7.ファトラとイフリーナ

 食事を終えた十人は通りに出て城を目指した。
 さすがに目立つ。
 十人中女性が八人、まあ一人はまだ幼児ではあるがそれでも美女が七名も揃えば注目されても不思議はない。
 もっともミーズを始めシェーラにアフラは注目されるのには馴れているせいかいつもと様子は変わらないしイフリータも堂々と歩いている。
 しかしながらイフリーナは衆目の中を歩くのは気恥ずかしいようだ。
 誠が付き添そうように歩いており二人だけを見れば仲の良いカップルのように見えなくはないのだがやはり菜々美が誠の隣を歩いていてその表情からも三角関係にあることは一目瞭然である。
 イフリーテスは藤沢の隣にいたかったのがイフリータに促され彼女の隣で集団の一番後ろから歩いていた。
 だが機嫌が悪いかというとそう言うわけでもなく結構今の状況を楽しんでいるようで大人しくイフリータの隣を歩いている。
 恐らく一番居心地が悪い思いをしているのは藤沢だろう。
 相変わらずミーズが隣にいるがそれだけでなく腕をしっかりと掴まれている。
 恋人同士が腕を組んで歩いているというより連行されている気分だ。
 かと言って抗議なぞできるはずもなくもはや諦めの境地であった。
 そんな中
 「所でおめえらなんで真っ直ぐ城へ向かわなかったんだ?」 とシェーラが問い掛ける。
 「おやシェーラどないしました? 珍しゅう気の利いた質問して」 その気はなかったのだがつい混ぜっ返してしまうアフラ。
 緊張する誠に藤沢。
 ちょっとしたことでも大きな騒動になる可能性がいつも以上に高かったからだ。
 しかしむっとしたシェーラが口を開く前にイフリータが割り込んだ。
 「イフリーテスの提案だ」 簡素過ぎる答えにアフラの事は後回しにしてイフリータの顔を見るシェーラ。
 またシェーラだけでなく誠達もその理由に興味を持ったようだ。
 自然とイフリータ達を囲むように編隊を組む。
 「ロシュタリアに着いたのはお前達と出会うかなり前だ。そのまま城へ向かおうとしたのだが」 とイフリータはちょっと言葉を切り隣のイフリーテスの方を見てから続ける。
 「こいつが城に行くなら午後の方がいいと言ったのでそれに従ったまでだ」
 「なんでです?」 シェーラではなく誠が理由を訊いた。
 「簡単よ、あの時間じゃ間違いなくファトラ姫はベッドの中じゃない」 イフリータに代わってイフリーテスが答える。
 「そやけどファトラさんが寝ていた方がイフリーナに取っては都合が良かったんと違いますか?」 再び誠が素朴な疑問を投げる。
 それに対しイフリータはゆっくり頷いてから
 「私もそう言ったのだが『確かに最高責任者はルーンだがファトラは元主。先にファトラに挨拶するのが筋ではないか』と答えるし、『更にあいつの性格からして無視して事を進めるのはかえってまずい』と言うので昼食後に向かおうということになった」 と話した後またイフリーテスを見る。
 「確かにこいつの言ったことは十分納得ができるものだったのだが」 とイフリータが続けたところで
 「行動が伴っていなかった訳どすな」 とアフラが後を続ける。
 「その通りだ」 頷きながら答えるイフリータ。
 「えー、どういう事よ姉さん」 思いっきり不満そうな顔のイフリーテス。
 「あんたはん、イフリータが何よりも先にファトラはんに挨拶せんといかんのやったらあんたは真っ先に誠はんに挨拶せなあかんのと違うやろうか」 じと目で見つめるアフラ・マーン。
 「私もそう思うぞイフリーテス」 冷ややかにイフリータ。
 「そう言えばそうですね。イフリーテスお姉さんのご主人様は藤沢先生ではなくて誠さんですもの」 羨ましそうにイフリーナ。
 「そうだよな。なのに挨拶どころか先に首締めてたんじゃ誠も浮かばれねえ」 と勝手に誠をホトケにしてしまうシェーラ・シェーラ。
 「ちょっと何よみんなして。そりゃ誠ちゃんに挨拶するのは当然だけど、どこにいるか分からないじゃない。歩いていたら偶然に藤沢様を見つけたんでつい」 と弁明を続けようとするイフリーテスだがイフリータに見つめられ言葉を切る。
 「お前嘘が言えるのか?」 ちょっと驚いたように問うイフリータ。
 ミーズに怒鳴られていた誠達を最初に見つけたのはイフリーナでしかも彼女が誠の名を呟いてから他の二人は彼らに気付いたのであった。
 ただイフリーテスには藤沢しか見えていなかったのは確かだ。
 次の瞬間イフリーテスは行動に出ていた。
 後は誠達が見た通りだ。
 さすがに言葉に詰まるイフリーテス。しかし
