2. 聖大河
「本当にしょうもない奴だな」 呆れたようにイフリータが呟く。
「姉さん。確かに私が悪いんだけどさぁ、そこまで言う事はないんじゃない」
「そうだよ、イフリータ。妹は可愛がってあげなきゃ行けないんだよ」 とマリエル。
「そ、そうよねマリエル。あなたもそう思うよね」 百万の味方を得たイフリーテス。
「そう言うものなのか?」
思いっきり疑問符が並んでいるイフリータにここぞとばかりに畳み掛けるイフリーテス。
「そうよ姉さん。妹は大切にしなくちゃ!」
「それって自己都合ではないのか」 今度は思いっきりじと目のイフリータ。
「や、やあねぇ姉さん。そんな事ないわよ。一般的な話よ。ね、マリエルちゃん」 すがるような目でマリエルに同調を求める。
「う〜ん。私は妹がいないから良くわかんないんだけど、他の人は妹は可愛がってあげないとって言っているから」 今一歩自信がないらしい。
「そうよねえぇ。ほら姉さん、妹はそれなりに大事にしないと」
「イフリーテス、そこまで力説する理由は他にもありそうだな」
「(ぎくっ)そ、そんな事ないわよ…」 慌てて否定する。
「そうか」 覗き込む様に(とイフリーテスは感じた)イフリーテスの目を見る。
「う…。あのね姉さん提案なんだけどね」 根負けして話しを変える。
「やっと本題に入ったな」 イフリータは特にそんな気はないようだ。
「そのう…一つ目なんだけど…。私達の能力がなせ戻ってきたのか、そうしてこの先どうなるのかを確認したいと思うの」
「それは必要な事項だがどうやって確認するんだ、イフリーテス?」
そんな当たり前の事を口篭もっていたのかと訝るイフリータ。
「うん…。姉さん、私達がハイロウズで機能停止した後それを直してくれたのはストレルバウの爺さんでしょ」
「そうだな」 何となくイフリーテスの言いたい事が分かってきたがもう一つが見当つかない。
「それに開戦前、私達の体を弄繰り回していたじゃない。あの爺さんなら何か分かるんじゃないかと思って…」 思わず上目遣いにイフリータを見るイフリーテス。
「ふむ…。確かに人間の中ではあいつが私達の構造に付いては一番詳しいだろうな…」 考え込むイフリータ。
「あのう」 デュラムが恐る恐る声をかける。
「何ですかデュラムさん」 今にも飛びつきそうな勢いで答えるイフリーテス。
イフリータはそんなイフリーテスを一瞬怪訝そうに見たが今の所実害もないので話を聞く事にする。
「いえ、そのストレルバウという方はもしかしてロシュタリアのストレルバウ博士の事ですか?」
「良くご存知ですわね。その通りですのよ」
いつもならデュラムの手を握り締めている所だがイフリータがいるのでそうも行かない。
「ええ、大変ご高名な方ですから」 気圧されながらも何とか答えるデュラム。
「えっ、そうなんですか? 私ただの古文書マニアの変態爺かと思っていましたが」
「イフリーテス、たった今彼に修理してもらったと言ったばかりだろう。それを捕まえて変態というのは間違っているのではないのか」 呆れたようにイフリータが言う。
「そんな事ないわよ。あの顔は絶対に隠れてなんかやっているに違いないわ!」 拳を握り締めて断言する。
「そ、そうなんですか。ストレルバウ博士はエルハザードでも有数の賢人と聞いていましたが」
「う〜ん、賢人かもしれませんがそれと性格とは別ですわデュラムさん」
と言いながら傍に擦り寄ろうとしたイフリーテスだが、イフリータのゼンマイがちらと動いたの見て慌てて椅子に座り直す。
「イフリーテス、話しがずれている。要は彼なら私達の構造について分かるかもしれないと言う事だな」
「そうよ姉さん。彼とほら私の主(マスター)だった誠ちゃん。彼も一緒にがんばってくれたでしょ」
誠の名前が出た事にイフリータは疑問を持った。
「誠はストレルバウの手伝いをしただけで大して知識や経験はないのではないのか?」
「そんな事ないわよ。彼も一生懸命やってくれていたじゃない。それに彼は元の世界に戻るためにストレルバウ爺さんの元で勉強するとか言っていたでしょ」
イフリータはイフリーテスの目をじっと見つめる。
「イフリーテス、一体お前は何を言いたいのだ? お前の一つ目の提案と言うのは分かる。ロシュタリアへ行こうというものだろう。お前が口篭もっていたのは」
一旦言葉を切りマリエルの方を見てから続ける。
