラに振りかける。
 金色の光が赤ん坊を包み、放たれる!
 「キャ!」 ルーンは驚きに赤ん坊を離してしまう。
 ゴン,鈍い音がした。
 「イテッ」
 やがて光は収束し…
 「何でぇ、ここは?」 キョロキョロと辺りを見渡すシェーラが一人。
 彼女は何故か物凄い数の視線の真っ只中にいた。
 「? 何だかわかんねぇが、テレるぜ」 寝ぼけ眼で頭を掻く。
 視線の全てが今までの一番の驚きに動きを失っていた。
 ポン,シェーラの肩が叩かれる。
 見上げると悟った表情のアフラがいた。
 「ウチはやっぱり、自分が一番大切どすぇ」
 「?」 その時、初めてシェーラは妙に体に風を感じることに気がついた。
 視線を下へ…
 硬直!
 そして…
 「でぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 裸だった。
 この瞬間を以て、全国放送のこの中継は18禁になったというが、それは定かではない。
 「見るんじゃねぇ!!」 両腕で胸を隠すが遅かった。
 そんな彼女に上着が着せられる。
 「シェーラさん」 寂しそうに微笑むは誠。
 「誠…ありがと」 顔を赤らめ、シェーラは俯く。
 ”後でアフラさんと逃げんとな” 心は冷汗の誠であった。
 「ま、まこっちゃん…」 彼の袖を引っ張る者がいる。
 菜々美であった。先程の激情はどこへやら、彼女は舞台の背景を指さしている。
 「何や? 菜々美ちゃん。あの背景が何か…」 そして彼も気が付いた。
 背景の上,何かが高速接近してくる!
 「あれは!」
 「バグロムの飛空艇!」 シェーラが叫ぶ。
 それは舞台の上で急停止,何がかバラバラと飛び降りてくる!
 言うまでもなくバグロムだ!
 彼らは統率された動きで審査員をそれぞれ羽交い締めする。
 「「キャァ!」」
 「姉上!」
 「王女様!」 数瞬遅れて、ルーンが青いバグロムと人間の男に捕まった。
 大きいルーンと小さいルーンが並ぶようにバグロムの腕に拘束される。
 「フフフ,諸君。ご機嫌は如何かな?」
 いつの間に手にしたのか、パイを切るナイフを小さい方のルーンの頬に押しつけながら人間の男,陣内 克彦は挑戦的に言い放つ。
 「クッ!」 身構える誠。
 「ヒャハ、ヒャハ,ヒャ〜ハッハッハ!! 平和ボケした愚か者どもめがぁ!! こんなに簡単に、連合のトップ達を人質にできるとはな」 陣内の高笑いが会場にこだまする。
 「ふむ、なかなかにしてうまいの」 そんな彼の隣でアレーレ盛りのフルーツを摘まむディーバ。
 「ああん、おねぇさま〜ん」 身をくねらせる皿の上のアレーレ。妙な空間が炸裂中である。
 陣内は気付きたくないものに気付いてしまったかのように2人に視線を向ける。
 「何を遊んでおる! ディーバ!! このページを成人指定にするつもりか!!」 アレーレを摘むディーバに叱責。
 「おお、すまんな,つい電波が」
 そんなやり取りを視界の端に、小さいルーンは隣の同じく拘束される女性を見上げた。
 ”お母様? いえ、違う”
 「大丈夫よ」 穏やかな声で、彼女は小さいルーンにそう言った。それはまるで確信したようなものだ。
 「貴女は…」
 「陣内,お前、こんなことしてどないしようっていうんや」
 誠の言葉に、小さなルーンは意識を元に戻す。ビシィ,陣内に向って指差す誠の姿があった。
 「征服」 あっさり答えられる。
 「あ、やっぱり」
 「おっと、それ以上動くなよ、水原,ルーンに傷を付けたくなかったらなぁ。あと、観客共も動くな」 陣内の言葉に、次第に催し物ではないと悟り始め、パニックになりかけていた会場は水を打ったように静まり返る。
 「まずは例の珠を寄越してもらおうか」
 「…」 誠は無言で懐のそれを陣内に投げて寄越す。
 それを陣内は片手でキャチ。
 その瞬間!
 誠は陣内に向かってダッシュ!
 「なに?!」 驚きにナイフを誠に向ける陣内。
 「「誠様!」」 二人のルーンの声がはもった。
 赤い液体が一粒、二粒,滴り落ちる…
 「クッ,貴様」 陣内はナイフを離す。
 しかしそれは下には落ちない。
 誠が刃を掴んでいた。掌から血が落ちて行く。
 その雫の中に、天に輝く月が写っていた。
 神の目に隠れていたそれは、この瞬間に全ての姿を天に曝す。
 「カツオ!」 陣内の叱咤!
 二人のルーンを捕らえる力を強めるバグロム。ナイフなどなくとも、バグロムの怪力さえあれば人の命など、たやすく奪い去ることは出来る。
 「クッ,姉上」
 「「…」」
 それにアフラ,シェーラ,ファトラの動きが中断された。



 「ど、どうしよう,カーリア…カーリア?」
 菜々美は舞台を見上げながら隣の少女に話しかける,しかし返事はない。
 ”そろそろ目を覚ましたらどうじゃ? カーリアよ”
 しわがれた老人の声がカーリアの頭に響いていた。
 「目を…?」
 「カーリア!」小声の叱咤。
 我に返るカーリア。
 「…菜々美,うん、大丈夫だよ」
 「? そう?」怪訝な表情を浮かべ、菜々美はカーリアから再び視線を舞台の上に。
 視線が逸らされると同時に、カーリアのそれは邪悪な微笑みに彩られた。


To Be Contiuned !! 




なかがきX
 月には不思議な力があるそうです。
 実際、犯罪が多くなったり、出生に大きく関係したりとか。
 良く分からん不思議な力,そういうのって何か、好きです。




次回予告

「「その髪飾りに込められた想い」」
「私は知らなかった,影ながら見守られていたことに」
「私は知っていた、守られていることに」
「想いは時を越え、過去と私を結ぶ」
「私は時を越え、遥かな未来を垣間見る」
「歯車を廻してみよう,もしかしたらまた、会えるかもしれないね」
「きっと会えるわ、何故なら貴方方とお会いするのは、ずっと先のことだもの」
「焦らずに…」
「…ゆっくり歩きましょう」
「「私達は違う時の中、同じ時を過ごしているのだから」」
「ロンズさん,皆。これからも…」
「…宜しくね!」
次回、混迷の世界エルハザード 最終夜 『混結の世界へ』
「「幸せを、アナタに!」」


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