 「ふっ、義理と愛情を秤に掛けたら愛情の方がぶっちぎりに重いのよ!ねぇん藤沢様ぁ」
 と開き直り、藤沢の元へ駆け寄ろうとする。
 だがそれより早くイフリータがその足下へゼンマイを差し出した。
 当然…ずっしゃああぁぁ…と勢いがよかっただけに派手に転がるイフリーテス。
 「ちょっと姉さん何すんのよ!」 結構痛かったらしい。涙目で抗議している。
 「今騒動を起こすと後が面倒だ。続きは用件が終わってからにしろ」
 鋭く言い放つイフリータに何も言い返せないイフリーテス。
 「さすがイフリータお姉さん。凄いですぅ」 と感心したようにイフリーナが呟く。
 味方がいないイフリーテスにマリエルが手を差し出した。
 「大丈夫イフリーテスお姉ちゃん? 駄目だよイフリータ、妹をいじめちゃ」
 その言葉に苦笑いするイフリータ。
 「有り難うマリエル!そうよねえ妹は大事にしなくちゃいけないのよねえ」 マリエルに抱きついて同調を求めるイフリーテス。
 そんなイフリーテスを周囲は白い目で見つめていた…。



 「うわぁ大きい…」 ロシュタリア城を前にしてマリエルが感嘆の声を上げる。
 「久し振りね」 懐かしそうなイフリーテスに
 「そうだな」 こちらは大した感慨もないイフリータ。
 「はい…」 そして辛い思い出に潰されそうなイフリーナ。
 一方誠達は複雑な心境だ。
 以前彼女らがこの城に揃ったのは戦いの最中だった。
 陣内の命令で同盟軍を騙し討ちしたイフリーナ。
 ただ彼女が裏切らなくとも結果は同じではあった。
 そしてまた誠はイフリーナと別れたときのことを思い出していた。
 『ご免なさい。ご免なさい…』 大粒の涙を流しながら去っていったイフリーナ。
 彼はイフリーナの表情を忘れることができなかった。
 そして今イフリーナは涙こそ流していないがその時と同じ表情をしていた。
 「イフリーナ」 誠はそっと彼女の手を取る。
 当然菜々美はむっとした顔になるが気付かないようだ。
 「大丈夫やイフリーナ。君は一人やない。僕達が付いとる。元気を出しい」 そう言ってゆっくりと城門の方へ促す。
 そんな彼らを見て ”誠ちゃんさえいればイフリーナちゃんは大丈夫よ” そっと呟くイフリーテス。
 それに対し
 「イフリーテス、ファトラはイフリーナを許すと思うか?」 マリエルに聞こえぬよう小声で問いかけるイフリータ。
 「あのお姫さんの性格からすると絶対にあり得ないわね」 断言するイフリーテス。
 「となると…強引に、というのは避けたいが」
 「いえ、ただ単にあの子を許して欲しいと言っただけじゃあ納得しないってことよ。手はあると思うわ」
 「そうか」 やや心配そうに相づちを打つイフリータ。
 「マリエルの事を考えるとやはり力ずくってのは避けるべきね。ま、最後の手段って所かしら」
 そう囁いたイフリーテスの少し前を歩いていた誠達が突然止まる。
 彼らの視線の先…城門の奥を見るイフリータとイフリーテス。
 そこにはゆっくりとこちらへ向かって歩いて来るファトラの姿があった。
 それを見て一気に飛び出すイフリーテス。
 イフリータも無言でマリエルをシェーラに託し前へ出る。
 イフリーナを庇うようにゼンマイを構える二人。
 だがファトラは何事もないかのように歩いてくる。
 マリエルを託されたシェーラにアフラ、そしてミーズ達は一瞬迷う。
 もし万一戦闘になったら城は跡形もなく吹き飛んでしまうだろう、だがそれを止める事は彼女らでも不可能だ。
 結局は何とか戦いを回避させるより他に手だてはない。
 だが、どうやって…。
 またアフラは驚愕していた。
 『力ずくでと言うのは避けたい』 明らかに彼女らはそう言っていたのである。
 にも関わらず飛び出していった両名。
 イフリーテスはともかくイフリータまで動くとは…。
 しかしイフリータ、イフリーテスの両名は明らかに殺気をファトラへ向けて放っていた。
 どうするか…アフラ達が顔を見合わせた時ファトラが二人の前で止まった。
 緊張する面々。
 誠とイフリーナにそのすぐ後ろにいた菜々美はイフリータ達に気圧されて口を開くことができない。
 マリエルもイフリータの厳しい表情とファトラを見てただごとではないと分かったのかシェーラにしがみついた。
 「久し振りじゃな」 自分に向けられている殺気をものともせずファトラは口を開く。
 それだけではない。イフリータ達の前に立ってはいるがその視線はイフリーナに向いていた。
 イフリータ達にしてみれば挑発されたようなものである。
 ゼンマイを構え直し踏み出そうとしたイフリーテスに後ろからイフリーナがしがみつく。