「私がロシュタリアへ行っている間マリエルは一人になるからな。それを気遣っていたのだろう。で、もう一つは何だ」
「イフリータ、ロシュタリアへ行っちゃうの?」 不安そうにマリエルが尋ねる。
「いや行くと決めた訳ではない。それに行くと言っても少しの間だ。すぐに帰ってくる」
「ねえ、私も行っちゃ駄目かな?」
今度はデュラムが口を開いた。
「マリエル、無理を言っちゃ駄目だぞ。イフリータさんは遊びで行くのではないのだから」
その時イフリーテスは有る事が閃いた。
「ねえねえ、姉さん連れていってあげましょうよ」
「なぜだ?」
「マリエルの病気、あの爺さまなら何か分かるかもしれないわよ」
「お前のストレルバウに対する評価は本当に一貫していないな。だが…そうだな、ロシュタリアは大きい街だ。彼でなくとも他に詳しいものがいるかもしれないな」
「でしょでしょ」 嬉しそうにイフリーテスは頷く。
「ですがあんな高名な方に見ていただくだけのお金はちょっと…」
「大丈夫ですよデュラムさん。あの爺さんまた私達を調べる事ができるなんて言ったら逆にお金払ってでもやろうとしますよ」 けらけら笑っている。
「ですが」 デュラムが何か言おうとしたが今度はイフリータが遮った。
「マリエル、ロシュタリアへ行くか?」
「うん。連れてってくれるのイフリータ?」
「ああ、医者についてはファトラに頼めば大丈夫だろう」
「そんなイフリータさん。いいんですか? 確かにファトラ様はあなたの主ですが」
「主だった。私は自由だとファトラ自身が言ったからな」
「大丈夫ですってデュラムさん。皆いい人達ばかりですから」
「そうですか…。そこまで仰るならお願いします。私もいずれこの子を連れてロシュタリアへ行ってみようと思っていましたから」 頭を下げるデュラム。
「いいんですって。頭を上げて下さいデュラムさん」
楽しそうに話すイフリーテスだがその直後イフリータの言葉で一瞬緊張が走る。
「で、イフリーテス。二つ目は何だ。ロシュタリア行きについてはマリエルも一緒だから問題は無くなった。もう一つも意味有りのようだが何だ」
「うん…姉さん。姉さんは飛行能力は戻っているけど私はまだでしょ」
「そうだな」 何を言いたいのか良く分からない。
「で、ロシュタリアまで歩いていくのは大変じゃない。姉さんはマリエルを抱えて飛んでいく事もできるけどさすがに私も一緒とは行かないでしょ?」
イフリータの顔をじっと見つめるイフリーテス。
「でね、相談なんだけど…イフリーナちゃんも一緒にどうかなぁって思っているだけど」
イフリーテスを見つめ返すイフリータ。イフリーテスは緊張しているようだ。
少ししてイフリータは口を開いた。
「それで誠の名前を出したのか」
予想外の返事にきょとんとするイフリーテス。
「確かにあいつは誠が気に入っている様子だったからな。だがあいつも連れていきたいと言うのならさっさと言えばいい。口篭もる理由があるのか?」
「ねえイフリータ。イフリーナってイフリータの妹なの?」
「そうだ。一番下の妹だ。少しどじだがいい子だ」
イフリーテスは恐る恐る問い掛ける。
「あのう姉さん。姉さんはあの子の事怒っていないの?」
「なぜだ?前にも言っただろう、あれは主の命に従っただけだと。イフリーナに責任は無い」
イフリーテスはがっくりと肩を落とす。
「もしかしてお前私がまだあの時の事を根に持っていると思ったのか。馬鹿な奴だな」 また呆れた様に話す。
「はあ〜。本当馬鹿みたい。ついさっきまで悩んでいたのは一体何だったのよって感じね」 疲れた顔のイフリーテス。
「知るか。記憶力と判断力の無いお前の責任だ」 冷たく言い放つイフリータ。
「まあいいわ。姉さんが気にしてないんだったら久し振りに三人揃うわね」
「ねえねえイフリーナも可愛いんでしょう?どんな感じなの」
マリエルはイフリーナは子供だと言ったイフリータの言葉を信じていた。
「ああ、可愛い子だ。所でイフリーテス、イフリーナを連れていくのはいいがあいつがどこにいるのか知っているのか?」
”…どうせ私は可愛くないわよ…” 最初に可愛くないと言われた事を未だに根に持っているらしい。ぶつぶつ呟いている。
「イフリーテス!」
「えっ。ご免なさいぼんやりしていたわ。何かしら姉さん?」
「やはりお前どこかおかしいのじゃないのか? ストレルバウに良く見てもらうんだな」
完全に飽きれている。イフリーテスはちょっと顔を赤らめる。
「やーねぇ、そこまで言わなくてもいいじゃない。それよりも何よ姉さん」
「ああイフリーナと一緒に行くのはいいがどこにいるのか知っているのか、と訊いたんだが」
「イフリーナちゃん?バグロム領でしょ?」
「バグロムってイフリーテスさん、妹さん捕まっているんですか?」 心配そうに尋ねてくる。
先にイフリータが答えた。
「いや、あいつの主はバグロム軍総司令陣内勝彦だ。だからバグロム領にいる」
そこまで言ってからイフリーテスの顔を見る。
「そうですよデュラムさん。あの子の主はちょっとあれですけどまあ元気なはずですよ」
どうやらイフリータが何を言いたいのか分かっていないようだ。
「そうだわ。姉さん、今から迎えに行きましょうよ。で、あの子も一緒に今夜はここでお世話になって明日ロシュタリアへ行きましょう」
妙にテンションが上がっている。対するイフリータは特にイフリーナと会う事に感慨は無いようだ。
「ねえイフリータ私もイフリーナに会ってみたい」 マリエルも無邪気に言ってくる。
”まあいいか。少なくとも悪い事ではない” そう考えてイフリータは口を開いた。
「分かった。これから迎えに行こう。だがマリエル、お前は留守番だ。行き先がバグロム領だからな私達はともかくお前は駄目だ」
「うん…」 行ってみたいらしい。
「そうね、ちょっと危ないかもしれないわね。そうだわ、マリエルは旅に出る準備をしておいて頂戴。それが終わったらご馳走をお願いね」
「うん! じゃあ早く帰ってきてね」 説得に成功。
「では姉さん行きましょうか」 と席を立ってデュラムに近づく。
一瞬イフリータが反応したが変な素振りはないようだ。
「これを」 イフリーテスはそっと紙幣を出す。
「いえ、結構ですよ。イフリータさんの身内の方からお金なんて受け取れません」
「そう堅い事仰らず。私もイフリーナちゃんも良く食べますし、それにあの子甘い物が大好きなんです。ケーキでも買っておいてください」
イフリーテスの真剣な眼差しに根負けしたのかデュラムは静かに頭を下げて紙幣を受け取る。
「すいません。今夜は最高の魚料理をご披露しましょう」
「あ、できたらお酒もお願いしますね」 にこっと笑って外へ出る。
「行くぞイフリーテス。マリエル良い子にしているんだぞ」
「うん。イフリータ行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」 無邪気に手を振っている。
「分かった」 そう答えてイフリータも手を振る。
イフリーテスも手を振ってからイフリータと歩き出した。
「姉さんが手を振るとは思わなかったわ」
「何度も言うようだがお前は私の事をどう思っているんだ? 一度じっくり話をする必要が有りそうだな」
目は真剣だ。イフリーテスは慌てて謝る。
「御免なさい姉さん。ほら私達ってあれ以来会っていないじゃない。だからさ」
「個々に対する情報がアップデートされていないと言う訳か」
「そ、そうよ姉さん。あれからもう大分経っているから変わっていても不思議じゃないけど程度が分からないじゃない」
今回ばかりはロジカルなイフリータに感謝するイフリーテス。
「まあいい。ところでイフリーテス。お前さっきデュラムに紙幣を渡していたようだったがなぜだ?」
「なぜって姉さん、デュラムさんが裕福ならそりゃいいかもしれないけどそうは見えないでしょう。私とイフリーナちゃんがお世話になるのにやっぱ悪いじゃない」
「ふむ、経済的な理由を考慮したと言う訳だな」
今度は余りにもロジカルなイフリータに嘆息するイフリーテス。
「それも有るけどやはり礼儀として必要よ、姉さん」
「そうか…。だが金と言うのは人間にとって大事なものであるらしいがよく分からん。沢山持っているから幸せと言う訳でもなさそうだしな」
”へえ、姉さんそれなりに分かっているじゃない” 今度は感心するイフリーテス。
「そうね、お金ってよく分からないわね。私もあちこちでバイトしてお金を得ていたけどその価値がどの程度分かっているのか怪しいものだわ」
「お前でもそうなのか」 やれやれと言った感じで話す。
「かなり時間がかかりそうだな…。もっとも私達に寿命なんて関係ないから学ぶ時間は幾らでも有るがな」 そう言って立ち止まるイフリータ。
「この辺りならいいだろう。掴まれイフリーテス」
「うん。お願いね姉さん」 イフリータの首に手を回す。
イフリータはゆっくりと上昇を始めた。