 「止めて下さい!お姉さん、落ち着いて…」 必死の形相だ。
 それを見てイフリータはゼンマイを降ろし苦笑する。
 「よせイフリーテス、よく見ろこいつは丸腰だ」
 もっともファトラが丸腰なのは最初から分かっていた事だ。
 ついでに護衛も見あたらない。
 にも関わらずイフリーテスと共に飛び出した…。
 イフリータはハイロウズで神の目の攻撃を受けたときのことを思い出していた。
 それに対し
 「分かんないわよ。油断させといて後ろからばっさりくるかもしれないし、いきなり天井が落ちてくるかもしれないわ!」 そう言ってイフリーテスは警戒を解こうとしない。
 苦笑するファトラ。
 だがイフリータはファトラの方を向き軽く会釈する。
 「久し振りだなファトラ」
 「ああそうだな…今日も小さい主と一緒か」 そう言ってマリエルへ視線を移すファトラ。
 「そうだ。所でファトラ、今日はお前に頼みが有ってここへ来たのだが」
 「ほう姉上ではなくわらわにか?」 ファトラは一瞬嬉しそうな表情を見せる。
 「いや別にルーンでも構わないのだがお前は私の元主だからな。最初にお前に相談するのが筋だと思っただけだ」
 その言葉に再度苦笑するファトラ。
 そしてゼンマイを構えたままのイフリーテスと未だ彼女にしがみついたまま不安そうな表情のイフリーナを見る。
 「まあ良い。では着いてこい。姉上もお前達を待っていらっしゃる」 そう言って踵を返す。
 だがその言葉に驚く誠。
 「ちょっと待って下さい。ルーン王女もイフリータさん達を待っているって一体どういうことですか?」
 誠の疑問に答えるべくファトラが振り向くが先にイフリーテスが口を開く。
 「さっきから私たちの周りをうろうろしていた連中がいたじゃない。彼らが知らせていたのよ」
 「気付かなかったのか、誠?」 逆にイフリータが意外そうに訊いてくる。
 「は、はあ全然…」 しかしながら誠や藤沢にそれを分かれという方に無理がある。
 「えっ!そうだったんですか? 私、ファトラ様がお姿を見せたのは偶然かと思ったんですけど」
 その答えに今度はイフリーテスが苦笑する。
 「イフリーナちゃん…まあいいわ。ある意味あなたらしいとも言えるわね」 そう言いながらゼンマイを降ろすイフリーテス。
 「あのうイフリーテスさん、もしかしてファトラさんが出てくることは分かっていたんですか?」 何とか事態が収まりそうな気配にほっとしながら誠が尋ねる。
 シェーラ達もマリエルの手を引いてやってきた。
 「そうねえ…誰かいるだろうとは思っていたけどまさかいきなりファトラ姫が出てくるとはねえ…」
 「だが予想できる事ではあったな」
 「まあ…。そうね、気付くべきだったわ。ご免なさいねファトラ姫。失礼なことしちゃって」 そう言って頭を下げるイフリーテス。
 だが誠達には理解不能だ。
 「あーすいませんがよく分かるように説明して貰えませんか。離れていたんで何がどうなったんだか」 と藤沢が問い掛ける。
 ただし彼とミーズは少々離れたところに立っている。
 藤沢が話し掛けた途端イフリーテスは一気に表情が明るくなり逆に誠達は青くなった。
 例のごとく藤沢の隣でミーズがイフリーテスを睨んでいたからである。
 藤沢の問いに対しイフリーテスを牽制しながらイフリータが答える。
 「ファトラは私達を早くから監視していた。もしイフリーナを捕らえるつもりなら城外で行うのが得策だ」
 「そう。それに出迎えがファトラ姫ではなく別の誰かだったら逆に私達は警戒したでしょうね。ファトラ姫が一人で出てきたと言うのは取り敢えずは戦う意志がないという事なんですわぁ。分かりまして藤沢様ぁん」 やや強引に割り込んだ後例の如く藤沢へ向けダッシュしようとするイフリーテス。
 先程はイフリータのゼンマイに阻まれたが今回はそっとイフリータから離れていた。
 ”やったぁ!” そうイフリーテスが思った直後いきなり目の前にファトラが現れた。
 次の瞬間イフリーテスの瞳に天井が映る。
 そして床に落ちる感触と同時にこちらをのぞき込むファトラにゼンマイの先端をやはりこちらに向けているイフリータが見えた。
 またファトラはイフリーテスの腕を掴み軽く捻っている。
 痛くはないが動きづらいだろうなあと思う。
 それにイフリータのゼンマイはエネルギーが充填されているようだ…。
 絶妙のタイミングだった、少なくとも姉さんからは逃げ切れた…、そう思っていた彼女は何が起こったのかすぐに理解できなかった。
 「すまんが城内では大人しくしてもらおう」 とファトラ。
 「言ったはずだ。用件が終わってからにしろと」 ゼンマイを向けたまま静かに話すイフリータ。
 その言葉にイフリーテスは観念した。
 「了解。用が済むまで、また城内では大人しくしているわ」
 そう言ってにっこり笑った後、「起き上がっていいかしら?」 と尋ねる。
 ファトラは捻っていた腕を解き、手を引いてやる。
 イフリータもゼンマイを引っ込め代わりに手を差し出した。
 「ふう…」 溜息つきながら起き上がるイフリーテス。
 「大丈夫ですかお姉さん」 心配そうにイフリーナが尋ねてくる。
 「大丈夫よ、ちょっとびっくりしたけどね」 と明るく答えてからファトラの方を向き
 「でもさすがねえファトラ姫。一瞬何が起こったのか分からなかったわ」 と賞賛の言葉を述べる。
 「しかしようイフリーテス、おめえファトラに腕を固められてたが効いてたのか?」
 シェーラだけでなくアフラ達もそう思っていたようだ。誰も突っ込もうとしない。
 「そうねえ…痛くは無かったけど動きはかなり制限されたと思うわ」 悔しいと言うより信じられないといった感じだ。
 「だけど僕らとイフリーテスさんでは骨格が違うんじゃないんですか?」 不思議そうに誠が尋ねる。
 誠の問いももっともである。外見は人と同じでも彼女らは人の手で作られた鬼神だ。
 確かにその構造は全く違うものであるのだが
 「無粋な問いだな、誠よ」 しょうがない奴、と言いたげに誠を見るファトラ。
 誠は何が『無粋』なのか分からない。
 ファトラはゆっくりと視線を誠の隣にいるイフリーナへ移す。
 誠もそれに合わせイフリーナを見た。
 どことなく寂しそうな表情のイフリーナを見て誠は後悔する。
 「ご免イフリーナ。僕は…」 慌てて謝ろうとするが適当な言葉が見つからない。
 「いえ、いいんです。それよりもファトラ様、本当にどうやったんですか?」 誠に気を遣っているのは明白だが彼女も興味はあるらしい。
 ファトラはゆっくりと周囲を見渡し全員の目が向いているのを確認してから答える。
 「なに、イフリータに教えて貰っただけじゃ」
 意表をつく答えに皆イフリータの方を見る。
 イフリータは少し考えた後、彼女を心配そうに見上げているマリエルの頭を優しく撫でてから口を開いた。
 「なるほど、私の体から学んだと言うことだな」 淡々と話すイフリータに
 「そう言う事じゃ」 堂々と答えるファトラ。
 それを聞き一部を除き皆顔が赤くなる。
 「ふーん、姉さんを落とすことはできなかったみたいだけどそれなりに収穫は有った訳ね」 と呟くイフリーテス。
 しかしイフリーナは首を傾げている。
 「あのうどういうことなんでしょうか? また誠さんのお顔が赤いけど関係あるんですかぁ」 彼女でなければできない質問だ。
 更に何か言いかけた彼女の口を慌てて誠が塞ぐ。
 当然の事ながらそのためにはそれなりに密着する必要がある。
 それを見た菜々美が誠の手の甲をつねった。
 誠は一瞬顔をしかめるが慌ててイフリーナから離れる。
 二人とも赤くなっている。
 それを見た菜々美は更にむっとした表情になり
 「ほらまこっちゃん、ルーン王女を待たせたらまずいでしょ」 と誠の腕を掴み城内へ向かって歩き出した。
 ちょっと躊躇したがイフリーナも誠の後に続く。
 ファトラも何も言わずゆっくり歩き出した。
 他の者もファトラの後に続いたがミーズは藤沢を掴んだままファトラの傍へ寄っていった。
 「ねえファトラ姫。先ほどのあの機械人形を」 と話しかけるが
 「却下じゃ」 話の途中にも関わらず即断するファトラ。
 「ちょっとファトラ姫、私の話はまだ」
 「だから却下じゃと言っておろうが」 何度も同じ事を言わせるんじゃない、という顔をしている。
 「ファトラ姫、人の話を聞かないと言うのは上に立つ者として」 さすがにファトラの態度にかちんときたのかミーズの口調がきつくなったが再再度それを遮るファトラ。
 「ミーズ、お主はわらわがどうやってイフリーテスを押さえつけたか、その技を教えて欲しいと言いたいのであろう。だがそれは却下じゃと言っておる」
 「なぜですのファトラ姫? 私とて大神官。例えその技量が難しいものであっても修得できる自信はございますが」 納得できないミーズ。
 「技そのものは難しいものではない。おぬしら大神官なら大した苦労はないだろう」 のんびりと答えるファトラ。
 ミーズはますますいきりたった。
 「ファトラ姫、もしかして私をからかっているのかしら? 」 目がマジだ。
 藤沢の腕を掴む手にも力が入る。
 痛いのだが抗議できない藤沢。