「やはりスピードは期待できんな。以前の10%もないか…」
「私のパワーを分けられればいいのにね」
「そうだな。だがそんな事をしたらどうなるか見当もつかないからな」 真面目に応答するイフリータ。
「いえ、あの私冗談で言ったんだけど」 ちょっと寂しそうなイフリーテス。
「場合によっては可能な話だと思うが」
「そりゃそうだけどいくら私でもこんな体じゃ本気で言わないわよ」
「ふむ、やはりお互いの認識が足りないな」 微妙にずれている。
「そうね、イフリーナちゃんと一緒に今夜はゆっくりと話しましょ」 敢えて訂正する気はないらしい。
「そうだな。しかし思った通りの速度が出ないのはいやなもんだな」
「飛べない私からすれば羨ましいもんだけどね」
「日常では使わないのではなかったのか」 ちょっと意地悪っぽく言う。
「そうだけどさぁ、三人の中で私だけ飛べないというのはなんか悔しいじゃない」
「そうかもしれないな。しかしお前体重どれ位だ。結構重いぞ」
「ちょっと姉さん! レディに体重訊くなんて失礼よ。それに私と姉さんそんなに変わらないじゃない!」 本気で怒っている。
「冗談だ」 澄まして言うイフリータ。
「へ?」 よく分からないという顔をする。
「お前の体重は、いやそれ以外のサイズも含め見た瞬間に計測できる。わざわざ訊く事はない」
「はあぁ、姉さん質の悪い冗談はよしてよ。本気かと思ったじゃない」
「そうか。分かり易いと思ったのだが」 心なしかがっかりしているようにも見える。
「う〜ん、姉さんが冗談を言おうと思っただけでも私にとっては驚きだけどね」
言った瞬間後悔したが今度はイフリータは気にせず話を続ける。
「だがもっと学習が必要だ。ロシュタリアへ行くと言うのは案外正解かもしれんな」
「姉さんって本当に熱心ね。私には無理だわ」
「お前はもう人間社会に融け込んで生活しているからそこまで必要はないだろう。だが私は全然足りない。そういう意味ではお前、それにイフリーナが羨ましい。もっともイフリーナが一緒に暮らしているのは虫だが」
「はははは、そうね姉さん。イフリーナちゃん私達の中では一番感情が発達しているのによりによって虫と一緒だもんねえ。勿体無いわよね」
可笑しいそうに笑うイフリーテスを見てイフリータもちょっとだけ嬉しそうな表情になる。
”やっと笑ってくれたな、イフリーテス”
残念ながらイフリーテスは丁度その時下を見ていたため彼女を見つめるイフリータの優しい表情を見る事は出来なかった。
「まもなく聖大河だ」 イフリータが呟くように告げる。
「あの大きい海みたいなのが河なの?話には聞いていたけど実際に見るとちょっと信じられないわね」 驚嘆のそして興味津々と言った感じのイフリーテス。
「ああ、これを越えるとバグロム領だ。と言っても私がこの河を越えるのは昔の大戦以来だがな」
「姉さん昔の記憶があるのよねえ」 ちょっと羨ましそうに話すが
「記憶と言っても戦いの記憶だけだ。ろくな物ではない」 言い捨てるイフリータ。
「そうか…ご免ね姉さん。変な事言って」
「事実だ。謝る必要はない。だがお前は良く謝るな」
「え、だって悪い事言ったかなと思ったから」
「そうか…。ふむ、そう思う程度が問題なんだな」 相変わらず考えている。
イフリーテスはそんな姉がなんとなく可愛く感じる。
「姉さん。時間は幾らでもあるわ。ゆっくり行きましょう」
「そうだな…。私達には寿命は無いに等しいからな」 どこか寂しそうにイフリータは告げる。
「姉さん…。それは仕方ないかもね。私達は外見は人に見えても所詮は機械だからね…。人は私達のように長くは生きられないし…」
お互い直接口にはしていなかったがイフリータとイフリーテスの思いは同調していた。
ややあってイフリーテスが口を開く。
「やぁねぇ、姉さん。これからイフリーナちゃんと会うのにこんなに湿っぽくなっちゃあの子に笑われるわ」 笑顔を見せるイフリーテス。
そんなイフリーテスをじっと見ていたイフリータだったがゆっくりと口を開いた。
「お前の言う通りだな。ところでイフリーナだがどこにいるのか分かっているのか?」
「だからバグロム領でしょ」 怪訝そうに答える。
「イフリーテス、言っておくがバグロム領は眼下にある聖大河よりも広い。しかもそこへ同盟の人間は誰も行った事がないのだぞ」
イフリーテスがぎくっという顔をしたのがイフリータにも分かった.