 ミーズの気迫はそれくらい鬼気迫るものがあった。
 それに押された訳ではないが歩く速度を落とすアフラにシェーラ。
 考えて、ではなく無意識に落としていた。
 所がイフリーテスは面白そうに二人のやりとりを眺めている。
 またマリエルは初めてみる城の内部が珍しいのか時々立ち止まって周りを眺めるのに一生懸命でミーズ達から更に離れた所にいた。
 当然イフリータはマリエルの傍だ。
 仮にミーズが切れても被害に遭うのは藤沢だけで済みそうだった。
 シェーラ達はそう思ったのが残念ながらファトラの答えはその上を行っていた。
 「ミーズよ、あれはわらわがベッドの中で修得したものじゃ。伝授するなら当然ベッドの中でと言うことになる」
 ファトラは立ち止まってシェーラ達の方を見てから話を続ける。
 「残念ながらお主はわらわの守備範囲に入っておらぬ。シェーラ・シェーラアフラ・マーンになら伝授しても良いがの」 にやりと笑うファトラ。
 その言葉にシェーラとアフラは回れ右をして城門を目指そうとするが
 「待ちなさい! シェーラ! アフラ!」 彼女らを呼び止めるミーズ。目つきがいつもと違う。
 一応シェーラ達は立ち止まったもののミーズの方を見ようとしない。
 「な、なんだい姉貴。あたいらちょっと用事を思い出したんだ。またにしてくんないかな…」
 「そ、そうどす。すんまへんがイフリータの件は姉さんにお任せしますよって後は宜しゅう…」
 冷や汗を流しながら答える二人。
 「あなた達、こちらを見なさい。後ろ向きなんて失礼よ」 藤沢を引きずってシェーラ達の方へ歩き出すミーズ。
 シェーラ達は取り敢えず振り返るもののミーズの歩みに合わせ一歩ずつ後ずさる。
 「な、なあ姉貴、そんな怖い顔しないでさ、もっと落ち着いて話そうぜ」 追いつめられたシェーラが青い顔して提案する。
 いや提案したわけではないのだがそう取られても仕方ないセリフだ。
 「そうね。落ち着いて、ゆっくりと相談しましょうか」 有無を言わせぬ口調で言い放つミーズ。
 ”しまった!” と後悔したが後の祭りだ。
 「さてと…あなた達、ファトラ姫の話は聞いたと思うけど」 とミーズが切り出したところで
 「いえ、うちらは離れてましたから」 アフラは否定しようとする。
 しかし…
 「聞いていたわよね!」 二人を睨めつけるミーズ。
 「それでね、私どうしてもあの技をマスターしたいの」 ミーズは突然優しい口調になるがシェーラ達の顔からは完全に血の気が引いている。
 「だけどファトラ姫、あなた達に教えても私には教えてくれないと言うのよ」
 それは分かり切ったことだ。だからシェーラ達は逃げようとしたのである。
 勿論この先ミーズがなんて言うのかも予想できていた。
 「ミ、ミーズ姉さん、もう一度お願いしてみてはいかがどす。誠心誠意お願いすればファトラはんかて分かって…」 必死に嘆願するがミーズの目つきは相変わらずでさすがのアフラも段々トーンが落ちる。
 「どう言うことアフラ? 先程ファトラ姫に断られたのは私の誠意が足りなかったという事かしら?」
 絶体絶命である。アフラの白い肌が更に白くなった…ということは有るはずはないのだがシェーラはそう感じていた。
 またアフラも自分がどんな顔をしているのか想像できた。
 そんなことを考えられる状況ではないのだがなぜか分かるような気がした。
 夢で有るはずはない。頬から流れ落ちる汗が現実で有ることを教えてくれる。
 ただ二人とも予想外の相手に追いつめられ平常心を失っていた。
 「シェ、シェーラ」 アフラが呼びかけるが呼吸も荒く、文字通り絞り出すような声だ。
 「な、なんでえアフラ」 こちらも同様だ。ただアフラよりは若干余裕が有るように見えたのだが
 「あんたは一度ファトラはんと経験してますからあんたが」 シェーラを生け贄にしようとするアフラ。
 シェーラは慌ててアフラの方を向きその言葉を途中で遮る。
 「ば、馬鹿言ってんじゃねえ。誰が二度とあんな事をするもんか。おめえこそ一度経験してみろってんだ」
 「なんでうちが」 「じゃああたいならいいって言うのか」 「だからあんたは」 「ふざけんじゃねえ!」
 泥仕合と化してきた。まあ気持ちは分からないでもない。
 ミーズも半分あきれたような表情になったがそこへファトラがにやにや笑いながらやってきた。
 「どうやらわらわは嫌われておるようじゃの。仕方がない、ミーズこの話はなかった事に」 とファトラが言うのをミーズは慌てて制止する。
 「あなた達!私の言うこと、いいえお願いが聞けないと言うの?」 とても願い事をしているとは思えない。
 「で、ですから姉さん、うちらにもできることとできんことが」 必死に訴えるアフラ。
 「そうだぜ姉貴。あたいらにファトラの…」 シェーラも同様に訴えようとするがミーズの目を見て途中で止まる。
 「お、おいアフラ…」 「わかっとりま」 小声で話す二人。
 「あなた達…いくら言っても分からないようね…」 完全に目が据わっている。
 ミーズが一歩前へ出ようとした瞬間
 「姉貴!すまねえ!」 シェーラは床に炎を叩き付ける。
 ミーズが一瞬怯んだ隙に門へ向かって走り出す二人。
 「待ちなさい!あなた達こんな事してただで済むと思ってんの!」 凄まじい形相で追いかけるミーズ。
 勿論藤沢を掴んだままで。
 それまで小刻みに体を震わせていたファトラだがミーズが藤沢を引きずって駆けていくのを見て我慢できなくなったらしい。大声で笑い出した。
 「ふぁっはっはっは…見たかあれを…」 目には涙を浮かべている…。
 「人が悪いわねえファトラ姫」 同じく笑いながらイフリーテスが寄ってきた。
 「いいではないか…最近このような…面白いことはそうそう…ない…」 まだ体を捩らせながら笑っている。
 「だけどどうするの? 四人とも城外へ出たようだけど」
 「なあにミーズは藤沢を連れておるからな…シェーラ達が捕まることはない」
 ここで一呼吸置いてから続ける。
 「だからと言って外には安全な場所なぞないからすぐに戻ってくる」 幾分収まったらしい。今度は一気に答えるファトラ。
 「安全な所って?」
 「取り敢えずは姉上の元じゃな。いくら連中でも同盟の宗主たる姉上の前で騒動は起こせまい」
 「はあルーン王女の前ねえ…」 疑わしそうにファトラを見るイフリーテス。
 状況に関係なく騒動を起こすファトラが言ったのでは説得力も半減するというものだ。
 それには構わずファトラは近くにいた女官に『ミーズ達が戻ってきたらルーン殿下の私室へ参上するよう伝えよ』と門番への言付けを託し歩き出した。
 その横に並ぶイフリーテス。
 「ねえファトラ姫…さっきの件だけど、最初から彼女達に教える気はなかったんでしょ。なぜなの?」
 「その方が面白いからに決まっておる。それに戦いの中でも冷静さを保てるのはアフラくらいでミーズでは結局無駄じゃ」 言い切るファトラ。
 「ふーんなるほどねえ…見る所はちゃんと見てるのねえ…第二王女は伊達じゃないんだ…」
 半ば感心したように話すイフリーテスだがファトラは怪訝そうに目を向ける。
 「他に言いたいことが有るようじゃの」
 「うん…イフリーナちゃんの事よ」 一瞬の躊躇の後切り出すイフリーテス。
 「あの子がした事もあなたの立場も分かるし、更に虫のいいお願いだとは承知しているんだけど…なんとかならないかしら」
 イフリーテスの嘆願を聞きつけてイフリータもマリエルを連れてやってきた。
 「ファトラ、私も頼む。あの子を許してやってくれないか」
 二人に懇願され苦笑いするファトラ。
 「なぜわらわに頼む。この国の、更に同盟の宗主は姉上じゃ。姉上にお願いした方が早かろう」
 そう言い返すファトラにゆっくりと首を振りながらイフリーテスが答えた。
 「ねえファトラ姫、確かにルーン王女にお願いする方が簡単にいくかもしれないけど私わだかまりを残したくないの。あなたは仮とは言えあの子の主だったわ。それに姉さんの主でも有った。そんな人に睨まれてなんてご免よ」
 「私もそう思う。お前が許してくれなければあいつも居心地が悪い。それでは可哀想だ」
 ゆっくりと立ち止まるファトラ。イフリータの顔をじっと見つめその後マリエルの顔を同じく見つめる。
 「イフリータ、先程から感じてはいたのだが、お主かなり人間くさくなったな。小さな主のお陰か?」
 イフリータも立ち止まりマリエルの顔を見てから答える。
 「そうだな…この子、そしてイフリーテス、イフリーナのお陰だ。もっとも二人に比べればまだまだだがな」
 「そうか…」 イフリーテスそして再びマリエルを見るファトラ。
 「ねえお姉ちゃん。イフリーナお姉ちゃんは何か悪い事をしたの?」 ファトラと目があったマリエルが問い掛けてきた。
 ファトラは床にしゃがんでマリエルと向かい合う。
 「ああ、わらわに嘘をついたのじゃ」 ゆっくりと話すファトラ。
 「じゃあイフリーナお姉ちゃんは叱られるの?」 不安そうなマリエル。
 「そうじゃな…小さな事であっても悪い事をしたのなら罰を受けねばならぬだろう」
 「そうなの…」 ますます落ち込むマリエル。