「やはりお前何も考えていなかったな」
「い、いやそう言う訳では…だけどさ姉さん、バグロムだって生活しているんだし、向うに行けば民家(?)があったり交番があるわよきっと」
「あるのか、そんなもの」 誰が見てもイフリータの方が的確な判断をしている。
「勿論あるわよ…だから誰か歩いている人、いや虫を捕まえて訊けばいいのよ」 冷汗を流しながら答えるイフリーテス。
「そうか。もし見つからなかったらお前独りで探してくるんだぞ。私はマリエルが待っているから帰らねばならない」 真顔で告げるイフリータ。
「ね、姉さん今のは冗談よね。お願い冗談と言って」 力一杯嘆願する。
「マリエルにイフリーナを連れてくると約束したからな」 イフリータは澄ました顔で答える。
「そんな姉さん…」 目に涙をためるイフリーテス。
「だからと言ってお前を置いて帰ったのではマリエルが怒るからな」 イフリータは淡々と続ける。
「それに今日イフリーナが見つからなくてもまた明日探せばいいだろう」
「あ、あの姉さん」
「なんだ」
「もしかしてさっきのも」
「ああ、冗談だ」
「はあぁぁ」 思いっきりため息をつく。
「姉さんお願いだからそういう性質の悪い冗談は止めて頂戴。ほっとした瞬間力抜けそうになったわよ」
「力が抜けるのはいいが落ちるなよ。河の中に落ちたら幾ら私でも探しきれないぞ」
ちなみにこれもジョークだが当然区別がつかないイフリーテスは慌ててしがみつく。
「だからイフリーテス、力を抜け。人間なら首の骨が折れている」
「ご免なさい…。だけど姉さんいつからそんな意地悪な事言うようになったのよ」
恨めしそうに言うイフリーテスの見てイフリータは少しまずかったかなと思う。
「済まんイフリーテス。ちょっとやり過ぎたようだな」 ちょっと寂しそうな顔をしている。
「え、いやそこまで恐縮されると困るんだけどね…。だけど姉さん、最初会った時よりはなんて言うかな…上手く表現できないけど今の方が全然いいような気もするわ」
「なぜだ。お前嫌がっていたではないか?」 またまた疑問符が並ぶ。
「う〜んそれはまあそうなんだけど…。姉さんて余り表情を出したり話す時だって声の感じ変わらないでしょう?それからすれば今のは、まあちょっと心臓に悪かったけどそれでも話していて楽しいわよ」
思いきって先程まで感じていた事を話してみる。
「そうか…。だがやはり良く分からん。しかしお前は笑っていた方がいいぞ。その方が私もなんとなく落ち着く。だからやはりさっきのような事は言わない方がいいだろう」
”姉さんこそ笑ってよ。姉さんみたいな美人が笑うと回りの男が放っておかないんだから” やはり男に結びつくらしいが口には出さず違う事を言う。
「ありがと姉さん。姉さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、色々試しながら確認しながら覚えていくものだと思うわ。人間だって最初からいきなり馴れ馴れしく話したりしないし相手を確認しながら付き合っていくのよ」
「結果が分かっていてもか」 不思議そうに訊いてくる。
「結果と言っても姉さん、目に見える事だけが結果とは限らないのよ。確かにさっきの姉さんの台詞はちょっとこたえたけどそれでも姉さん私に冗談を言ってくれたんだって少しは嬉しかったし」
「さっきはとても嬉しそうには見えなかったぞ」
「だから目に見えない部分ね、それが。姉さんさっき言っていたじゃない、人の言葉には裏がある場合があるって。それってそういう心の部分かもしれないわ」
以前のイフリータとだったらこんな会話はしなかったかもしれないなと思うと何となく口元が緩んでしまう。
「何を笑っている。イフリーテス?」
「え、私笑ってたの?」
「ああ。さっきお前が笑った時とは違うがどう表現すればいいのか良く分からんな…。とにかく可愛らしい笑顔だったぞ」
「えっ、可愛い? 私も可愛いと思ってくれるの?」 期待に満ちた目で訊き返す。
「さっきの笑顔は可愛かったと言ったのだ。さっきも言ったがお前は」
「姉さん」 イフリータの言葉を遮りイフリーテスが続ける。
「私の笑顔も私の一部よ。矛盾していない?」
「そうだな…」 言葉に詰まるイフリータ。
「ねぇ姉さん。私思うんだけどさあ、どんなものでも、いえものでなくともいいと思うけど大切なものってあるじゃない。大切なものはそれなりに可愛いじゃないかなぁ」
「お前の言葉は曖昧な表現が多いな。私も少しは使うようになったがお前は殆ど人と変らんな…」
「姉さん」
「だけど」 今度はイフリーテスが遮る。
「お前の言う事は何となく分かるような気もする。大切なものか…。そうだな私にとってマリエルやお前達は大切だからな…。それでさっきはお前の笑顔を見て可愛いと思ったのかもしれんな」
「有難う姉さん」 頬にキスをするイフリーテス。
「キスは男女間でするものではなかったか?」