 「しかしそれを決めるのはわらわではない。姉君、ルーン殿下がお決めになることだ」
 「ルーン…殿下…?」 首を捻るマリエル。
 「ああ、わらわの姉上、お姉さんじゃ。この国で一番偉い方じゃ」
 ファトラは極力分かりやすく説明したつもりだったがやはりマリエルにはよく分からないようだ。
 「とにかくイフリーナの事は姉上がお決めになる。姉上は優しいお方じゃ、心配するな」
 そう言ってファトラは軽くマリエルの頭を撫でてから立ち上がる。
 「へえ…あなた子供には優しいのねえ…」 思いっきり意外そうな顔をするイフリーテス。
 「馬鹿を申せ。この子は女、将来わらわ好みの美少女になるかもしれないではないか」 即答するもののちょっと顔が赤い。
 だがイフリーテスはそれ以上突っ込もうとはせず再度イフリーナの件を持ち出す。
 「ねえファトラ姫、さっきマリエルに言ったことは建前でしょ。実際の所はどうなの?」 マリエルを気にしてか小声で話す。
 「わらわは生涯で最大の恥辱をあやつから受けた」
 その言葉に堅くなるイフリーテスとイフリータ。
 「そう言う意味ではイフリーナを許す訳にはいかん」
 そう言ったファトラは一旦言葉を切りイフリータとイフリーテスの顔を見る。
 二人とも表情は堅いがファトラの言葉を待っている。
 ファトラはゆっくりと話し始めた。
 「あやつの罪状は知っての通りだ。しかし先程申した通りその後の事は姉上が決めることであってわらわはそれに従うしかない」
 「それは分かっている。しかし仮にルーンがあの子を罰しなかったとしてもファトラ、お前が許してくれないと意味がない」
 「なぜじゃ? 人間生きていれば誰かから恨みを買うこともある。現にイフリーナの主である陣内は誠を理由もなく敵視しているそうではないか。わらわ一人がイフリーナを疎んじたとしても関係有るまい」 やや自嘲気味に話すファトラ。
 「ファトラ姫、私達はあなたとルーン殿下のように血が通っている訳ではない、イフリーナちゃんとは同じ設計で作られたというだけだわ。でもね私達はあの子が大事なの。あなたがルーン殿下を思うように私達もあの子の事を考えているわ」 真剣な眼差しで訴えるイフリーテス。
 イフリータもゆっくり頷く。
 「そうだ。あいつは戦いよりも平和が大好きな優しい子だ。できることならバグロム領ではなくこのロシュタリアに住まわせてやりたい…しかし現状では出来ない相談だ。だからせめて人から恨まれるような目には遭わせたくない」
 ファトラは二人の顔を交互に見つめた。そして再びしゃがんでマリエルに話し掛ける。
 「マリエル、イフリータ達は好きか?」
 「うん!イフリータもイフリーテスお姉ちゃんもイフリーナお姉ちゃんもみんな大好きだよ」 速攻で答えが返ってくる。
 「そうか」 再び頭を撫でで立ち上がる。
 「行くぞ。余り遅くなると姉上が心配する」 そう言って足早に歩き出すファトラ。
 「ちょっと待ってよファトラ姫。イフリーナちゃんの事は」
 ファトラに合わせて歩きながらイフリーテスが問う。
 イフリータもマリエルを抱えて横に並んだ。
 「申した通りじゃ。わらわは姉上の決定に従うだけじゃ…。それがどんな内容であろうと従わねばならぬ。また姉上も…いやなんでもない。とにかくこの件は全ては姉上、ルーン・ヴェーナス殿下のお心次第じゃ…だからお主達は何も心配するな」
 そう言ったきり口を閉ざしルーンの私室へ向かうファトラ。
 イフリータ達もそれ以上何も訊かずに従った。



 「あ、いたいた。ファトラさーん」
 ファトラ達が廊下を曲がろうとした時誠が反対側から声を掛けてきた。
 ファトラは立ち止まって彼らがやってくるのを待つ。
 「そなた達は何をしておるのじゃ?」 何となく分かってはいたが取り敢えず訊いてみる。
 「何って、僕達ルーン王女の執務室へ行ったんですが王女様は不在で」
 「やっぱり」 とファトラではなくイフリーテスが答える。
 「どういう事よ、それ」 菜々美が不機嫌そうに口を開く。
 途中色々と有ったようだ。誠は疲れたような顔をしているしイフリーナは誠の手を握ったまま相変わらず不安そうな表情だ。
 「だってルーン王女がどこにいるか分からないじゃない」 呆れたように答えるイフリーテス。
 一方イフリータは笑みを浮かべている。
 「どうしましたイフリータさん?」
 「どうした、と言うと?」 逆に質問するイフリータ。
 「え、今イフリータさんわろうとったけど僕達の事をではないと思うたもんですから」 まずいことを訊いたかなと思った誠だが