今度こそ本当に力が抜け落ちそうになるイフリーテス。
「ちょっとぉ、姉さん、人が感激してその感謝の意を示すのにキスをしたってのに変な事言わないでよ」
しっかりとしがみつきながら話すイフリーテス。
「変な事か?」 当然真顔だ。
「そう言えば以前ファトラがキスをしてきたがあれは何だったかな。その上、人の体を弄ってぶつぶつ言っていたが」
その言葉に思わず苦笑してしまう。
”あの姫様その筋では有名らしいからねぇ。姉さんに目をつけたのはいいけど相手が悪かったわね”
「どうもファトラは良く分からない所が多いな。イフリーナの主も変わり者だがファトラといい勝負かもしれん」
あの二人が聞いたら青筋立てて怒りまくりそうな事を言っている。勿論悪気はない。
「姉さんそのセリフ、ファトラ姫の前では絶対に言わないほうがいいわよ。下手したら医者を紹介してもらえないかもしれないわよ」 さすがにイフリーテスは分かっている。
「そうなのか。間違った事は、いや推量が入ってはいるがかなりの確率で当たっていると思うのだが」
「姉さん、人間ってね時と場合にも寄るんだけど本当の事を言われると怒る事もあるのよ。特にあの姫さんの性格を考慮すると間違い無く切れるわね」
「ふむ…。そうかもしれんな。時、場所、状況それに相手の性格か…。結構面倒なものだな」
イフリーテスは思わず苦笑してしまう。
「姉さん、だから何でも数値化するのは止めた方がいいわよ。色々考えるのはいいけれど考えすぎると会話のタイミングを外してしまうわよ」
「そうだな。それにしても全くややこしい生き物だな、人間と言うのは」
「だから面白いのよ。皆同じ事して同じ話しかしないんじゃ面白くないじゃない。姉さんがマリエルといるのはマリエルが他の子供と違うからでしょう」
「なるほど。確かにお前の言う通りだな。私も努力しないとな…。所でイフリーテス」
「なあに姉さん」
笑顔で答えるイフリーテス。彼女はイフリータが変ろうと努力している事が嬉しかった。が、
「もう聖大河は越えたのだが民家はみえるか?」
ぴしい、凍りつくイフリーテス。
「交番はどこだ」 畳み掛けるイフリータ。
「うう姉さん…。もうさっきいじめないって言ったじゃない」 氷を砕きながら何とか答えるイフリーテス。
「イフリーテス、自分が言った事にはもっと責任を持った方がいいぞ」 イフリータに言われるようでは終わっている。
「び、びええ…姉さんがいじめるうう」 突然泣き出すイフリーテス。
「陸地は森ばかりか。同盟側とはかなり違っているな」
「うわーん……」
「これじゃあ仮にバグロムがいたとしても見えんな」
「あのぅ姉さん…少しは相手してくれてもいいんじゃない」
「何にだ? 泣きまねしている事にか?」
「う゛、なんで分かったの…」
「90%以上のセンサーが回復しているからな。もっともパワーがないお陰で近距離しかサーチできんがこれだけ密着していればかなりの事は分かる」
「はあぁぁ、今姉さんに嘘ついてもすぐにばれるって事ね」
「お前嘘が言えるのか」 驚いた表情になるイフリータ。
「いえ、例えばの話よ姉さん。やはりプログラムがそうなっているのかしら、嘘を言う事はちょっとまだ出来ないわ…」
「そうか…。お前なら案外、と思ったが」
「当分無理ね、きっと…。所で姉さんどうする? 下がこれじゃあイフリーナちゃん見つけるの大変よ」
「やはりお前に残ってもらって」
「だから姉さんお願いだからそれだけは勘弁して!」
大声で抗議する。実はイフリータは半分本気なんじゃないかと思ってしまう。
「安心しろ。手掛かりだ」
「え、どこに?」 イフリータが指差す方向へ顔を向けるが森が広がっているだけだ。
「あそこだ。見えないのか」 一旦止まりイフリーテスが見やすいように向きを変える。
「うん…私の視力は目が良い人間程度だからね…」
「そうか悪かったな」 謝るイフリータに驚きの表情を向けるイフリーテス。
「どうしたイフリーテス」
「いえ…そんな風に姉さんが謝るとは思わなかったから」
「そうか。と言う事は少なくとも間違ってはいなかったと言う事だな」
「どう言う事?」
「お前が寂しそうな顔をしていたからな」
「ありがと姉さん。だけど普通の人よりは全然見えるんだから大丈夫よ。それよりも手掛かりって?」
「ああ、あの方向に明らかに人工の物と思われるものがある」
「どんな形なの?」
「そこまでは分からん。パワーが足りないのかそれともまだセンサーが完治していないのかは分からんが回りの木々とは明らかに色が違う」
「ふうん。じゃあともかく行ってみましょう」
「そうだな。運が良ければイフリーテス、野宿せずに済むぞ」
イフリーテスにはイフリータがにやっと笑ったように見えた。
「姉さん!」 半分顔が青い。
「冗談だ。だけどお前は本当に表情が豊かだな。見ていて面白い」
「面白いってねえ、たったそれだけの事で妹をいじめるの」 少々怨念がこもっている。
「いじめているつもりは無いんだが…。そう感じるのか」 少し悲しそうに見える。
「い、いえその…なんて言うかな。私達ってまだ感情表現が未発達だからね。上手く感情込めて話せないし」
「お前は十分だと思うが…。そうか、思いやりという奴だな。私を気遣ってくれているのだな」
「んー、だけど私もまだうまく表現できない事が多いしね。という事は言われた事に対する対応も稚拙なものだと思うわ」
「お前は優しい子だなイフリーテス」
「や、やーねえ、どうしたの姉さんいきなり変な事言って」 ちょっと顔が赤い。
「変な事か?」
「だ、だってさ…。あ!姉さんあれね」 ちゃんと答えず建造物の方を指差す。
そんなイフリーテスを見て、というか観察してイフリータは呟く。
「照れという奴か?」
「ちょ、姉さん。やめてよもう。変な事言うのはさ…。なんで私が照れなくちゃ行けないのよ…」
俯いてそして力なく言ったのでは説得力がない。
イフリータは優しく微笑む。
「行くぞイフリーテス。目標を補足した」
「えっ、どういう事?」
「捕らえた。存在を感じる。もうすぐお前にも見えるはずだ」
「見えるって…あー! いたあ」 いきなり大声を出す。
「野宿せずに済んだな」 ぼそっと呟くイフリータ。
指を差したまま一瞬固まるイフリーテス。
「姉さん、お願いだからそれだけはもう言わないで!」
「そうか? 案外楽しいかもしれんぞ。キャンプとか言っていたか、マリエルが行きたがっていた」
「そりゃキャンプならいいけどさ…。もうすぐね」
「ああ、それにしてもだらしない格好だな」
「ほんと。誰が見てもエルハザード最強の鬼神とは思わないでしょうね」
イフリータ、イフリーテスの両名が正常に機能していない現段階ではイフリーナが最強という事になる。
もっとも本人にその自覚が有るかどうかは分からないが。
「それにしても…なんというかちょっと考えられない色彩感覚ね」
「そうだな。やはり人間と違うのだろうがイフリーナはよくこんな所で暮らしているな」
サイケな色彩のバグロム城を見た二人は好き勝手言っている。
「ねぇイフリーナちゃんをこんな所に置いとくのは可哀相よ。何とかならないかしら」
「そうだな。だがあいつの主がここにいるから難しいかもしれん。注意しろ、着地するぞ」
「うん。だけどこんな所に人間が住めるというのも信じられないけどね」
イフリータはゆっくりと屋根の上に着地する。
「全くだ。イフリーナが感化されてなければいいのだが」
「恐い事言わないでよ姉さん。あの子の高笑いなんて聞きたくもないわ」
話しながらゆっくりと歩いて行く。
「確かにそうだな。しかしこいつ隙きだらけだな。襲われでもしたらどうするつもりだ」
「まあまあ姉さん。こんな所までくる人はいないし第一この子見たら皆戦意を喪失しちゃうわよ」
「そうかもしれん。この寝顔じゃなあ…」
イフリーナは屋根に寝転がり気持ち良さそうに寝ていた。
傍らにはゼンマイではなくほうきが転がっている。
「ったく幸せそうな顔しちゃってこの」 ぷにぷにと頬を押してみる。
「ううん…もう駄目です…もう食べきれません…ご主人様ぁ…」
「食べないと大きくなれないわよ」 耳元で囁いてみる。
「…え〜無茶言わないで下さい…誠さん…」 思いっきりこけそうになるイフリーテス…いやこけてしまった。
「なんだこいつ、主を間違えているのか」 足を滑らせたイフリーテスを支えながらイフリータ。
「ありがと姉さん。この子、誠ちゃんが主だったらと思っていたからね」
「ふむ…ならば陣内克彦を殺るか。そうすればイフリーナは自由になれるが」 目がマジだ。
「ちょ、ちょっと姉さんそれは」 慌てるイフリーテス。
「そんな事をするとマリエルが悲しむからな」
「ふう…姉さん。冗談言うのはいいんだけどさあ。もっと和めるのにしてよ」 疲れた表情をしている。
「そうか。難しいものだな…」 考え込むイフリータ。
「ん、ううん…」 ゆっくり背伸びするイフリーナ。
「あら、目が覚めたかしら」
「いい夢を見ていたのだからもう少し寝かせといても良かったかもしれんな」
「優しいわね、姉さん」 さっきの仕返しとばかりに言うが。
「そうか、妹は大切にしないといけないのだろう? だったら当然じゃないのか」 淡々と応えるイフリータ。
「ちょっと姉さん。妹は大切にってさっき散々私をいじめたじゃない。やっぱり私は可愛くないのね」
よよと泣き崩れるイフリーテス。
それに対しイフリータはまた考え込んでいる。
「何考えてんのよ、姉さん」 思わずジト目になる。
「いや、なぜかなと思ってな…そうだなどちらも可愛いと思うが…年齢差か?やはり子供と大人で同じ対応する事はないからな」 やはりイフリーナが子供に見えるらしい。
「はあぁ、私ももう少し幼かったら良かったわ…。どうやら目を覚ましたようね。おはようイフリーナちゃん。いい夢だったみたいね」