 「そう言うことか。昨日の事を思い出していた。昨日も同じような事が有ったからな、その時の二人の顔を思い浮かべていた」 再び笑みを見せるイフリータ。
 「へえー昨日もですか」 相づちを打つ誠に対しイフリーテス、イフリーナの両名は慌てて話を逸らそうとする。
 「ね、ねえ菜々美ちゃん、あなた今でもお城に住んでいるの?」
 「どういう意味よ。私がいたらいけないとでも言うの」 思いっきり機嫌が悪そうだ。
 「いえ、そうじゃなくって、あなたがここにいるのなら夕飯も作って貰えるのかなって思って」 速攻でフォローするイフリーテス。
 「そうですよね。お昼ご飯すっごく美味しかったし晩ご飯も菜々美さんの料理を食べたいです。ね、マリエルちゃん」 珍しく必死になっているイフリーナ。
 「うん、とっても美味しかったよ」 無邪気に答えるマリエル。
 手放しで誉められて菜々美も悪い気はしない。
 「そう? じゃあいつでもお店に来て頂戴。お代は誠ちゃんにつけとくから心配しなくて良いわ」
 「ちょっと菜々美ちゃん!なんで僕のつけになるんや?」
 「だって誠ちゃんはイフリーテスのマスターでしょ。そしてイフリーナのマスターはお兄ちゃんだけどここにはいない。となると親友のまこっちゃんが代わりに払うのが筋ってもんよ」 なんの躊躇いもなく答える菜々美。
 「きゃあ嬉しい。菜々美ちゃんの所でご飯食べ放題!よろしくねご主人様ぁ」 目をウルウルさせながら話すイフリーテス。実に調子がいい。
 一方 「なんでそうなるんや…」 頭を抱える誠。
 「あのう私…」 さすがにイフリーナは悪いと思ったのだが
 「大丈夫だってイフリーナちゃん。一人で食べるのが悪いと思うんだったら誠ちゃんに連れて行って貰えば良いじゃない。デートの時は全額男性が払うもんだしぃ」
 『デート』という言葉にイフリーナと誠は顔が赤くなり菜々美は表情がきつくなった。
 やばい! ここで菜々美がイフリーナに悪い感情を持つのはまずい。
 ファトラとの件が片付いていない以上味方は一人でも多い方が良い。
 そう思ったイフリーテスはイフリータを巻き込んで事態の打開を図ろうとしたがそのイフリータの姿がない。
 周りを見渡すと少し離れたところをマリエルの手を引いてファトラの隣を歩いている。
 「ちょっと姉さんどこへ行くの?」
 イフリーテスに呼び止められ振り向くイフリータだが
 「ルーンの所に決まっている」 と素っ気なく答える。
 しかしそれなりに効果があった。
 その言葉に誠達も当初の目的を思い出しのかファトラ達の方へ歩き出したからだ。
 「お前達が立ち話を始めたからな。面倒なので先に行くことにした」 イフリータは彼女たちが追い付いた所でそう付け加える。
 「だからといって置いていくことはないじゃない」
 「楽しそうに話していたから邪魔してはまずいと思っただけじゃ。余り遅くなって姉上に御心配を掛ける訳にはいかんからな」
 そう話すファトラの顔をまじまじと見つめる誠と菜々美。
 「なんじゃ?」 不思議そうにファトラが尋ねる。
 「いえ、ファトラさんにしてはすっごくまともな事を言ったなあと思って」 ずばり言ってのける菜々美。
 「僕もそう思いますわ。いつもそうだったらルーン王女も少しは楽に…」 途中でファトラの強烈な視線を受け口を閉ざす誠。
 背中を冷たいものが流れる。
 「誠、今のは一つ貸しにしておいてやる。有り難く思えよ」 ファトラはそう言って歩き出した。
 「ファトラさん!それは…」 抗議しようとしたが
 「なんなら今返して貰っても良いのじゃが」 今度は誠にすっと近付き耳元で囁くファトラ。
 金縛りに有ったように誠の動きが止まる。
 それを見たファトラは満足そうに笑みを浮かべ再び歩き出す。
 「大丈夫ですか誠さん」 イフリーナが心配そうに訊いてきた。
 「だ、だい…大丈夫やイフリーナ。僕は大丈夫や」 真っ青な顔で答える誠。
 「あのうファトラ様に謝ってはいかがでしょう。私も一緒にお願いしますから」
 「有り難うイフリーナ。そやな…うまくいくかはわからんけど謝ってみよ」
 「そうですよ。ちゃんと誠意を持って謝罪すればファトラ様も許してくれますよ」
 そんな彼らを見て頭を抱えるイフリータとイフリーテス。
 「イフリーテス…立場が逆転しているぞ…」
 「そうね…人選間違えたかもしれないわ…」
 ”こうなったらルーンに泣きつくしかない”
 誠とイフリーナの間に菜々美が割り込んでいくのを見ながらそう考える両名だった。


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