イフリーナを見つめる二人。
「ん〜…おはようございます…誠さんもいい夢見れましたかぁ…」 寝ぼけているようだ。
「イフリーテス、こいつ本当に私達と同じシリーズなのか?」
「そう言われると私も自信がなくなっちゃうんだけど…。おなじイフリータの名を持っているしねぇ」
イフリーナは屋根にちょこんと座るが視線が定まっていない。
が、すぐにまたこてんと横になり眠り始める。
「器用な奴だな。だが余り遅くなるとマリエルが心配する」
「そうね。この子を見てるだけでも面白いけど顔見に来たんじゃないからね」
そう言ってイフリーナを抱き起こし軽く頬を叩いてみる。
「イフリーナちゃん起きなさい。誠ちゃんに会いに行くわよ」
「…誠さん…どこですか…」 まだ夢心地のようだ。
「しょうがない奴だな。起きろイフリーナ! ロシュタリアへ行くぞ!」 耳元で怒鳴る。
びくっ! 体に電流が流れたみたいに一瞬痙攣したかと思うと目を開けた。
イフリーナを見つめる4つの目。
「やっと起きたわね、イフリーナちゃん」
「目は覚めたか、イフリーナ」
「ひっ」 顔が青ざめる。
「どうしたの、イフリーナちゃん」
「どこか悪いのか、イフリーナ」
顔を覗き込む二人。イフリータが手を伸ばし顔に触れようとした瞬間
「いやぁぁぁぁぁ」 突然叫び声を上げ後ずさっていく。
イフリーナが通った後は屋根がえぐれている。
「失礼ね。人の顔見ていきなり悲鳴を上げるなんて」
「本当にどうしたんだ? イフリーナ」
二人は立ち上がってイフリーナの方へ近付いて行く。
「こ、こないで。お願い」 ほうきを握り締め脅えている。
「これってもしかして姉さん…」
「そのようだな」
顔を見合わせる二人。
「私を怖がっているのだから取り敢えずお前だけ傍によってみろ。うまく行ったら説明してみてくれ」
「そうねえ…。だけど噛み付いたりしないわよね」 ちょっと不安そうだ。
「さあどうだか…あそこまで脅えていると何するか分からんな」
「姉さんやっぱり私が可愛くないのね。可愛くないから危険な事でも平気で言えるんだわ」
顔を手に埋め泣く振りをする。
「あのう」
「そこまでは危なくないと思うぞ。一応知性はある訳だし。ちゃんと説明すれば分かるのではないか」
「本当にそう思う姉さん?」 イフリータににじり寄る。
「そのう」
「いやそこまで言われると…。まあ暴れるかもしれんが取り敢えずは姉妹なんだし話せば分かってくれると期待はしているのだが」 珍しく自信の無い言い方をするイフリータ。
「えーとぉ」
「姉さん。イフリーナちゃんは私達と違って今まで虫や変態と暮らしてきたのよ。常識が通用するとは限らないじゃない」
「それもそうだな」 考え込むイフリータ。
「ねえねえ麻酔を嗅がせるというのはどうかしら?」 目が輝いている。
「すいませーん」
「イフリーテス、問題が二つある。一つは嗅がせるには傍に寄らないと行けないという事、もう一つは私達には麻酔は効かないという事だ」
「そっかー。いい案だと思ったんだけどなぁ…」 残念そうな顔をする。
「あの話を」
「うっさいわね。今取り込み中ってイフリーナちゃん?」
いつのまにかイフリーナが近くまで、と言っても3mくらいの所だが寄ってきている。
「あ、あの私別に噛み付いたりとか暴れたりとかしませんけど…。お二人ともいついらしたんですか…」 少しびくついている。
「ついさっきだけど…。ねえイフリーナちゃんそんなに脅えないで。誰も取って食おうって言ってる訳じゃないんだから」
「そうだ。それにもしお前を破壊しに来たのならさっきお前が寝ている内に実行している」
『破壊』という言葉を聞きまた後ろへ下がるが今度はちょっと下がり過ぎた。
「きゃあ」 足を滑らせて落ちて行くイフリーナ。
「しょうがない奴だな」 イフリータも飛び降りる。
数秒後イフリーナを抱えて上がってきた。
「姉さん御苦労様」
「こいつ本当にイフリータシリーズか? 飛ぶ事も忘れていたぞ。ほらもう安全だ離れろ」
イフリーナはイフリータにしがみついた。まだ震えている。
「もう大丈夫よ、イフリーナちゃん。姉さんが助けてくれたんだから」
「は、はい。だけど足が竦んじゃって立てないんですう」 ちょっと情けない。
「しょうがないな」 イフリーナを屋根に降ろすのを諦めまた抱え直す。
「あ、あの」
「なんだ」
「姉さん。そういう言い方するとまたこの子脅えて下に落ちちゃうわよ。イフリーナちゃんお久しぶり、元気にしてた」
「は、はい私はいつも元気です。時々ご主人様に叱られて悲しくなる時も有るけれど普段はすっごく元気ですから…。あ、あのどうしました?」
イフリータとイフリーテスの目が真剣になっていた。
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